「ラッコの暮らすケルプの森で」
アメリカ・カリフォルニア沿岸の海の中には、高さ数十メートルにも伸びる巨大な海藻、ジャイアントケルプがつくる「海の森」が広がっています。番組では、その森を“おうち”にしているラッコたちの暮らしと、森を守ろうとする人間たちの姿を追いかけます。
一見すると、ゆらゆら揺れるケルプと、プカプカ浮かぶラッコの、のんびりした楽園のように見えます。
しかし今、この森は「絶滅寸前」といわれるほど追い詰められています。海水温の上昇とウニの大増殖が重なり、森そのものが消えかけているのです。
このドキュメンタリーは、かわいいだけではないラッコの“仕事”と、海の環境を守るために走りまわる人たちの奮闘を、じっくり伝えてくれます。
ラッコの暮らす「ケルプの森」とはどんな場所?
舞台は、カリフォルニア沿岸の海。カリフォルニア州
ここには、海底からまっすぐ伸びたジャイアントケルプが、まるで水中の大木のように林をつくっています。魚やカニ、貝、ヒトデなど、たくさんの生きものがこの森に身を隠し、エサを探し、子どもを育てています。ケルプの森は、「海のジャングル」と言ってもいいくらい、にぎやかな場所です。
ケルプは光を受けてぐんぐん成長し、二酸化炭素を取り込みながら、海の中で酸素も作っています。
森が元気なときは、波から海岸を守る役目も果たし、海辺の町の暮らしにもそっと力を貸しています。
番組では、このケルプの森を上から、横から、水中から…さまざまな角度で映し出し、「海の森ってこんなに豊かなんだ」と視聴者に体感させてくれます。
カリフォルニア沿岸でケルプが絶滅寸前といわれる理由
ところが近年、カリフォルニアのケルプの森は急激に減っています。
背景には、地球温暖化による海水温の上昇があります。海水が暖かくなると、ケルプが必要とする栄養塩が減り、弱ったケルプは病気や嵐にも耐えにくくなります。
さらに追い打ちをかけたのが、ウニの大増殖です。
ウニはケルプの根元にある「根元(ホールドファスト)」をかじり取り、森を支える“土台”を食べてしまいます。ウニが異常に増えると、海底一面がウニだらけになり、ケルプどころか他の海藻もほとんど生えない「磯焼け」と呼ばれる状態になります。
番組では、かつてはケルプで埋めつくされていた場所が、今は茶色い岩とウニだけの荒野になってしまった海底の姿も映し出されます。そのコントラストは強烈で、「森が消える」という言葉の重さが、画面からじわりと伝わってきます。
ウニの大増殖が海の森を食い荒らす「磯焼け」現象
ウニが増えすぎる原因は、ただの“ウニの頑張りすぎ”ではありません。
本来なら、ウニにはたくさんの天敵がいます。ラッコはもちろん、魚やカニなど、ウニを食べる生きものは多いのです。ところが、温暖化や乱獲などが重なり、海の食物網のバランスが崩れると、ウニだけが増えてしまいます。
「磯焼け」は、日本沿岸でも問題になっている現象で、世界各地で報告されています。海の森が消えると、魚の数も減り、漁業にも影響が出ます。
番組は、カリフォルニアの海で起きているこの現象を通して、「海の変化は、そこで暮らす人の生活にも直結している」ということを静かに伝えます。
ラッコはどうやってケルプの森を守っているのか
ここで登場するのが、番組の主役であるラッコたちです。
ラッコは一日に自分の体重の約4分の1もの量を食べる、とてもよく食べる動物です。その大好物のひとつが、問題のウニ。ラッコがウニをたくさん食べることで、ウニの数が抑えられ、ケルプの森が守られます。
生きものの世界では、こうした重要な役割を持つ種を「キーストーン種」と呼びます。
橋の一番上にある“かなめ石”が抜けると橋全体が崩れてしまうように、ラッコがいなくなると、ウニが増え、ケルプが食べ尽くされ、森が消えてしまう可能性が高まります。
番組は、ラッコが海の中を泳ぎながらウニを探し、器用に貝を割って食べる様子を、細かいカメラワークで追っていきます。
