宇宙から電気を届ける未来の仕組み
宇宙で太陽光を集め、電線を使わずに地上へ電気を送る。そんな未来の発電方法として研究されているのが、宇宙太陽光発電システム(SSPS)です。
『ブレイクスルー 世界初!宇宙で太陽光発電~地球に電力供給(2026年7月18日放送)』では、日本で進む宇宙太陽光発電の研究が取り上げられます。
夢のような話に聞こえますが、発電した電気をマイクロ波へ変換し、地上で再び電力に戻す技術は、すでに地上実験が行われています。ただし、家庭へ電気を供給できる段階ではありません。
この記事では、OHISAMAプロジェクトの役割や安全性、実用化までに残る課題をわかりやすく整理します。
この記事でわかること
・宇宙太陽光発電SSPSの仕組み
・OHISAMAが確かめる実験内容
・マイクロ波とレクテナの役割
・安全性と実用化までの課題
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宇宙太陽光発電SSPSはマイクロ波で地上へ電気を送る

(出典:なぜ?再燃する宇宙太陽光発電(Ⅰ) | 脱炭素技術センター)
宇宙太陽光発電システムは、宇宙に設置した太陽電池で発電し、その電力をマイクロ波やレーザー光に変えて地球へ送る仕組みです。
今回注目されている方式では、主にマイクロ波を使った無線送電が研究されています。
電気が地上へ届くまでの流れは、次のようになります。
- 宇宙の太陽電池で太陽光を受ける
- 太陽光を直流電力へ変換する
- 直流電力をマイクロ波へ変換する
- アンテナから地上の受電地点へ送る
- レクテナでマイクロ波を受信する
- マイクロ波を再び直流電力へ変える
- 必要に応じて交流へ変換し、利用できる状態にする
つまり、宇宙で作られた電気が、そのまま家庭のコンセントへ届くわけではありません。
太陽光から電気、電気からマイクロ波、マイクロ波から再び電気という複数の変換工程を通ります。
初めて知ると少し驚きますが、考え方としては、通信の電波に情報を乗せる代わりに、マイクロ波でエネルギーを運ぶイメージです。
ただし、遠く離れた宇宙から大きな電力を正確に届けるには、送る方向、エネルギーの強さ、変換効率などを細かく制御しなければなりません。
OHISAMAプロジェクトでは何を実験するのか
OHISAMAプロジェクトは、将来のSSPS実現に必要な無線送電技術を宇宙で確かめるための実証計画です。
公開されている実験構想では、約180kgの小型衛星を高度約450kmの軌道で運用し、5.8GHz帯のマイクロ波を使った送電実験が計画されています。
衛星には、マイクロ波を目的の方向へ送るためのフェーズドアレイアンテナや、周辺環境を測定する装置などを搭載する構想です。
地上には複数の受信機を配置し、マイクロ波のビームがどのような形で届いたのかを測定します。
確かめる内容としては、主に次のようなものがあります。
・宇宙から地上へマイクロ波を送れるか
・狙った場所へビームを向けられるか
・届いたエネルギーを正確に測定できるか
・電離層など周辺環境にどのような影響が出るか
・宇宙機同士で無線送電できるか
大切なのは、OHISAMAが巨大な発電所として家庭へ電力を供給する衛星ではないことです。
将来の商用設備を作る前に、小さな規模で送電と制御の技術を確かめる実証衛星と考えると理解しやすくなります。
たしかに「宇宙太陽光発電の実験」と聞くと、衛星から街全体へ電気を送る場面を想像してしまいます。
しかし、現在の中心は、発電量を増やすことよりも、長距離の無線送電を安全かつ正確に制御できるかを確かめる段階です。
なお、打ち上げ時期や衛星の完成状況は計画変更の可能性があります。過去の予定だけで判断せず、最新の公式発表を確認する必要があります。
フェーズドアレイはどうやって送電方向を変えるのか
宇宙から地上へ電力を送る際、重要になるのがフェーズドアレイアンテナです。
一般的なアンテナは、装置そのものの向きを変えて電波の方向を調整することがあります。
