速さだけでは語れないロードスターの魅力
スポーツカーと聞くと、最高速度やエンジンの大きさを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、世界中で長く愛されてきたマツダ・ロードスターが大切にしたのは、速さよりも人が運転して感じる楽しさでした。
『新プロジェクトX 人生に新たな景色を〜市民に愛されたスポーツカー〜(2026年7月11日放送)』では、逆風の中で小さなスポーツカーを生み出した技術者たちの挑戦が描かれます。
この記事でわかること
- 番組に登場するスポーツカーの車名
- ロードスターが速さより大切にしたもの
- 「人馬一体」が表す運転感覚
- 世界一になった記録の本当の意味
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小さなスポーツカーの正体はマツダ・ロードスター

(出典:ロードスター(1989年~) | 歴史 | マツダについて | マツダ株式会社 企業サイト)
番組に登場する「非力なエンジンの小さなスポーツカー」は、マツダ・ロードスターです。
初代モデルは1989年に登場し、日本では当時の販売チャンネル名を冠したユーノス・ロードスターとして発売されました。海外では「MX-5」や「MX-5 Miata」の名前で知られています。
ロードスターは、屋根を開けて走れる2人乗りのオープンスポーツカーです。
ただし、一般的に想像される高性能スポーツカーとは、少し方向性が違います。
大きなエンジンを積んで圧倒的な速さを目指すのではなく、
- 軽い車体
- 扱いやすい大きさ
- ドライバーの操作に素直に反応する動き
- 屋根を開けて走る爽快感
を重視して開発されました。
初めて知ると少し驚きますが、ロードスターが目指したのは「一部の熟練者だけが速く走れる車」ではありません。
普通の速度でも、曲がる、止まる、加速するといった日常的な操作を楽しめる車でした。
ロードスターはなぜ「速くない」と表現されたのか
ロードスターが「速くないスポーツカー」と表現されるのは、絶対的な性能が低いという意味ではありません。
フェラーリやポルシェなどの高性能車と比べると、エンジンの排気量や最高出力が控えめだからです。
初代ユーノス・ロードスターに搭載されたエンジンも、当時の基準で特別に大きく、強力なものではありませんでした。
しかし、車の楽しさはエンジンの出力だけでは決まりません。
重い車に大きなエンジンを載せれば速く走れますが、車体が軽ければ、それほど大きな出力がなくても軽快に動きます。
自転車でも、重い車体より軽い車体の方が、こぎ始めや方向転換が楽に感じられます。ロードスターも、それに近い考え方で作られています。
エンジンの力を必要以上に大きくするのではなく、車そのものを軽くし、ドライバーの操作にすぐ応えるようにしたのです。
個人的には、この「足りないものを出力で補うのではなく、軽さを生かす」という考え方が、ロードスターの面白さだと感じます。
数字だけを見ると地味でも、実際に運転したときの楽しさは数字だけでは判断できません。
「人馬一体」とはどのような意味なのか
ロードスターを語るうえで欠かせない言葉が、人馬一体です。
もともとは、人と馬がひとつになったように動く状態を表す言葉です。
ロードスターでは、ドライバーが「曲がりたい」「減速したい」「少し加速したい」と思ったときに、車が違和感なく反応する感覚を表しています。
ただ速く反応すればよいわけではありません。
ハンドルを少し動かしただけで車が急に曲がったり、アクセルを踏んだ瞬間に大きな力が出たりすると、かえって扱いにくくなります。
大切なのは、人が予想したとおりに車が動くことです。
たとえば、カーブでハンドルを切った量に合わせて自然に車の向きが変わる。ブレーキを踏むと、ドライバーの感覚に合った姿勢で減速する。アクセルを踏み足すと、必要なだけ力が加わる。
こうした小さな反応を積み重ねることで、「自分で車を動かしている」という感覚が生まれます。
人馬一体は、特定の部品や機能の名前ではありません。
