木とまなざしが残した時間 彫刻家・舟越桂の1993年
このページでは『おとなのEテレタイムマシン 土曜美の朝 彫刻家 舟越桂(2026年1月6日放送)』の内容を分かりやすくまとめています。
NHKアーカイブから選ばれ、リマスターされてよみがえる1993年放送回は、ひとりの彫刻家が木と向き合い、静かに作品を生み出していた時間そのものを映した記録です。この記事を読むことで、番組を見る前に、彫刻家・舟越桂という存在と、その作品が持つ独特の魅力を、無理なく頭に入れることができます。
番組の位置づけ アーカイブをリマスターで味わう
『おとなのEテレタイムマシン』は、NHKが長年蓄積してきた番組アーカイブの中から、今あらためて見てほしい回を選び、映像や音声を整えて届けるシリーズです。
今回取り上げられるのは、1993年に放送された「土曜美の朝 彫刻家 舟越桂」。新たな解説を加える番組ではなく、当時の映像と語りをそのまま生かし、30年以上前の制作現場や作家の姿勢を、現在の視点で見直す構成になっています。
出演は彫刻家の舟越桂、聞き手はアナウンサーの山根基世さんです。
舟越桂とはどんな彫刻家か
舟越桂は、木彫の人物像、とくに胸から上の半身像で広く知られる彫刻家です。
日本の現代彫刻の流れの中でも、強い存在感を放ち続けてきた作家として、長い時間をかけて評価を積み重ねてきました。
舟越の作品は人物像を題材にしていますが、写真のようにそっくり写す写実とは明らかに異なります。
顔立ちは整っているのに、年齢や感情をはっきりと言い切らない曖昧さがあり、見る人によって受け取り方が変わります。
そのため作品は、現実の誰かを表しているようでありながら、同時に現実から少し距離を取った存在として立ち現れます。
とくに印象的なのが視線です。
多くの作品で、目は正面をまっすぐ見ていません。
少し外れた方向や、遠くの何かを見ているようにも、心の内側を見つめているようにも感じられます。
この視線の置き方によって、像は見る人と正面から向き合うのではなく、静かに距離を保ちながら空間に存在します。
1993年当時、舟越桂のこうした作風はすでに確立していました。
木を素材に人物を彫り、半身像という形式を選び、見る者に強い印象を残す表現は、この時点で完成形に近い状態にありました。
そのため番組は、作風がどう変化したかを追う内容というより、日々の制作を積み重ねる彫刻家の姿に寄り添う構成になっています。
完成された作品だけを見ると、静かで整った印象を受けますが、その背景には、毎日の制作と考える時間があります。
番組は、そうした一人の作家としての時間を見つめることで、舟越桂という彫刻家の本質に近づこうとしています。
作品の特徴 クスノキ木彫と彩色、そして大理石の目
舟越桂の作品をひと目で特徴づけるのが、クスノキを使った木彫、彩色された表面、そして大理石の目という三つの要素です。
これらは単なる技法の組み合わせではなく、作品全体の印象や、見る人との距離感を決定づける大切な要素になっています。
素材に選ばれるクスノキは、やわらかさと粘りを持ち、彫刻に向いた木です。
一方で、木目の流れや独特の香りなど、素材そのものの個性も強く残ります。
舟越は、この木の性質を抑え込むのではなく、木であることを感じさせたまま人物像を形づくります。
そのため作品からは、人の姿と同時に、木が持つ時間や生命感も伝わってきます。
表面には彩色が施されていますが、色は飾りとして使われているわけではありません。
淡く重ねられた色は、肌の温度や気配を想像させ、彫刻でありながら生身の存在に近づける役割を果たします。
木の質感を完全に覆い隠さず、下にある素材を感じさせる点も特徴です。
そして、最も強い印象を残すのが大理石の目です。
舟越は大理石を削り、そこに彩色を施して眼球をつくり、木彫の像にはめ込みます。
木とは異なる硬質な素材が加わることで、像は単なる造形物ではなく、周囲を見つめる「見る存在」として立ち上がります。
この目があることで、像は無言のまま空間と関わり、見る人に静かな緊張感を与えます。
クスノキ、彩色、大理石の目。
これらが重なり合うことで、舟越桂の作品は、止まっているのにどこか生きているような、不思議な存在感を持つ彫刻として成立しています。
アトリエで語られた創作への思い
番組内容の中心に置かれているのは、アトリエで語られる創作への思いです。
完成した作品を並べ、その意味を解説する構成ではありません。
カメラは、制作の現場そのものに入り、彫刻家が日々どのように木と向き合っているのかを静かに追います。
アトリエには、制作途中の像が置かれ、使い込まれた道具があり、木材が静かに待っています。
そうした空間そのものが映し出されることで、作品が生まれる前の時間や、制作の積み重ねが伝わってきます。
木を削る行為は、完成を急ぐ作業ではなく、時間をかけて形を探る行為であることが感じられます。
その中で語られるのが、なぜ人物を彫るのか、なぜ木という素材を選ぶのか、そしてなぜ目に大理石を使うのかといった、作品の奥にある考え方です。
これらは理論を並べた説明ではなく、制作を続けてきた中で自然に形づくられた思いとして、落ち着いた語り口で示されます。
放送前の段階では、具体的な発言や言葉の順序までは分かりません。
ただ番組概要から、この回が技法の手順を説明する番組ではなく、創作に向かう姿勢そのものに重きを置いた内容であることは読み取れます。
彫刻を「どう作るか」よりも、「どう向き合っているか」に焦点を当てることで、作品の背景にある時間や考えが、自然と浮かび上がる構成になっています。
鑿痕と静けさ 作品が伝える身体感覚
舟越桂の彫刻は、遠くから見ると静かで整った表情をしています。
輪郭はおだやかで、感情を強く主張することもなく、空間にそっと置かれているように見えます。
しかし、近づいて目を凝らすと、表面には鑿の跡がはっきりと残っていることに気づきます。
削られた面や、あえて均しきられていない部分には、木を削る手の動きや、身体の重心の移動が刻まれています。
それらは偶然残った痕ではなく、制作の過程そのものが形として留められたものです。
そのため像は動かない存在でありながら、作る行為の時間を内側に抱え込んでいるように見えます。
この彫刻の大きな特徴は、鑿痕の力強さと表情の静けさが、同時に存在している点です。
荒さを感じさせる部分がある一方で、顔全体からは落ち着きや沈黙が伝わってきます。
その対比によって、見る人は刺激の強い印象ではなく、騒がしさとは異なる静かな感覚を受け取ります。
番組では、完成した作品だけでなく、こうした見るときの感覚そのものが、映像を通して伝えられていくはずです。
画面越しに彫刻と向き合うことで、形だけではない、身体感覚としての彫刻の魅力を体験できる構成になっています。
まとめ
この回は、1993年という時代に記録された、彫刻家・舟越桂の制作の時間を、現在によみがえらせる番組です。
木、目、静けさ、そして語られる創作への思い。その一つ一つが、完成作品だけでは分からない背景を教えてくれます。
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