株式会社リチャーズ 三郷工場とは何か
今回の舞台となったのは、埼玉県三郷市にある
株式会社リチャーズ 三郷工場です。
この工場は、単なる製造現場ではなく、
釣りざおの「設計から完成まで」をすべて担う、国内でも数少ない一貫生産型の工場です。
本社は東京・葛飾にあり、三郷工場では
・素材の開発
・ブランク(竿本体)の成形
・塗装
・組み立て
・検査
までをすべて自社で行っています。
そのため、細かな調整やオーダー対応が可能で、
釣り具メーカー約20社以上から依頼を受ける
OEM製造の中核拠点として業界から高い信頼を集めています。
年間で製造される釣りざおは約1万本規模。
さらに種類で見ると、200種類以上ものロッドを作り分けており、
魚の種類・釣り方・フィールドごとに最適な竿を提供しています。
また、この工場の大きな特徴は
多くの工程が機械任せではなく、職人の手作業によって支えられている点です。
カーボン素材の巻き方、しなりの調整、最終の仕上げまで、
長年の経験による「感覚」が品質を左右します。
こうした積み重ねにより、これまでに製造された釣りざおは
100万本以上にのぼるとされており、
日本の釣り文化を支えてきた実績ある工場です。
まさにここは、
最先端素材と伝統的な技術が融合した
日本のものづくりの縮図ともいえる現場です。
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カーボンファイバーが生む軽さと強さの秘密
釣りざおの核心となる素材が
カーボンファイバー(炭素繊維強化プラスチック)です。
これは、髪の毛よりも細い炭素の繊維に、
プラスチック樹脂をしみこませて固めた複合素材で、
軽さと強さを同時に持つのが大きな特徴です。
具体的には
・カーボン繊維(強度を生む骨組み)
・プラスチック樹脂(形を固定する接着の役割)
この2つを組み合わせることで、
金属にはない性能を発揮します。
鉄と比べると
・重さは約4分の1
・強さは約10倍
という、圧倒的な性能を持っています。
この「軽いのに強い」という性質があるからこそ、
細くてもしっかり曲がり、折れにくい釣りざおが作れるのです。
さらに重要なのは、カーボンファイバーは
繊維の向きや重ね方で性能が変わる素材だという点です。
同じ素材でも
・硬くする
・しなやかにする
・反発力を強くする
といった調整が可能で、
設計の自由度が非常に高い素材です。
そのため工場では、
厚みや強度が異なる約50種類ものカーボン素材を使い分け、
・渓流で使う繊細な竿
・大物を狙う強い竿
・初心者でも扱いやすい竿
など、用途に合わせて細かく作り分けています。
つまり釣りざおは、ただの棒ではなく、
素材の組み合わせと設計によって性能が決まる精密な道具なのです。
芯金に巻く工程がしなりを決める
釣りざおの形は、
芯金(マンドレル)と呼ばれるテーパー状の金属の棒を中心に作られます。
この芯金は単なる型ではなく、
竿の太さや長さ、曲がり方の土台そのものを決める重要な部品です。
そこに、樹脂を含ませたカーボンシート(プリプレグ)を
1枚ずつ丁寧に巻きつけていきます。
このとき最も重要になるのが、
巻き方(レイアップ設計)です。
具体的には
・繊維をどの角度で配置するか
・何層重ねるか
・どの位置に補強を入れるか
これによって
・曲がり方(調子)
・ねじれに対する強さ
・折れにくさ
すべてが決まります。
さらに、カーボン繊維は
0度・45度・90度といった角度で配置され、
その組み合わせによって性能が細かく調整されます。
たとえば
・縦方向を強くすれば「張り」が出る
・斜め方向を増やすと「ねじれに強くなる」
というように、同じ素材でも性質が大きく変わります。
また巻き付けの工程では、
機械で圧力をかけながら巻くだけでなく、
微妙なズレやテンションは人の手で調整されます。
このわずかな違いが、
・硬すぎる竿になるか
・しなやかで粘る竿になるか
を左右します。
つまり釣りざおは、
ただ巻いているだけではなく、
