揺らぐ世界秩序の分かれ道
このページでは『クローズアップ現代(2026年1月6日放送)』の内容を分かりやすくまとめています。
今回の放送は、ドナルド・ジョン・トランプ政権によるベネズエラ軍事作戦を起点に、国際秩序がどこへ向かおうとしているのかを問いかける内容でした。力による安定を掲げる新しい戦略は、国際法や国際機関、そして日本の立ち位置にまで影響を及ぼします。何が起き、なぜ議論を呼び、私たちは何を考えるべきなのか。その全体像を追っていきます。
まず何が起きたのか
2026年1月3日未明、アメリカはベネズエラの首都カラカスで軍事作戦を実施し、大統領の ニコラス・マドゥロ 氏を拘束、そのまま ニューヨーク へ移送しました。この一連の行動について、ドナルド・ジョン・トランプ 政権は「国家間の戦争や軍事侵攻ではなく、麻薬犯罪に対する『法執行』である」と説明しています。
番組では、この 『法執行』という言葉の使い方そのものが大きな意味を持つ と強調されました。
本来、他国の首都で軍事力を行使し、現職の国家指導者を拘束する行為は、国際社会では「軍事介入」や「侵攻」と受け止められやすいものです。そこでトランプ政権は、戦争や侵攻といった言葉を避け、あくまで 「国際的な麻薬犯罪への取り締まり」 という枠組みを前面に出しました。
こうした表現によって、武力行使を厳しく制限している 国際法の規範から距離を取ろうとする意図 が読み取れると、番組は指摘しています。
一方で、ベネズエラ国内の現実も重ねて描かれました。マドゥロ政権下では、反政権的な動きに対する弾圧が続き、生活の不安定さも重なって、国外へ逃れた人は 約790万人 に達しています。これは国の人口規模を考えても極めて大きな数字で、社会そのものが外へ流出している状況です。
アメリカに亡命したベネズエラ人の中には、今回の軍事作戦について「強権的な政権を終わらせるきっかけになる」として、トランプ政権の強硬姿勢を支持する声 もあります。
しかし同時に、祖国が他国の軍事力によって左右されることへの 違和感や複雑な感情 を抱く人も少なくありません。
独裁的な政治への怒りと、外国による武力行使への戸惑い。その二つが同時に存在する現実が、番組の中で静かに伝えられました。
この出来事は、単なる軍事作戦ではなく、「法とは何か」「国家主権とは何か」 を改めて突きつける象徴的な出来事として位置づけられていました。
“トランプ新戦略”の骨格
今回の作戦の背景として番組が示したのが、ドナルド・ジョン・トランプ 政権が掲げる 国家安全保障戦略 です。
この戦略の中で最も強調されているのが、「西半球の安定を最優先する」 という考え方です。アメリカ大陸全体を自国の安全と直結する地域と位置づけ、中国やロシアといった 競合する大国の影響力を排除する ことが明確に打ち出されています。
スタジオでは、この発想を『ドンロー主義』と呼び、19世紀にアメリカが打ち出した『モンロー主義』になぞらえて解説しました。
当時のモンロー主義は、「ヨーロッパはアメリカ大陸に干渉しない」「アメリカもヨーロッパの問題には介入しない」という相互不干渉を基本とする考え方でした。
それを トランプ流に組み替えたものが『ドンロー主義』 だと説明されます。
この新しい考え方では、西半球はアメリカの勢力圏 と位置づけ、そこでの政治や資源、影響力はアメリカが主導するという姿勢が前面に出ます。
一方で、西半球以外の地域については、中国やロシアといった強い国同士が取引し、勢力を分け合う という現実主義的な発想が見え隠れします。理想や価値を共有するかどうかよりも、「誰が力を持っているか」を基準に関係を組み立てていく外交です。
番組では、ベネズエラが中国やロシアと関係を深めてきたこと が、今回の作戦と直結している点も強調されました。
ベネズエラは豊富な 石油資源 を持つ国であり、その資源と影響力がアメリカの勢力圏の外に流れることを、トランプ政権は強く警戒していると読み取れます。実際、トランプ大統領が会見で 「石油」 という言葉を繰り返し口にしたことも紹介され、資源と安全保障が一体で語られている現状が浮かび上がりました。
