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深海採掘の現在 The Metals Companyとナウル、ノルウェーが狙う海底資源【深海の採掘競争 エネルギー転換のジレンマ】

深海採掘は「脱炭素に必要な資源」と「海を守る責任」がぶつかる問題

再生可能エネルギーやEV、デジタル機器に欠かせない重要鉱物を、陸ではなく深海から取り出そうとする動きが進んでいます。『世界のドキュメンタリー(深海の採掘競争 エネルギー転換のジレンマ)(2026年8月21日)』をきっかけに気になるのが、The Metals Companyとナウルの関係、ノルウェーの海底資源政策、そして商業採掘をめぐる国際ルールです。資源確保と環境保護がなぜ両立しにくいのかを整理します。

この記事でわかること

  • 深海採掘で狙われている金属と利用先
  • The Metals Companyとナウルが深海開発を進める仕組み
  • ノルウェーが海域を開放しながら採掘を急いでいない理由
  • 商業採掘を止めている国際ルールと環境問題

深海採掘はまだ本格的な商業生産には入っていない

深海採掘は、すでに世界中で大量の鉱物を生産している産業ではありません。

深海では探査や採取試験が進み、一部企業は商業化に向けた許可取得を進めていますが、大規模な商業採掘が一般化した段階には達していません

特に注目されているのが、太平洋の**クラリオン・クリッパートン海域(CCZ)**です。ハワイとメキシコの間に広がる深海底には、「多金属団塊」と呼ばれる黒っぽい石のような鉱物資源が広く分布しています。

多金属団塊には主に、

  • マンガン
  • ニッケル
  • コバルト

などが含まれます。

これらは電池だけでなく、送電設備、電子機器、防衛関連機器など幅広い産業で必要になる金属です。再生可能エネルギーの導入や電化が進むほど、安定した鉱物供給が重要になります。

だからこそ深海底が、「まだ十分に利用されていない巨大な資源供給源」として見られるようになりました。

カナダ企業The Metals Companyとナウルの関係が競争の鍵になっている

深海採掘をめぐって特に存在感が大きい企業が、カナダを拠点とする**The Metals Company(TMC)**です。

TMCの完全子会社Nauru Ocean Resources Inc.(NORI)は、太平洋の島国ナウル共和国を保証国として国際海底機構との探査契約を結んでいます。

公海の海底資源は、民間企業が好きな場所を自由に掘れる仕組みではありません。国際海底機構の制度では、民間企業などが活動する際に国家によるスポンサーシップが重要になります。

NORIは2011年にナウルの支援を受け、クラリオン・クリッパートン海域の多金属団塊を調査してきました。

そして大きな転機となったのが2022年の採取試験です。

海底約4kmの深さまで集鉱機を下ろし、海底から多金属団塊を回収。国際海底機構による検査では、試験期間中に約3200トンの団塊が回収され、船内に保管されたことが記録されています。

つまり、「深海に鉱物がある」という調査段階から、実際に海底を走る機械で集めて海上まで引き上げる技術実証の段階へ進んだことになります。

2026年はThe Metals Companyの「アメリカ経由」が新たな焦点になった

TMCを追ううえで、もう1つ重要なのがアメリカでの許認可手続きです。

アメリカは国連海洋法条約の締約国ではなく、国際海底機構とは異なる国内法に基づいて、自国企業の深海底鉱物開発を審査する制度を持っています。

TMCは米国子会社The Metals Company USAを通じて、その制度で許可取得を進めています。

2026年8月19日には、探査ライセンスと商業回収許可をまとめた申請について新たな手続きが公表され、10月19日まで意見募集が行われることになりました。

一方で、アメリカの制度でも商業回収許可がすでに発給されているわけではありません。NOAAの一覧では商業回収許可は「なし」とされています。

国際海底機構での交渉を待つのか、アメリカの制度によって先に事業化を目指すのか。この2つのルートが並行して動き始めたことで、深海採掘は資源問題だけでなく国際ルールをめぐる問題にもなっています。

ノルウェーは海底資源を開放したが採掘開始を急いでいない

もう1つ重要なのがノルウェーです。

石油・天然ガス産業で大きな海洋技術を蓄積してきたノルウェーは、2024年4月、ノルウェー海とグリーンランド海にまたがる約28万1000平方kmの大陸棚を海底鉱物活動の対象として開放しました。

ここで狙われる資源は、太平洋の多金属団塊だけを想定したものではありません。

海底熱水活動などによって形成される鉱床には、銅や亜鉛などさまざまな金属が含まれる可能性があり、将来の資源供給源として調査されています。

ただし、海域を開放したことと「すぐ採掘する」ことは同じではありません。

ノルウェー政府は当初、第1回ライセンスラウンドを実施する方向で準備しましたが、その後方針が変わり、現在の議会任期中には最初のライセンスラウンドを実施しないことになりました。

