東北・気仙沼の海の幸をめぐる旅へ
「うまいッ! 絶品の東北!気仙沼の海の幸 〜宮城〜 東日本大震災15年(2026年3月1日放送)」では、気仙沼の冬の主役ともいえるめかじきとかきを訪ねて、天野ひろゆきさんとアナウンサーの塚原愛さんが東北の海をめぐります。
舞台は、三陸沿岸でも屈指の水産都市・宮城県気仙沼市。三陸沖は世界三大漁場のひとつと言われるほど魚の種類が豊富で、カツオやサンマに並んでメカジキはこの町の代表選手です。生鮮メカジキの水揚げ量は全国シェアの半分以上を占め、日本一の実績を誇っています。
番組は、海の恵みをただ「おいしい」で終わらせず、震災からの復興や、森と海をつなぐ人々の取り組みまで、じっくりとたどっていきます。
気仙沼漁港に残る津波の記憶と、港が立ち上がるまで
まず訪れたのは、気仙沼漁港です。市場の建物の壁には、東日本大震災の津波がどこまで到達したのか、その高さを示すラインがくっきりと残されています。
市場そのものは津波で大きな被害を受けましたが、なんと震災から約3か月で再開しました。港町にとって、漁港は「仕事の場」であると同時に「暮らしそのもの」です。水揚げが止まれば、漁師も、加工業者も、飲食店も一気に苦しくなってしまいます。だからこそ、港の再開は、まち全体の再起動でもあったのです。
こうした「早い再開」の背景には、国や自治体の支援だけでなく、地元の漁師や水産会社が一致団結して片づけや設備の復旧に動いたことがあります。港に立つと、ただの数字ではない「東日本大震災15年」という時間の重さが、静かに伝わってきます。
生鮮メカジキ水揚げ日本一の港がすごい理由
気仙沼の冬を代表するのが、地元で「メカ」と呼ばれるメカジキです。気仙沼市魚市場では、生鮮メカジキの水揚げ量が全国の約7割を占めていた年もあり、今も国内トップクラスの水揚げを誇ります。
メカジキは一年を通して獲れますが、脂が乗って特においしいのは、寒さが増す冬の時期。冷たい海の中でたっぷり脂を蓄えることで、刺身にすればとろりとした旨み、火を通せばふっくらとした食感が楽しめます。宮城県の情報サイトでも「冬メカ」は極上の味わいとして紹介され、煮ても焼いても、ステーキにしてもおいしい万能な魚だとされています。
番組では、このメカジキがどのようにして港に届き、どうやって品質を保っているのか、その舞台裏にもカメラが入ります。
はえ縄漁とオゾンマイクロナノバブル冷海水という最新技術
気仙沼でメカジキを獲る主な方法は、はえ縄漁です。何十キロも続く長い縄に、等間隔で多数の針を付けた仕掛けを海に流し、メカジキなどの大型魚を一尾ずつ掛けていきます。網で一度に大量に獲る漁法と違い、一匹ずつ丁寧に扱えるのが特徴で、魚体へのダメージが少なく、品質が安定しやすい方法です。
水揚げされたメカジキは、ただ氷水に入れて終わりではありません。港では、オゾンマイクロナノバブル冷海水を使って魚を洗浄し、雑菌の繁殖を抑えながら冷やしています。オゾンには殺菌効果があり、マイクロナノバブルという極小の泡は、魚の表面の細かなすき間にも入り込みやすいのが特徴です。
さらに、最新型の冷凍庫で急速冷凍を行うことで、細胞を壊さずに保管する技術も取り入れられています。急速に凍らせると氷の結晶が小さくなり、解凍した時にドリップ(旨みを含む水分)が出にくくなります。こうした科学的な工夫が、旬のおいしさを長く楽しめる秘密になっています。
メカジキの「吻」がジーンズに生まれ変わるまで
番組では、メカジキの「吻」と呼ばれる角の部分にも注目します。長く尖ったこの部分は、通常は捨てられてしまうことが多い部位です。
ところが気仙沼では、この吻を原料にしたユニークなジーンズ作りに挑戦している取り組みがあります。加工の際に出る骨や粉を樹脂と混ぜ込み、ボタンなどのパーツに活用したり、ブランドのストーリーとして打ち出すことで、メカジキの価値を「食べる」以外の形でも広げているのです。
水産資源を無駄なく使い切ることは、サステナビリティの面でも大きな意味があります。普段は目にしない「角の部分」から、町のクリエイティブな発想が見えてきます。
気仙沼市東新城「新富寿し」で味わうメカジキづくし
次に向かったのは、気仙沼市東新城にある寿司店。ここで登場するのが、東新城の大川沿いに店を構える新富寿しです。住所は宮城県気仙沼市東新城1丁目13-3。地元ではメカジキ料理でも知られる人気店です。
天野さんと塚原アナは、まずメカジキの大トロの握りを味わいます。脂がたっぷり乗った腹の部分を使ったにぎりは、見た目からしてツヤツヤで、口に入れるとさっと溶けていくようななめらかさが特徴です。
続いて登場するのが、メカジキのハーモニカの煮付け。ハーモニカとは、メカジキの背骨の周りの部分で、骨の形が楽器のハーモニカに似ていることからそう呼ばれています。ゼラチン質が多く、煮付けにするとコラーゲンたっぷりのプルプルとした食感を楽しめます。
さらに、メカジキのしゃぶしゃぶも提供されます。薄切りにしたメカジキをさっと湯にくぐらせると、外側だけが白くなり、中はうっすらピンク色。脂の甘みを残しつつ、さっぱりと食べられる一品です。新富寿しでは、こうした地元ならではの料理を通して、気仙沼のメカジキのおいしさを存分に体験させてくれます。
店と自宅を失っても握り続けた寿司職人の物語