「かわいい」だけでなく、「この小さな体が、実は海の森を支えているんだ」と実感できる構成になっています。
ラッコの暮らしとかわいらしい習性に注目
もちろん、ラッコならではの愛らしい姿もたっぷり映し出されます。
ケルプに体をくるりと巻きつけて、波に流されないようにしながら寝るラッコ。胸の上に子どもを乗せて、ゆらゆらと揺れながら毛づくろいをする親子。
ラッコは毛皮がとても密で、断熱材のかわりになっています。そのため、寒い海の中でも元気に暮らせますが、毛づくろいをさぼると毛の間に水が入り込み、体温が奪われてしまいます。だから、ラッコは一日のうちかなりの時間を、ていねいな毛づくろいに使っているのです。
番組は、こうした小さな仕草も逃さず映しながら、「海の森で生きるって、こういうことなんだ」と視聴者に教えてくれます。
人間たちの挑戦:ケルプの森を守るための最前線
ラッコだけに、すべてを任せることはできません。
番組には、ケルプの森を守ろうとする人間たちも登場します。
ウニが増えすぎた場所では、ダイバーたちが海に潜り、弱ったウニや栄養のないウニを取り除く作業を続けています。中には、何年もかけて何百万個ものウニを取り除き、失われた森を少しずつ取り戻したプロジェクトもあります。
また、研究者たちは、どの場所にラッコが戻ってくれば森がいちばん回復しやすいのか、海水温の変化がケルプにどんな影響を与えるのかなど、データを集め続けています。
番組は、ラッコと人間、それぞれの立場から「海を守る」ために何ができるのかを描き出します。
海の生きものたちが教えてくれる「つながり」のしくみ
ケルプの森の物語は、ラッコとウニと海藻だけの話ではありません。
ケルプが茂ることで、小魚の隠れ家が生まれ、その小魚を追って大型の魚やアザラシ、さらにはクジラなどもやってきます。森があるかどうかで、そこに暮らせる生きものの数や種類が大きく変わります。
海の中では、「ひとつの種が減る=その種だけの問題」ではなく、いくつもの生きものが domino のようにつながっています。
番組は、ラッコのアップから、広い海の俯瞰映像へと視点を切り替えながら、「つながりで成り立つ世界」というテーマを、自然と伝えていきます。
地球温暖化と海の未来を考えるきっかけに
カリフォルニアのケルプ危機は、地球温暖化が海にもたらす影響の一例です。
これから海水温がさらに高くなると、ケルプの森はもっと大きな試練に直面します。海の熱波(マリンヒートウェーブ)と呼ばれる異常な高水温が続くと、ケルプが一気に枯れてしまうこともあります。
一方で、保護区の設定や、捕られすぎた捕食者の回復、ラッコの保護など、人ができる対策も少しずつ成果を上げています。
番組は、大きな不安だけで終わるのではなく、「私たちが手を動かせば、海はまだ回復できる」という小さな希望も映し出します。
まとめ:ラッコと人がつくる、海の明日への希望
「ラッコの暮らすケルプの森で」は、ただ「ラッコがかわいい番組」ではありません。
ジャイアントケルプの森が危機にある現実を示しつつ、ラッコという小さな存在が、どれほど大きな役割を持っているかを教えてくれます。
同時に、人間もまた、その森を壊してきた存在であり、しかし、守るために動き始めた存在でもあることが描かれます。
海の中でケルプにくるまって眠るラッコ。
そのすぐ下には、たくさんの生きものが行き交い、森を支える根が岩をつかんでいます。
画面の向こうの小さな命を見つめながら、視聴者は「自分の暮らしと地球の海は、ちゃんとつながっているんだ」と、そっと考えさせられるはずです。
ラッコたちが今日もウニをほおばり、ケルプの森が少しずつ息を吹き返していく。
この番組は、その過程をていねいに見せてくれる、こころあたたまる自然ドキュメンタリーになっています。
【サラメシ】鳥羽水族館40年ラッコを見守る飼育員と福岡の夜間収集の舞台裏|1月23日放送
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