こうした流れから見えてくるのは、価値や理想を掲げて世界を導くアメリカ像からの転換 です。
人権や民主主義といった理念よりも、力、資源、勢力圏を重視する外交へと舵を切っていることが、今回の作戦を通じてはっきりと示されたと番組は伝えていました。
国際社会はなぜ批判するのか
国際社会からの批判の中心にあるのは、国連憲章 が定める基本原則です。
国連憲章では、武力によって他国の領土保全や政治的独立を脅かしてはならない という考え方が国際秩序の土台とされています。今回のアメリカの行動は、この原則に反するのではないかという強い疑問を各国から招きました。
トランプ政権は、あくまで「麻薬犯罪への『法執行』」であり、国家間の戦争や侵攻ではないと主張しています。しかし、他国の首都で軍事力を行使し、現職の大統領を拘束・移送するという行為そのものが、武力行使に該当するのではないか という見方が国際社会では根強くあります。
番組では、この「言葉の整理」と「実際に起きた行動」の間にあるズレが、批判の核心だと示されました。
事態を受けて、国連安全保障理事会 では緊急会合が開かれました。アメリカは今回の作戦について、国際的な麻薬犯罪組織への対応であり、自国の安全を守る正当な行動だと説明しました。
これに対し、中国 や ロシア は強く反発し、国際法を無視した危険な前例になると非難しました。特に、力を持つ国が一方的にルールを解釈し直すことへの警戒感が前面に出ました。
一方、ヨーロッパ諸国 はアメリカへの直接的な非難は控えつつも、国際法と国連憲章の重要性を繰り返し強調しました。アメリカとの同盟関係を意識しながらも、ルールが形骸化することへの危機感をにじませた対応だと言えます。
また、中南米の国々 からはより強い反発が相次ぎました。歴史的にアメリカの介入を受けてきた地域であるだけに、今回の行動を「地域への支配を強める動き」と受け止める声が多く上がったことが紹介されています。
こうした反応を通じて浮かび上がったのは、各国が守ろうとしている「一線」の違い です。
アメリカは自国の安全と影響力を最優先し、中国やロシアは勢力圏への介入を警戒し、ヨーロッパは国際ルールの維持を重視し、中南米は主権への干渉に強く反発する。
番組では、この食い違いこそが、現在の国際秩序が抱える不安定さを象徴していると伝えられていました。
ICCは何に苦しんでいるのか
番組後半の焦点は、国際刑事裁判所(ICC)です。ICCは、戦争犯罪などを裁くための常設の国際機関で、国家や国内司法だけでは救われにくい被害者にとって『最後の砦』とされてきました。
「戦争が起きたとき、いちばん弱い立場にいる人の声を、国境を越えて拾い上げる場所」。番組は、ICCをそうした存在として描きました。
しかし今、そのICCがかつてない圧力を受けています。
大きな転機として示されたのが、ウクライナ侵攻をめぐり ウラジーミル・プーチン 大統領らに逮捕状を出したことです。さらに、ガザ情勢をめぐって ベンヤミン・ネタニヤフ 首相らにも逮捕状を出したことで、ICCは国際政治の最前線に押し出されました。
この動きに対し、ロシアはICCに敵対的な姿勢を強めました。
そしてもう一つ、番組で重く扱われたのがアメリカの反発です。アメリカはICCに加盟していない立場から、逮捕状の動きを強く問題視し、ICCへの圧力を強めました。結果として、ICCの裁判官や職員が制裁対象となり、実務面でも深刻な影響が出ていると伝えられました。
ここが重要な点です。
制裁の影響は「政治的な非難」だけにとどまりません。番組では、銀行 や ITサービス といった社会の基盤に近い部分で利用制限が起き、ICCの職員が日常業務を進めるうえでも困難が生まれている状況が紹介されました。つまり、裁判所としての独立性が揺らぐだけでなく、組織の手足そのものが縛られていく構図です。
