標高3600mへ向かう富士山の山岳救助隊
『朝メシまで。(真夏の富士山!命を守る仕事人SP)(2026年8月26日)』で描かれるのが、標高3600m付近で体調を崩した登山者のもとへ向かう山岳救助隊です。救助隊員は現場まで自ら登り、動けない男性を背負って緊急下山します。富士山ではなぜヘリですぐ助けられないのか、救助隊員は普段どんな仕事をしているのか、富士山の遭難救助を支える仕組みまで詳しく見ていきます。
この記事でわかること
- 富士山の山岳救助隊がどんな人たちなのか
- 標高3600mから人を背負って下山する理由
- ヘリコプターを使えないケース
- 静岡県警山岳遭難救助隊が誕生したきっかけ
山岳救助隊は標高3600mまで自分の足で登って救助する
今回発生するのは、富士山の標高3600m付近で男性が体調不良になり、自力で下山できなくなる遭難です。
標高3600mといえば山頂3776mまで残り約176m。ほぼ富士山頂に近い高さです。
救助要請を受けた隊員は、登山者とは逆に安全な場所から高所へ向かいます。そして遭難者と接触したあと、状態によっては自力歩行ではなく、隊員が背負って標高を下げなければなりません。
山岳救助で大変なのは、患者を見つけたところがゴールではないことです。
体調を崩した人を安全な場所まで運び、必要なら救急搬送や医療につなげて初めて救助が完了します。
富士山を守る救助隊員は普段から山だけにいるわけではない
富士山を含む静岡県内の山岳遭難に対応しているのが、静岡県警察山岳遭難救助隊です。
2026年5月時点で隊員は35人。
警察本部の地域課や警備課航空隊のほか、富士山を担当する御殿場警察署・富士宮警察署、南アルプスを担当する静岡中央警察署などに配置されています。
興味深いのは、隊員の多くが毎日山岳救助だけを担当しているわけではないことです。
普段は交番や駐在所などで一般の警察官と同じように地域の治安を守り、山岳遭難が発生すると招集を受けて出動します。
日常の警察業務をしながら、山岳救助に必要な体力や技術も維持しているということです。
静岡県警山岳遭難救助隊は24人が死亡した富士山雪崩をきっかけに誕生
静岡県警察山岳遭難救助隊が生まれた背景には、富士山で起きた大きな事故があります。
1972年3月20日、富士山御殿場口で大規模な雪崩が発生しました。
死者24人を出す大規模遭難となり、警察からも多くの人員が捜索に投入されました。
しかし雪山では、一般的な警察活動とはまったく違う能力が求められます。
雪や氷の状態を読み、登山装備を使い、急斜面を移動しながら捜索や搬送を行う必要があるからです。
この事故を通じて専門的な登山技術を持つ警察救助隊の必要性が強く認識され、同年11月15日、登山経験や強い体力を持つ警察官11人を選抜して救助隊が発足しました。
現在につながる富士山救助の仕組みには、50年以上の歴史があります。
なぜ救助ヘリですぐに運ばないのか
山岳遭難のニュースを見ると、ヘリコプターが上空から救助する映像を目にすることがあります。
それなら標高3600mの遭難者もヘリで運べばいいように感じます。
しかし、富士山では**「ヘリがある=必ず空から救助できる」ではありません。**
静岡県警は、標高の高い山岳地帯ではヘリコプターがホバリングできない場所があると説明しています。
さらに、
- 悪天候
- 強風
- 雲や霧
- 日没
- 地形
- 遭難地点の状況
などによって出動できないことがあります。
山梨県警も同様に、高標高の山岳地帯や急峻な岩稜ではホバリングできない場所があり、悪天候や日没によってヘリを使用できない場合があると注意を呼びかけています。
そこで最後に頼りになるのが、地上から現場へ向かう救助隊です。
背負って下山するのは標高を下げること自体が救命につながるから
富士山で多い体調不良の1つが高所による症状です。
標高を上げるほど酸素が少なくなるため、頭痛、吐き気、ふらつき、強い疲労などが出て動けなくなる人もいます。
こうした状況では、救助地点に長くとどまるより、安全に標高を下げることが重要になります。
ところが本人が歩けなければ、救助する側が運ばなければなりません。