一方、フェーズドアレイアンテナは、多数の小さなアンテナから出す電波のタイミングを少しずつずらし、電波が強め合う方向を変えます。
大きなアンテナ全体を機械的に動かさなくても、電子的な制御によってビームの向きを調整できるのが特徴です。
宇宙を飛ぶ衛星は高速で移動しています。
高度約450kmの低い軌道を飛ぶ衛星の場合、地上から見ると短い時間で空を横切るため、送電方向を連続して調整しなければなりません。
そこで利用が検討されているのが、地上から送るパイロット信号です。
地上の受電地点から目印となる信号を衛星へ送り、衛星側がその信号を基準にしてマイクロ波の送信方向を調整します。
ただ衛星の姿勢を地球へ向けるだけでは、狭い受電範囲へ正確にエネルギーを届けられません。
個人的には、この方向制御がSSPSの仕組みを理解するうえで、いちばん大事な部分だと感じます。
「宇宙で発電できるか」だけでなく、動き続ける衛星から狙った場所へ正確に送れるかが、実用化を左右するからです。
レクテナはマイクロ波を電気に戻す装置
地上でマイクロ波を受け取る装置が、レクテナです。
レクテナという名称は、電波を受信するアンテナと、交流を直流へ変える整流回路を組み合わせた言葉です。
一般的な受信アンテナは、届いた電波から音声や映像などの情報を取り出します。
これに対してレクテナは、届いたマイクロ波のエネルギーを電気として取り出します。
レクテナの内部では、受信したマイクロ波が高周波の交流として現れます。
それを整流器で直流へ変換し、電力として利用できる状態にします。
OHISAMAに関連する研究では、衛星に搭載できる薄型アンテナや、GaAsと呼ばれる半導体を使った整流器ICなどが開発されています。
GaAsはガリウムヒ素のことで、高い周波数を扱う電子部品などに利用される材料です。
SSPS全体の効率を高めるには、レクテナが受け取ったマイクロ波を、できるだけ損失を少なく電気へ戻す必要があります。
送電に成功しても、地上で多くのエネルギーを失ってしまえば、発電システムとしては効率が悪くなります。
実際に将来の電源として考えるなら、宇宙でどれだけ発電できたかだけでなく、最終的に地上でどれだけ使える電力が残るかを確認したいところです。
マイクロ波は人や航空機に危険ではないのか
宇宙から地上へマイクロ波を送ると聞くと、「人に当たっても大丈夫なのか」と不安になるのは自然です。
マイクロ波は、強度が高くなれば人体や電子機器などへ影響を与える可能性があります。
そのため、SSPSでは安全性を前提としたエネルギー密度の設定や、受電設備への立ち入り管理などが必要になります。
マイクロ波送電の安全対策として考えられているのは、次のような方法です。
・ビームを受電設備の範囲内へ制御する
・送電方向がずれた場合に出力を停止する
・受電設備への人の立ち入りを制限する
・周辺の電波や電子機器への影響を測定する
・航空機や鳥などへの影響を評価する
・電離層や大気への影響を継続して調べる
「マイクロ波だから安全」と単純に言い切ることはできません。
一方で、SSPSは人や鳥を加熱するような強度で送電することを前提にした仕組みでもありません。
安全に利用できる強度へ抑えたうえで、広い受電面積にエネルギーを届ける方法が研究されています。
また、実際の商用設備では、ビームが受電所から外れたときに自動で送電を止める仕組みや、航空機の進入を検知する設備なども重要になると考えられます。
たしかにこれは気になりますが、現在の実証実験には、送電量の確認だけでなく、ビームの広がり方や周辺環境への影響を測る目的も含まれています。
安全性は完成後に考えるものではなく、実証段階から確かめていく重要な研究項目です。
雨や雲の日でも宇宙から送電できるのか
宇宙太陽光発電が期待される理由のひとつは、地上の太陽光発電よりも昼夜や天候の影響を受けにくいことです。
宇宙空間では、地上のように雲が太陽光を遮ることがありません。
