宇宙に行った水性ペンの秘密を探る工場探検
2025年5月31日放送のNHK総合『探検ファクトリー』(12:15~12:40)では、茨城県小美玉市にある水性ペンの工場を特集。日本初の中綿式水性ペンを開発し、アメリカ大統領やNASAでも愛用されたという驚きの歴史と製造の秘密を、すっちーさん、中川家の礼二さん・剛さんが楽しく探検しました。
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水性ペン誕生の歴史と進化の歩み
今回紹介された水性ペン工場は、1946年に茨城県小美玉市で創業しました。はじめは筆や墨を扱う卸問屋としてスタートし、孫呉画材など伝統的な道具を取り扱っていたのが特徴です。戦後まもなくという時代背景のなか、地元の学校や画材店などに商品を届けるところから事業を始めました。
その後、時代の流れとともに書きやすさや利便性を求める声が高まり、1960年頃には油性ペンの開発に着手。当時、国内で一般的だった油性ペンは、インクの出方が粗く、ペン先も太いものでした。しかしこの工場では、太字から細字へと改良することで、より繊細な筆記が可能なペンを開発し、多くのユーザーに評価されるようになりました。
この改良には、次のような工夫がありました。
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ペン先の素材を細かく選び直し、摩擦に強く、なめらかに書けるように設計
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インクの流量を細かく調整し、にじみにくくなるよう工夫
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子どもから大人まで使いやすいデザインを目指して試作を繰り返した
そして1963年、世界初の「中綿式水性ペン」の開発に成功します。これは、ペンの内部にある吸水性の高い綿にインクを染み込ませ、それをペン先に送り出す仕組みです。毛細管現象を利用したこの構造は、それまでにない発明でした。
この中綿式ペンが注目された理由は次の通りです。
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インクが一定量ずつ安定して出るため、書き心地がなめらか
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ペンが軽く、持ち運びしやすい
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液漏れがしにくく、安全に使える構造
また、カラーバリエーションにも力を入れており、日本国内では8色展開ですが、海外ではさらに4色を追加した12色展開で販売されています。国によって人気の色に違いがあり、国際市場に合わせた色の選定も細かく行われています。
このように、水性ペンはもともと日本の伝統画材から始まった会社が、時代のニーズを読み取りながら、常に改良と挑戦を続けた結果生まれた製品です。現在では、学校、オフィス、家庭などさまざまな場所で当たり前のように使われている水性ペンにも、こうした歴史と技術の積み重ねがあることがよく分かります。
ジョンソン大統領の愛用が転機に
発売当初の「ぺんてるサインペン」は、国内ではそれほど注目を集めていませんでした。日本ではまだ水性ペンの便利さが浸透しておらず、販売も限られた範囲にとどまっていたのです。しかし、1963年にアメリカで開かれた文房具見本市でぺんてるの担当者がこのサインペンを紹介したことが、運命を大きく変えるきっかけとなりました。
この見本市で配られたサンプルが、アメリカ大統領リンドン・ジョンソンの秘書官の手に渡り、その後本人の目にとまりました。ジョンソン大統領はその滑らかな書き味とデザインを気に入り、すぐに自分用にサインペンを取り寄せたといわれています。
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ジョンソン大統領は、サインペンを使って署名やメモを取りはじめた
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実際にホワイトハウスからぺんてるに「24ダース(288本)」の大量注文が届いた
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アメリカの有力週刊誌『Newsweek』に「日本製のペンを愛用する大統領」として掲載された
このニュースが全米に広がり、文房具業界だけでなく一般の人々にも「サインペン」の名が知られるようになりました。アメリカ国内ではすぐに需要が高まり、注文が殺到。さらに逆輸入の形で日本でも注目されるようになり、国内でも販路が急拡大していきました。
当時のアメリカは宇宙開発競争の真っただ中で、先端技術への信頼が高く、「大統領が使うなら信頼できる」というイメージが消費者に広がったことも大きな要因です。サインペンは単なる筆記具ではなく、アメリカで評価された“日本の技術”の象徴として、多くの人々に受け入れられていきました。
このようにして、「ぺんてるサインペン」は国境を越え、世界中に知られる製品へと成長しました。現在では100以上の国と地域で使用されるまでになり、まさにジョンソン大統領の愛用が転機となった歴史的な瞬間だったと言えます。
宇宙でも活躍する信頼性
「ぺんてるサインペン」は、発売後その高い性能が評価され、1965年にはNASAの宇宙計画「ジェミニ6号・7号」に正式に採用されました。宇宙という過酷な環境下での使用に耐えられる筆記具は限られており、その中で選ばれたという事実が、サインペンの品質と信頼性の高さを物語っています。
無重力空間では、インクがスムーズに出ること、インクが漏れず安全であること、そして書き出しが早く途切れないことが求められます。サインペンはこれらの要件をすべて満たし、「宇宙で使える日本製のペン」として世界中で話題となりました。実際、宇宙船内での記録やメモに使用された実績があり、筆記具としての信頼が確立された瞬間でもあります。