救助隊員は自分の装備を背負って標高3600m付近まで登ったうえで、遭難者の身体を支えながら下山します。
高所では救助隊員自身も薄い空気の中で動いています。
平地で人を背負って歩くこととは負担がまったく違います。
救助隊員にも同じ富士山の過酷さが襲いかかる
山岳救助では、遭難者だけに危険があるわけではありません。
救助する側も、
- 低酸素
- 急激な気温低下
- 強風
- 雨
- 岩場
- 落石
- 夜間の暗闇
といった条件の中で行動します。
しかも救助隊員は自分だけ安全に歩けばいいわけではありません。
遭難者の身体や担架などを支えながら、一歩ずつ安全なルートを選ぶ必要があります。
救助活動中に隊員が事故を起こせば、救助する人がさらに必要になります。
速さだけでなく、救助する側が事故を起こさないことも山岳救助では極めて重要です。
2026年夏も富士山では体調不良やケガによる救助が続いている
富士山の山岳遭難は特別な出来事ではありません。
静岡県警の2026年8月の発表を見ると、富士宮警察署管内では、
- 8月8日:下山中のケガ
- 8月11日:下山中の体調不良
- 8月15日:登山中のケガ
- 8月19日:登山中の体調不良
- 8月20日:下山中の体調不良と登山中のケガ
- 8月23日:下山中の体調不良
など、富士山で救助隊が出動する遭難が相次いでいます。
「転落するような大事故だけが遭難」というわけではありません。
歩けなくなるほどの疲労や体調不良も、標高の高い富士山では救助要請につながります。
遭難が重なればすぐ救助してもらえないこともある
特に知っておきたいのが、救助隊は無限にいるわけではないことです。
複数の遭難が同じ時間帯に発生すれば、地上救助隊は遭難者の容体などから優先順位を判断します。
その結果、救助隊が到着するまで長時間待たなければならない場合があります。
山梨県警も、地上部隊が出動しても場所によっては現場到着まで1日以上かかることがあり、状況によって遭難地点でビバークを求めるケースがあるとしています。
富士山は登山者が多く、山小屋や救護所もあるため安心感を持ちやすい山です。
しかし助けを求めた瞬間に誰かが到着する場所ではありません。
救助隊を呼ぶ前に持っておきたい装備
警察が繰り返し呼びかけているのが、登山前の準備です。
日帰り登山でも最低限、
- レインウェア
- 予備の飲食物
- ヘッドライト
- モバイルバッテリー
- 登山計画
などを準備するよう求めています。
さらに大切なのが体調です。
2026年8月に富士山で発生した遭難でも「体調不良」は繰り返し登場しています。
出発する時点で体調に不安があるなら登らない。
登山中に異変を感じたら山頂を諦める。
簡単に聞こえますが、これが救助隊を必要としないための重要な判断になります。
山頂まであと少しの場所ほど「戻る判断」が難しくなる
標高3600mまで登れば、山頂はすぐ近くです。
だからこそ、
「あと少しだから」
「ここまで来たのにもったいない」
という気持ちが出てきます。
しかし身体に異変が起きた状態で標高をさらに上げれば、自力で下山できなくなる可能性があります。
今回救助される男性のように、最後は救助隊員が身体を背負って下山しなければならなくなるケースもあります。
富士登山で本当に大切なのは山頂に立ったかどうかではありません。
自分の足で安全に下山できる状態を残しておくことです。
山岳救助隊は「最後に来てくれる人」だからこそ頼らない登山が大切
遭難の連絡が入れば、高所へ登り、患者を探し、状態を確認し、安全な場所まで運ぶ。
天候によってヘリが使えなければ、人の力で下山させる。
富士山の山岳救助は、想像以上に人の力に支えられています。
そして静岡県警の救助隊員の多くは、普段は地域で警察官として働く人たちです。
遭難したとき最後に助けてくれる存在がいることは心強いものです。
だからこそ「救助隊がいるから大丈夫」ではなく、救助隊を呼ばずに帰ってこられる計画を立てることが、富士登山で最も大切な準備といえます。
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