車体の軽さ、重量のバランス、ハンドルの反応、ペダルの位置、座る姿勢、視界などをまとめて整えた結果として生まれる運転感覚です。
たしかにこれは、馬力や最高速度のように1つの数字では示しにくいものです。
だからこそ、開発者にとっては難しい目標だったと考えられます。
数値にできない「感性」をどう車にしたのか
車の開発では、出力、重量、燃費、停止距離など、多くの性能を数値で確認できます。
一方で、「運転して気持ちよい」「思ったとおりに動く」といった感覚は、そのままでは測れません。
ロードスターの開発では、この曖昧な感覚を、車体の寸法や重量、部品の動きへ落とし込む必要がありました。
そのため、技術者たちは実際に試作車を走らせ、違和感の原因を探しながら調整を重ねたとされています。
わずかな重量の違いや、部品を取り付ける位置の変化でも、車の動きは変わります。
特にオープンカーは屋根がないため、普通の車とは違った車体の強度が求められます。ただ頑丈にすると重くなり、ロードスターらしい軽快さが失われます。
丈夫さを保ちながら軽くするという、相反する課題を解かなければならなかったのです。
個人的には、目立つ最新機能を追加するよりも、運転中に感じる小さな違和感を減らす作業の方が難しいように思えます。
完成した車を見ただけではわからない部分に、技術者の工夫が詰まっています。
初代ロードスターを支えた技術者たち
ロードスターは、1人の天才が突然完成させた車ではありません。
多くの技術者が、それぞれ異なる役割を担いながら形にしました。
番組には、初代の車両設計に携わった池水直行さん、初代のシャシー設計を担当し、後に3代目の開発責任者を務めた貴島孝雄さん、現在の開発責任者である齋藤茂樹さんが出演します。
また、初代ロードスターの開発主査として知られているのが平井敏彦さんです。
ロードスターの開発では、単に既存の車を小さくするのではなく、ライトウェイトスポーツカーとしての楽しさを一から考える必要がありました。
社内では、2人しか乗れず、荷物も多く積めないオープンスポーツカーが本当に売れるのかという疑問もあったはずです。
実用性を重視する車と比べれば、商品として不利な条件が多いからです。
それでも技術者たちは、人が車を操る楽しさには価値があると信じました。
番組概要にある「自分に嘘のない生き方がしたい」という言葉は、売れやすい車だけを作るのではなく、自分たちが本当に必要だと思う車を作ろうとした姿勢につながっています。
この背景を知ると、ロードスターは単なる自動車ではなく、技術者たちの価値観を形にしたものに見えてきます。
パワープラントフレームが支えた一体感
初代ロードスターの特徴的な技術として知られているのが、**PPF(パワープラントフレーム)**です。
これは、エンジン側のトランスミッションと後輪側のデファレンシャルを結ぶ構造です。
車はアクセルを踏むと、エンジンの力がトランスミッションやプロペラシャフトなどを通り、後輪へ伝わります。
それぞれの部品が別々に大きく動いてしまうと、アクセルを踏んでから車が反応するまでに、わずかな遅れや揺れが生じます。
PPFによって駆動系をつなぐことで、アクセル操作に対する反応を安定させ、車との一体感を高める狙いがありました。
もちろん、PPFだけで人馬一体が完成するわけではありません。
しかし、ドライバーが操作してから車が動くまでの違和感を小さくする、ロードスターらしい発想を象徴する技術の1つです。
見た目の派手さはありませんが、こうした見えにくい部分が運転感覚を支えています。
ロードスターの「世界一」は速さの記録ではない
ロードスターが達成した「世界一」は、最高速度やレースの勝利数ではありません。
2人乗り小型オープンスポーツカーの累計生産台数世界一という記録です。
ロードスターは1989年に生産が始まり、2000年に累計53万1,890台でギネス世界記録に認定されました。
その後も生産を続け、記録を更新しています。
ここは誤解しやすいところですが、最も速いスポーツカーになったわけではありません。
最も多くの人に選ばれ、生産された2人乗り小型オープンスポーツカーになったという意味です。
高額で特別な車は、性能が優れていても所有できる人が限られます。
