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NHK【首都圏情報ネタドリ!】戦後80年「火垂るの墓」を見つめ直す理由とは?高畑勲の空襲体験とドロップ缶の記憶(2025年8月22日)

首都圏情報ネタドリ!

戦後80年 いま見つめ直す「火垂るの墓」

2025年は戦後80年の節目の年です。その中で再び注目されているのが高畑勲監督によるアニメーション映画「火垂るの墓」です。1988年に公開されたこの映画は、兄妹が戦時下で懸命に生き抜こうとする姿を描き、多くの人の心を揺さぶってきました。放送では、公開から37年を経た今でも再上映や動画配信を通じて若い世代に届いていること、そして高畑監督が込めた想いが改めて語られました。この記事では番組の内容を踏まえ、「火垂るの墓」がなぜ今も人々の心を打ち続けるのかを整理して紹介します。

高畑勲監督の空襲体験が作品の原点に

高畑勲監督は1935年生まれで、幼少期に戦争を経験しました。特に忘れられないのが1945年6月29日の岡山空襲です。わずか9歳だった高畑少年は、家族とともに炎の中を必死に逃げ回りました。当時の姉、菅原五十鈴さんは91歳となった今も記憶が鮮明に残っていると語り、「ただ勲の手を握って逃げるしかなかった」と振り返ります。この時の恐怖と必死さは、後に映画の脚本や演出に色濃く反映されました。実際、高畑監督の自宅から見つかった7冊ものノートには、空襲シーンをいかにリアルに描写するかを巡る試行錯誤がびっしりと残されていました。焼夷弾の光や人々の動き、逃げ惑う姿の細部にまでこだわり抜いたのは、自身が経験した“現実の恐怖”を伝えたい一心だったのです。

バブル期に公開された「火垂るの墓」

映画が公開されたのは1988年。世の中はバブル景気に沸き、日本中が豊かさと華やかさに包まれていました。その時代に、飢えと絶望を描いた「火垂るの墓」がスクリーンに登場したことは大きな意味を持ちます。しかも同時上映は「となりのトトロ」。明るく楽しいファンタジーと、戦争の悲惨さを描いた重い物語が同じ映画館で流れるという異例の組み合わせでした。番組出演者の太田光さんは、「当時はみんな浮かれていたけど、どこかで日本人は大事なものを忘れているんじゃないか、という監督の危機感があったのかもしれない」と語りました。実際、企画書には「いまこそ、この物語を映像化したい」との一文が残されており、高畑監督が時代に投げかけた強いメッセージが感じられます。

「反戦映画ではない」と語った高畑勲監督

多くの人は「火垂るの墓」を反戦映画として受け止めています。しかし2015年、戦後70年を迎えた年に岡山市で講演した高畑監督は、「これは反戦映画ではない」と明言しました。では一体何を描こうとしたのでしょうか。プロデューサーの鈴木敏夫さんは「戦争を否定するためではなく、戦時下で生きた兄妹の姿を描いた」と解説しています。つまり高畑監督にとって重要だったのは「戦争そのものへの批判」ではなく、「子どもたちの生き様をどう伝えるか」だったのです。劇中で何度も登場するドロップ缶はその象徴でした。原作では一度しか出てこないアイテムを繰り返し映したのは、監督自身の記憶や姉との体験と結びついていたからです。甘さの象徴でありながら、飢えの象徴でもあるドロップ缶は、多くの観客の心に深く刻まれる存在となりました。

幽霊の清太と節子が示すもの

もう一つ重要なのが、映画の最後に登場する兄妹の幽霊の存在です。原作には登場しない設定ですが、高畑監督は「亡くなった人々は、死後も生き残った人々を見守っているのではないか」と話し、その思いを形にしました。これは単なる悲劇の終わりではなく、観客に向けられた「どう生きるのか」という問いかけです。太田光さんも「亡くなった人たちから私たちは見られているという意識を監督も持っていたのでは」と語り、この演出が作品に奥深い意味を与えていることを指摘しました。

海外からの評価と広がるメッセージ

「火垂るの墓」は日本だけでなく世界中で高く評価されています。フランスのアニメーション研究者イラン・グエンさんは「非常に広く深く受容され、文化的に大きな影響を与えた」と述べています。戦争という特殊な背景を描きながらも、兄妹の愛情や生きる姿が普遍的なテーマとなり、国や世代を越えて共感を呼んでいるのです。近年もヨーロッパやアジアの各地で上映が続き、若い世代にも作品が届き続けています。

観客が語る「火垂るの墓」

番組では視聴者の声も紹介されました。「清太と同じ年齢だったら自分はどうしただろうと考えさせられる」「子どもが子どもらしく生きられることの大切さを改めて感じた」「清太と節子の生き方をどう受け止めるかを観客に問われている気がした」などの感想が寄せられています。つまり「火垂るの墓」は単なる戦争映画ではなく、観客自身の人生を映す鏡のように作用しているのです。

まとめ:火垂るの墓が問い続けること

「火垂るの墓」は公開から37年が経ち、戦後80年を迎えた今でも色あせることはありません。戦争の悲惨さを伝えるだけでなく、家族の絆や命の尊さ、そして私たちの生き方そのものを静かに問いかける作品です。高畑勲監督が「反戦映画ではない」と語った真意には、単純な答えではなく「観客自身が考える余地を残したい」という深い思いがあったのでしょう。夏の夜に改めてこの映画を観ることは、過去を振り返るだけでなく、未来の私たちのあり方を見つめ直すきっかけになるはずです。


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