真夏の大阪 かき氷のメモリーズ
大阪の夏を彩る、町の氷屋さんを舞台にしたドキュメント72時間。昭和から続く老舗で、ふわふわのかき氷を求めて集まる人々の姿を3日間追いました。懐かしさと人情があふれる店で、さまざまな人生の一場面が交差します。
駅前から少し歩いた先の氷屋に行列
大阪府枚方市、駅前のにぎやかな通りを抜けて数分歩くと、昔ながらの雰囲気を残す氷屋さんが見えてきます。7月24日、この日は夏休みが始まった最初の週末で、朝から家族連れや学生たちで店先は活気にあふれていました。ラグビーの試合を終えた中学生4人組は、スポーツで火照った体を冷ますように、大きな器に山盛りになったふわふわのかき氷を夢中で味わっていました。価格は350円と手ごろでありながら、その盛りの良さとボリューム感は見た目にも満足感があります。
純氷ならではのなめらかさ
この店で使う氷は、48時間かけてじっくり凍らせた純氷。ゆっくりと凍らせることで不純物が少なくなり、溶けにくく、削ったときに雪のようなきめ細かさになります。口に入れるとすぐにスッと溶け、冷たさだけでなくやさしい口当たりを感じられます。この食感を求めて、遠方から訪れる人も少なくありません。
人生初のかき氷を味わう笑顔
近所に最近引っ越してきたという家族は、3歳の娘さんの人生初のかき氷を体験させるために訪れました。娘さんは小さなスプーンで一口食べるごとに笑顔を見せ、家族もその様子をうれしそうに見守っていました。買い物帰りに立ち寄った父と娘、地元で育った新婚夫婦、さらに三重県から日帰りでやってきた男性など、この日の来客は年齢も背景もさまざま。特に三重県から来た男性は、片道1時間かけての弾丸訪問でした。
夕方に集う常連たち
夕方になると、地元に住む常連の父と息子が訪れました。彼らにとって、この氷屋はただ涼をとる場所ではなく、街の魅力や日常を共有する時間を過ごす場所。カウンター越しに店主と軽く挨拶を交わし、氷を頬張るその姿には、この店が地域に根ざした存在であることが感じられました。
氷屋の朝は氷配達から始まる
7月25日、撮影2日目の朝は、まだ街が静かな7時前から氷屋の一日が動き出します。店内では、氷削機やシロップの準備に加え、積み込み用のトラックには大きな氷塊が並べられていました。もともとこの店は、地域の飲食店に純氷を卸すことが本業。今も約50軒の店と取引を続け、夏場は特に配達の量が増えるため、早朝から忙しさが続きます。
開店前から並ぶ親子
午前の配達を終えて店に戻ると、開店5分前にはすでに親子連れが店先に並んでいました。この日やってきたのは、年に10回以上も訪れる常連の母と娘。かき氷が運ばれると娘は迷わずスプーンを手に取り、一口ごとに勢いよく食べ進めてあっという間に完食。母は仕事前の限られた時間を使って娘を喜ばせようと、この場所に足を運んでいました。
それぞれの事情を抱えて訪れる客
お昼時には、地元に住む73歳の女性が初めて来店しました。がんを患いながらも「美味しいものがあれば行ってみたい」という思いで足を運んだそうです。午後には、下駄姿で現れた大学4年生の2人組が、最後の学生生活を楽しむためにかき氷を堪能。さらに、焼却場で働く男性が休みの日を利用して訪れ、子育てに奮闘する母親が暑さをしのぐため子どもを連れてやってくるなど、一杯のかき氷を囲む時間がそれぞれの生活に小さな彩りを添えていました。
家族がそろう貴重な時間
7月26日、撮影3日目の朝。開店間もない店に現れたのは、夜勤を終えたお父さんを迎えに行った帰りの家族4人でした。普段は勤務時間が不規則で、全員がそろって食事を囲む機会は多くありません。この氷屋で過ごすひとときは、家族が顔を合わせて同じ時間を共有できる数少ない場となっています。氷が削られる音や、シロップの甘い香りが広がる中、笑顔で氷を分け合う姿は、まるで小さな家族の記念日のようでした。
思い出を胸に訪れる親子
夕方には、落ち着いた雰囲気で席に着く母と息子の姿がありました。最近お父さんを亡くしたばかりで、舞台役者として活動している息子は、父の体調が悪化したため実家に戻り、最後の2か月を家族3人で過ごしました。父が家で作ってくれたかき氷の記憶が、涼しい口当たりとともによみがえります。一杯のかき氷に込められた家族の時間と記憶が、この日もそっと二人を包み込んでいました。
「また来年も食べられるかな」
7月27日、撮影4日目。朝の散歩を終えた73歳の男性が、ゆっくりと店の暖簾をくぐりました。氷屋は彼の散歩コースの途中にあり、毎年夏になると立ち寄る恒例の場所になっています。この日も暑さが増す前に、席に腰を下ろしてかき氷を注文。器に盛られた氷からは、ほんのりと冷気が立ちのぼり、淡い色のシロップが静かに染み込んでいきます。
季節を刻む一杯
氷を一口食べた後、男性は「今年も食べられた。来年もまた来られるかなと思いながら歩く」と語りました。その表情には、長年通い続けてきた人だけが持つ季節の節目を確かめるような感覚がにじんでいます。この店は単なる飲食の場ではなく、暮らしの中で夏の訪れと去り際を知らせてくれる存在。氷の冷たさと甘さは、男性にとって日々の歩みをゆるやかに区切る合図となっていました。
放送情報
放送日 2025年8月10日
番組名 ドキュメント72時間「真夏の大阪 かき氷のメモリーズ」
放送局 NHK総合
放送時間 0:13 – 0:43
番組を見て感じたこと
番組を見てまず感じたのは、かき氷というシンプルな食べ物が、これほど多くの人の暮らしや思い出に深く結びついているということです。枚方市の小さな氷屋さんに集まる人々は、年齢も背景もさまざまですが、みんな氷を前にした時の表情はどこかやわらかく、日常の中の小さな幸せをかみしめているようでした。
特に印象的だったのは、家族で過ごす貴重な時間や、亡き父との思い出をかき氷に重ねる親子の姿です。氷の冷たさや甘さが、ただの味覚以上に、記憶や感情を呼び起こす力を持っていることを改めて感じました。また、毎年夏になると訪れる常連の男性が「また来年も食べられるかな」と語る場面には、日々を積み重ねることの尊さと、季節を感じながら暮らす豊かさがにじんでいました。
この番組は、かき氷という題材を通じて、人と人のつながり、時間の流れ、そして小さな日常の尊さを優しく映し出していました。見終わったあと、夏の暑さの中でも心がすっと涼しくなるような感覚が残り、「来年もまたこの場所に人々が集まって笑顔を交わせますように」と願わずにはいられませんでした。
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