命を救ういびきのトリセツ
2025年4月24日放送のNHK総合『あしたが変わるトリセツショー』では、「命を救ういびきのトリセツ睡眠時無呼吸大解明SP」と題し、見逃せない健康リスク「いびき」の真相が紹介されました。出演は石原さとみさん、阿佐ヶ谷姉妹、こがけんさん。放送内では、いびきの正体、見逃しがちな睡眠時無呼吸症候群(SAS)の危険性、そして誰でもできる予防・対策法が徹底解説されました。
睡眠時無呼吸症候群とは?
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、寝ている間に何度も呼吸が止まる病気です。多くの人が自覚のないまま過ごしており、そのあいだに体に深刻なダメージが蓄積されていくことが問題です。症状は静かに進行し、気づいたときには生活習慣病や脳・心臓の病気につながっていることもあります。
・高血圧の発症や悪化の原因になる
睡眠中に呼吸が止まると、血液中の酸素が不足します。すると体が「もっと酸素を送らなきゃ」と緊張状態になり、交感神経が刺激されます。その結果、血管が収縮して血圧が上がります。夜間の無呼吸が何度も起こると、慢性的な高血圧へとつながります。
・糖尿病のリスクも上がる
睡眠が浅くなると、血糖値を下げるインスリンの働きが悪くなります。体がうまく糖を処理できず、血糖値が高い状態が続くことで糖尿病を発症しやすくなります。すでに糖尿病の人にとっても、睡眠の質の悪さは血糖コントロールを乱す原因となります。
・認知機能の低下につながる
呼吸が止まると酸素が脳に届きにくくなります。すると、脳が夜じゅう酸欠状態になり、記憶力や集中力が低下します。特に高齢者では、認知症のリスクが高まるといわれています。朝起きたときに「頭がぼんやりする」「すっきりしない」という感覚は、その初期サインかもしれません。
睡眠時無呼吸症候群の特徴は、静かに進行しながらも体全体に負担をかける点です。夜ぐっすり寝ているつもりでも、体の中では「酸素が足りない」「緊張状態が続く」など、休息とは逆の状態になっているのです。日中に強い眠気がある人、家族に「いびきが大きい」「息が止まっている」と言われたことがある人は、早めのチェックが大切です。
命の危険も?いびきが教えてくれる体のSOS
今回の放送で特に強調されていたのが、「いびき」はただの音ではなく、体からのSOSサインであるという点でした。中でも閉塞性睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、命に関わる深刻な病気であるにもかかわらず、多くの人が気づかないまま放置している現状があると報告されました。
・SASの推定患者数は2200万人、そのうち治療が必要な人は約900万人とされます。しかし実際に治療を受けているのはわずか80万人程度。つまり、9割以上の人が無自覚か、気づいていても受診に至っていないということです。
・重症になると、睡眠中に呼吸が止まり、血液中の酸素濃度(酸素飽和度)が50%まで落ちるケースもあると紹介されました。この数値は、エベレストの頂上に相当する酸素不足の状態。その状態で毎晩何時間も過ごしていると考えると、体への負担は想像を超えるレベルです。
・SASの患者の約半数が高血圧を併発していることも分かっています。これは、無呼吸状態による酸素不足が交感神経を刺激し、常に体が緊張した状態になるため、血圧が下がりにくくなるのです。特に「原因不明の高血圧」と言われている人は、実はSASが隠れていることも少なくありません。
・さらに驚きなのは、交通事故を起こすリスクが通常の7倍になるというデータです。これは、睡眠の質が低下することで日中の集中力や判断力が鈍くなるためです。実際に、居眠り運転による事故の原因として、睡眠時無呼吸症が関与していたと見られるケースも報告されています。
いびきをかいているだけだからと軽く見てしまうと、実は深刻な健康リスクの始まりだったという可能性もあるのです。特に自覚症状がない人が多いため、「自分はよく眠れている」と思っていても、実際は体が酸素不足で苦しんでいる状態かもしれません。
もし、日中の強い眠気、朝の頭痛や倦怠感、集中力の低下が続いているようなら、それは疲労ではなく呼吸に異常があるサインです。家族から「いびきがひどい」「息が止まっていた」と言われたことがあるなら、早めの受診が自分の命を守る第一歩になります。
今回の番組では、「たかがいびき」と見過ごされがちな症状の裏に、命を脅かすほどの病気が潜んでいる現実が丁寧に解説されました。いびきは決して恥ずかしいことでも、我慢すべきことでもありません。それを放置することのほうが、はるかに危険だということを、今一度しっかりと受け止める必要があります。
自宅でできるセルフチェックと簡易診断法
今回の番組では、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を早期に見つけるための2つの簡単なチェック方法が紹介されました。これらはどちらも自宅で鏡と定規さえあればできるシンプルな方法で、病気に気づくきっかけとしてとても役立つ内容でした。
・まずひとつ目は「舌を出す」チェック方法です。
口を大きく開け、舌をめいっぱい前に出して、喉の奥にある「口蓋垂(こうがいすい)」という部分がどれくらい見えるかを確認します。口蓋垂は、のどちんこと呼ばれる細長い部分で、これがどの程度見えるかによって、SASのリスクを4段階に分けることができます。
- クラス1:喉の奥全体がはっきり見える状態。
- クラス2:舌の奥に少し隠れるが、口蓋垂は大部分が見える。
- クラス3:口蓋垂の根本だけがかろうじて見える。
