負けんわい!能登半島から届く“食の力”が教えてくれるもの
能登半島は、海と山に囲まれた豊かな土地です。カキが育つ日本海の海辺、そして山に広がる里山里海の恵み。その両方を受け取ってきた地域だからこそ、ここには昔から食の文化が根づいてきました。
ところが2024年に起きた能登半島地震、続く豪雨は、生活だけでなく食の現場にも大きな影響を与えました。
それでも、天野ひろゆきさんと塚原愛アナウンサーが再訪した能登には、前へ進む姿が確かにありました。
伝統の『揚浜塩』、ブランド牛である能登牛、世界農業遺産の白米千枚田、そして被災した料理人たちが作る新しい食の拠点。
そのすべてに共通していたのは“負けんわい”という強い気持ちでした。
伝統の揚浜塩を守る人たちの底力と復旧への歩み
旅の最初に向かったのは、珠洲市の道の駅すず塩田村です。ここには500年以上前から受け継がれてきた『揚げ浜式製塩法』が息づいています。海水を砂にまき、太陽と風で水分を飛ばし、かん水と呼ばれる濃い塩水を作り、窯でじっくり煮詰めて塩にするという昔ながらの技です。
この作業は気が遠くなるほど手間がかかりますが、それだけに味は特別です。塩そのものに丸みがあり、あとから広がる旨さが特徴で、まさに能登の自然が作った味と言われています。
しかし地震と豪雨は、この塩田にも容赦なく爪痕を残しました。塩田は土砂で埋まり、窯も壊れ、生産は完全に止まりました。職人たちの努力だけでは手が回らず、途絶えてしまう危機に直面したのです。
そんな中、学生ボランティアをはじめ多くの人が現地に駆けつけ、200人もの手によって約2ヶ月で土砂が取り除かれました。さらに止まっていた水道も復旧し、2025年には塩づくりが再開されました。
訪れた天野さんと塚原アナは、丁寧に作られた塩を味わい、そのまろやかな味に驚いた様子でした。名物の『塩ソフトクリーム』は、能登ならではの甘みと塩のバランスが魅力で、塩田の復活を象徴する存在にもなっています。
能登牛の現在と再建への挑戦が始まっている
続いて2人が訪れたのは、能登町の能登牧場です。能登牛は全国的にも知られているブランド牛で、オレイン酸を多く含む脂がとろけるような口溶けを生み出し、柔らかな肉質と豊かな旨みが特徴です。
この牧場では約900頭が育てられていましたが、地震により牛舎が亀裂だらけになり、地盤が沈み、必須である水の供給も止まりました。水不足は牛たちの体調を直撃し、弱ってしまう牛も出てしまいます。
こうした状況に耐えられず離農する生産者もおり、地域の畜産は大きな痛手を受けました。
それでも、牧場の平林さんは前を向いています。壊れた牛舎を直すだけでなく、新しい牛舎の建設も始め、飼育頭数を元に戻す計画を立てています。今後数年は出荷数が減る見込みですが、それでも能登牛を続けていくという強い意志が、地域の食文化を支える土台になっています。
平林さんの「もっと知ってほしい」という願いからも、能登牛への誇りが伝わってきました。
白米千枚田が見せた“復活の景色”
次に訪れたのは輪島市の白米千枚田。海に向かって棚田が何層にも広がる景色は、能登の象徴として多くの人に愛されています。
地震と豪雨は、この棚田にも深い被害をもたらしました。土砂が流れ込み、田んぼの形が崩れ、作付けができない状態になってしまったのです。
それでも諦めることなく、地元の方やボランティアが復旧作業を進め、今年は修復できた250枚に苗が植えられました。そして秋には無事に稲刈りを迎え、黄金色の棚田が戻ってきました。
あの景色が戻ったことは、農業という枠を超えて、“地域の希望の復活”を意味しています。自然の力と人の努力が繋がってこそ生まれた景色でした。
被災料理人たちが開いた“芽吹”という新たな物語
輪島市では、地震で店を失った料理人たちが集まって開いたお店があります。その名前は芽吹。炊き出しでつながった仲間が、地域をもう一度元気にしたいという思いで始めた飲食店です。
ここでは能登の食材が主役です。
能登牛のステーキは『揚浜塩』を合わせることで旨みが引き立ち、地魚のお造りは海の甘みをそのまま感じられる味わい。締めに出される輪島の新米のおにぎりは、塩だけでしっかりおいしいと評判です。
この店は“料理を出す場所”という意味だけでなく、被災した人たちがもう一度立ち上がるための居場所であり、地域の食文化を未来へつなぐ場所にもなっています。
横のつながりが生んだ能登の未来に向けた力
天野さんは旅の終わりに、能登で見た横のつながりについて語っていました。
揚浜塩を守る人、能登牛を育てる人、棚田を復旧させた人、料理を作る人。
それぞれ立場は違っても、支え合いながら前に進む姿勢が、能登を動かしていることは間違いありません。
“負けんわい”という言葉以上の、静かで強い決意が、能登半島の食と文化を未来へつないでいます。
まとめ
今回の旅は、能登半島の食材の魅力と同時に、人の強さとつながりを映し出す内容でした。
『揚浜塩』、能登牛、白米千枚田、そして飲食店芽吹。
どれも被災の痛みを抱えながら、それでも前に進む理由を持っています。
能登の食は、自然の恵みと人の想いによって守られてきました。これからもその魅力が広く伝わっていくことを願いたいです。
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