「べらぼうコラボスペシャル」田沼意次VS松平定信
江戸後期の二大キーパーソン田沼意次と松平定信の何が違い、なぜ評価が分かれるのかを知りたい人向けの記事です。番組は大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」とのコラボで最新の知見を盛り込み、政治・文化・暮らしの三面から二人の実像を描きました。この記事では、放送内容を事実ベースで整理し、田沼が推した産業振興や民との距離感、定信が掲げた寛政の改革や出版統制の狙い、さらに食文化や庭園政策までを一気に把握できるようにまとめます。読めば「田沼=賄賂」「定信=倹約一辺倒」といったイメージを越えて、当時の社会課題と二人の処方箋が立体的に見えてきます。
コラボの見どころと出演者
進行は佐藤二朗、アシスタントは片山千恵子。大河側からは井上祐貴(松平定信役)、眞島秀和(徳川家治役)が参加し、ドラマの役作りと史実がどう接続するかをコメントしました。家治は田沼の改革を後押しする立場、定信はのちに秩序回復を掲げる立場。この“継承と転換”の軸が、番組全体の見取り図になっています。
田沼意次の実像―相良藩・牧之原の具体策
田沼は相良藩の大名で老中。牧之原市史料館の調査では、高齢でも領内をくまなく巡見した記録が確認され、行列の見物人をむやみに排除しないよう家臣に命じ、逆に乱暴に追い払った家臣を処罰した事例が紹介されました。民を遠ざけず向き合う姿勢が見えます。特産の菰塩鰆は塩が鍵で、田沼は塩田開発を奨励。産品の付加価値を高める“現場起点”の政策でした。加えて平賀源内ら才人と接触し、新規事業や技術に目配りした柔軟さも番組内で言及されました。政治面では将軍を近くで支える側用人も兼ね、意思決定のスピードを上げた点が評価されています。
失脚の背景と評価の揺らぎ
とはいえ田沼政治は天明の大飢饉に直撃され、商人の買い占めで米価が高騰。後ろ盾の将軍を失って退陣します。随筆「甲子夜話」(松浦静山)では田沼像が否定的に語られる一方、番組取材では旧相良藩ゆかりの地域や牧之原市、寺社(大澤寺や対泉院)の周辺で、田沼の功を認める声も拾われました。つまり田沼は「私益の象徴」ではなく、産業振興と民政の両面で地域に成果を残した為政者として再評価が進んでいる、というのが本放送のポイントです。
松平定信の改革と文化―“厳しさ”だけでは語れない
バトンを受けた松平定信は、財政再建と風紀回復を掲げ寛政の改革を断行。倹約令や贅沢抑制で“無駄”を切り詰め、社会の安全網を整えました。同時に、定信は筋金入りの教養人。源氏物語を生涯で七度書写し、「伊勢物語」の和歌をかるた化して楽しむなど、文学愛は群を抜きます。自身の絵画や肖像も残し、熱量の高い制作態度が井上祐貴の役作りに影響したとスタジオで語られました。藩主時代の公共事業としては、南湖公園と共楽亭を整備し、市民に開放。茶室は八畳二間という広さで、風流を“皆のもの”にした点が特色です。さらに白河藩の農村で人手不足が起きた際、縁結びを後押しして約30組の夫婦が誕生したという具体例は、冷厳な官僚像を超える民政家の顔を示しました。定信ゆかりの史料が桑名市博物館に多く残る経緯にも触れ、後世に伝える仕組みづくりの重要性も示されています。
出版統制と江戸の治安―目的と副作用
定信の出版統制は、無許可出版の横行と風紀の乱れを抑える目的があり、版元間のチェック体制を整える制度改革でした。ただし身内に甘い裁定が混じるなど運用面の歪みも生じ、代表格の蔦屋重三郎や山東京伝に厳罰が科されました。一方で定信自身はエッセイに風刺やユーモアを交え、現代語訳を行った橋本登行弁護士が紹介する“人間味のある筆致”も番組は拾い上げます。治安面では、長谷川平蔵宣以が定信の下で町方を統括し、秩序回復の実働部隊として機能。取り締まりの強化と文化の保護、そのバランスをどう取るかという普遍的なテーマが、当時も今も課題であることが伝わります。
味と手ざわりで知る歴史―スタジオ試食と総括
スタジオには田沼ゆかりの菰塩鰆、定信ゆかりの南湖だんごが並び、出演者が試食。田沼の産業振興と定信の公共空間づくりという抽象的な政策が、地域の味や景観として今に続いている事実を“身体で理解する”趣向でした。眞島秀和は家治の「推進力としての後押し」、井上祐貴は定信の「文学と政治の両立」という意外な横顔を芝居に活かす意欲を語り、コラボの意義を補強しました。総じて、田沼は現場起点の経済活性と開放性、定信は規律と公共性、そして文化の継承。対立に見えて、その目的は「人々の暮らしを安定させること」で重なります。番組は八戸市や寺社、史料館を丹念にたどり、レッテルを超えて史料と地域の記憶から二人を照らしました。視聴後は、牧之原市史料館や南湖公園に足を運び、産品や景観という“続いている結果”を確かめると、教科書の知識が生活実感に結びつきます。歴史は人物像の好き嫌いで終わらず、政策の意図と現代への射程を読み解く入口になることを、今回のコラボは教えてくれました。
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