- クラス4:まったく見えない。
クラス1や2の人は比較的気道が広く、SASのリスクは低めとされていますが、クラス3・4の人は、舌や喉の構造によって気道が狭くなっている可能性が高く、無呼吸のリスクがあると考えられます。
・ふたつ目は「定規を使ったあごの位置チェック」です。
定規やカードなどを使って、鼻の先と上唇の間に当てます。そしてその線に対して下あごが触れるかどうかを確認します。
- 下あごが定規に届く:顎の位置が標準的で、気道も確保されやすい。
- 下あごが届かない:顎が後退していて、舌が喉の奥に落ちやすく、気道が塞がれる可能性がある。
このチェックは一見地味に見えますが、実際には日本人に多い「小顎(しょうがく)」タイプのリスクを見つけるのに非常に有効です。痩せていても、この骨格の影響でSASを発症するケースは少なくないとされています。
どちらのチェックも道具は必要最小限で、鏡の前で簡単にできます。自分の体にどれだけリスクがあるかを知ることは、将来の健康を守る第一歩になります。特に「いびきがひどい」「朝すっきり起きられない」「日中眠気が強い」といった方は、ぜひ一度このセルフチェックを試してみてください。
自覚がないまま進行する病気だからこそ、こうした簡単なチェックで“気づく”ことが大切です。もしチェック結果で不安があれば、無理せず医療機関に相談することが勧められています。
日本人に多い“意外な原因”とは?
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は太っている人に多いと思われがちですが、日本人に特有の体のつくりが、実は大きな要因になっていることが分かっています。見た目では分かりにくいリスクがあるため、本人が気づかないまま症状が進んでいるケースもあります。
・日本人は欧米人に比べて顎が小さく、下顎が後ろに引っ込んでいる人が多い
この骨格の特徴により、舌が寝ている間に喉の奥へ落ち込みやすくなります。その結果、気道が狭くなって空気が通りづらくなり、いびきや無呼吸が起こりやすくなります。痩せていても、顎の形だけでリスクが上がるというのは意外に感じる人も多いはずです。
・鼻炎やアレルギーによる鼻づまりがあると、自然と口呼吸が増えてしまう
口で呼吸をするようになると、舌の位置が下がり、気道のスペースがさらに狭くなります。特に、季節性アレルギーや慢性鼻炎を持つ人は、知らず知らずのうちに口呼吸がクセになっていることがあります。
・就寝前の飲酒や喫煙も、のどの筋肉をゆるめる原因に
お酒を飲むとリラックスしますが、同時にのどの筋肉もゆるんでしまい、気道が塞がれやすくなります。また、タバコは気道に炎症を引き起こし、呼吸を妨げる原因となります。これらの習慣は、見た目では判断できない「隠れリスク」といえます。
つまり、肥満ではなくても、骨格や生活習慣、アレルギー体質などが重なって無呼吸を引き起こすことがあるということです。こうした背景を持つ日本人は特に注意が必要であり、番組でもこの点が強調されると見られています。“自分は大丈夫”と油断せず、一度セルフチェックをすることが大切です。
治療法と医療機関での対応
睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断された場合には、症状の重さに応じて適切な治療法が選ばれることになります。番組では、実際に医療現場で行われている2つの治療法が紹介されました。どちらも専門の医師による診断が必要ですが、正しく対処することで症状は大きく改善し、日常生活の質もぐっと上がります。
・マウスピース療法(スリープスプリント)
これは軽症から中等症の患者に適した治療法です。専用のマウスピースを就寝時に装着することで、下あごを前に出し、舌の落ち込みを防いで気道を広く保つように設計されています。
歯科医院や耳鼻科などで自分の歯型に合わせて作成されるため、違和感も少なく、日常生活に支障をきたさない点が大きなメリットです。ただし、一定期間ごとに調整が必要であり、自己判断での使用や市販品での代用は効果が出にくいことがあります。
・CPAP療法(持続陽圧呼吸療法)
中等症から重症の人に対しては、この治療法が選ばれます。CPAPとは、「Continuous Positive Airway Pressure」の略で、就寝中に鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道を物理的に開いたまま保つ装置です。
機器は医療機関から貸し出され、毎晩の使用が必要ですが、無呼吸の改善効果は非常に高く、朝の目覚めが劇的に変わる人も多いとされています。眠っている間の酸素不足を防ぐため、高血圧や心疾患のリスクを大きく軽減する役割も担います。
・どちらも医師の診断を受けることで導入可能
自宅でいびきをチェックしたり、セルフ診断をすることは大切ですが、最終的には専門医による診察と検査が必要になります。
SASの診断には、睡眠時の呼吸状態や酸素濃度を測る検査(簡易検査やポリソムノグラフィーなど)が行われます。これにより、症状の重さや適切な治療法を判断し、本人に合った方法で対応していきます。
最近では、自宅で行える簡易検査機器を貸し出すクリニックも増えており、忙しい人でもスムーズに検査・治療へと進める環境が整ってきています。
いびきがただの騒音ではなく、「命に関わる症状のひとつ」であることを理解し、正しい治療を受けることが何より大切です。放置しておくことで重症化するケースもあるため、早めの対応が、将来の健康と安心を守る鍵になります。
松尾芭蕉もいびきに悩んでいた?
