中村獅童(前編)歌舞伎に魅せられた“かぶき者”の見どころ
「NHKアカデミア」は、各分野のトップランナーが、自分の仕事や人生についてじっくり語る番組です。今回の主人公は、歌舞伎俳優であり映画やドラマでも活躍する中村獅童です。
前編のテーマは「歌舞伎に魅せられた“かぶき者”」。ロックとファッションに夢中だった少年が、なぜ古典芸能である歌舞伎の世界に飛び込んだのか。
そして、アナーキー、パンク、かぶき者の精神、日本人らしさ。自分が大好きだった要素のすべてが歌舞伎に詰まっていると気づいた瞬間の興奮や、その後の決断が語られます。
さらに番組では、バーチャルシンガーとのコラボレーションという、現代ならではの挑戦にも触れます。古典と最先端テクノロジーがぶつかり合う現場で、獅童さんは何を見ているのか。
伝統と反骨、過去と未来。そのあいだを全力で駆け抜ける1人の「かぶき者」の物語が、この前編の大きな軸になっています。
ロックとファッションに揺れた少年時代の中村獅童
今でこそ歌舞伎のイメージが強い中村獅童ですが、若い頃はロックバンドやファッションに強く惹かれていました。金髪にしたり、派手な服を着たり、時代の空気を全身で浴びながら、自分の「かっこいい」を探していた青春時代があったといいます。
実際、獅童さんは東京生まれで、映画やドラマでも知られる俳優としても活躍してきました。映画「ピンポン」での強烈な演技や、「いま、会いにゆきます」で見せた柔らかな表情など、幅広い役柄をこなす俳優でもあります。
ここで少しだけ背景の知識を添えると、日本の若者文化では、ロックファッションやストリートスタイルが「自分らしさ」を表現する手段として大きな役割を果たしてきました。
奇抜な髪型や服装で自分を打ち出す感覚は、江戸時代のかぶき者が派手な着物や異様な髪型で街を歩き、人々の度肝を抜いていた感覚とどこか似ています。
獅童さんがロックやファッションに惹かれたのは、単なる流行ではなく、「普通ではつまらない」と感じる気質の表れでもあった、と番組から伝わってきます。
「好きだったものが全部ある」歌舞伎との決定的な出会い
そんな獅童さんが、ある時ふと気づきます。
自分が好きだった音楽の熱量、ファッションの華やかさ、ステージに立つ高揚感。
それらがすべて、歌舞伎のなかに詰まっている、と。
歌、踊り、芝居、豪華な衣装、大きな音、舞台の仕掛け。歌舞伎はもともと、「かぶき踊り」と呼ばれた、奇抜な格好で踊る芸能から発展してきたものです。
つまり、歌舞伎の源流には、派手さや反骨心、観客を驚かせたいというサービス精神が最初から組み込まれています。
番組では、獅童さんが「自分の好きなものが全部、歌舞伎の中にあった」と語る流れが印象的です。ロックのライブ会場で感じたような爆発的なエネルギーを、今度は歌舞伎座の舞台で表現する。
そのつながりに気づいた瞬間、歌舞伎は古くて堅苦しいものではなく、「自分が全力で暴れられる場所」として見えてきたのだと感じられます。
親の後ろ盾に頼らず「歌舞伎で生きる」と決めた覚悟
中村獅童は、歌舞伎の名門「萬屋一門」に連なる家に生まれ、子どもの頃から舞台に立ってきました。
一方で、番組では「親の後ろ盾がない中で、歌舞伎の世界で生きると決めた」というフレーズが強調されます。
ここで言う「後ろ盾がない」とは、すべてを親任せにするのではなく、自分の代は自分の力で道を切り開く、という決意に近いニュアンスだと考えられます。
歌舞伎の世界は、家の名前や歴史が重んじられる一方で、「名前に甘えるな」という厳しさもあります。
実際、歌舞伎俳優は毎日の稽古、公演の合間の準備、地方公演やメディア出演など、とてもハードなスケジュールの中で生きています。そこにロックのライブ並みの熱量を持ち込み続けるには、家柄以上に、自分自身の覚悟が必要です。
番組からは、「この世界で生きると決めた以上、全部自分事として引き受ける」という獅童さんの腹の据わり方が伝わってきます。
アナーキーとパンクとかぶき者の精神とは何か
前編のキーワードのひとつが、アナーキー、パンク、そしてかぶき者です。
かぶき者とは、戦国時代末から江戸時代初期に、派手な服装と常識外れの振る舞いで知られた人々のことを指します。人と違う格好や行動をあえて選び、時には権力に対しても反発した存在でした。
