地熱発電の場所を変える新技術
これまで地熱発電といえば、「地下に豊富な熱水や蒸気がある場所で行うもの」というイメージが一般的でした。その前提を大きく変える可能性があるのがクローズドループ地熱です。『ニッポン 今だ!ラボ(エネルギーの新技術・後編)(2026年8月12日)』でも取り上げられる予定で、地下の熱水に頼らず、人工的につくった地下ループから熱を取り出す仕組みが紹介されます。では、従来型やEGSと何が違い、日本でも本当に使えるのでしょうか。
この記事でわかること
- クローズドループ地熱が従来型と違うポイント
- 地下熱水がなくても熱を取り出せる仕組み
- Eavor-Loopの海外での実用化状況
- 日本での導入状況と本格普及までの課題
クローズドループ地熱とは何が新しいのか
一番大きな違いは、地下に天然の熱水や蒸気が十分に存在することを前提にしない点です。
従来の地熱発電では、地下深くに「熱」「水や蒸気」「水が流れやすい地層」がそろっている場所を探し、そこから高温の流体を取り出します。
ところが、地下を掘ってみなければ十分な熱水があるか分からないケースもあります。せっかく掘削しても、想定していた量の熱水や蒸気が得られなければ、事業計画そのものが難しくなる可能性があります。
一方、クローズドループ方式では、地下深くまで井戸を掘り、閉じた管の中に水などの流体を循環させます。地下の高温の岩盤から管を通じて熱を受け取り、温められた流体を地上へ戻して、その熱を発電や熱供給に利用します。
イメージとしては、地下に巨大な「熱交換器」をつくるようなものです。
初めて知ると少し驚きますが、ポイントは地下水そのものを大量に汲み上げるのではなく、自分たちで用意した流体を閉じた経路の中で循環させることです。
この違いによって、従来なら「岩盤は熱いのに、使える熱水がない」と判断された場所も、将来は地熱利用の候補になる可能性があります。
ただし、「どこでも掘れば発電できる」という意味ではありません。必要な地下温度を得るための深さ、岩盤の状態、掘削費用、設備効率など、事業として成立させる条件は残ります。
温泉や地下熱水がなくても発電できる仕組み
クローズドループ地熱を理解するうえで重要なのが、地下から何を取り出しているのかです。
従来型では、地下に自然に存在する熱水や蒸気を利用します。
クローズドループでは、地下に設置した配管へ流体を送り込み、その流体が周囲の岩盤から熱を受け取ります。温められた流体を地上へ戻し、熱交換によって発電などに利用したあと、再び地下へ循環させます。
Eavorが開発したEavor-Loop(エバーループ)では、地下数千mまで井戸を掘り、そこから横方向にも坑井を延ばして大規模な地下ループを形成します。
ドイツ・バイエルン州のゲーレッツリートでは、地下約4,500〜5,000mにループを設置し、内部で水を循環させて地下熱を取り出し、地上でバイナリー発電や地域熱供給に利用しています。
バイナリー発電では、地下から得た熱で水より沸点の低い別の媒体を温め、その蒸気でタービンを回します。
つまり、
地下岩盤の熱 → 循環水 → 発電用媒体 → タービン
という流れです。
ここで気になるのが温泉への影響です。
Eavor-Loopは地下の熱水や蒸気を直接採取する方式ではないため、天然の熱水を利用する従来型とは地下の使い方が異なります。鹿島も、温泉と競合しにくい場所で地熱開発できる可能性を特徴の1つとして挙げています。
個人的には、この点が日本ではかなり大事だと感じます。
日本には豊富な地熱資源がある一方、温泉地と重なる地域も多くあります。「地下に熱があるから使えばいい」という単純な話ではなく、温泉事業者や地域住民との合意形成が欠かせません。
クローズドループならすべての問題がなくなるわけではありませんが、地下の熱水を直接取り出さないという構造そのものが、従来とは違う選択肢になります。
従来型地熱発電やEGSとは何が違う?