それでも資源や海底環境の調査そのものを完全にやめたわけではありません。

「資源の可能性は調べたい。しかし採掘を急ぐのではなく、環境データや技術を積み上げたい」という慎重な段階にあります。

国際海底機構の採掘ルールは2026年夏にも完成しなかった

公海の海底資源開発で中心となる組織が**国際海底機構(ISA)**です。

国の管轄権を超えた深海底とその資源は、人類全体に関わるものとして扱われています。

そのため、企業の利益だけでなく、

資源から得られる利益をどう分配するか、環境被害が起きた場合に誰が責任を負うか、採掘をどんな条件で止めるか、監視や検査をどう行うかなど、細かなルールが必要になります。

この商業採掘の規則をまとめたものが、一般に**Mining Code(マイニング・コード)**と呼ばれています。

しかし2026年7月24日の国際海底機構理事会でも、規則は完成しませんでした。

理事会は「規則が存在しない状態で商業採掘を行うべきではない」と改めて示し、残された課題を整理して規則制定を続ける方針を決定しています。

つまり、企業側の技術開発が進んでいる一方、世界共通の商業採掘ルールが追いついていない状態です。

ここが深海採掘競争を見るうえで最も重要なポイントです。

海底を削ることで生態系にどこまで影響するのかが分かっていない

深海採掘への慎重論が強い最大の理由は、深海の生態系について分かっていない部分が多いことです。

多金属団塊を採取する場合、集鉱機が広い海底を走りながら団塊を集めます。その過程で海底の堆積物が巻き上がり、セディメントプルームと呼ばれる濁りが発生します。

考えられている影響には、

  • 海底に暮らす生物の生息場所の破壊
  • 巻き上げられた堆積物による生物への影響
  • 海中への金属成分の放出
  • 機械による水中騒音
  • 深海には本来ほとんど存在しない強い人工光

などがあります。

NOAAも、採掘機械による海底堆積物の攪乱、生息地の破壊、堆積物プルームなどを主要な懸念として挙げています。

深海サンゴや海綿類の中には非常に成長が遅いものがあり、過去の海底採掘実験によって残された跡が数10年後にも確認される例があります。影響の範囲や回復期間については、まだ大きな科学的不確実性が残っています。

陸上鉱山より環境負荷が小さいという主張も簡単には比較できない

深海採掘には、逆方向の議論もあります。

陸上でニッケルやコバルトなどを増産する場合、鉱山開発による森林破壊、廃石、排水、土地利用などの問題が生じます。

そのため深海採掘を推進する企業側は、海底の多金属団塊を利用すれば陸上鉱山への依存を減らせる可能性があるとしています。

しかし、「陸上鉱山より深海採掘の方が環境に優しい」と単純に決められる問題ではありません。

陸上では比較的多くの環境データが蓄積されているのに対し、深海では生態系そのものについて分かっていない部分が多いためです。

比較すべきなのはCO2排出量だけではなく、生物多様性、水質、海底環境、廃棄物、エネルギー消費、回復までの時間まで含めた全体の負荷です。

ここが「エネルギー転換のジレンマ」の核心になります。

脱炭素を進めるほど新しい鉱山が必要になる矛盾

太陽光発電、風力発電、蓄電池、EV、送電設備などを大量に導入するには、多くの金属が必要です。

ところが、その金属を増産するために新しい鉱山を開けば、別の環境負荷が生まれます。

深海採掘はまさにその象徴です。

地球温暖化への対策に必要な鉱物を得るため、ほとんど手つかずの深海を開発してよいのか。

だから議論は「採掘するか、しないか」だけでは終わりません。

使用済み電池や電子機器から金属を回収するリサイクル、製品寿命を延ばす設計、特定金属への依存を減らす電池技術、調達国の分散なども同時に考える必要があります。

深海採掘が本当に必要になるかは、将来の鉱物需要だけでなく、こうした代替策がどこまで広がるかにも左右されます。

2026年以降はISAとアメリカの2つの動きが重要になる

これから特に見ておきたいのは、国際海底機構とアメリカの許認可が別々に進んでいることです。

国際海底機構では2026年7月にも採掘規則が完成せず、次の交渉に向けたロードマップ作りが続きます。

一方、アメリカではTMC USAの探査・商業回収申請について審査が前進しており、2026年8月19日から新たな意見募集も始まりました。

ノルウェーは海域を開放しながらライセンス付与を急がない道を選んでいます。

つまり世界は、

「先に資源を確保したい国・企業」

「生態系とルールを固めてから進めるべきだという考え」

の間で揺れています。

スマートフォンやEVのはるか下、数千mの海底で起きている競争ですが、その行方は将来のエネルギー、安全保障、製造業、そして海洋環境のすべてにつながっています。

参考リンク


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