ルリ色のヤンマとガマが紡ぐ蒜山の物語
岡山県真庭市・蒜山の湿地には、光を浴びて瑠璃色に輝くオオルリボシヤンマが舞い、ガマが風に揺れる静かな景色が広がっています。遠い昔に湖だった土地が生んだ湧き水、使い川を中心に営まれてきた暮らし、そして650年続くガマ刈りと籠づくり。自然と人の営みが折り重なって守られてきたこの里山には、今も変わらず豊かな四季が息づいています。
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湧き水が形づくる“水の里” 蒜山の原風景
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真庭市北部の蒜山は、かつて巨大な湖だった場所が干上がって誕生しました。湖の底にあたる地層からは今も絶えず水が湧き、里のあちこちで小さな泉を見ることができます。
家と家のあいだを流れる澄んだ小川は「使い川」と呼ばれ、古くから暮らしの中心にありました。野菜や農具を洗うだけでなく、地域の人々が集まる交流の場でもあり、生活に欠かせない存在です。
秋の終わり、女性たちが小川でヒメガマの茎を丁寧に洗う姿が見られます。泥を落とす作業は根気が必要ですが、ここが籠づくりの大切な第一歩。洗い上げたガマは束にして天日に干し、およそ2ヶ月じっくり乾燥させます。
650年続くガマ刈りの知恵と暮らし
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蒜山では約650年前からガマを刈り、籠や生活道具を作る文化が受け継がれてきました。湿地で育つガマは軽くて丈夫。油分を含んでいるため、水にも強く長持ちするのが特徴です。
冬、農作業が一段落すると、いよいよ籠づくりの季節がやってきます。家族が集まる部屋で、乾いたガマを一本ずつ選びながら編み込む作業が始まります。手に吸いつくようなガマの質感は、触れただけで自然の力強さが伝わります。
現代ではそのオーガニックな雰囲気が好まれ、若い世代からも人気のハンドクラフトとして注目されています。使うほどに色味や風合いが変わるのも魅力で、“育てる籠”として愛用する人も増えています。
また、ガマを刈る作業は湿地の景観を守る役割も担っています。人の手が入ることで草原のサイクルが維持され、生き物たちが支えられているのです。
瑠璃色の宝石 オオルリボシヤンマ が舞う湿地
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蒜山の湿地を象徴する生きものが、体に散りばめられた瑠璃色が美しいオオルリボシヤンマです。体長約8cmの大きなヤンマで、光が当たると青く輝き、飛ぶ姿はまるで宝石のよう。湿地帯は彼らの産卵場所となり、夏にはガマの根元を縫うように飛び交う姿を見ることができます。
湿地周辺では、季節ごとに多彩な植物が彩りを添えます。白い星形の模様が特徴のアケボノソウ、冷たい水の中で揺れるヒルゼンバイカモ、秋を淡く彩るミゾソバなど、どれも湿地ならではの存在です。
冬の訪れとともに、水辺には渡り鳥がやってきます。細長いくちばしが印象的なカワアイサや、白と黒のコントラストが美しいセグロセキレイが小川を行き来し、静かな季節にも命の気配が満ちています。
冬の静けさとともに始まる籠づくりの季節
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1月になると、蒜山は一面の雪景色に包まれます。西日本でも有数の降雪地帯である蒜山では、冬の間は外の農作業がほとんどできません。そんな季節にこそ、家の中でじっくりと籠づくりが続くのです。
乾燥させたガマを手に取り、太さやしなり具合を確かめながら丁寧に編み進める時間。その静かな作業は、蒜山の冬の風物詩でもあります。編み上がった籠はしなやかで丈夫。生活の道具としてだけでなく、現代ではインテリアやファッションの一部として注目されています。
湧き水・ガマ・ヤンマが支える“里山の循環”
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蒜山の湿地は、人の暮らしと自然の営みが互いを支え合うように存在しています。湧き水が土地を潤し、ガマが育ち、ガマを刈ることで湿地が維持され、そこにオオルリボシヤンマをはじめとする生き物たちが集まる。
この循環が何百年ものあいだ続いてきたことこそ、蒜山という地域の大きな価値です。
自然の背景には必ず人の手仕事があり、人の暮らしのそばには必ず自然の恵みがあります。蒜山の湿地は、その関係性が美しく残る場所と言えます。
まとめ
岡山県真庭市・蒜山のガマ湿地は、里山の原風景と人々の暮らしが深く結びつきながら守られてきた特別な場所です。湧き水が流れる小川、650年続くガマ刈り、冬に始まる籠づくり、そして瑠璃色に輝くオオルリボシヤンマ。
自然がつくる景色の裏には、長い歴史の中で受け継がれてきた生活の知恵があります。この土地に生きる人々の営みが未来の里山を守り、生き物たちが暮らし続ける環境を支えているのだと感じられる場所です。
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