化石を包む丸い岩から、地下を守る新技術へ
地層の中から見つかる、不思議なほど丸い岩「球状コンクリーション」。『サイエンスZERO(化石を守る!?謎の球体コンクリーション)(2026年8月22日)』では、吉田英一教授が解き明かしてきた形成の仕組みと、その自然現象を地下の亀裂を塞ぐ技術へ応用する研究が取り上げられます。数千万年前の化石を守ってきた仕組みが、放射性廃棄物やCO2の地下貯留を支える可能性まで広がっています。
この記事でわかること
- 球状コンクリーションが丸く形成される仕組み
- 吉田英一教授が100年以上残っていた謎に挑んだ背景
- コンクリーション化剤「コンシード」の特徴
- 地下350mの実証試験と放射性廃棄物・CO2貯留への応用
球状コンクリーションは化石を守る自然の岩塊
球状コンクリーションとは、砂や泥が積み重なった堆積岩の中で、粒子の隙間が鉱物によって埋められ、周囲より硬く緻密になった球状の岩塊です。
特に研究が進められているのが、主成分として炭酸カルシウムを含むタイプです。
世界各地の地層から見つかり、大きさは数cm程度のものから数m級までさまざま。内部からカニ、貝などの化石や、生物の痕跡が良好な状態で見つかることがあります。
普通なら生物の死骸は分解され、長い年月の間に地下水や風化の影響を受けます。
ところがコンクリーション内部では、周囲の砂や泥の隙間が炭酸カルシウムによって急速に埋まり、非常に水を通しにくい状態になります。
研究では、コンクリーションの空隙率は多くが5%以下で、種類によっては透水性が花崗岩に匹敵するほど低いことも示されています。
つまり丸い岩そのものが、内部の化石を外部環境から隔離する天然のバリアとして働いてきたのです。
100年以上の謎を解いた形成メカニズム
球状コンクリーションそのものは古くから知られ、100年以上にわたって研究されてきました。
しかし長い間、なぜ生物の周囲だけが急速に硬くなり、しかも球状になるのかは明確には説明されていませんでした。
形成の重要な鍵になったのが、死んだ生物から出る炭素成分です。
海底の泥の中で生物が死ぬと、分解に伴って炭素を含む成分が周囲へ広がります。
そこへ海水由来のカルシウムイオンが反応すると、炭酸カルシウムが沈殿します。
反応は死骸の周囲を中心に広がるため、
生物の死骸
→ 炭素成分が周囲へ拡散
→ カルシウムイオンと反応
→ 炭酸カルシウムが沈殿
→ 周囲が硬く閉じられる
という流れでコンクリーションが成長します。
丸くなる理由にも「拡散」が関係しています。
中心から成分がさまざまな方向へ広がり、その境界付近で炭酸カルシウムが沈殿するため、風船が膨らむように球状へ成長します。
さらに驚くのが形成速度です。
地質現象というと数千年、数万年かかるイメージがありますが、ツノガイを含む数cm級のコンクリーションでは数週間〜数か月程度で形成されたと考えられています。数m級でも数年程度で形成可能とされています。
この「速く固まり、その後は非常に長く中身を守る」という性質が、後の技術開発につながりました。
吉田英一教授が研究を続けてきた背景
この仕組みを研究してきた中心人物が、名古屋大学博物館館長で応用地質学を専門とする吉田英一教授です。
吉田教授がコンクリーション研究を始めた当時、周囲からはすでに解明された現象ではないかという反応もあったといいます。
しかし文献を詳しく調べても、球状になる理由や形成速度まで明確に説明した研究はありませんでした。
そこで「分かっていないのであれば自分で解こう」と研究を続けました。
吉田教授が専門とする応用地質学は、地球で起きている自然現象を理解するだけでなく、それを社会の課題解決へ生かす分野でもあります。
その視点から見ると、コンクリーションには非常に珍しい特徴がありました。
地下水のある場所で自然に形成され、亀裂や隙間を埋め、その状態を長期間維持することです。
「化石がきれいに残っている」という地質学上の面白さが、やがて「地下施設を長期間守る材料をつくれないか」という工学的な発想につながりました。
自然現象から生まれたコンクリーション化剤
研究成果を応用して開発されたのが、**コンクリーション化剤「コンシード」**です。
名称は「コンクリーションシード」に由来し、名古屋大学と積水化学工業などによって研究・開発が進められてきました。関連技術では特許も取得されています。
発想はとてもシンプルです。
自然界では、生物由来の炭素成分とカルシウムイオンが反応し、炭酸カルシウムが岩の隙間を埋めます。
ならば、その反応を人工的に起こせば、地下岩盤の亀裂も塞げるのではないか。
