胆のうがん・胆管がんのことを知って“守れる命”
胆のうがん・胆管がんは『胆道がん』に含まれ、2025年の今も“難治性”とされるがんです。年間の新規患者はおよそ2万件規模と推定されていて、日本のがん全体では多くないものの、進行してから見つかりやすいという特徴があり、医療現場で特に注意が払われています。
胆道がん全体では『約2万2千人』という数字が報告値とほぼ一致しており、日本では比較的患者数が多く、国際的な統計でも上位に入っています。特に胆のうがんは女性に多い傾向があることも知られており、生活習慣、体質、慢性炎症などの影響が重なることで発生リスクが上がると考えられています。
症状として知られるのは腹部不快感、右上腹の痛み、体重減少、黄疸などですが、これらは病気がある程度進行してから現れることが多く、初期段階はほとんど自覚症状がありません。そのため、健康診断での腹部エコー検査、人間ドック、他の病気のフォローで偶然見つかることが多いのが特徴です。
「無症状のまま進む」「気づきにくい」―この2つが、早期発見の難しさと治療の難しさにつながっています。
Eテレ【きょうの健康】胆のう・胆管の病気 最新治療「石がつまって 痛い!」急激なダイエットと無症状胆石が招く“肩の痛み”の真実|2025年11月18日
早期発見されたときだけ見える“根治への道”
胆のうがん・胆管がんは、進行すると手術ができないケースも多いなか、早期に見つかった場合は根治を期待できる病気でもあります。実際、ごく早い段階で切除できたケースでは、5年生存率が大きく改善したという臨床報告があり、特に粘膜内(ごく初期)の段階で見つかると予後が大きく変わると言われています。
治療のキーポイントは『完全切除(R0手術)』です。がんを取り残さずに切り取ることができれば、根治の可能性が見えてきます。ただし胆道は血管や臓器が複雑に入り組んだ場所で、切除が難しいことも多く、術前の検査でどれだけ“正確に位置や広がりを把握できるか”が重要になります。
一方、切除できたとしても再発のリスクは高く、再発後の治療が必要になる例も少なくありません。しかし再発後も治療を続けることで、生存期間の延長が期待できるケースが増えているという報告も出ています。胆道がんの治療は“長期戦”という言葉がよく使われますが、それは治療を続ける価値が確かにあるからこそです。
新しい検査のポイント
立体的に胆道を把握できる技術
3次元CT胆道造影の場合、胆管の走行・がんの位置・血管との関係を立体的に確認でき、手術の計画や切除できるかどうかの判断精度が高まっています。
複数の画像検査を組み合わせる判断
腹部エコー・CT・MRI・造影検査・内視鏡を組み合わせることで、がんの性質や広がりがより鮮明に見えるようになり、以前なら「切除不可」とされた症例に対しても、“可能性を検討できる余地”が広がっています。
検査は治療の入り口で、治療の選択肢を決める非常に大きなターニングポイントです。2025年現在、この精度が確かに向上しています。
新たな治療法が増え、選べる道が広がっている
胆道がんは長らく治療法が限られていましたが、ここ数年で状況が変わっています。特に切除不能例の治療成績に改善が見られ、新しい治療が患者の選択肢を広げています。
主な進歩
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がんの増殖を抑える分子標的薬の登場
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組み合わせる抗がん剤治療が標準化
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放射線治療の技術進歩
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免疫療法が検討されはじめた領域
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実臨床で生存期間(OS)の改善傾向
以前は「治療の手段が少ない」ことが大きな課題でしたが、今は“治療を継続することで結果が変わる”ケースが増えており、治療の意味が以前より大きくなっています。
早期発見と治療継続がとても重要な理由
胆道がんは、早期と進行期で治療の可能性がまったく異なります。
特に早期では「手術できるか」が最大の分かれ道となります。
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早期発見 → 手術の可能性が高まる
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進行して発見 → 手術が難しくなる、治療選択肢が限られる