軌道や衛星の配置によって日陰になる時間はありますが、地上よりも長い時間、強い太陽光を利用できる可能性があります。
さらに、マイクロ波は適切な周波数を選ぶことで、雲や雨の影響を受けにくいという特徴があります。
OHISAMAで使われる構想の5.8GHz帯も、無線電力伝送の実験で使用されてきた周波数帯です。
ただし、「どんな悪天候でもまったく影響を受けない」という意味ではありません。
受電設備の状態、電波の経路、周辺環境、降雨の強さなどを考慮しながら運用する必要があります。
また、マイクロ波方式と並んで研究されているレーザー方式は、ビームを細くして装置を小型化しやすい反面、雲や雨、大気の影響を受けやすいとされています。
それぞれの違いを簡単にまとめると、次のようになります。
| 送電方式 | 主な利点 | 主な課題 |
|---|---|---|
| マイクロ波 | 雲や雨の影響を受けにくい | 宇宙側と地上側の設備が大型になりやすい |
| レーザー | ビームを細くしやすく装置を小型化しやすい | 雲や雨、大気の影響を受けやすい |
| 地上送電線 | すでに広く実用化されている | 災害や地形の影響を受けることがある |
SSPSでは、どちらか一方にすぐ決めるのではなく、マイクロ波とレーザーの両方について研究が続けられています。
地上の太陽光発電より効率がよいとは限らない
宇宙は地上より強い太陽光を利用でき、雲や夜の影響も受けにくいため、一見すると地上の太陽光発電より圧倒的に有利に思えます。
しかし、発電量が多いことと、安く効率よく電気を届けられることは別の問題です。
SSPSでは、次のような場所でエネルギーの損失が発生します。
・太陽電池で光を電気へ変えるとき
・直流電力をマイクロ波へ変えるとき
・宇宙から地上へ伝送するとき
・レクテナでマイクロ波を直流へ戻すとき
・直流を送電網で使える交流へ変えるとき
さらに、衛星や巨大なパネルを宇宙へ運ぶためのエネルギーと費用も必要です。
宇宙空間では、故障した設備を地上の発電所のように簡単に点検できません。
スペースデブリとの衝突、太陽フレア、放射線、温度変化などへ耐えながら、長期間運用する技術も求められます。
そのため、現時点で「地上の太陽光発電より必ず安い」「すぐに電気料金が下がる」とは判断できません。
比較するときは、発電量だけでなく、次の点を見る必要があります。
・宇宙への輸送費
・設備の建設費
・変換と送電による損失
・衛星の寿命
・補修や交換の方法
・地上受電所に必要な土地
・運用終了後の回収や廃棄方法
個人的には、発電効率の数字だけで優劣を決めない方がよいと感じます。
安定して発電できても、建設や維持に莫大な費用がかかれば、家庭で使える価格まで下げるのは難しいからです。
実証成功と家庭への電力供給は大きく違う
OHISAMAの実験で宇宙から地上への送電に成功しても、すぐに一般家庭へ電気が届くわけではありません。
実証実験と商用発電では、扱う電力と設備の規模が大きく異なります。
OHISAMAは約180kgの小型衛星による技術実証が想定されています。
一方、将来の大規模なSSPSでは、発電能力が1GW級となる構想もあります。1GWは100万kWで、大規模な発電所に相当する出力です。
その規模を実現するには、宇宙に数万トン規模の設備を構築する可能性があり、地上にも直径数km級の受電設備が必要になると想定されています。
つまり、次の段階には大きな隔たりがあります。
小型衛星で電波が届くことを確認する
↓
送電方向を高精度で制御する
↓
受電効率と安全性を高める
↓
出力を大きくする
↓
大型設備を宇宙で組み立てる
↓
発電コストを既存電源に近づける
↓
社会の電力網へ接続する
実証で得られる成果は重要ですが、それは完成した発電所ではなく、長い研究開発の中のひとつの段階です。
「送電に成功した」というニュースを見たときは、送った電力の大きさ、距離、受電方法、目的を確認すると、商用化までの距離を判断しやすくなります。
一般家庭で使えるのはいつになるのか
