立ち退き料は「家賃○か月分」と一律には決まらない
『ザ!世界仰天ニュース(東京・人気街の駅近物件で突然立ち退き?AIが救世主になる?)(2026年9月1日)』の武蔵小山のアパートを見て、「もし自分なら立ち退き料はいくらもらえるの?」と気になる人も多いはずです。実は、居住用賃貸の立ち退き料には全国共通の定額や計算式はありません。引っ越し費用だけでなく、新居の初期費用や借主が受ける不利益などを含め、個別の事情から決まるのが大きなポイントです。
この記事でわかること
- 立ち退き料に一律の相場がない理由
- 引っ越し費用や新居の初期費用の考え方
- 築古アパートの取り壊しで重要になる「正当事由」
- 高齢者など転居が難しい人で事情が変わる理由
立ち退き料に「家賃6か月分」などの決まった相場はない
(出典:品川区「しながわWEB写真館 品川区の東大井工場アパート街」)
最初に一番重要な結論です。
立ち退き料に「家賃の6か月分」「家賃の10か月分」といった法律上の固定相場はありません。
貸主から普通借家契約の更新拒絶や解約を申し入れる場合には、借地借家法上の正当事由が必要になります。
その判断では、貸主と借主がそれぞれ建物を必要としている事情、これまでの賃貸借の経緯、建物の利用状況や状態、そして貸主から申し出る財産上の給付、つまり立ち退き料などが総合的に考慮されます。
さらに重要なのは、立ち退き料を払えば必ず退去させられるわけでもないことです。
立ち退き料は正当事由を補う材料の1つであり、お金だけですべてが決まるものではありません。金額についても明確な一律基準はなく、それぞれの事情を見て判断されます。
ネットで「立ち退き料は家賃○か月分が相場」という数字を見ても、それだけを自分のケースに当てはめないことが大切です。
引っ越し代だけではなく新居に移るための費用も重要になる
立ち退きを求められると、借主には新しい生活を始めるための費用が発生します。
例えば転居すると、
- 引っ越し業者への費用
- 新居の敷金
- 礼金
- 仲介手数料
- 保証会社の費用
- 火災保険料
- 鍵交換などの初期費用
といった負担が考えられます。
裁判例でも、借主が移転によって負担する引っ越しなどの実費や、新しい賃貸借契約を結ぶための保証金等を考慮して立ち退き料を判断した例があります。
ここが「引っ越し代だけ払えば終わり」と考えない方がよい理由です。
今の部屋から出るためには、新しい部屋を借りられる状態まで生活を移さなければなりません。
仮に引っ越し代が10万円で済んでも、新居を借りるために数十万円の初期費用が必要なら、借主にとって実際の負担は大きくなります。
今より家賃が高い部屋しか見つからないことも無視できない
築40年以上のアパートに長く住んでいる場合、現在の家賃が周辺相場より低くなっているケースがあります。
これは立ち退き問題でかなり大きなポイントです。
例えば長年、
家賃6万円
で暮らしていた人が、近隣で同程度の生活環境を維持しようとすると、
家賃8万円
の物件しか見つからないとします。
毎月の差額は2万円です。
1年間なら24万円、2年間なら48万円の負担増になります。
だからこそ立ち退きの話し合いでは、「引っ越しトラック代がいくらか」だけではなく、移転によって借主がどの程度の経済的不利益を受けるのかという視点が重要になります。
ただし、「家賃差額○年分が必ず支払われる」という決まりがあるわけではありません。
立ち退き料の金額そのものに統一された算定基準がないため、貸主側の事情と借主側の事情を合わせて考える必要があります。
築40年以上だから取り壊せるとは限らない
古いアパートでよく出てくるのが、
「老朽化しているから取り壊します」
という理由です。
確かに建物の状態は重要です。
借地借家法28条でも、正当事由を判断するときに建物の現況を考慮する仕組みになっています。
しかし、
築年数が古い=直ちに立ち退き
ではありません。
例えば、
建物が著しく危険な状態なのか
修繕によって使用できるのか
建て替えがどの程度必要なのか
貸主が建物を必要としている理由は何か
借主がそこに住み続ける必要性はどれほど高いのか
などが関係します。
築年数だけで判断する制度ではないということです。
古いアパートに住んでいると「建物が古いから仕方ない」と思ってしまいそうですが、通知の理由をきちんと確認する価値があります。
高齢者の場合は「次の部屋を借りられるか」が非常に大きな問題になる
立ち退き問題を金額だけで考えられない代表的なケースが高齢者です。
長年同じアパートに住んできた70代の人が、
「半年以内に出てください」
