仕事ができる上司ほど「自分でやった方が早い」に注意したい
部下の仕事が遅かったり完成度が足りなかったりすると、つい自分で引き取ってしまう。仕事のできる上司ほど陥りやすい問題です。『ドキュメント20min.(100点の上司)(2026年8月31日)』をきっかけに気になるのが、佐久間宣行さん自身も経験した「上司ができすぎる」ことの落とし穴。失敗した上司時代から現在の任せ方まで掘り下げます。
この記事でわかること
- 佐久間宣行さんが部下の仕事を引き取るのをやめた理由
- 人一倍働く上司が職場を息苦しくしてしまう仕組み
- 「最初だけ徹底的に関わって、その後は任せる」という育成法
- 自分の苦手分野を部下に任せることがチームを強くする理由
佐久間宣行は「部下の仕事を自分でやる上司」をやめていた
(出典:SmartHR Mag.「チームはメンバーが個性を発揮するステージ 佐久間宣行のマネジメント術」)
佐久間宣行さんには、上司になった当初、部下の仕事を見て「このままではダメだ」と感じると自分で仕事を引き取ってしまっていた時期があります。
できる人が代わりにやれば、目の前の仕事は早く終わります。しかし佐久間さんは、その状態を続けても部下の仕事の質が上がらないことに気づきました。
そこから、自分が仕事を奪うのではなく、部下がより良い仕事をするためのアイデアを出し、最後まで付き合う方法へ変えていきます。
これは、「上司が仕事をできすぎても困る」というテーマを考えるうえで、とても分かりやすい実例です。
上司が毎回100点の仕事を代わりに完成させれば、その仕事は成功します。
しかし部下は、自分で考える途中の70点や80点を経験できません。
修正する経験も、失敗から学ぶ機会もなくなります。
今日の仕事を早く終わらせることと、半年後に仕事のできる部下を育てることは別の問題なのです。
「佐久間さんがこんなに働いているから休めない」という上司だった
(出典:ログミーBusiness「佐久間宣行氏が失敗から学んだ、風通しのいい組織の作り方」)
さらに興味深いのが、佐久間さんが30代前半ごろの自分について振り返っているエピソードです。
当時は企画の準備から編集まで人一倍働き、周囲に対して直接「もっと働け」と怒鳴るのではなく、自分自身が猛烈に働くことで手を抜けない空気を作るタイプだったと語っています。
上司が夜遅くまで働いている。
上司が休日でもメールを返す。
上司が誰よりも多くの仕事を抱えている。
本人は部下に強制していなくても、部下からすると、
「自分だけ先に帰りづらい」
「この程度で疲れたと言えない」
「上司と同じくらいやらなければ評価されない」
という空気につながることがあります。
佐久間さん自身も、この方法では長く続かず、職場が息苦しくなると感じ、働き方を変えていきました。
ここが面白いところです。
悪い上司は、必ずしも怒る人や命令する人だけではありません。
真面目で責任感が強く、仕事が大好きな上司だからこそ、知らないうちに部下へプレッシャーを与えることもあります。
部下を育てる方法は「最初だけ徹底的に関わって、その後は任せる」
では、仕事を引き取らなければ部下に全部任せればいいのでしょうか。
佐久間さんの方法は、それとも違います。
新しいスタッフや新しいプロジェクトでは、最初の段階だけかなり細かく関わる方法を取っています。
仕事の作り方や方向性、完成したときの雰囲気まで共有する。
そこまで理解してもらったら、その後は思い切って任せるというやり方です。
最初から、
「自由にやってみて」
と渡して、最後だけチェックする方法では、部下は上司の正解を探すようになります。
「これは佐久間さんならOKと言うかな」
「一度聞いてから進めよう」
という判断待ちが増えてしまうからです。
反対に、最初に考え方そのものを共有しておけば、
「この目的なら、今回はこっちを選ぼう」
と自分で判断できます。
仕事の手順を教えるより、判断する基準を渡す。
この違いはかなり大きいものです。
「どうやるか」より「なぜやるか」を共有する