宇宙太陽光発電が家庭で使える時期は、現時点では決まっていません。
以前は2030年代に1GW級の大規模SSPSを実現する目標も示されていましたが、技術的な難しさから研究計画は見直されています。
現在は、21世紀後半以降の実現を目指す長期的な研究と位置づけられています。
実用化に必要な課題は、無線送電だけではありません。
・大型設備を低コストで宇宙へ運ぶ技術
・宇宙空間でパネルを組み立てる技術
・故障した設備を点検、修理する技術
・長期間安定して運用する技術
・マイクロ波の周波数を確保する手続き
・受電設備を設置する土地の確保
・航空機や電子機器への安全対策
・既存の発電方法と競争できるコスト
特に大きな壁は宇宙への輸送費です。
大規模発電所に必要な設備を何度もロケットで運ぶには、現在より低価格で、大量かつ高い頻度で打ち上げられる輸送システムが必要になります。
そのため、SSPSの進展は、ロケットの再使用技術や宇宙での組み立て技術の発展とも深く関係しています。
すぐ家庭で使える技術ではありませんが、研究の途中で生まれた技術が、ドローンやロボット、センサーへのワイヤレス給電など、地上で先に活用される可能性もあります。
遠い未来の発電所としてだけでなく、電線を使わずにエネルギーを届ける技術の研究として見ると、現在進められている実験の意味がわかりやすくなります。
OHISAMAの最新状況を確認するときのポイント
OHISAMAについて調べる際は、過去に公表された予定と、現在の進捗を分けて確認することが大切です。
特に見ておきたいのは、次の項目です。
・実証衛星の完成状況
・打ち上げ予定年度
・使用するロケットや打ち上げ方法
・実験を行う軌道の高度
・地上受電設備の設置場所
・実際に送る電力の大きさ
・送電実験の実施結果
「打ち上げ予定」と「打ち上げ完了」、「送電実験の計画」と「送電成功」は、それぞれ意味が異なります。
また、「世界初」という表現を見た場合も、何が世界初なのかを確認する必要があります。
宇宙太陽光発電という構想そのものが世界で初めてという意味ではありません。
OHISAMAの公開資料では、宇宙機間で行う特定の無線送電実証など、実験内容を限定して世界初を目指す項目が示されています。
大きな見出しだけで判断せず、どの距離で、どの方向へ、どれだけのエネルギーを送る実験なのかを見ると、成果の意味を正しく理解できます。
SSPSは宇宙に発電所を造るための長期プロジェクト
宇宙太陽光発電システムは、宇宙で発電できれば完成する技術ではありません。
電気をマイクロ波へ変え、狙った受電地点へ送り、レクテナで再び電力へ戻すまでがひとつのシステムです。
OHISAMAプロジェクトは、その中でも特に難しい、宇宙からの長距離無線送電やビーム制御を確かめる重要な実証計画です。
一方で、実証衛星からの送電成功と、家庭へ安定した価格で電力を供給する商用化の間には、まだ大きな距離があります。
マイクロ波の安全性、変換時の損失、宇宙への輸送費、大型設備の建設、地上受電所の確保など、解決しなければならない課題は少なくありません。
それでも、宇宙から電線なしでエネルギーを届ける実験が具体化していることには、大きな意味があります。
結果を見る際は「成功したかどうか」だけでなく、送電距離、送った電力、方向制御、安全性、地上で回収できた電力量まで確認すると、この技術がどこまで進んだのかを判断しやすくなります。
参考リンク
・テレビ東京「ブレイクスルー 世界初!宇宙で太陽光発電~地球に電力供給」
・JAXA「宇宙太陽光発電研究(SSPS)」
・JAXA「宇宙太陽光発電研究(SSPS)について」
・JAXA「SSPSに関してよくある質問」
・JAXA「マイクロ波無線エネルギー伝送技術」
・宇宙システム開発利用推進機構「宇宙からの無線送電 OHISAMA Projectに向けた取り組み」
・金沢工業大学「衛星搭載用レクテナの開発」
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