六甲の中腹で始まる、椹野道流と6匹の保護猫の暮らし
舞台は、六甲の中腹にある一軒家です。
そこに暮らしているのは、小説家の椹野道流さんと、6匹の保護猫たち。
毎日が大事件というより、静かな出来事が積み重なっていく日々です。
ただ、その静けさが、見ている側の心をふっとほどいていきます。
「猫と暮らす家」は、広いようで、実は小さな世界です。
でも、その小さな世界の中で、人はちゃんと悩み、働き、書き、学び、そして誰かを思います。
この番組は、その時間をすくい上げていきます。
椹野道流とは何者か、小説家としての仕事
椹野道流さんは、小説家として活動しながら、医師として法医学に関わってきた経歴を持つ人です。
番組でも、小説家であり、同時に教壇に立つ先生でもある姿が描かれます。
いくつもの顔を持つ人だからこそ、日常の見え方が少し違う。
猫が寝返りを打つ音や、窓辺の光の変化みたいな小さなことを、見逃さずに言葉へ変えていく。
そういう観察の積み重ねが、作品の芯になっているのだと伝わってきます。
ファンタジーからミステリー、食のエッセイまで幅広い筆致
椹野さんは、ファンタジーやミステリー、そして食のエッセイなど、幅広いジャンルを手がけていると紹介されています。
たとえば著者プロフィールでは、『人買奇談』『時をかける眼鏡』『ハケン飯友』などが挙げられています。
さらに本人の発信では、『祖母姫、ロンドンへ行く!』『最後の晩ごはんシリーズ』『鬼籍通覧シリーズ』などの作品名も並びます。
ジャンルが違っても共通しているのは、人の心の揺れを細やかに描くこと。
番組紹介にも「人々の心の機微を細やかに描き続けている」とあり、そこが大きな魅力として語られます。
母猫と子どもたちを中心にした保護の経緯
いま一緒に暮らしているのは、かつて保護した母猫と、その子どもたちを中心にした6匹です。
保護猫との暮らしは、最初から整っているわけではありません。
「慣れるまでの距離」もあれば、「健康の不安」もあります。
一般に多頭で猫を迎える場合、受け入れられる環境や医療費の見通し、頭数の管理がとても大切だと指摘されています。
番組は、そうした現実を大げさに叫ぶのではなく、暮らしの手触りとして見せていきます。
穏やかに見える毎日は、実はちゃんと手間と責任の上に成り立っている。
そこが、この回の静かな強さです。
とびちゃん、甘利、福本、波多野、実井、ちびすけという家族
番組タイトルに並ぶ猫たちの名前は、とびちゃん、甘利、福本、波多野、実井、ちびすけです。
名前が6つ並ぶだけで、もう「家族の気配」が出てきます。
人は、名前を呼ぶことで距離を測ります。
猫もまた、呼ばれることで、その家の時間に入っていきます。
番組は「個性的な6匹と小説家の日々」とまとめています。
つまり主役は、椹野さんだけではありません。
6匹それぞれの存在感が、暮らしのリズムを作っています。
猫たちの個性がつくる家の空気
6匹で暮らす家は、にぎやかにもなります。
でも、音が大きいというより、気配が増える。
視線が増え、寝場所が増え、ルールが増えます。
猫は人の言葉を理解するというより、人の感情の「揺れ」を読むのが上手だと言われます。
だから家の空気は、言い訳できないくらい正直になります。
その空気の中で書かれる文章は、飾りにくい。
椹野さんが「人間観察」を強みとして語られるのも、猫と暮らす環境が一部になっているからだと感じられます。
創作の原点としての医大生時代と法医学
この回の大きな柱が、椹野さんの法医学の経験です。
番組概要でも、創作の原点が医大生時代にあることが示されています。
法医学は、法律上の問題に医学の知見で答える領域で、死因の診断や身元確認などにも関わると説明されています。
つまり、人生の最後と向き合う学問でもあります。
その経験を持つ人が、小説を書く。
その事実だけで、言葉の重みが少し変わって見えてきます。
専門学校で教える解剖学の授業と、若者に伝えたいこと
椹野さんは現在も専門学校で、解剖学などの講座を持ち、教壇に立つ先生だと紹介されています。
さらに本人の発信でも、専門学校で解剖学や法医学、公衆衛生学を教えていることが書かれています。
番組が問うのは、「これからさまざまな人生が待つ若者たちに、講義を通して伝えたいメッセージとは何か」という点です。
