ユニバーサル野球は「1cmの動き」から生まれたみんなの野球
野球をやりたくても、体を自由に動かせない。そんな子どもの願いから生まれたのがユニバーサル野球です。『午後LIVE ニュースーン 特集は「ユニバーサル野球」(2026年8月21日)』で取り上げられるこの競技は、巨大な野球盤と独自のバットを使い、障害の有無や年齢にかかわらず同じ試合に参加できます。開発者・中村哲郎さんの経歴や誕生のきっかけ、ルール、体験方法まで詳しくまとめます。
この記事でわかること
- ユニバーサル野球の仕組みとルール
- 開発者・中村哲郎さんが競技を作った理由
- 特別支援学校の少年との出会いから完成までの経緯
- 学校やイベントで体験する場合の料金と申し込み方法
ユニバーサル野球は巨大な野球盤で誰でも対等に戦える
ユニバーサル野球は、実際の野球場を約20分の1に縮小した巨大な野球盤で行うスポーツです。
ユニバーサルスタジアムは両翼約5m、センター約6m。普通の野球のように投手がボールを投げるのではなく、ホームベース付近のターンテーブルでボールを回転させます。
バッターがすることはシンプルです。
回っているボールのタイミングに合わせてひもを引くと、スプリング式のバットがスイングします。打ったボールが盤上のヒット、アウト、ホームランなどのゾーンに入ることで結果が決まります。
力の強さや走る速さで大きな差が生まれにくく、重要になるのはタイミングと打球の行方です。車いすに乗ったままでもバッターボックスに入ることができ、入力支援機器にも対応しています。
ルールには、決められた打席数で多く得点したチームが勝つ「得点式」と、野球と同じように進める「野球式」が用意されています。
過去の参加者は2歳から115歳まで。子どもだけを対象にした競技ではなく、世代を越えて参加できるところも大きな特徴です。
開発者・中村哲郎は北海高校野球部出身の元球児
このユニークな野球を発明したのが、中村哲郎さんです。
北海道出身で、高校時代は高校野球の名門・北海高校野球部に所属していました。
その後、2011年の東日本大震災でのボランティア活動をきっかけに障害者スポーツと関わるようになり、2016年に堀江車輌電装株式会社の障害者支援事業部へ入社。上級パラスポーツ指導員としてスポーツ支援活動にも携わってきました。
野球経験者が考えた競技だからこそ興味深いのは、単に「ボールを打てればいい」という形にしなかったことです。
名前を呼ばれて打席に入り、仲間から声援を受け、ヒットやホームランで会場が沸く。
野球選手が味わう体験そのものを再現することが、この競技の重要な部分になっています。
「ぼく、野球がやりたい!」という少年の願いがすべての始まり
開発が始まったのは2017年です。
中村哲郎さんが特別支援学校小学部に通う野球好きの少年と出会ったことが転機となりました。
少年は野球が好きでも、体を思うように動かすことが難しく、一般的な方法でプレーすることは簡単ではありませんでした。
そこで中村さんたちは「体を野球に合わせる」のではなく、野球の道具や仕組みを体に合わせる方向へ発想を変えていきます。
2018年には試行錯誤の末、体を約1cm動かすことができればスイングできるバットを試作。ボールを投げてもらう方式ではタイミングを合わせることが難しいため、ターンテーブルの上でボールを回転させ、それを打つ仕組みが考えられました。
子どもたちに実際に使ってもらいながら改良を続け、2019年には約20分の1サイズの野球場が完成します。
さらに約3年間の試作を経て、「野球ゲーム盤」として特許第6729956号を取得。発明者として中村哲郎さんの名前が登録され、「ユニバーサル野球」「ユニバーサルベースボール」は商標登録されています。
障害者だけの競技にしなかったことが大きな特徴
ユニバーサル野球という名前から、障害のある人向けのスポーツを想像する人もいるでしょう。
しかし、大きな特徴は障害者スポーツと健常者スポーツを分けないことです。
障害のある子ども、一般の小学生、高校球児、大人、高齢者まで、同じ野球盤を囲んで同じルールでプレーできます。
