- 食べているのに疲れる…「隠れ栄養不足」とは何か
食べているのに疲れる…「隠れ栄養不足」とは何か
「ちゃんと食べているのに、なんだかずっとだるい」。
そんなモヤモヤした不調の裏側にあるのが、番組のテーマになった隠れ栄養不足でした。
見た目の体型はふつう。
食事もそこまで偏っているようには見えない。
それでも、体の中ではビタミンやミネラル、たんぱく質などの栄養素がじわじわ足りなくなっていくことがあります。
厚生労働省がまとめた「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の報告書でも、年齢や性別を問わず、特定の栄養素が目標量に届いていない人が一定数いることが示されています。
番組では、貧血、けん怠感、不眠、免疫力の低下、そして糖尿病など、一見バラバラに見える症状が、実は栄養不足とつながっている可能性を、最新の研究データとともに浮かび上がらせていきました。
案内役をつとめるキャスターは、ニュース番組でもおなじみの桑子真帆さん。
解説を担当したのは、長年日本人の食事を追い続けてきた東京大学大学院医学系研究科名誉教授の佐々木敏さんです。
2人のやりとりから、「カロリーだけでは健康は測れない」という、今の時代ならではのテーマがじわじわと伝わってきます。
健康志向だったはずが…渡辺さんが気づいた“見えない不足”
番組の最初に紹介されたのは、何年も「疲れやすさ」に悩まされてきた渡辺さんのケースでした。
年齢のせいだとあきらめていた渡辺さん。
ある日、「もしかして食事に原因があるのでは」と考え、スマホの栄養管理アプリで、自分の食事を記録してみることにします。
結果に表示されたのは衝撃的なグラフでした。
ほとんどの栄養素が基準値に届いていない。
太らないようにとご飯やおかずの量を減らし、野菜中心の“ヘルシー”なメニューにしていたつもりが、実はたんぱく質やビタミン、ミネラルまで丸ごと削ってしまっていたのです。
番組では、同じように「体重を増やしたくない」「健康的な食生活のつもり」という思いから、野菜ばかりを選んでしまい、たんぱく質不足に陥っている人が少なくないと紹介されました。
専門家のオリガ医師は、「痩せていれば健康」という思い込みが、栄養不足の大きな背景にあると指摘します。
実際、日本では若い女性を中心に、やせ型(体格指数が18.5未満)の割合が先進国の中でも高く、その多くで低栄養のリスクが問題になっていると報告されています。
「見た目の細さ」ではなく、「体の中身」を見直す必要がある。
渡辺さんの体験は、そのことを分かりやすく教えてくれるエピソードでした。
年を重ねた体に起こるサルコペニアと骨のトラブル
次に番組が向き合ったのは、年齢を重ねた人の低栄養です。
紹介されたのは、栄養不足が続いた結果、足の筋肉が大きく衰え、介助なしでは歩けなくなってしまった女性のケース。
診断はサルコペニア。加齢とともに筋肉量が減り、筋力や身体機能が落ちていく状態です。
調査によると、80歳の男性の約3割、女性の約5割がサルコペニアに該当するとされています。
筋肉は、ただ「動くための力」になるだけではありません。
歩いたり立ったりすることで骨に刺激が加わり、骨の強さを保つ役割も持っています。
そのため、筋肉が減る → 動かなくなる → 骨に負荷がかからない → 骨粗しょう症が進むという悪循環が起きやすくなります。
番組では、えん下障害(飲み込みにくさ)や便秘・便失禁、呼吸障害といった、一見別々に見えるトラブルが、実は筋肉量の低下と関係していることも紹介されました。
背景にあるのは、たんぱく質の不足と運動量の低下。
東京都健康長寿医療センターや熊本リハビリテーション病院などの現場でも、サルコペニアと低栄養の深い結びつきが大きな課題になっているといいます。
「年齢のせいだから仕方ない」と片づけてしまうのではなく、「栄養と筋肉」という視点で体を見直すことの大切さが、映像から伝わってきました。
「栄養不足は検査でわかる?」視聴者ギモンへの答え
番組の途中では、視聴者から寄せられた「ギモン」に、佐々木敏さんが答えるコーナーがありました。
まず出た質問は、「栄養不足の手軽な検査はありますか?」。
答えは意外にも「便利な一発検査は、ほとんどない」というものです。
理由はシンプルで、栄養素は数えきれないほどあるからです。
