「“太陽”を生み出せるか 史上最大の核融合プロジェクトに密着」
NHKスペシャルは、世界や日本で起きている大きな変化をじっくり掘り下げるドキュメンタリーシリーズです。
今回のテーマは、なんと「太陽を地上に生み出そう」という、とてもスケールの大きな挑戦です。
番組では、南フランスの山あいに建設中の国際熱核融合実験炉、通称 ITER(イーター) にカメラが入り、普段はなかなか見られない巨大施設の内部や、最前線で働く研究者・技術者たちの姿を追います。
ここで描かれるのは、単なる科学の実験ではありません。
世界中で進むエネルギー資源の枯渇、そして地球温暖化などの環境問題。
その両方を一気に解決できるかもしれないと言われるのが、核融合エネルギーです。
番組は、この夢のようなエネルギーを現実にしようとする、世界最大級のプロジェクトの「今」と「苦闘」を、密着取材という形で見せていきます。
南フランス・アルプス近くの巨大施設「ITER」とはどんな場所?
アルプス山脈のほど近くに建つ巨大プロジェクト
フランス南部、アルプス山脈にもほど近いサン=ポール=レ=デュランスという町の近くに、厳重なセキュリティで守られた巨大施設があります。
その名が ITER です。ラテン語で「道」という意味をもつこの名前には、「未来のエネルギーへの道を切りひらく」という願いがこめられています。
敷地には、巨大な実験炉を収める建屋や、超伝導コイルをはじめとしたさまざまな機器を組み立てるための工場棟など、数多くの建物が立ち並びます。
まるで一つの「研究都市」がぽんと山あいに現れたようなスケールです。
7つの地域が参加する国際協力プロジェクト
ITERは、日本・欧州連合・アメリカ・ロシア・中国・韓国・インドという7つの地域が参加する国際プロジェクトです。
それぞれが、資金だけでなく、最先端の技術や人材も出し合っています。
世界中の知恵と技術を集めないと実現できない、それほど難しい計画だということです。
番組では、この国際チームがどのように役割分担をし、どんな思いでプロジェクトを進めているのかにも光が当てられます。
太陽の力を地上で再現するしくみ 核融合とは何か
太陽の中で起きていることを、地球でまねする挑戦
核融合とは、軽い原子と原子がぶつかって一つにつながり、大きなエネルギーを出す反応のことです。太陽は、この核融合で毎秒ものすごいエネルギーを生み出しています。
これに対して、現在の原子力発電が使っているのは「核分裂」。重い原子核が割れてエネルギーを出すしくみです。核融合は、燃料として重水素や三重水素(トリチウム)という“水素の仲間”を使うのが特徴です。
重水素は海水からとることができるので、もし核融合発電が実現すれば、ほぼ枯渇しないエネルギー源になると言われています。
数億度のプラズマをどう扱うのか
核融合を起こすには、燃料を数億度という超高温にし、電気を帯びた気体の状態「プラズマ」にする必要があります。
この温度になると、どんな金属の容器も一瞬で溶けてしまうので、普通の「入れ物」に閉じ込めることはできません。
そこで使われるのが、強力な磁石の力でプラズマを宙に浮かせてしまう「磁場閉じ込め」という方法です。
番組のテーマになっているITERは、この磁場閉じ込め方式の中でも、世界中で研究が進んでいる「トカマク方式」を採用しています。
ITERで使われる「トカマク方式」と超高温プラズマの閉じ込め
ドーナツ型の容器のまわりを、巨大な磁石が取り囲む
トカマク方式では、ドーナツ状の真空容器の中にプラズマを流し、そのまわりを巨大な磁石(コイル)がぐるりと取り囲みます。
この磁石がつくる強力な磁場によって、プラズマは容器の壁に触れずに、輪になって走り続けます。
ITERでは、高さ16メートル以上、幅9メートルほどもある巨大な「トロイダル磁場コイル」が18個並び、真空容器を取り囲む計画です。
日本が担当するトロイダル磁場コイル
このトロイダル磁場コイルの一部は、日本が製作を担当しています。
コイル1つで重さは約300トン。超伝導体を精密に巻き上げ、極低温で安定して動くように、非常に高い技術が必要です。
番組では、こうした巨大な機器がどのように設計され、運ばれ、組み立てられていくのか、その舞台裏にも迫ると考えられます。
一つひとつのパーツが、将来の核融合炉の“心臓部”になっていく様子を見ることで、スケール感がぐっと伝わってきます。
巨大実験炉を支える日本の技術 トロイダル磁場コイルなどの役割
日本の研究機関とメーカーのタッグ
日本では、量子科学技術研究開発機構(QST)を中心に、多くの企業がITERの主要機器づくりに参加しています。
先ほどのトロイダル磁場コイルに加え、遠隔保守システムやダイバータ(炉の底でプラズマから出る不要な粒子を受け止める部分)なども、日本の技術が重要な役割を担っています。
こうした装置は、将来の実用炉でもほぼそのまま必要になる“実戦級”の機器です。
番組で紹介される日本の技術者たちは、単に一つの実験装置を作っているのではなく、未来のエネルギーインフラの部品を作っていると言ってもよい存在です。
これまで積み重ねてきた日本の核融合研究
日本には、茨城県那珂市のJT-60シリーズなど、長年にわたって世界トップレベルのトカマク装置を運転してきた実績があります。
その経験から得られたデータや技術が、ITERでも存分に生かされています。
番組では、日本人がプロジェクトの「中枢」を担っているという説明もなされており、現場での判断や調整を任される立場の日本人研究者・エンジニアの姿も映し出されるはずです。
計画の中枢を担う日本人エンジニアたちの挑戦
世界中の期待とプレッシャーの中で
ITERは、世界中が注目しているプロジェクトです。
スケジュールが遅れれば、ニュースで大きく取り上げられますし、予算の増加が問題視されることもあります。