ロードスターは比較的扱いやすい大きさと価格帯を保ち、日常でも乗れるスポーツカーとして広がりました。
「市民に愛されたスポーツカー」という表現は、まさにこの立ち位置を表しています。
世界一という結果ももちろんすごいのですが、個人的には、限られた愛好家だけでなく多くの人がスポーツカーの楽しさに触れられたことの方が大切だと感じます。
なぜロードスターは世界中で受け入れられたのか
ロードスターが長く支持された理由は、1つではありません。
まず大きいのが、誰でも楽しみやすいことです。
一般道路では、車の性能を限界まで使う場面はほとんどありません。非常に高出力な車でも、その力を十分に使える場所は限られます。
ロードスターは、日常的な速度でも車の軽さや反応を感じやすく作られています。
近所の道を走るだけでも、ハンドルを切る、ギアを変える、屋根を開けるといった動作そのものを楽しめます。
また、車体が比較的小さいため、日本の道路でも扱いやすいことも魅力です。
さらに、初代から基本的な考え方を大きく変えなかったことも、ファンから信頼された理由でしょう。
流行に合わせて車体を大きくしたり、豪華な装備を増やしたりするだけではなく、
- 小さく軽いこと
- 2人乗りであること
- 後輪を駆動すること
- 人が操る感覚を大切にすること
を守り続けました。
世代が変わっても「ロードスターらしさ」が残っているため、古いモデルと新しいモデルの所有者が同じ価値観を共有しやすいのです。
NA・NB・NC・NDで何が変わったのか
ロードスターには、これまでに4つの世代があります。
一般的には車両型式の最初の文字を使い、NA・NB・NC・NDと呼ばれています。
初代のNA型は1989年に登場しました。
丸みを帯びた小さな車体と、開閉式のリトラクタブルヘッドライトが特徴です。ロードスターの基本となる「軽さ」「人馬一体」「オープン走行の楽しさ」を確立しました。
2代目のNB型は1998年に登場しました。
安全面などを考慮して固定式ヘッドライトへ変わりましたが、初代に近い軽快な性格を受け継いでいます。
3代目のNC型は2005年に登場しました。
車体やエンジンが大きくなり、快適性や安全性も高められました。電動で屋根を開閉できるモデルが加わったことも大きな特徴です。
4代目のND型は2015年に登場しました。
先代から100kg以上軽量化し、ソフトトップの基本モデルでは1トンを切る軽さを実現しました。排気量も国内仕様では1.5Lを採用し、初代に近い軽快さへ戻す方向が選ばれています。
世代によって乗り味や装備は異なりますが、どのモデルも単純な速さではなく、運転する楽しさを中心に作られています。
「古い方がよい」とは限らない
初代NA型は人気が高く、象徴的な存在です。
ただし、これから乗る車を選ぶ場合、必ずしも古いモデルが最適とは限りません。
古い車には独特のデザインや軽さがありますが、年数が経過しているため、部品の劣化や修理費を考える必要があります。
特に確認したいのは、次のような点です。
- 車体のさびや腐食
- 幌からの雨漏り
- エンジンや冷却系の状態
- サスペンションやゴム部品の劣化
- 過去の修復歴
- 改造された部分と純正部品の有無
オープンカーは屋根の状態も重要です。
幌に破れがなくても、ゴム部分や排水経路が劣化していると、室内へ水が入ることがあります。
実際に選ぶなら、購入価格だけでなく、購入後に必要になりそうな整備費まで確認したいところです。
安心感や安全装備を優先するなら、比較的新しいND型が選びやすいでしょう。
一方、古い車を少しずつ整備しながら乗ること自体を楽しみたい人には、NA型やNB型も魅力的です。
初代をメーカーがレストアする意味
マツダは2017年、初代NA型ロードスターを対象にしたレストアサービスを開始しました。
メーカーが車を預かり、状態を確認したうえで、オリジナルに近い状態へ整える取り組みです。一部の部品については、再供給も進められてきました。
古い車は、生産が終わって時間がたつほど部品を入手しにくくなります。
メーカーが部品や整備環境を残すことは、所有者が同じ車に長く乗り続ける助けになります。