と言われたとします。
若い人なら引っ越し先を何件も探せるとしても、高齢になると、
収入条件
保証人
緊急連絡先
健康面
孤独死への貸主側の懸念
などから部屋探しが難しくなることがあります。
実際、長年アパートで生活する70代の人が建て替えを理由に退去を求められ、「年齢的に転居先を見つけることが難しく、転居費用も心配」と相談に至った事例も紹介されています。
つまり高齢者の場合、
「引っ越し代を払うから出てください」
だけでは解決しないケースがあります。
次の住居そのものが見つからなければ、今の生活を簡単には手放せません。
借主が建物を使用する必要性も正当事由を判断する材料になるため、年齢や生活状況は無関係ではありません。
立ち退き料を提示されたら金額だけで判断しない
例えば大家側から、
「立ち退き料として30万円を支払います」
と言われたとします。
30万円という数字だけを見ると大きく感じるかもしれません。
しかし実際には、
新居の敷金・礼金で20万円
仲介・保証・保険などで10万円
引っ越しに10万円
必要なら、それだけで40万円です。
さらに新しい家賃が今より毎月高くなることもあります。
だから確認したいのは、提示された金額ではなく、その金額で実際に生活を移せるのかです。
新居の候補を2〜3件探して、
家賃
初期費用
引っ越し費用
通勤・通院への影響
を具体的に出してみると、必要な負担が見えやすくなります。
特に長く住んでいる人ほど、現在の契約条件が周辺相場より有利になっていることがあるため、次の部屋の費用を確認してから話し合う方が現実的です。
「6か月前に通知されたから必ず退去」でもない
もう1つ誤解しやすいのが6か月という数字です。
期間の定めがない普通借家契約で貸主から解約を申し入れる場合、解約の効力が生じるまで6か月という期間が関係します。
しかし、6か月前に言えば無条件で退去させられるという意味ではありません。
貸主側からの解約には正当事由も必要です。
同じように、期間の定めがある普通借家契約の更新拒絶にも通知時期のルールがありますが、貸主が更新を拒絶する場合には正当事由が問題になります。
ここは、
「6か月前に通知された」
ことと、
「立ち退かなければならない条件が整っている」
ことを分けて考える必要があります。
定期借家契約なら普通借家とは仕組みが違う
ここまでの話で特に注意したいのが、普通借家と定期借家の違いです。
普通借家では、貸主が一方的に更新を拒絶したり解約したりする場合に正当事由が問題になります。
一方、定期借家は契約期間満了によって終了することを前提とした制度です。
そのため、
「友人も立ち退き料をもらったから自分ももらえる」
とは限りません。
まず自分の契約書を見て、
普通建物賃貸借契約なのか
定期建物賃貸借契約なのか
を確認する必要があります。
契約形式が違えば、同じ「退去してください」という話でも法的な前提が変わります。
立ち退き通知が来た日に確認したい7つのこと
突然通知が来ると不安になりますが、すぐに退去の合意書へ署名する必要はありません。
まず確認したいのは次の7つです。
- 契約は普通借家か定期借家か
- 誰が立ち退きを求めているのか
- 退去を求める理由
- 希望する退去期限
- 建物を取り壊す具体的な理由
- 立ち退き料や移転費用の提示
- 新しい住居を探した場合に必要になる金額
さらに、賃貸借契約書、更新書類、通知書、家賃の支払い記録などは残しておきます。
口頭で交渉した場合も、いつ誰と何を話したのかメモしておくと経緯が分かりやすくなります。
立ち退き料より重要なのは「次の生活が成立するか」
立ち退き問題では、どうしても「結局いくらもらえるの?」という数字に目が行きます。
ですが、居住用アパートの場合に一番重要なのは、退去した後も同じように生活できるのかです。
今の家賃はいくらか。
同じ地域の物件はいくらか。
新居を借りる初期費用はいくらか。
高齢でも借りられる物件があるか。
通院や仕事を続けられるか。
こうした事情は人によってまったく違います。
だから立ち退き料にも全国共通の定価を作れません。
借地借家法でも、立ち退き料は貸主側の正当事由を補う要素の1つとして位置づけられており、金額だけで立ち退きの可否が決まる制度ではありません。
突然「○万円払うので出てください」と言われても、その場で結論を出さず、自分が実際に転居するために必要な費用と生活条件を整理することが大切です。
気になる生活ナビをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。

コメント