この「普通からわざと外れる」姿勢は、近代のパンク文化とも通じるところがあります。
黒いレザー、破れたデニム、金属のアクセサリー。ロックやパンクのファッションは、社会の常識から少しはみ出すことで、「自分はここにいる」と叫ぶ表現でした。
番組で獅童さんが語るアナーキーやパンクへの共感は、そのままかぶき者への共感でもあります。派手な衣装、極端なメイク、大げさな動き。歌舞伎の舞台は、静かな礼儀正しさだけで成り立っているのではなく、「人と違う」ことを武器にする芸能でもあるからです。
ここで少し補足すると、歌舞伎の語源そのものが、「傾く(かぶく)」という言葉から来ているとされています。つまり歌舞伎は、もともと「寄り道する人」「常識からズレた人」の芸能。
獅童さんは、自分が惹かれてきたアナーキーさやパンクの精神が、実は歌舞伎のど真ん中にあると気づき、「ここなら自分らしく暴れられる」と確信しているように見えます。
日本人らしさと「世界に誇る日本の美」としての歌舞伎
番組の中で中村獅童は、歌舞伎を「世界に誇る日本の美」だと語ります。
実際、歌舞伎は日本の重要無形文化財に指定され、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。
色とりどりの衣装、緻密な化粧、舞台装置、音楽、ことば。舞台の上には、日本の美意識が何層にも重なって詰め込まれています。
「日本人らしさ」というと、控えめ、静か、礼儀正しい、というイメージを持つ人も多いかもしれません。
しかし歌舞伎を観ると、そこには豪快な笑いも、大げさな怒りも、振り切れた悲しみも、全部が全力で表現されています。
番組では、獅童さんが「日本の美」と「自分が好きな反骨の精神」が同じ場所にあることを、楽しそうに語っているのが印象的です。
伝統芸能というと、「守る」ことに意識が向きがちですが、歌舞伎の歴史を振り返ると、実は新しいものを取り込み続けてきた側面も強いです。
その意味で、獅童さんの生き方は、「伝統を守る人」であると同時に、「伝統の中で暴れる人」でもあると記事として描けます。
バーチャルシンガーとのコラボで広がる新しい歌舞伎の地平
番組の後半で語られるのが、バーチャルシンガーとのコラボレーションです。
中村獅童は、ボーカロイドキャラクターの初音ミクと共演する「超歌舞伎」に主演し、古典演目『義経千本桜』と人気楽曲『千本桜』の世界観を融合させた舞台『今昔饗宴千本桜』などに取り組んできました。
伝統的な和楽器と、デジタルサウンド。花道とホログラム。歌舞伎役者とバーチャルシンガー。
一見するとバラバラな要素を、1つの舞台で「ごく自然なエンターテインメント」にしてしまうところに、獅童さんの発想力があります。
ここで少しだけ背景を足すと、ユネスコの無形文化遺産に登録されている芸能は、「変えてはいけない」ものとして守られているわけではありません。
むしろ、時代ごとに姿を変えながら受け継がれてきたからこそ、「今も生きている文化」として登録されています。
獅童さんがバーチャルシンガーと組むのも、「歌舞伎の根っこにある“かぶき者”の精神を、現代のテクノロジーと混ぜてみるとどうなるか」という実験でもあります。
番組では、その挑戦について、「賛否両論があっても、自分がやるべきだと思うものはやる」という覚悟もにじみます。
1度きりの人生を突っ走る中村獅童から視聴者へのメッセージ
前編の締めくくりとして浮かび上がるのは、「1度きりの人生をどう使うか」というシンプルな問いです。
ロックやファッションに夢中だった少年時代。
歌舞伎との出会い。
家の名前に甘えず、自分の足で立つと決めた瞬間。
そして、古典と最新テクノロジーをつなぐ挑戦。
そのすべてが、「どうせ1度きりなら、自分の好きなものに全力で賭けたい」という姿勢でつながっています。
この記事を読んで番組を観る人にとって、中村獅童の言葉は、歌舞伎ファンだけでなく、「自分の道を選びたい」と思っているすべての人へのエールとして響きます。
伝統芸能の話でありながら、実はとても個人的で、今を生きる私たちの背中を押してくれる物語。
この前編は、その序章として、獅童さんがどんな「かぶき者」なのかをたっぷり味わえる内容になっているといえます。
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