ここが、この回のいちばん人間味のある部分になりそうです。
知識は、試験のためだけにあるのではありません。
誰かの命を扱う仕事に進むなら、目の前の人の背景まで想像できるかどうかが問われます。
猫たちと暮らす日々と、教壇で若者に語る言葉。
その両方が、椹野さんの「今」を作っています。
朗読の室井滋が届ける「言葉の温度」
この回の朗読は室井滋さんです。
朗読は、情報をただ伝えるだけではありません。
言葉に温度を与えます。
同じ文章でも、読む人によって景色が変わります。
猫の静かな動きや、家の空気のゆるやかな流れは、朗読の声と相性がいい。
番組が「穏やかな日常」を描くからこそ、声の存在が効いてきます。
猫と人の暮らしが残すメッセージ
六甲の山の気配がある場所で、6匹の保護猫と暮らしながら、物語を書き、学生に教える。
六甲山地は兵庫県南東部に広がる山地で、神戸の街と近い距離で共存してきた「都市の山」としても語られます。
街のすぐ背後に山があると、暮らしの中に季節のスピードが入り込みます。
寒さの入り方、光の傾き、風の匂い。
猫はそれを先に感じて、先に動きます。
人はそれを見て、「ああ、もう春が近いのかもしれない」と気づく。
そういう小さな気づきが、きっと椹野さんの書くものの土台になっている。
この回は、その土台を、猫たちと一緒に見せてくれる回です。
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小説家・椹野道流さんという人物

(画像元:展示:身近な芦屋で「最後の晩ごはん」作家の椹野さん | 毎日新聞)

ここからは番組の内容をより深く理解するために、椹野道流さんという人物そのものについて補足として紹介します。
番組では六甲の家で猫たちと暮らす姿が描かれますが、その背景には、医学と文学という2つの世界を歩んできた独特の経歴があります。小説家でありながら医療の専門知識を持ち、教育者として若い世代にも向き合う椹野道流さん。その歩みを知ると、番組で見える日常の景色がさらに立体的に見えてきます。ここでは、経歴、作家としての特徴、そして代表作について整理していきます。
医学と文学を歩んだ経歴
椹野道流さんは兵庫県出身の作家で、医師として法医学を専門に学んできた経歴を持っています。大学では医学を学び、大学院では法医学の研究に取り組みました。法医学とは、亡くなった人の死因や状況を医学的に調べる学問で、事件や事故の真相を明らかにするために重要な役割を持つ分野です。医療の世界の中でも、人の生と死を強く意識する領域だといわれています。その後、大学の法医学教室で研究や教育に関わりながら、作家としての活動も始めていきました。現在は作家活動を続けながら、医療系の専門学校で解剖学や法医学の講義を担当し、学生に医学の基礎を教えています。医学と文学の両方に関わる歩みは珍しく、この二つの経験が作品に深みを与えています。
医療知識と人間観察が生む物語
椹野道流さんの作品の大きな特徴は、医療や法医学の知識を背景にしたリアリティと、細やかな人間描写です。医療現場を知る作家だからこそ、人の命や感情の揺れを丁寧に描くことができます。ミステリーやファンタジーといったジャンルの物語でも、人物の心の動きがとても自然に感じられるのが魅力です。また、食をテーマにしたエッセイや、日常を描く作品も多く、温かく親しみやすい文章でも知られています。医療の知識を生かした作品と、日常の暮らしを描く作品。その両方を書けることが、椹野道流さんの作家としての大きな強みです。
代表作「最後の晩ごはん」シリーズ
椹野道流さんの代表作の1つとして知られているのが「最後の晩ごはん」シリーズです。この作品は、料理と人の人生をテーマにした物語で、食べ物にまつわる思い出や人と人との関係を丁寧に描いています。料理には、その人の人生や記憶が詰まっています。温かい料理が人の心をほぐし、悩みを抱えた登場人物たちの人生が少しずつ動き出していく様子が描かれています。食文化と人の物語を組み合わせたこのシリーズは、多くの読者に長く愛されている作品です。医学の世界を知る作家が、食と人生の物語を書く。その意外な組み合わせこそが、椹野道流さんの作品の大きな魅力になっています。
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