血液検査で分かるのは、ごく一部の栄養状態だけ。
「この数値だけ見ていれば安心」とはいきません。
佐々木さんが注意を呼びかけたのは、特定の栄養素を極端に抜くダイエットや、加工食品ばかりに頼る食生活です。
炭水化物抜き、脂質抜きなど、何かをゼロにする食事は、一時的に体重が減っても、長い目で見ると別の栄養不足を招くおそれがあります。
「検査だけに頼るのではなく、普段の食事の中身を見直すことが一番の“検査”になる」。
そんなメッセージがこめられた回答でした。
医学界が名付けた新しい症候群「エフユーエス(FUS)」とは
番組後半では、医学界からの強い警鐘として、エフユーエス(FUS)という新しい言葉が紹介されました。
これは、日本肥満学会が中心となって提唱した、女性の低体重/低栄養症候群のこと。
英語の「フィーメイル・アンダーウエイト・アンダーニュートリション・シンドローム」の頭文字をとった名称です。
テーマにしたのは、特に閉経前の女性。
やせすぎや低栄養によって、
・糖尿病
・貧血
・骨粗しょう症
・月経異常
など、さまざまな健康障害のリスクが高まることが問題視されています。
番組に登場したリハビリ整形外科医の佐藤洋一医師は、筋肉量が少ないと血糖値が上がりやすく、糖尿病につながる危険性があることを説明しました。
筋肉は「血糖の貯蔵庫」のような役割もあり、そこが小さいと、食後の血糖をうまく受け止められなくなってしまうのです。
やせすぎは“美容”の問題に見えますが、実は将来の病気とも直結する重大なサイン。
エフユーエス(FUS)という名前には、「社会全体でこの問題に目を向けてほしい」という医療側の思いが込められています。
たんぱく質・ビタミン・ミネラル…バランスのとり方と分食のコツ
もうひとつの視聴者からの質問は、「栄養をバランスよくとるには、どうすればいい?」というものです。
佐々木さんが強調したのは、「毎食完璧を目指さなくていい」という考え方でした。
1日、あるいは数日単位でトータルのバランスを見ること。
忙しいときは、分食や間食を上手に使うこと。
たとえば、朝はパンとコーヒーだけになりがちなら、昼か夜に魚や肉、卵、大豆製品などのたんぱく質を意識して増やす。
間食をするなら、甘いお菓子だけでなく、ヨーグルトやチーズ、ナッツなど、少しでも栄養が入ったものを選ぶ──。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、たんぱく質について、体重1キロあたり0.66グラムが維持に必要な量とされ、特に高齢者では総エネルギーのうち15%以上をたんぱく質からとることが推奨されています。
番組でも、高齢男性の約4割、高齢女性の約1割が、目標とされるたんぱく質量を下回っているというデータが紹介されました。
「少し多めにたんぱく質を」。
これは、フレイルやサルコペニアを防ぐうえで、これからの日本人にとって大事な合言葉になりそうです。
サプリメントは“足し算”ではなく“さじ加減”が大事
さらに、視聴者からはこんな質問も寄せられました。
「足りない分はサプリメントで補えばいいですか?」
佐々木さんの答えは、「使い方によっては役に立つが、“とりすぎ”に要注意」というものでした。
サプリメントは、もともと足りない栄養素を少し補うためのものです。
しかし、すでに食事から十分とれている栄養素に、さらに追加で重ねてしまうと、ビタミンやミネラルによっては過剰摂取になり、別の健康リスクを生むことがあります。
特定の成分だけに頼るのではなく、まずはふだんの食事の質を整えること。
どうしても不足しやすい場合に、「必要量と安全な上限」を意識しながら、医師や管理栄養士と相談して使うのが安全なやり方だと説明していました。
サプリメントは「魔法の薬」ではなく、「上手に使う道具」。
番組は、その距離感をきちんと伝えていました。
在宅医療の現場から見えた「食べる力」を守る工夫
番組後半では、栄養の問題に真っ正面から取り組む在宅医療の現場も紹介されました。
登場したのは、首都圏で在宅医療を行う医療法人社団悠翔会。
内科医、管理栄養士、歯科医、理学療法士など、多職種がチームを組み、患者さんの「食べる力」を支える取り組みを続けています。
ここで大切にしているのは、できるだけ流動食だけに頼らないこと。
