国産4足歩行ロボットがクマを追い払う新しい対策
『あさイチ 愛(め)でたいnippon 能登(熊対策・威嚇ロボット)(2026年8月27日)』で登場するのが、埼玉県所沢市に開発拠点を持つロボット企業が進めるクマ対策です。人が危険な山林へ入って追い払いをする代わりに、AIを搭載した4足歩行ロボットがクマを見つけ、光や音で山側へ誘導するというもの。どんな仕組みなのか、実用化に向けた課題まで詳しく見ていきます。
この記事でわかること
- クマ対策プロジェクト「KUMAKARA MAMORU」の仕組み
- 4足歩行ロボットHLQ Proができること
- なぜ人ではなくロボットでクマを追い払うのか
- 実用化に向けて残されている課題
熊対策・威嚇ロボットの正体は「HLQ Pro」
クマ対策に使われているのは、株式会社Highlandersが開発した国産AI4足歩行ロボット「HLQ Pro」*です。
同社は2025年12月、HLQ Proを利用してクマによる人身被害を防ぐ「KUMAKARA MAMORU」プロジェクトを始動しました。
目指しているのはクマを捕獲・駆除することではありません。
山林と住宅地の間にロボットを配置し、クマが人の生活圏へ近づいた段階で発見して追い返すことで、人とクマが突然出会う状況そのものを減らす考え方です。
クマが住宅地へ入ってから対応するのではなく、その手前で食い止めようとしている点が大きな特徴です。
所沢市にはHighlandersのロボット開発拠点がある
中継場所が埼玉県所沢市なのには理由があります。
Highlandersの本社は東京都豊島区ですが、ロボットを開発する拠点は埼玉県所沢市日比田にあります。
ここではHLQ Proをはじめ、4足歩行ロボットや人型ロボットなどの開発が進められています。
HLQ Proは2025年5月にベータ版の提供が始まった機体です。
もともとはクマ専用のロボットではなく、人が入りにくい危険な場所や不整地で、機材や物資を運ぶ用途などを想定して開発されました。
その「人の代わりに危険な場所へ入れる」という特徴が、クマ対策にも生かされています。
HLQ Proは高さ約98cm、重さ約60kg
HLQ Proは立った状態で、幅約44cm、奥行き約88cm、高さ約98cm。総重量は約60kgあります。
犬型の小さなロボットを想像すると、実物の大きさに驚くかもしれません。
さらに最大約30kgの機材を載せられるため、
- 大型スピーカー
- 強力なフラッシュライト
- 赤外線サーマルカメラ
- 各種センサー
などを組み合わせて運用できます。
クマと対峙する機械として一定の大きさを持ちながら、4本脚で歩けるため、車輪式のロボットでは進みにくい山道や草地にも対応できるのが強みです。
AIで急斜面や藪を歩いてクマに近づく
HLQ Proがクマ対策に向いている最大の理由は、不整地を歩けることです。
クマが現れる可能性がある場所には、舗装道路だけではなく、藪や斜面、林の中などがあります。
車は入れず、上空から見るドローンでは草木に遮られてしまう場所も少なくありません。
HLQ ProはAIによる歩行制御を使い、足元の状態に合わせながら進みます。急斜面や凹凸がある場所でも移動できるよう開発されており、人間が危険を冒してクマへ近づく場面を減らすことにつながります。
標準の稼働時間は約4時間で、追加バッテリーによって延長することもできます。
赤外線カメラで夜や藪の中にいるクマを探す
クマ対策では「追い払う」前に、どこにいるのかを把握する必要があります。
HLQ Proには赤外線サーマルカメラを搭載できます。
サーマルカメラは物体から出る赤外線を利用して温度の違いを見る装置です。
通常のカメラでは見えにくい夜間や藪の中でも動物の熱を捉え、AIが情報を解析。管理する人へ映像や位置情報を伝える仕組みが想定されています。
人が懐中電灯を持って探し回るのとは、危険度が大きく違います。
クマを早い段階で発見できれば、住民への注意喚起や避難にも時間を使えるようになります。
スピーカーと強い光でクマを威嚇する
クマを発見すると、HLQ Proに搭載した大型スピーカーや強力なフラッシュライトなどを使って威嚇します。
ポイントは、ただその場から逃がすのではなく、住宅地とは反対側の山林へ誘導することです。