その中で、日本人の技術者たちは「安全に、確実に、予定どおりに」実験炉を完成させるため、日々細かな調整と判断を積み重ねています。
それは、派手なシーンではないかもしれませんが、未来のエネルギーを支えるリアルな仕事です。
番組は、そうした現場の息づかいを、じっくりと伝えてくれるはずです。
“夢のエネルギー”を現実にするという覚悟
専門家の世界では、核融合は長いあいだ「50年後のエネルギー」と呼ばれてきました。
いつも「あと数十年」と言われ続けてきた、難しいテーマだからです。
それでも諦めずに実験を続けてきた人たちがいて、ようやくここまで来ました。
番組では、日本人を含む研究者たちが、なぜこの道を選び、どんな思いでプロジェクトに関わっているのかにも焦点が当てられます。
資源枯渇と環境危機のなかで 核融合エネルギーがもたらす可能性
二酸化炭素をほとんど出さないエネルギー源
核融合エネルギーが期待される大きな理由の一つが、運転時に二酸化炭素をほとんど出さないことです。
燃料として使う重水素は海水から、三重水素はリチウムから取り出すことができます。
もし実用化できれば、「燃料が尽きにくい」「地球温暖化ガスをほとんど出さない」という、これまでにない発電方法になると考えられています。
再生可能エネルギーを補う“ベース電源”として
太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、とても大事ですが、天気や時間帯によって発電量が変わるという弱点があります。
一方で核融合は、安定して大量に電気を生み出せる「ベース電源」になりうると期待されています。
番組は、エネルギー問題と環境問題という、人類共通の課題の中で、核融合がどんな位置づけになりうるのかを、わかりやすく伝えようとしています。
それでも残る大きなハードル 技術・コスト・時間の問題
安定して燃やし続けるむずかしさ
ITERの目的は、「実際の燃料(重水素と三重水素)を使って、発電に使えるレベルの大きな核融合反応を長時間続けることができるか」を確かめることです。
そのためには、超高温プラズマを安定して閉じ込める技術だけでなく、容器の壁を守る材料、熱を取り出す仕組みなど、多くの課題をクリアしなければなりません。
スケジュールとコスト、そして社会の理解
ITERは、ファーストプラズマ(最初のプラズマ点火)を目標に建設が進んでいますが、スケジュールの見直しやコスト増加が繰り返されているのも事実です。
これだけ巨大な装置を作るには、時間もお金もかかります。
番組では、こうした現実的なハードルにも触れながら、それでも前に進もうとする現場の姿勢を伝えていきます。
番組を通して見えてくる「未来のエネルギー」の姿
最後に、この番組を通して浮かび上がるのは、「簡単ではないけれど、それでも挑戦する価値があるエネルギー」という核融合の姿です。
今すぐすべての問題が解決するわけではありません。
実用化までには、まだ多くの時間と努力が必要です。
それでも、海水由来の燃料で、二酸化炭素をほとんど出さずに太陽のように光り続けるエネルギー源を手に入れられるかもしれない。
その可能性を追いかける人たちの姿を見ながら、「自分たちの未来の電気は、どんなふうに生まれているのがいいのか」を考えるきっかけになる番組だと思います。
静かな実験室も、巨大な工事現場も、世界中から集まった研究者たちの表情も、そのすべてが「未来のエネルギーの“現在地”」を教えてくれます。
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世界の核融合トレンド比較

ここでは、番組では触れきれなかった「世界の核融合研究の動き」を紹介します。番組の背景を知ることで、核融合というテーマの広がりがより立体的に見えてきます。
日本の取り組み
日本では、量子科学技術研究開発機構を中心に、長い年月をかけて核融合の研究が進められています。国内には大型の実験装置があり、これまで世界トップレベルのデータを積み上げてきました。特にトカマク装置の運転経験が豊富で、そこで得られた知識と技術はITERでも重要な役割を果たしています。実際に日本企業は、巨大なトロイダル磁場コイルの製作などを担当し、国際プロジェクトの中枢として信頼されています。日本独自でも2030年代の発電実証を目指す動きがはじまり、基礎研究から産業化まで幅広く進められています。
欧州の取り組み
欧州連合は、ITERのホスト地域として最大規模の支援を行っています。フランス・カダラッシュに建設されている施設は、欧州内の研究機関や企業のネットワークとつながり、大きな研究都市のような形で広がっています。欧州はこれまでにも多くの核融合計画を牽引してきた歴史があり、ITERの建設費の大部分を支えるだけでなく、技術者育成やサプライチェーンの形成にも取り組んでいます。こうした動きが、ITERが世界最大の国際協力プロジェクトと呼ばれる理由につながっています。
アメリカと中国の動き
アメリカは、政府研究所と民間企業が活発に核融合研究を進めているのが特徴です。磁場閉じ込め装置の改良や新しい方式の実験など、ITERと並行してさまざまなアプローチが走っています。将来の商用炉につながる技術を競うように、実験が全国で続けられています。
中国は、国の研究機関と大学が中心となって、大型装置を使った独自の研究を同時に進めています。CFETRという大型実験炉の計画があり、ITERと同じトカマク方式を使いながら、将来の商用炉の設計も並行して研究しています。日本や欧州と同じように、安定したエネルギーの確保につながる技術として核融合を重視しています。
以上が、世界の研究の進み方を踏まえた補足です。放送では描き切れない背景を紹介しました。
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