世界が注目“海藻パワー” 日本の可能性を探る
海藻は、私たちの食卓に欠かせない存在ですが、今や健康・環境・経済のすべてを支えるキーワードになっています。2025年9月3日に放送されたクローズアップ現代「世界が注目“海藻パワー” 大国ニッポンの可能性は?」では、その可能性と日本の強み、直面する課題まで幅広く紹介されました。この記事では番組内容をもとに、世界から注目される理由、日本独自の技術、環境対策としての役割、そして生活への取り入れ方を詳しく解説します。この記事を読めば、「海藻がなぜ世界で注目され、日本がどんな役割を果たせるのか」が一目でわかります。
海藻市場が急成長する理由
海藻市場は、世界銀行の予測によると2030年までに最大1.7兆円規模に成長すると言われています。急速な拡大の背景にはいくつもの要因があります。
1つ目は高い栄養価です。海藻にはビタミン、ミネラル、食物繊維、ポリフェノールなど体に必要な成分が豊富に含まれています。特に食物繊維は腸内環境を整え、ヨウ素は甲状腺の健康を守ります。
2つ目は多様な用途です。食品だけでなく、化粧品や医薬品、農業用バイオスティミュラント、動物飼料、さらにはバイオ燃料やバイオプラスチックとしても活用され、幅広い産業に広がっています。
3つ目は環境への貢献です。海藻は光合成によってCO₂を吸収し、海中に貯留します。森林に比べても効率的にCO₂を取り込む場合があり、気候変動対策として注目されています。
4つ目は養殖技術の進歩です。これまで海の環境に依存していた養殖が、陸上養殖の技術によって安定した供給が可能になり、品質も高まっています。
5つ目は地域社会への効果です。開発途上国では女性や若者の雇用を生み、収入源となっています。ケニアでは干ばつで困っていた地域が海藻養殖を始め、生活が安定したという事例もあります。
このように、海藻は「健康」「産業」「環境」「社会」すべての面でメリットをもたらしているため、世界規模で注目されているのです。
日本の強みは陸上養殖の技術
日本が海藻分野で世界をリードしている理由のひとつが陸上養殖です。海の温度上昇や自然災害に左右されず、安定して海藻を育てられる技術は国際的に評価されています。
高知県のスタートアップシーベジタブルは、黒海苔の大量生産に成功しました。乾燥重量で100kg、約3万枚分のおにぎり用海苔を生み出し、ミシュランシェフも買い求めるほどの品質です。
食品メーカーマルコメは、徳島文理大学と共同で陸上養殖のあおさを商品化。イオンで有機JAS認証を受けた商品として販売され、スーパーで手軽に買えるようになりました。
また、ウルバは高温でも育つアオノリを養殖できる技術を開発。2日間で最大16倍に成長する効率性を誇り、地球温暖化が進む中でも安定供給が期待されています。
さらに、パナソニックは養殖施設にIoTやロボットを導入し、効率化と省エネを両立。自治体や大学も協力し、全国で陸上養殖の取り組みが広がっています。
こうした事例は、日本の食文化の維持と新たな産業基盤の両方を支える重要なポイントです。
海藻が地球を救う? 温暖化対策への期待
海藻は環境問題の解決にも役立ちます。成長過程でCO₂を吸収・固定することで、地球温暖化の抑制に貢献します。
日本は2022年度、世界で初めて海藻藻場のCO₂吸収量を算定しました。その量は年間約35万トン。これは国際的にも大きな成果で、温室効果ガスの削減に向けた新たな可能性を示しました。
横浜市では「横浜ブルーカーボン事業」が進み、藻場によるCO₂吸収をクレジット化。福岡市でも「博多湾ブルーカーボンクレジット」が導入され、企業が購入して環境活動に活用しています。
海外では、紅藻を牛の飼料に混ぜることでメタン排出を77%削減できる試験が行われました。畜産分野での応用も広がれば、温暖化対策に大きな効果をもたらします。
また、深海に海藻を沈めて炭素を数千年単位で隔離する構想も研究されています。実現すれば大規模な気候変動対策の切り札となるかもしれません。
食卓で広がる“海藻パワー”の楽しみ方
海藻は、日常の食卓でも簡単に取り入れられるスーパーフードです。
・調味料代わりに:昆布塩や海藻パウダーを料理に加えると、塩分控えめで栄養豊富に。
・スムージーにプラス:粉末を混ぜるだけで鉄分や食物繊維を補給。
・フレークをトッピング:サラダやパスタ、スープに振りかけると風味と彩りがアップ。
・昆布でだし:煮物やスープの旨味を深め、豆の消化も助けます。
・寒天やアガー:お菓子やゼリー作りに卵代わりとして使えます。
・海苔ラップ:ご飯や野菜を包んで簡単に持ち運び。
・スナック:海苔チップやところてんなど、手軽なおやつとしても人気。
こうした工夫で毎日の食事がぐっと豊かになり、健康効果も自然に取り入れられます。
世界が注目する理由と日本の課題
世界は海藻市場を大きく広げていますが、日本には課題もあります。
・市場の伸び悩み:世界市場は急成長しているのに対し、日本は成長率が約1%と鈍い状況です。
・藻場の減少:相模湾ではこの30年で藻場が80%減少。海水温の上昇やウニの食害が原因とされています。
・産業の高齢化:海藻漁業を支える人材の高齢化が進み、担い手不足が深刻です。
・安全性:一部の海藻にはヒ素が含まれるため、摂取量の注意が必要です。
・規制や制度:国際的なルール整備や品質管理がまだ十分ではありません。
つまり、日本は技術と食文化の強みを活かしながら、環境保全や産業構造の改革を進めることが重要なのです。
まとめ:海藻パワーを未来につなげるために
海藻は、健康食材としてだけでなく、気候変動対策や地域社会の発展に貢献する大きな可能性を持っています。日本は陸上養殖や研究開発で世界をリードできる立場にありますが、市場の伸び悩みや資源保全、担い手不足といった課題を克服する必要があります。
日常の食卓に取り入れる工夫と、産業や環境への活用を同時に進めていくことで、海藻は未来を支える資源となるはずです。
コメント