佐久間さんのチーム作りでは、仕事の方法だけでなく、WhyとWhat、つまり「なぜやるのか」「何を実現したいのか」まで共有することが重視されています。
例えば上司から、
「この資料を金曜日までに20ページで作って」
と言われた場合。
部下には、20ページという形式しか分かりません。
一方、
「初めて見る人が5分で企画を判断できる資料にしたい」
という目的まで共有されれば、
「それならグラフを増やそう」
「説明が重複しているから削ろう」
と自分で考えられます。
目的が分かっているチームでは、想定外のことが起きても判断できます。
佐久間さんも、自分の仮説が外れた場合には、なぜ外れたのかまでチームと共有するようにしています。
つまり優秀な上司が持っている知識を全部使って指示するのではなく、上司の頭の中にある判断材料を部下へ渡すことが重要になります。
自分が苦手な仕事を認めたことでチームが強くなった
佐久間さんの上司論でもう1つ特徴的なのが、自分ができない仕事を認めることです。
テレビ番組を作る立場なら、企画、演出、編集、デザイン、出演者とのコミュニケーションなど、必要な能力は非常に幅広くなります。
佐久間さんは30代半ばごろ、自分より他人の方が得意な仕事については、その人に任せた方がいいと考えるようになりました。
自身の場合、その1つがビジュアル面でした。
自分ですべて作ることをやめ、その分野を得意とするスタッフを集めることで、自分1人では届かなかったところまでチームなら届くという経験につながっています。
上司になると、
「部下より何でもできなければいけない」
と思いやすくなります。
しかし実際には、部下の方が詳しい分野があっても問題ありません。
むしろ、
「これはあなたの方が得意だから任せる」
と言える上司の方が、部下の能力を使えます。
上司が全部70点でできる組織より、
企画はAさん、営業はBさん、デザインはCさんというように、それぞれの100点を組み合わせた方がチーム全体は強くなります。
「ボスが一番努力する」と「全部自分でやる」は違う
ここで誤解したくないのが、佐久間さんが上司自身の努力を軽く考えているわけではないことです。
佐久間さんは、自分のできない仕事は任せながらも、ボス自身が一番準備することを大切にしています。
これは「何でも自分でやる」とは違います。
上司がすべきなのは、
部下より速く資料を作ることではありません。
部下より上手に編集することでもありません。
どこを目指すのかを考える。
必要な情報を準備する。
問題が起きたときに判断する。
部下が力を出せる環境を整える。
そこに上司自身の努力を使います。
厚生労働省の資料でも、管理職に求められる能力として、部下の状況把握、コミュニケーションの機会づくり、明確な指示、部下の自律性を促すことなどが挙げられています。
プレーヤーとして誰より仕事ができることと、管理職として優れていることは同じではないということです。
「自分でやった方が早い」と思った瞬間が上司の分かれ道
経験を積んだ人ほど、新人より仕事が速いのは当然です。
10分でできる仕事に部下が1時間かかっていれば、横から手を出したくなるのも自然でしょう。
ただ、その10分を優先し続ければ、来月も上司が10分でその仕事をすることになります。
部下に1時間かけてもらい、改善点を伝え、次は40分、30分と短くなっていけば、いずれ上司がやらなくても仕事が進むようになります。
佐久間さんが部下の仕事を引き取る方法から、最後まで仕事に付き合う方法へ変えた経験には、その違いがよく表れています。
上司の能力が高いこと自体が問題なのではありません。
その能力を「自分が仕事をするため」に使うのか、「部下が仕事をできるようにするため」に使うのか。
ここでチームの成長は大きく変わります。
優秀な人ほど簡単には手を出さない。
必要なところでは徹底的に助け、それ以外では任せる。
「仕事のできすぎる上司が困る」という一見不思議な言葉の背景には、そんなマネジメントの難しさがあります。
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