コンシードは、この自然のコンクリーション形成を応用して、地下水が流れる亀裂や空隙に炭酸カルシウムを形成させる技術です。
単に亀裂へ材料を詰め込むだけではなく、地下水のある環境そのものを利用しながら鉱物を沈殿させ、岩盤内部の水みちを塞いでいく点が特徴です。
実験段階から地下の実環境へ進み、現在はトンネルや放射性廃棄物処分施設など、長期間の止水性能が必要な場所への応用が研究されています。
地下350mで確認されたシーリング性能
コンシードの大きな転機となったのが、北海道幌延町にある地下研究施設で行われた実証試験です。
試験場所は地下約350m。
実際の岩盤にある地下水の通り道へコンクリーション化剤を注入し、約2年間にわたって変化を調べました。
その結果、岩盤亀裂の透水性は、試験開始直前と比較して1/100〜1/1000まで低下しました。
さらに興味深い出来事が起きます。
試験期間中、周辺ではM5.4の直下型地震を含む11回の地震が発生しました。
地震によって一時的にシーリング性能が低下したものの、その後、亀裂部分で再び反応が進み、性能が回復することが確認されました。
これは、最初に固めて終わるのではなく、新たな水みちが生じると再び炭酸カルシウムが形成されて塞ぐ可能性を示す重要な結果です。
数千万年前の化石を守ってきた自然現象が、地震が起こる現代の地下施設でも働く。
球状コンクリーション研究が、単なる珍しい石の研究で終わらない理由がここにあります。
放射性廃棄物やCO2地下貯留への応用
コンシードが特に期待されているのが、非常に長期間の安全性が求められる地下施設です。
代表的なのが高レベル放射性廃棄物の地層処分です。
地層処分では、放射性廃棄物を地下300mより深い場所へ隔離し、人工的なバリアと地質環境を組み合わせて長期間閉じ込めます。
問題になるのが、岩盤やコンクリートに生じる亀裂です。
地下水が亀裂を通れば、長期間にわたる施設の安全性に影響するため、水みちをできるだけ長く塞ぐ技術が必要になります。
2025年には、コンクリーション化技術を利用して放射性廃棄物処分施設に使うコンクリートの水密性を高める技術も開発されました。
もう1つの用途がCO2地下貯留です。
発電所や工場などから出る二酸化炭素を回収し、地下深くへ閉じ込めるCCSでは、CO2が長期間漏れ出さないことが重要になります。
そのほかにも、
- 地下トンネルからの湧水対策
- 石油・ガス井の廃孔
- 深層ボーリング孔
- 地下構造物の長期維持
などへの応用が期待されています。
自然界で長期間化石を守ってきた仕組みだからこそ、「数百年、数千年先を考える地下技術」との相性が注目されています。
コンシードと一般的な補修材料の違い
地下の亀裂を塞ぐ材料としては、これまでもセメント系材料や樹脂などが使われてきました。
コンシードが大きく異なるのは、自然界の鉱物形成反応を利用して水みちを閉じることです。
| 比較 | 一般的な補修・止水材料 | コンシード |
|---|---|---|
| 基本的な考え方 | 材料を亀裂へ充填 | 炭酸カルシウム形成を利用 |
| 地下水との関係 | 施工条件によっては障害になる | 地下環境を反応に利用 |
| 主な目的 | 亀裂の補修・止水 | 長期的な水みちの閉塞 |
| 再び亀裂が生じた場合 | 再補修が必要になる場合がある | 再シーリングする現象を確認 |
| 想定用途 | 建物・トンネルなど | 地層処分・CO2貯留・地下構造物など |
もちろん、コンシードがすべてのセメントや補修材を置き換える技術というわけではありません。
施工条件や求められる強度によって、従来材料が適している場所もあります。
重要なのは、従来の材料では難しかった**「地下深部で水が存在する環境を利用しながら、長期にわたって亀裂を塞ぐ」**という新しい選択肢が生まれたことです。
球状コンクリーションは、もともと人間がつくった材料ではありません。
生物の死骸と海水から始まった自然現象を理解し、その仕組みを人間の技術へ移し替える。
100年以上謎だった丸い岩の研究が、地下数百mで未来のインフラを守る技術へ変わり始めています。
参考リンク
- 名古屋大学 吉田英一研究室「球状コンクリーション研究」
- 名古屋大学「地震後の地下岩盤亀裂の急速シーリングに成功」
- 名古屋大学「放射性廃棄物処分施設に使用するコンクリートの水密性を劇的に高める技術を開発」
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