この取り組みからも、ロードスターが売って終わる商品ではなく、所有者の人生と長く関わる車として考えられていることがわかります。
新しい車へ買い替えることだけが、車を楽しむ方法ではありません。
思い出のある1台を直しながら乗り続ける選択肢があることも、ロードスター文化の特徴です。
「だれもが、しあわせになる。」に込められたもの
初代ロードスターには、「だれもが、しあわせになる。」という印象的なメッセージがありました。
高性能を誇る言葉でも、速さを競う言葉でもありません。
運転する人だけでなく、隣に乗る人、街で見かける人、車を作る人まで含めて、笑顔になれる車を目指した言葉です。
もちろん、2人乗りで荷物も多く積めないロードスターは、すべての生活に合う車ではありません。
家族の人数や荷物の量によっては、現実的に選びにくい場合もあります。
それでも、便利さや効率だけでは測れないものを生活に加えてくれます。
屋根を開けて季節の空気を感じたり、少し遠回りして帰りたくなったりする。目的地へ移動するためだけではなく、移動する時間そのものが楽しみになります。
個人的には、ここがロードスターを単なる移動手段ではなく、人生の景色を変える車にした理由だと感じます。
ロードスターを選ぶ前に確認したいこと
ロードスターに興味を持った場合、見た目や評判だけで決めず、自分の生活に合うか確認することが大切です。
まず、2人乗りであることは大きな条件です。
後部座席はなく、荷物を積める量も一般的な乗用車より限られます。買い物や旅行でどれくらい荷物を積むのか、実際の使い方を考えておきましょう。
次に、乗り降りのしやすさです。
車高が低いため、人によっては乗り降りを負担に感じることがあります。購入前には、展示車へ実際に座って確認した方が安心です。
オープン走行についても、季節や天候の影響を受けます。
夏の日差し、冬の寒さ、風の巻き込みなどは、想像だけではわかりにくいものです。
できれば試乗し、屋根を閉じた状態と開けた状態の両方を体験してみてください。
確認したいポイントは次のとおりです。
- 運転席からの視界
- ペダルやハンドルの位置
- 乗り降りのしやすさ
- トランクへ普段の荷物が入るか
- 屋根を閉じたときの音
- オープン走行時の風や日差し
- MTとATのどちらが生活に合うか
ロードスターは、性能表だけでは自分との相性を判断しにくい車です。
個人的には、購入前に必ず試乗し、「速いか」ではなく「もう少し運転していたいと思えるか」を確かめることがいちばん大事だと感じます。
速さを競わなかったから長く愛された
ロードスターは、スポーツカーでありながら、最高速度や圧倒的な馬力を中心にしませんでした。
その代わりに、軽さ、扱いやすさ、車との一体感を磨き続けました。
数字で目立つ性能を追わなかったことは、発売前には弱点に見えたかもしれません。
しかし、その選択が、普通の人でも楽しめるスポーツカーを生みました。
世界一になった理由も、単に車が速かったからではありません。
自分で動かしている実感や、屋根を開けて走る時間が、所有者の記憶に残ったからでしょう。
移動の効率だけを考えれば、もっと便利な車はたくさんあります。
それでもロードスターを選ぶ人がいるのは、車が目的地へ運ぶだけの道具ではなく、新しい景色に出会うきっかけになるからです。
速さではなく、人の感性を信じたこと。
それこそが、小さなスポーツカーが世代や国境を越えて愛され続けた、最も大きな理由なのかもしれません。
参考リンク
- マツダ「ユーノス ロードスター(初代)」 (MAZDA MOTOR CORPORATION GLOBAL WEBSITE)
- マツダ「ロードスター累計生産100万台達成」 (Mazda Newsroom)
- マツダ「ロードスターがギネス世界記録に認定」 (Mazda Newsroom)
- マツダ「4代目ロードスター」 (MAZDA MOTOR CORPORATION GLOBAL WEBSITE)
- マツダ「初代ロードスターのレストアサービス開始」 (Mazda Newsroom)
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