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浜岡原発の未精算20件とは|取締役会への報告先送りと仕掛費用の付替え【クローズアップ現代】

浜岡原発でデータ不正とは別に起きていた「未精算20件」の問題

『クローズアップ現代(揺らぐ信頼 浜岡原発・データ不正の深層)(2026年8月24日)』をきっかけに浜岡原発の信頼問題を考えるとき、もう1つ見逃せないのが安全性向上対策工事の不適切な調達手続です。取引先との契約変更や精算が長期間行われず、2019年には問題が原子力本部長まで伝わっていたにもかかわらず、取締役会への報告も行われませんでした。未精算20件が判明した経緯と、なぜ対応が長期化したのかを整理します。

この記事でわかること

  • 浜岡原発で判明した未精算20件の内容
  • 2019年の精算要請から対応が長期化した経緯
  • 取締役会への報告が行われなかった背景
  • 新たに判明した「仕掛費用の付替え」と再発防止策

未精算20件は安全対策工事の契約変更を適切に処理しなかった問題

浜岡原発で起きていたのは、安全設備そのものの故障ではなく、安全性向上対策工事を進める際の契約・調達手続の問題です。

浜岡原発では2011年7月から安全性向上対策工事が進められています。その一部で2013年2月以降、原子力部門が本来契約を担当する調達部門を通さず、取引先へ工事の仕様変更を依頼していました。

工事では途中で設備の仕様や施工内容が変わることがあります。その場合、変更した内容に合わせて契約を修正し、追加費用などを正式に精算する必要があります。

ところが一部の工事では、その手続きが行われないまま工事が進行しました。

その結果、仕様変更の内容や精算の必要性などについて原子力部門と取引先の認識が一致せず、類似する未精算案件が20件確認されました。

「未精算」と聞くと単に支払いが遅れていたようにも見えますが、問題の中心はそこではありません。

正式な契約変更を行わずに工事内容を変えたことで、「何を追加したのか」「いくら支払うべきなのか」を後から整理しなければならない状態になっていました。

2019年に取引先が精算を求めていた

大きな転機は2019年5月です。

取引先が浜岡原発側に対し、仕様変更した工事について契約変更と精算を求めました。

その翌月には、この要請が当時の原子力本部長まで報告されています。

つまり、会社の原子力部門トップまで問題が上がっていたことになります。

しかし、取締役会などへの報告は行われませんでした。

その後、浜岡原発と取引先の間で、どこまでを精算対象にするのか協議が続けられました。

ここは今回の問題を理解するうえで重要な部分です。

未精算が起きたことだけなら、契約管理上のミスを修正して終わる可能性もあります。

ところが問題を把握した後も、上位の意思決定機関へ適切に報告されず、解決まで何年もかかったことで、組織の報告体制や内部統制そのものが問われる事態になりました。

2022年には精算の見通しが立ちながら手続きが止まった

取引先との協議は続き、2022年6月頃には精算への見通しが立ちつつある状態になりました。

それでも手続きは進みませんでした。

この時期の原子力本部長だった伊原氏と原子力部長だった名倉氏について、報告では、その後の対応や手続きを先送りし、取締役会などへの報告も行わなかったとされています。

背景には、予算手続きについての誤った認識がありました。

原子力部門では、精算によって予算を超過する場合には取締役会の承認が必要だと考えていました。

さらに当時、安全性向上対策工事では新規投資が凍結されていたことから、取締役会の承認を得ることは難しいと判断していました。

そのため、本来行うべき決裁手続きを進めるのではなく、将来、安全対策工事の大規模な投資判断を取締役会に諮るタイミングで、未精算問題も一緒に処理する考えになっていきました。

しかし再稼働審査の進展が見通せない状態が続き、想定していたタイミングは訪れませんでした。

結果として、未精算問題がさらに長期化することになります。

2025年に取引先が再び精算を要求した

状況が再び動いたのは2024年10月です。

名倉氏と取引先の間で精算を進めることになり、2025年1月頃には取引先から未精算額が提示されました。

原子力部門は改めて請求内容と社内で把握していた内容を突き合わせ、事実関係を調査します。

2025年4月頃までには問題が生じた経緯がおおむね整理され、仕様内容や工数についても取引先とおおむね合意しました。

同年5月には調達部門にも事実関係の確認が行われています。

それでも経営トップへの報告はすぐには行われませんでした。

伊原氏は社長と会長への報告時期を株主総会後と判断し、最終的に2025年7月に報告しました。

社長は事実関係の調査などを指示し、2025年9月になって取締役会へ正式に報告されました。

2019年に最初の精算要請が出てから考えると、取締役会への報告まで約6年を要したことになります。

経済産業省が2度の報告徴収を行った

問題を受け、2025年11月27日には電気事業法に基づく報告が求められました。

中部電力は12月24日に、問題の概要、原因、再発防止策、類似案件などを報告しています。

しかし、それだけでは終わりませんでした。

2026年1月9日には、さらに詳しい経緯と実効性のある再発防止策を示すよう再び報告を求められ、3月31日に追加の報告が行われました。

さらに4月7日には、再発防止策の着実な実施と追加調査結果の報告を求める指導が行われています。

一連の対応からも、単に20件の支払いを終わらせれば解決する問題として扱われていないことが分かります。

焦点になったのは、なぜ正規の調達手続きを外れて工事を変更できたのか、なぜ問題を把握しても長期間是正できなかったのかという組織の仕組みです。

調達部門を通さず仕様変更できるルールにも問題があった

原因をたどると、担当者だけの問題ではなく、当時のルールにも弱点がありました。

工事請負契約では、「軽易な変更」であれば調達部門を介さず、工事完了時にまとめて契約変更できる仕組みがありました。

しかし、どこまでが軽易な変更なのかについて、誤認や拡大解釈が生じる余地がありました。

大型工事で何度も仕様が変わるケースに対応する仕組みも十分ではありませんでした。

さらに、取引先側にも仕様変更を正式に依頼するルートが十分周知されていなかったため、工事担当部門から直接頼まれた変更を正式な依頼だと受け取れる状態になっていました。