新富寿しの店主・鈴木さんは、約28年前に父親の店を継ぎました。しかし、東日本大震災で店と自宅の両方を失ってしまいます。
それでも寿司を握ることをあきらめず、被災した仲間たちと一緒に「出張寿司」という形で再出発しました。仮設住宅や地域の集まり、イベント会場など、必要とされる場所に出向き、その場で握りたての寿司を提供してきたのです。
寿司は単なる食事ではなく、「また明日も頑張ろう」と思える時間を作ってくれるものです。鈴木さんの出張寿司は、被災地で暮らす人たちにとって、日常を取り戻すための小さなスイッチでした。
現在の店は、そうした年月を経て続いている場所です。カウンター越しに握られるメカジキのにぎりには、震災を越えてなお海と向き合い続けた、職人の静かな覚悟が滲んでいます。
唐桑町のかき養殖いかだと、海にゆれる10万個のかき
番組の後半は、気仙沼市の唐桑町へと移ります。唐桑町は三陸の中でも有数のかきの産地として知られ、リアス式海岸の入り組んだ湾内には、多くのかき養殖いかだが浮かんでいます。
ここで登場するのが、かき養殖業を営む畠山信さんです。畠山さんの家は、3代にわたって唐桑の海でかきを育ててきました。ひとつのいかだには、約10万個ものかきが吊り下げられています。小さな貝がらひとつひとつに、海の栄養と年月がぎゅっと詰まっていると考えると、その規模の大きさに圧倒されます。
震災と津波被害を乗り越えたかき漁師の15年
東日本大震災で、畠山さんたちのかき養殖いかだや施設は、ほぼすべて流されてしまいました。いかだ、ロープ、作業小屋、冷蔵設備…。海とともに生きるために必要な道具の多くが、一瞬で失われたのです。
それでも畠山さんは、海に戻る道を選びました。いかだの本数を減らして、かきにしっかり栄養が届くようにしたり、育て方を見直したりしながら、品質の高いかきを目指してきました。震災から年月が過ぎても、昨年のカムチャツカ半島沖の地震による津波の影響で、かきの約3割が被害を受けるなど、海の仕事には常にリスクがあります。
それでも、畠山さんは海をあきらめません。かきが育つ海の環境を守るため、震災直後から約15年間、海の中のプランクトンの量を大学と一緒に調査し続けています。プランクトンは、かきのエサになるだけでなく、海の健康状態を映すバロメーターでもあります。
こうした地道な観測を続けることで、「今年の海は栄養が多いのか、少ないのか」「かきの成長に影響は出ていないか」を判断しやすくなり、より確かなかき養殖につながっていきます。
「森は海の恋人」植樹5万本と国連表彰の背景
畠山さんの植樹活動の原点は、父である畠山重篤さんです。重篤さんは「森は海の恋人」というスローガンを掲げ、1989年から内陸部での植樹を続けてきました。森の土壌で育まれた栄養が川を通って海へ流れ込み、その栄養がプランクトンやかきを育てる、という考え方です。
この活動は長年の取り組みとなり、気仙沼周辺では約5万本もの木が植えられました。やがて日本各地へと広がり、重篤さんは国連森林フォーラムが選ぶ「フォレストヒーロー(森の英雄)」にも選出されました。
番組では、畠山信さんがその思いを引き継ぎ、地元の人たちと協力しながら植樹を続けている姿が描かれます。海だけを見ていても、良いかきは育たない。森、川、海をひとつのつながった世界として見る、その視点が、唐桑町のかきのおいしさを支えているのです。
かきとせりのみそ炒め、オランデーズソースのかきグラタンの魅力
畠山さんのかきは、料理になってもその力を存分に発揮します。番組では、まずかきとせりのみそ炒めが登場します。宮城県はせりの名産地としても知られ、冬の鍋料理に欠かせない存在です。香りの強いせりと、濃厚なかきの旨みを、みそがやさしくまとめてくれる一品です。
もうひとつが、オランデーズソースのかきグラタンです。オランデーズソースは、本来は卵黄とバターをベースにしたフランス料理で、エッグベネディクトなどにも使われるリッチなソースです。そのソースをかきと合わせ、グラタンに仕立てることで、まろやかさとコクがぐっと増します。
プリッとしたかきに、クリーミーなソース。そこに唐桑の海の香りが重なることで、「特別な日にも出したくなるかき料理」に仕上がっています。
東日本大震災15年、海とともに生きる気仙沼のこれから
番組の最後には、東日本大震災から15年を迎えた気仙沼の姿が重なります。津波の高さを示すラインが残る市場、店と家を失っても寿司を握り続けた職人、かき養殖をやり直しながら植樹を続ける漁師たち。
どのエピソードにも共通しているのは、「海に守られ、海と共に立ち上がる」という気持ちです。メカジキやかきを味わうことは、単においしい魚介を食べることではなく、この町の人たちが積み重ねてきた時間や、見えない努力を受け取ることでもあります。
「うまいッ!」という番組タイトルの通り、確かにどの料理もおいしそうです。でも、この回の主役は、味わいそのものに加えて、「なぜここまでして海と向き合うのか」という、気仙沼の人たちの物語でもありました。
画面の向こうの気仙沼を、次はぜひ自分の目と舌で確かめに行きたくなる。そんな余韻を残してくれる旅でした。
【NHKサラメシ】東日本大震災から14年|気仙沼「鶴亀食堂」で味わう新鮮地魚定食と移住者店長の物語【2025年3月6日放送】
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