角度・重ね方・力のかけ方を計算し尽くした設計と、職人の感覚の両方で作られているのです。135℃加熱で強度を固定する重要工程
巻き付けた素材は、
オーブンで加熱されます。
温度は約135℃、時間は約2時間半。
この工程で樹脂が硬化し、
パイプ状の釣りざおが完成します。
この加熱によって
・軽さ
・強さ
・弾力
が同時に生まれ、
折れにくい構造が完成します。
100分の1ミリの研磨が性能を決める
最も重要なのが、仕上げの工程です。
釣りざおは完成したあともそのまま使われるわけではなく、
削る → 差し込む → また削るという作業を何度も繰り返しながら、
最終的なバランスを整えていきます。
この工程は、単なる見た目の調整ではありません。
カーボンロッドは、加熱・成形の段階で基本性能が決まりますが、
その後の研磨や外径調整によって、しなりや反発力が微妙に変化するため、
仕上げ工程が性能を決定づける重要な段階になります。
特に調整されるのが、竿の接合部分や表面の厚みです。
削る量はわずかですが、
その精度は100分の1ミリ単位。
ほんのわずかな違いでも
・曲がり方が急になるか、なめらかになるか
・魚の動きを感じ取る感度
・負荷に耐える強さ
といった性能が大きく変わります。
実際に、カーボンロッドは
削りすぎると繊維が傷つき強度が落ちるため、
必要最小限だけを削る高度な判断が求められる繊細な工程です。
さらに、研磨は一度で終わるものではなく、
表面を整えながら何度も繰り返し行われます。
粗い研磨から細かい研磨へと段階的に仕上げることで、
表面の凹凸をなくし、滑らかで均一な状態に近づけていきます。
そして最終的な調整では、
機械の数値だけではなく、
・曲げたときの感触
・手に伝わる反発
・わずかな違和感
こうした職人の手の感覚が頼りになります。
つまりこの工程は、
単なる加工ではなく
性能を「完成させる」ための最後の仕上げです。
ここでのわずかな差が、
釣りざおとしての完成度を大きく左右するのです。
塗装と組み立てで完成度が決まる
最後に行われるのが、釣りざおの仕上げともいえる
塗装と組み立ての工程です。
まず行われる塗装は、見た目を美しくするだけではありません。
・表面の傷を防ぐ
・紫外線や衝撃から素材を守る
・耐久性を高める
といった重要な役割を持っています。
特にカーボン素材は、強度は高いものの
想定外の衝撃や紫外線には弱い性質があるため、
塗装によってそれらの弱点を補っています。
さらに、ガイド部分には
エポキシ樹脂などでコーティングが施され、
固定力と強度を高める役割もあります。
ただし、この塗装は非常に繊細です。
塗料を厚くしすぎると
・重くなる
・しなりが鈍くなる
といった影響が出てしまいます。
逆に薄すぎると
・傷がつきやすい
・耐久性が落ちる
という問題が起こります。
そのため、必要最小限の厚みで均一に仕上げる技術が求められます。
塗装が終わると、いよいよ組み立てです。
・糸を通すガイド
・手元のグリップ
・リールを固定する部分
といったパーツを取り付けていきます。
これらの配置や取り付け角度も重要で、
わずかなズレでも
・糸の通り
・操作性
・バランス
に影響が出ます。
つまりこの工程は、単なる仕上げではなく
見た目・強さ・使いやすさをすべて決める最終調整です。
ここまでのすべての工程が組み合わさって、
はじめて一本の釣りざおとして完成するのです。
なぜ細いのに折れないのかの結論
釣りざおが折れない理由は
単一の要素ではありません。
・カーボンファイバーという高性能素材
・精密な巻き付け構造
・135℃加熱による強度固定
・100分の1ミリ研磨
・繊細な仕上げ工程
これらすべてが組み合わさることで、
「細いのに強く、しなやかに曲がる」
という性能が生まれています。
つまり釣りざおは
単なる道具ではなく、
精密工業製品と職人技が融合した結晶といえます。
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