安全対策のような巨大工事では、工事を止めずに進める柔軟性も必要です。

一方で柔軟性を優先しすぎれば、契約変更や金額確認が後回しになり、「誰が承認した変更なのか」が曖昧になります。

今回、その弱点が長期間の未精算につながりました。

調達部門によるチェックも十分に機能していなかった

もう1つの問題が牽制機能の不足です。

安全性向上対策工事では工期延長が繰り返され、契約延長の手続きも毎年行われていました。

しかし調達部門による確認は形式的な審査にとどまり、個別工事の進捗や仕様変更まで十分に確認する仕組みになっていませんでした。

原子力部門側にも組織的な予算管理体制がなく、仕様を変えたことで追加費用がどれほど発生するのかを早い段階で把握できませんでした。

つまり、

工事担当者が仕様を変える
→ 調達部門が変更を十分把握できない
→ 追加費用も組織的に管理されない
→ 契約変更と精算が後回しになる

という流れを止める仕組みが弱かったことになります。

未精算20件の調査中に「仕掛費用の付替え」も判明した

さらに重要な問題が、2026年2月に判明しました。

20件のうち精算が完了していなかった1件について確認していたところ、2017年9月に締結された契約の概算見積もりに、中部電力側で内訳や根拠を十分確認できない多額の費用が含まれていました。

取引先へ確認すると、その費用は別の契約で行われたものの、途中で中止された工事にかかった未精算の「仕掛費用」でした。

そして、その費用を別の契約へ計上するよう、当時の原子力部門担当者から口頭で指示されたという説明がありました。

社内記録や関係者への聞き取りが行われ、他の契約で精算すべき仕掛費用が存在していたことと、取引先側の説明内容が事実だったことが確認されています。

これは単に契約変更が遅れた問題とは少し性質が異なります。

本来は別契約で処理すべき費用を、別の契約へ計上していたという問題です。

類似事案について社内と取引先を対象に書面調査した結果、同様のケースはほかには確認されませんでした。

背景に「工程遅延への懸念」と「損失計上への抵抗感」があった

この仕掛費用の問題をめぐる聞き取りでは、関係者の意識についても分析されています。

挙げられたのが、

  • 工程遅延に対する懸念
  • 損失計上に対する抵抗感
  • 費用の付替えを発見しにくい仕組み

という3点でした。

工事を遅らせたくないという意識と、工事中止によって発生した費用を損失として処理することへの抵抗感が背景にあったとされています。

さらに、予算や決裁書、発注単位、仕様などが大きな単位で管理されていたため、異なる契約間で費用が動いても発見しにくい状態でした。

仕掛費用については2025年度決算で損失として処理されています。

この点は、浜岡原発をめぐる一連の問題を考えるうえでも重要です。

問題が発生した後に個人を処分するだけでなく、「工事を予定通り進めたい」「損失を出したくない」といった組織内の圧力が、正しい手続きを上回らない仕組みを作れるかが問われています。

2026年3月から契約変更のルールを厳格化した

再発防止策として、調達手続も大きく変更されました。

2026年3月1日以降に新たに締結する契約では、調達部門を介さない仕様変更は無効とする条項が追加されています。

軽微な変更であっても、仕様変更が発生してから1年以内に正式な契約変更を行うルールになりました。

さらに取引先1,152社に新しいルールを周知し、工事担当部門から調達部門を通さない仕様変更を求められた場合などに相談できる専用窓口も設置されています。

調達部門では、仕様変更を過去分も含め一元管理するシステムを導入。

長期・大型工事については個別の進捗状況を定期的に確認し、原子力部門には予算管理者を配置するなど、担当者だけで工事と予算を管理しない仕組みへ変更されています。

データ不正とは違う問題でも共通して問われる「組織への信頼」

基準地震動のデータ不正と安全対策工事の未精算問題は、別々の事案です。

データ不正では原発の安全審査に使う地震動評価が問題となり、未精算問題では工事契約、予算管理、社内報告などが問題になりました。

ただ、どちらも浜岡原発を運営する組織が、問題を早期に見つけ、上位組織へ伝え、正しい手続きで修正できるのかという信頼に関わります。

原発の安全対策というと、防波壁や耐震設備など目に見える設備へ関心が向きがちです。

しかし、その設備を造る工事の契約管理、審査資料を作る過程、異常を指摘できる社内体制まで含めて機能しなければ、安全への信頼は成り立ちません。

未精算20件が長期化した経緯は、浜岡原発をめぐる問題が設備だけではなく、ガバナンスや組織文化まで含めた課題であることを示す出来事です。

参考リンク


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