ボールを遠くまで飛ばせる筋力や速く走れる脚力ではなく、回転するボールを打つタイミングが勝負を左右するため、身体能力の違いを小さくできます。
さらに重要なのが「応援する・応援される」体験です。
試合ではウグイス嬢が選手の名前を呼び、周囲の人が応援します。自分が主役として打席に立ち、誰かを応援し、自分も応援される。この一連の体験まで含めて設計されている点が、単なる大型ゲームとの大きな違いです。
鉄道車両の会社・堀江車輌電装が開発を支えている
もう1つ意外なのが、ユニバーサル野球を展開している堀江車輌電装株式会社です。
もともとの主要事業は、鉄道車両の整備・改造・点検など。スポーツ用品メーカーではありません。
一方で障害者支援事業にも取り組んでおり、中村哲郎さんが入社した後、その活動の中からユニバーサル野球が誕生しました。
球場づくりには社外からもさまざまな専門家が参加しています。
バッティング装置の開発、球場の製作、専用金属バットなど、それぞれの技術を持つ人たちが協力しながら改良されてきました。
1人の発明者のアイデアを、多くの協力者が実際に遊べる競技へ育てていったプロジェクトといえます。
学校の体育・交流学習から福祉施設や企業研修まで広がっている
2019年の本格的な試合開始以降、活用される場所も広がっています。
小学校や特別支援学校では体育だけでなく、交流学習、道徳、総合学習などにも活用されています。
中学・高校・大学では障害について考える授業、福祉施設ではレクリエーションや交流、企業では障害理解研修や体験型セミナーとして取り入れることができます。
2026年の案内資料では、これまでの体験者は1万人以上とされています。
「障害のある人でも参加できるようにする」だけではなく、最初からさまざまな人が同じ場所で楽しむことを前提にしているため、学校の交流授業とも相性がいいスポーツです。
開催料金は学校授業4万円から、イベント8万円から
ユニバーサル野球は学校や施設、地域イベントなどへ球場を持ち込み、開催することもできます。
代表的なレンタル料金は次の通りです。
| 球場タイプ | 教育機関・施設 | イベント |
|---|---|---|
| 屋外型 | 40,000円 | 80,000円 |
| 屋内型 | 50,000円 | 100,000円 |
| エスコンフィールド型 | 80,000円 | 160,000円 |
いずれも1日レンタルの料金で、別途消費税がかかります。
さらに組立・撤去説明者1名につき20,000円、交通運搬費などが必要です。審判、運営スタッフ、ウグイス嬢などを依頼する場合も別料金になります。
レンタルだけなら空きがあれば開催1週間前まで、設営や運営スタッフについて相談する場合は2カ月前までが申し込みの目安です。
個人が常設施設へ遊びに行くタイプのスポーツというより、学校、自治体、福祉施設、企業などが体験会を企画して開催する形が中心です。
絵本『ぼく、野球がやりたい!』に誕生までの実話が描かれている
2026年には、競技が生まれるまでの物語が絵本にもなりました。
タイトルは『ぼく、野球がやりたい! ユニバーサル野球ができるまで』。
中村哲郎さんが企画・原案を担当し、山田花菜さんが文・絵を手がけています。
車いすの少年との出会いから、「どうすれば一緒に野球ができるのか」と試行錯誤していく実話をもとにした作品です。
巻末には競技の遊び方やルール、Q&Aも収録されているため、ユニバーサルデザインや共生社会について子どもと一緒に考える入口にもなります。税込価格は1,760円です。
ユニバーサル野球のおもしろさは、特別な人のために別のスポーツを作ったことではありません。
野球の側を工夫することで、それまで打席に立てなかった人も同じ選手になれるようにしたことにあります。
少年の「野球がやりたい」というひと言から始まった挑戦が、学校教育や地域交流へ広がっている背景を知ると、巨大な野球盤を見る印象も大きく変わってきます。
参考リンク
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