さらに厳しいのが、ICC内部ではなく「加盟国側」からも揺らぎが出ている点です。
ICCに加盟する国々の中には、大国との関係を優先し、ICCから距離を取ったり、脱退の動きを見せたりする国が出てきました。番組では、こうした動きが広がれば広がるほど、逮捕状を出しても実行力が弱まり、ICCの存在意義そのものが薄れてしまう危険があると示していました。
こうした状況の中で重要人物として描かれたのが、ICC所長の 赤根智子 さんです。
番組では、赤根所長が各国代表と会談を重ね、国際法による正義を守るために加盟国が団結する必要があると訴える姿が紹介されました。外交の現場に近い場所で、説得と対話を積み上げるしかない現実がにじみます。
結局、ICCが直面している苦闘は、裁判の中身だけではありません。
「国際法に基づく正義」を掲げるほど、政治的な圧力が強まり、加盟国の結束が揺れ、制度が空洞化していく危険がある。番組はその危うさを、具体的な制裁と分断の形で突きつけていました。
2026年の世界と日本
スタジオでは、2026年に向けて 世界が勢力圏ごとに分かれていく可能性 が現実味を帯びていると語られました。
力を持つ国が、自らの影響力が及ぶ範囲を明確にし、その内側を優先的に守ろうとする動きが強まっているという見方です。
その中で注目されたのが 東アジア です。
専門家は、東アジアでは 中国 が中心的な役割を担う存在として浮上しており、アメリカの関与の仕方次第では、日本の位置づけが相対的に低下するリスク があると指摘しました。
同盟国であっても、勢力圏の再編が進めば、これまでと同じ重みで扱われなくなる可能性があるという現実です。
とりわけ重要な地域として挙げられたのが 台湾 です。
台湾は、日本の安全保障や経済にとって 死活的な利益が絡む場所 であり、エネルギー輸送や海上交通の要衝でもあります。
それにもかかわらず、力を持つ国同士の交渉の中で、台湾の将来が 米中間の『ディール』の材料として扱われてしまう危険性 があると、専門家は警鐘を鳴らしました。
ここで問題になるのは、日本が当事者でありながら、決定の場から外れてしまう可能性です。
勢力圏を前提とした世界では、価値観の共有よりも、力関係が優先されやすくなります。その結果、日本にとって極めて重要な問題であっても、他国同士の合意で方向が決まってしまう という事態が起こり得ると示されました。
こうした状況を踏まえ、日本が取るべき道として示されたのは、力を無視しない現実的な姿勢 です。
理想だけで動くのではなく、国際情勢の厳しさを直視したうえで行動する必要があるとされました。
具体的には、まず 自ら挑発しないこと。
感情的な対立を避け、不要な緊張を高めない姿勢が重要だとされます。
次に、目的を限定して行動すること。何を守るための行動なのかを明確にし、際限なく対立が拡大しないようにする判断力が求められます。
そしてもう一つが、時間を味方につける視点 です。
短期的な力のぶつかり合いに巻き込まれるのではなく、国際ルールや規範といった 力以外の要素を育てていくこと が、中長期的には日本の立場を支えると語られました。
力が前面に出る時代だからこそ、力だけに頼らない秩序をどう残していくのか。
番組は、日本が果たすべき役割が、これまで以上に 重く、難しい局面に入っている ことを静かに示していました。
まとめ
『クローズアップ現代(2026年1月6日放送)』は、ベネズエラ軍事作戦という具体的な出来事から、世界がどこへ向かおうとしているのかを描き出しました。ドナルド・ジョン・トランプ政権の新戦略は、国際法や国際機関の存在意義を揺さぶり、日本にとっても無関係ではありません。
力とルール、その間で揺れる世界の中で、何を守り、どこに立つのか。番組はその問いを静かに、しかし重く投げかけていました。
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