次世代型地熱を調べていると、クローズドループと一緒にEGS(Enhanced Geothermal Systems)という言葉も出てきます。
どちらも「従来型では開発が難しかった地下の熱を利用する」という目的は似ていますが、熱の取り出し方が違います。
| 方式 | 地下の利用方法 | 天然熱水への依存 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 従来型地熱 | 天然の熱水・蒸気を取り出す | 高い | 条件の良い地熱地域が必要 |
| EGS | 岩盤内の割れ目を利用・拡張して水を循環 | 低い | 人工的な地熱貯留層をつくる |
| クローズドループ | 閉じた配管内で流体を循環 | 低い | 地下流体を直接取り出さない |
EGSでは、高温の岩盤があっても水が流れにくい場所に対し、地下へ流体を注入するなどして、既存の割れ目を開いたりつなげたりします。そこへ水を循環させ、岩盤から熱を受け取ります。
一方、クローズドループでは岩盤内部へ循環水を流すための割れ目ネットワークを必要としません。配管の中を循環する流体が周囲の岩盤から熱を受け取ります。米国エネルギー省も、この違いをEGSとクローズドループを分ける重要なポイントとして整理しています。
簡単に整理すると、
EGSは「地下に水の通り道をつくる」方式。
クローズドループは「地下に閉じた熱交換ルートをつくる」方式。
と考えると分かりやすいです。
ただし、クローズドループだから必ずEGSより優れている、という単純な比較はできません。
地下温度、掘削深度、岩盤、必要な発電量、設備コストなどによって適した方式は変わります。
実際に導入するなら「新しい技術だから良い」ではなく、その場所の地下条件に対してどの方式が合理的なのかを見る必要があります。
Eavor-Loopは海外でどこまで実用化している?
クローズドループ地熱で世界的に注目されているのが、カナダのEavor Technologiesが開発するEavor-Loopです。
研究室だけの技術ではありません。
カナダ・アルバータ州では実証設備「Eavor-Lite」が稼働し、その経験を踏まえて商業規模へ進んでいます。最大の注目地点が、ドイツ南部バイエルン州のゲーレッツリートです。
ゲーレッツリートは、以前に従来型地熱のための掘削が行われたものの、十分な地下熱水を得られなかった場所です。
つまり「地下は熱い。しかし従来型地熱には条件が合わなかった」という場所で、クローズドループ方式の商業化が進められています。これはこの技術の特徴を非常に分かりやすく示す事例です。
2025年12月には、Eavor-Loopを使った同事業で一部営業運転が開始されました。
計画全体では地下約5,000mまで掘削し、発電出力約8,200kW、熱供給約64,000kWの規模が示されています。
さらに2026年5月には、Eavorが最初の商業規模ループについて、掘削・接続・試運転まで完了したと公表しています。
ここは少し注意したいところです。
「商業化した」という言葉を見ると、すでに巨大な発電所がすべて完成し、世界各地で一般化しているように感じるかもしれません。
しかし現状は、世界初クラスの商業プロジェクトが実際の運転段階へ入ってきたところです。
たしかにこれは大きな前進ですが、従来型の地熱発電所のように長期間・多数地点で運転実績が積み重なっている技術とは、まだ実績の厚みが違います。
今後は、発電量だけでなく、長期運転したときに地下から安定して熱を取り出せるか、保守費用がどの程度になるか、掘削コストをどこまで下げられるかも重要になります。
日本ではどこで実証や導入検討が進んでいる?
日本では、2026年8月10日時点で、Eavor-Loopを使った国内商業発電所について具体的な建設地点が公表された段階にはありません。
一方で、日本企業はすでに技術獲得と事業化に向けて動いています。
中部電力はEavorへ出資し、ドイツ・ゲーレッツリート事業にも参加しています。現地プロジェクトから地熱事業の知見を得ながら、クローズドループ技術の国内展開も検討しています。
また、鹿島もEavorへ出資しています。地下エンジニアリングの知見を活用しながら、Eavor-Loopに関する技術の獲得や展開に取り組む方針を示しています。
国も次世代型地熱を政策上のテーマに位置付けています。
対象には、
- クローズドループ
- EGS
- 超臨界地熱
などが含まれ、国内外の先行事例、技術的特徴、地下への影響、リスク、法制度上の課題などの調査が進められています。
つまり日本はいま、
「すぐ全国に建設する段階」ではなく、「海外の商業運転から技術を学び、日本で導入できる条件を詰めている段階」
と見るのが現状に近いでしょう。
「日本ではどこにつくられるの?」と聞かれると具体的な地名を知りたくなりますが、現時点では公表されていない計画を予想で挙げない方が安全です。
実際に事業化される段階では、地下温度だけでなく、掘削用地、周辺環境、法規制、地域との合意形成、送電設備なども確認する必要があります。
クローズドループ地熱にもデメリットや課題はある?