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無重力でも使える構造(中綿式)により、インクが逆流せず安定して出る
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にじまず、発色が鮮明で読みやすい
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インクの乾きが早く、宇宙船内のような閉鎖空間でも安心して使える
こうした特性から、ぺんてるサインペンは宇宙飛行士だけでなく、地上でも多くの人に選ばれる筆記具となりました。その後も製品は改良され続け、現在では以下のような進化を遂げています。
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顔料インクタイプの開発により、耐水性・耐光性が向上
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長期保存に対応するインク処方で、時間が経っても書き味が変わりにくい
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カラーのバリエーションも拡大し、使う楽しさも増加
学校の授業や家庭でのメモ、オフィスでの会議記録など、日常のあらゆる場面で使える信頼の道具として、多くの人に愛され続けています。特に文字がにじまない特性は、資料やノートをきれいに仕上げたいときにとても便利です。
こうしてサインペンは、1960年代の宇宙開発時代から現在に至るまで、時代を超えて進化し続ける筆記具としての地位を築いています。世界中のユーザーにとって、信頼と安心の象徴となっているのです。
工場での製造工程を徹底探検
番組では、茨城県小美玉市にある水性ペン工場の内部をすっちーさんたちが探検しました。現場にはなんと140万本分の水性ペンボディーがストックされており、これらが整然と管理されている様子は圧巻でした。工場の中では一つひとつの工程が非常に緻密に設計されており、製品の品質を守る努力が随所に見られました。
ペンのボディーは、持ちやすさを考えた六角形に成型されています。この形は筆記時に転がりにくく、手にしっくりと馴染む構造で、多くのユーザーにとって使いやすい工夫のひとつです。
● 最初の工程では
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1階の回転装置にペンボディーをセット
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自動で向きを一定に揃えることで、後の作業がスムーズに行えるようになっています
● 続いて中綿の挿入
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この工程では、白くて細い棒状の「中綿」を差し込みます
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中綿は特別な繊維でできており、インクをしっかり吸収するスポンジのような役割を果たします
この時点ではまだインクは入っておらず、次のステップで中綿に色がつきます。
● ドリルでペンに小さな穴を開ける工程
この穴には重要な役割があります。番組内でクイズ形式で出題されましたが、「インクの漏れを防ぐため」にこの穴が必要というのが正解です。空気の圧力を調整することで、インクが外にあふれ出るのを防ぐ仕組みとなっています。
● インクの注入
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ボディーの中に挿入された中綿に、インクを注ぎ込む工程が行われます
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このインクはそれぞれの色に応じて配合されており、日本国内では8色、海外仕様では12色に対応しています
● ペン先の装着
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インクが中綿に染み込んだ後、中綿よりもさらに細い繊維で作られたペン先が取り付けられます
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毛細管現象によって、インクが自然にペン先へと流れていく設計になっており、常に安定した書き味を実現しています
● 最終工程:試し書きとキャップの装着
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一つひとつのペンを実際に紙に書いてみる「試し書き」でチェック
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問題がなければキャップをして完成品となり、出荷へと進みます
こうして完成した水性ペンは、現在世界100以上の国と地域に輸出されており、グローバルな筆記具として高い信頼を得ています。単純に見えるペンの中に、これほどまでの技術と工夫が詰まっていることに、驚かされた回でした。
番組を通して伝わったもの
今回の『探検ファクトリー』では、一見身近で何気ない「水性ペン」に隠された開発者たちの努力と、世界に誇る日本の技術力が丁寧に描かれていました。小さな部品の組み合わせが、国境を越え、宇宙にまで届く――そんな壮大なスケールの物語が、工場の現場から伝わってきました。
文房具好きな方はもちろん、ものづくりに関心がある方にとっても、とても見応えのある内容だったのではないでしょうか。これから手に取るペンにも、少し違った目線で感謝の気持ちが湧いてくるかもしれません。
放送後も見逃し配信などでチェックできる可能性がありますので、興味がある方はぜひ確認してみてください。
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