想定されている運用では、クマの出没情報が入ると車でロボットを近くまで運びます。
そこから自律歩行と遠隔操作を組み合わせて接近。音や光を使い、人の生活圏から離れる方向へクマを動かします。
複数台のロボットを動かし、人が避難する方向とは反対へクマを誘導する使い方も考えられています。
人間がクマの目の前で同じことをするより、はるかに安全性を高められる可能性があります。
クマのおとりになる使い方まで考えられている
さらに興味深いのが、HLQ Proを単なる威嚇装置ではなく、クマの注意を人間からそらす「おとり」として利用する発想です。
クマが人のいる方向へ向かってきた場合、ロボットを動かして注意を引き、人とは違う方向へ誘導します。
固定されたスピーカーやライトではできない使い方です。
4足歩行ロボットは自分で場所を移動できるため、クマの位置や進行方向に応じて動きを変えられます。
クマ対策で「動ける機械」であることは、思っている以上に大きな意味があります。
開発のきっかけはクマ対策を求める数十件の相談
このプロジェクトは、最初からクマ対策を目的に作られたものではありませんでした。
Highlandersには2025年、山を所有する企業や、クマによる被害を受けた患者を診ている病院などから、ロボットを使ってクマを追い払えないかという相談が数十件寄せられたとされています。
そこで、人が入るには危険な建設現場や災害現場などでの活用を目指してきた4足歩行技術を、クマ対策へ応用する構想が生まれました。
危険な場所でこそロボットを働かせるという会社の開発方針とも一致しています。
猟友会だけに負担を集中させない対策でもある
全国でクマの市街地出没が問題になる一方、追い払いや捕獲を担う人材の負担も大きくなっています。
山林でクマを探したり接近したりする作業には当然危険が伴います。
埼玉県でも、人の生活圏へのクマ出没増加を受け、緊急銃猟を想定した訓練、わなの整備、森林と集落を隔てる緩衝帯づくり、河川周辺の樹木伐採など複数の対策が進められています。
4足歩行ロボットは、こうした従来の方法をすべて置き換えるものではありません。
人が危険な場所へ直接入る回数を減らす新しい選択肢の1つとして位置づける方が分かりやすいでしょう。
まだ「ロボットを置けば安心」という段階ではない
期待の大きい技術ですが、実際のクマを相手にした運用には課題があります。
クマがロボットを恐れるとは限りません。
最初は逃げても、同じ音や動きに慣れる可能性があります。また、逆にクマがロボットへ近づき、機体を壊すケースも想定しなければなりません。
山間部では通信環境が弱く、遠隔操作が難しくなる問題もあります。
そのため、重要なのは「巨大なロボットならクマに勝てる」という発想ではなく、クマとの距離、音や光の使い方、配置場所、通信手段などを含めた運用方法全体を作ることです。
東北大学や仙台市とも連携して実用化を検証
KUMAKARA MAMORUでは実際の環境で検証を進めています。
2026年2月の段階では、東北大学や宮城県仙台市との連携も決まり、実用化に向けた課題や解決策を調べる取り組みが進められていました。
クマ対策は実験室だけでは完成しません。
藪の深さ、坂道、雨、夜間、通信環境、クマの反応など、自然の中には条件が無数にあります。
これらを1つずつ検証し、「どのような状況ならロボットが役立つのか」を明確にすることが本格導入への大きなポイントになります。
クマを倒すロボットではなく「人を危険から遠ざけるロボット」
KUMAKARA MAMORUで最も重要なのは、ロボットとクマを戦わせることではありません。
クマと人間の間にロボットを入れることで、人が危険な場所へ行かなくても済む仕組みを作ることです。
クマを見つける。
場所を知らせる。
人が避難する時間を作る。
住宅地とは逆方向へ誘導する。
これまで人が命の危険を抱えながら行ってきた作業の一部をロボットへ任せることができれば、野生動物対策の方法そのものが変わる可能性があります。
所沢で開発されている4足歩行ロボットは、「未来のロボット」というだけではなく、人と野生動物の距離を安全に保つための現実的な技術として実証段階に入っています。
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