歴史上の人物である松尾芭蕉も、「いびき」と無縁ではなかったとされるエピソードがあります。といっても、芭蕉自身がいびきに悩んでいたというよりも、旅をともにした弟子のいびきに苦しめられていたという内容です。
・弟子の中でも特に知られているのが万菊丸(ばんぎくまる)という人物で、芭蕉は彼とともに長い旅に出ることがありました。ある夜、万菊丸のあまりに大きないびきに眠れなかった芭蕉は、その様子をただ我慢するだけではなく、絵や文に残すという俳人らしい方法で表現したとされています。
・芭蕉が描いたとされる戯画では、いびきの音の強弱や波のような響き方が線や図として描かれており、まるで詩のリズムを視覚的に捉えたような表現となっています。これにより、芭蕉の感性が「うるさい」という単なる不満を超えて、芸術に昇華されていたことがわかります。
専門家おすすめのセルフケア術2選
睡眠時のいびきがまだ軽度の段階であれば、自宅でできる簡単な工夫だけでも改善につながることがあります。今回の番組では、医学的にも理にかなった2つのセルフケア法が紹介されました。どちらも特別な道具は必要なく、今夜からすぐに試せる内容です。
・横向き寝
いびきの多くは、仰向けで寝たときに舌が重力で喉の奥に落ち込み、気道を塞いでしまうことが原因です。気道が狭くなると、空気がうまく通らず、振動が生じていびきとなります。
このときに横向きに寝ることで舌の沈下を防ぎ、気道を広く保つことができます。
特に寝返りが少ない人や、朝まで同じ体勢で眠る人には効果的とされており、夜中の無呼吸状態も減らせる可能性があると言われています。
- 枕を少し高めにして肩まで支える
- 抱き枕を使って横向きの姿勢をキープしやすくする
- 腰や背中に丸めたタオルを入れて仰向けにならない工夫をする
こうした調整を加えることで、無理なく横向き寝を習慣化することができるとされています。
・スニッフィングポジション(嗅ぎつけ姿勢)
この方法は、赤ちゃんの呼吸を助ける姿勢としても使われており、自然な空気の通り道をつくる姿勢として大人にも応用可能です。
やり方はとても簡単で、首の後ろや肩のあたりにタオルを敷き、鼻の位置がやや高くなるように体勢を整えるだけ。
- 首元に丸めたタオルやクッションを置いて、軽く頭を後ろに倒す姿勢を取る
- 顎を少し引き、鼻と額が水平になるように調整する
このポジションを取ることで、気道の湾曲がゆるやかになり、空気がまっすぐに入りやすくなります。呼吸が通りやすくなることで、いびきの軽減が期待できるだけでなく、深い睡眠にもつながる効果があるとされています。
これらのセルフケアは、すぐに始められるうえに、体への負担もほとんどありません。特に「最近いびきが気になってきた」「日中に少し眠い」といった人にはぴったりの方法です。
もし改善が見られなかった場合でも、こうした工夫は医療機関での相談時にも役立つ情報となるため、まずは今日からでも取り組んでみることが大切です。
いびきを甘く見ず、体からの小さなサインに気づくことが健康への第一歩になります。
放送を終えて
今回の特集では、いびきがもたらす健康リスクの重大さと、誰でもできる予防・対処の重要性が丁寧に解説されました。見逃しがちな症状にも関わらず、放置すると大きな病気につながるため、日頃からのチェックやセルフケア、早めの受診が何よりも大切です。
放送内容をきっかけに、多くの人が「いびきは命のサインかもしれない」と気づくことができたなら、それが“トリセツショー”の本当の価値といえるのではないでしょうか。
今夜のいびきを、あなたも意識してみませんか?
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