クローズドループには大きな可能性がありますが、万能ではありません。
特に大きいのが掘削技術とコストです。
地下数千mまで掘ったうえで、横方向にも長い坑井を正確に延ばし、地下に大規模なループを形成する必要があります。
ゲーレッツリートでは深さ約4,500〜5,000m級まで掘削しています。これだけの地下工事になれば、設備も技術も大掛かりになります。
Eavor自身もゲーレッツリートで掘削方法の改善を重ねており、2025年には坑井の一部区間について掘削時間を50%短縮するなどの成果を公表しました。裏を返せば、掘削の高速化や低コスト化が事業性を左右する重要テーマだということです。
もう1つは、取り出せる熱量です。
地下に熱い岩盤があっても、配管と岩盤の間でどれだけ効率よく熱交換できるかが重要です。長期間運転した場合に地下の温度がどう変化するのかも、プロジェクトごとに評価しなければなりません。
さらに日本の場合は、
- 深い地下を掘るコスト
- 複雑な地質への対応
- 掘削設備や人材
- 開発許認可
- 周辺環境への影響評価
- 地域住民との合意形成
- 発電単価
などを総合的に考える必要があります。
温泉水を直接取り出さないからといって、環境や地下への影響確認が不要になるわけではありません。
個人的には、ここを飛ばして「夢の地熱発電」と表現してしまうと、かえって技術の本当の面白さが見えにくくなると思います。
価値があるのは、課題がゼロだからではありません。
これまで使えなかった地下熱へアクセスできる可能性を広げながら、掘削技術の進歩によってコストを下げようとしていることに大きな意味があります。
日本で本格普及するのはいつ頃になりそう?
現時点で「2030年には全国でクローズドループ地熱発電所が稼働する」といった具体的な普及時期は決まっていません。
ここは予想で断定しない方がよい部分です。
国のGX政策では、クローズドループやEGS、超臨界地熱などを含む次世代型地熱技術について、2030年代早期の実用化を目指す方向が示されています。
ただし、これは個々のクローズドループ発電所の営業運転開始日を約束するものではありません。
今後、
- 海外商業プロジェクトで運転実績を積む
- 掘削コストを下げる
- 日本の地質条件で成立性を確認する
- 法制度や環境面の課題を整理する
- 国内の具体的な事業地点を決める
- 実証・商業化へ進む
という段階を踏む必要があります。
その意味で、2020年代後半は「本格普及期」というより、国内導入の条件を固めていく重要な時期と考えた方が分かりやすいでしょう。
今後ニュースを見るときは、「クローズドループを導入」という言葉だけでなく、
どこで、何m掘り、何kW発電し、いつ運転開始するのか
まで確認したいところです。
さらに、
実証なのか、商業発電なのか
も重要です。
この2つは似ているようで意味がかなり違います。
クローズドループ地熱が本当に日本のエネルギー事情を変える技術になるかどうかは、これから国内の具体的なプロジェクトが公表され、発電量やコスト、長期運転実績が見えてきたときに、より判断しやすくなります。
それでも、従来は「熱水が見つからなければ地熱発電は難しい」とされた場所まで候補になり得る点は大きな変化です。
地熱資源を「地下にある熱水」ではなく、「地下にある熱そのもの」として利用範囲を広げようとしている。
クローズドループ地熱の新しさは、まさにこの発想にあります。
出典ソース
- 資源エネルギー庁「地熱発電も『次世代』へ!課題をクリアし日本の地熱を最大限に活用」
- 中部電力「ドイツ・ゲーレッツリート地熱事業の一部営業運転開始」
- 米国エネルギー省「Enhanced Geothermal Systems」
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