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再発リスク → 高いが、治療継続で生存期間が延びる例も増えている
そして、最も重要なのは“初期は症状がないこと”。
だからこそ、健康診断での腹部エコー・人間ドックが、命を守るための実質的な武器になります。
症状がなくても見つかる可能性がある。
気づかないうちに進む病気だからこそ、検査が強い意味を持つのです。
課題も多いが、できることは確実に増えている
胆道がんは、発生数が少ないため研究が進みにくい面や、見つかりにくい構造による治療の難しさがあります。
課題としては
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早期発見できる人数がもともと少ない
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根治できる段階で見つかるのはごく一部
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新薬は適応条件が限られることがある
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費用や副作用の問題
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胆石や先天性疾患などリスク因子への対策
などがあります。
それでも、検査・治療は確実に進歩し、治療の幅は間違いなく広がっています。
“治療を諦めないことが意味を持つ”という事実は、胆道がん治療の世界で年々大きくなっています。
まとめ
胆のうがん・胆管がんは難治とされる一方で、早期に見つかれば根治をめざせる病気です。2025年現在、検査技術や治療法が進歩しており、治療を続ける意味は確かに大きくなっています。定期的な検診を積極的に活用しながら、これらの最新情報を知っておくことで、自分や周りの大切な人の健康を守る選択につながります。
番組の内容と異なる場合があります。
海野倫明教授の専門分野と歩み
経歴のあらまし
海野倫明 教授は、東北大学の消化器外科学分野で長く活躍している外科医です。1986年に東北大学医学部を卒業し、研修医としてのスタートをきってから、助手、講師、准教授を経て、2005年に同大学の教授に就任しています。1993年には医学博士の学位を取得し、外科医としての技術だけでなく研究者としての実績も積み重ねてきた人物です。長年の訓練と臨床の積み重ねのもと、肝臓・胆道・膵臓を中心とする難しい手術に向き合い続けてきました。
専門と臨床での特徴
海野教授が専門とするのは、肝臓や胆のう、胆管、膵臓といった体の奥深くにある臓器を扱う肝胆膵外科です。特にがんの治療に重点を置き、手術・化学療法・研究を同時に進めることで、患者により良い治療を届ける取り組みを続けています。教室では非常に多くの症例を積み重ねており、診断から手術、治療、研究までをひとつの流れで支えられる体制をつくっていることが大きな特徴です。
取り組んできた主な研究
海野教授の研究には、がん治療の新しい道を切り拓いてきたテーマが並びます。代表的なものが、膵がんに対する術前化学療法を広める取り組みです。これは手術前に抗がん剤を使って治療効果を高めようとする考え方で、「術前治療研究会」を立ち上げて全国規模で働きかけを行いました。
ほかにも、膵胆道がんの個別化治療や切除不能胆管がんへの生体肝移植の可能性を探る研究など、難治性がんをどう克服するかをテーマにした研究を続けています。これらの研究は、患者がより長く、よりよく生きるための方法を追い求める姿勢が表れています。
教育と診療への考え方
教授が大切にしているのは、患者と医療チーム全体の信頼関係です。「患者さんに優しい治療と高度医療の調和」という考え方を掲げ、できるだけ負担を少なくしながら最善の医療を提供する姿勢を貫いています。多くの症例を経験することで教育と研究の質が上がるという考えのもと、若い医師たちにも積極的に臨床経験を積ませ、次の世代の育成にも力を注いでいます。丁寧な診療と高度な技術の両立を目指す姿勢は、教室全体のカラーにも表れています。
研究の広がり
海野教授の論文や研究テーマは幅広く、胆道がん、膵臓がん、肝臓がんといった治療が難しい病気を対象に、さまざまな角度から分析を進めています。患者の予後を左右する要因を調べたり、治療を支える分子生物学の視点からがんの仕組みを探ったりする研究もあります。これらの研究は、治療の精度を上げるための基礎として欠かせないもので、臨床と研究の両輪を回し続ける教授の姿勢がよく表れています。
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