飲み込みやすさを工夫しながら、噛む・味わう・飲み込むという一連の動きを保てるよう、食事の形や味付けを調整していきます。
番組では、「おにぎり」「カルボナーラ」「バウムクーヘン」など、一見すると“退院祝いのメニュー”のような料理が、実は栄養とリハビリを兼ねた「治療の一部」になっている様子も映し出されました。
この医療法人では、こうした取り組みの結果、患者の入院日数がおよそ7割も減ったといいます。
「栄養は、数字だけでなく“その人らしく食べる力”とセットで考えるもの」。
在宅医療の現場からのメッセージは、家庭で介護をしている人にも、強いヒントになりそうです。
数字だけじゃない「栄養の質」 行動栄養学という新しい視点
番組の締めくくりで佐々木さんが語ったのが、行動栄養学という考え方です。
これまでの栄養学は、「何グラムとるか」「どの栄養素が不足しているか」といった「中身」が中心でした。
行動栄養学は、そこに
・どこで食べるのか(食事の場所)
・誰と食べるのか(家族や仲間との関係)
・どんな気持ちで食べるのか(楽しさや安心感)
といった「行動」や「環境」を重ねて考える新しい分野です。
同じメニューでも、ひとりで黙々と食べるのか、誰かと会話をしながら食べるのかで、量も満足感も変わってきます。
その結果、長い目で見た栄養状態にも違いが出ることが分かってきました。
番組では、「栄養の知識」「食事の環境」「楽しむ気持ち」という3つがそろってはじめて、栄養の質が高まるとまとめていました。
「何を食べるか」だけでなく、「どう食べるか」。
画面越しに聞いていても、思わず自分の食卓を思い返したくなる言葉でした。
今日からできる隠れ栄養不足対策と、番組が伝えた一番大切なメッセージ
最後に番組が残したのは、「完璧を目指さなくていいから、できるところから一歩進めよう」という、やさしくも力強いメッセージでした。
・たんぱく質を今よりひと口ぶん増やしてみる
・野菜だけでなく、肉・魚・卵・大豆製品も毎日どこかの食事に入れる
・間食を、砂糖たっぷりのお菓子だけでなく、ヨーグルトやナッツに少し置き換えてみる
・ひとりの食事でも、テレビやラジオの声に耳を傾けながら「おいしい」と感じる時間をつくる
こうした小さな工夫の積み重ねが、隠れ栄養不足を防ぎ、将来の病気のリスクを下げることにつながります。
「ちゃんと食べているつもり」で終わらせない。
自分の体の声に少し耳を澄ませて、食卓にもうひと品、栄養のある“相棒”を足してみる。
クローズアップ現代『食べているつもりでも…“隠れ栄養不足”にご用心』(2026年2月24日放送)は、そんな一歩を後押ししてくれる回だったと感じました。
日本の食事ガイドから見える不足しやすい栄養の背景

ここでは、筆者からの追加情報として、日本の食事ガイド(食事バランスガイド)の視点から見た「不足しやすい栄養素の背景」を紹介します。
食事バランスガイドが示す5つの料理区分
食事バランスガイドでは、料理を主食・副菜・主菜・乳製品・果物の5つに分けて考えます。毎日の食事でこれらがそろわないと、栄養に偏りが出やすくなります。特に日本では主食に偏りやすく、副菜や乳製品が不足しがちです。そのため、ビタミン、カルシウム、食物繊維などが足りにくくなります。頭で難しく考えなくても、この5つをそろえる意識だけで栄養の土台が安定します。
主菜が不足すると起こりやすい問題
主菜には肉・魚・卵・大豆製品が入り、ここに多くのタンパク質が含まれています。主菜が少ない食事が続くと、体の材料が足りなくなり、筋肉量の低下や疲れやすさが起きやすくなります。高齢者だけでなく、忙しい若い世代でも起こる身近な問題です。食事バランスガイドでは、この主菜を毎食しっかりそろえることで隠れ栄養不足の予防に役立つとされています。
野菜・乳製品・果物が不足しがちな理由
副菜、乳製品、果物は、調理に手間がかかったり価格が変動したりして、毎日の食卓に取り入れにくいことがあります。このため、ビタミン、ミネラル、カルシウムなどの不足が目立ちます。食事バランスガイドでは、これらを少しずつでも加えることで、体が必要とする微量栄養素を安定して補えるとしています。小さな積み重ねが、不足しがちな栄養を守る力になります。
気になるNHKをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。


コメント