吉田安成さんの木彫が「純金の仏像」になる新プロジェクト
『ナゼそこ?(世界的名鑑に載る超一流の人物がナゼ山奥に?300年ぶり大偉業SP)(2026年9月3日)』で取り上げられる仏師・吉田安成さんには、仁王像修理や能登の文化財レスキューとはまったく違う新しい仕事があります。高知県に本社を置くYAMAKINと組み、伝統的な木彫原型と現代の貴金属加工を融合した純金製仏像を制作。2026年9月には実物が初披露されました。伝統を守る仏師が、なぜ最新技術と組んだのかを掘り下げます。
この記事でわかること
- 吉田安成さんが原型を手掛けた純金製仏像
- 「電気鋳造」で精巧な形を再現する仕組み
- YAMAKINと仏師が組んだ理由
- 伝統仏像と最新技術がどう融合したのか
吉田安成さんが原型を彫った「純金製仏像」が2026年に誕生
吉田安成さんの新しい仕事として見逃せないのが、YAMAKINの「純金製仏像プロジェクト」です。
2026年に制作されたのは、吉田さんが木彫原型を担当した誕生釈迦仏像。
YAMAKINが公開した製作例にも「誕生釈迦仏像 2026年」「原型作:仏師 吉田安成」と明記されています。
誕生釈迦仏とは、釈迦が誕生した際の姿を表した仏像です。
今回特に面白いのは、吉田さんが純金を直接彫っているわけではない点です。
まず吉田さんが、飛鳥時代から奈良時代に見られる伝統的な造形を踏まえて木彫の原型を制作します。
その繊細な形をYAMAKINの金属加工技術で写し取り、金色に輝く仏像へ変えていきます。
何百年も受け継がれてきた仏師の仕事と、現代企業の精密加工技術が1体の仏像の中で組み合わされた形です。
木彫の細かな表情を再現する「電気鋳造」とは
この純金製仏像の大きなポイントが電気鋳造です。
電気鋳造とは、電気めっきの技術を応用し、原型の表面へ金属を精密に形成していく加工方法です。
一般的な金属加工では再現しにくい複雑な凹凸にも金属をまとわせられるため、細かな形状を忠実に写し取れるのが特徴です。
仏像には、
- 顔の表情
- 衣のひだ
- 指先
- 髪
- 蓮華座などの装飾
といった細かな造形があります。
仏師が彫った微妙な曲線や凹凸を金属へ移すうえで、電気鋳造との相性が良いことが分かります。
さらに完成品を中空構造にすることで、貴金属の使用量を抑えることもできます。
純金という素材の魅力だけでなく、仏師が作った形をどこまで金属で残せるかという技術的な挑戦でもあります。
なぜ仏像を金色にするのか
金色の仏像は現代人にとっても馴染みがありますが、単なる豪華な装飾ではありません。
日本の仏像には、造像された当初に金箔や金めっきが施されていたものが数多くあります。
長い年月の中で金色が失われ、現在では木肌や黒っぽい表面になっている像も少なくありません。
今回のプロジェクトでは、そうした仏像が本来持っていた金色の姿にも着目しています。
吉田さんが飛鳥・奈良時代の伝統的な様式を踏まえて形を作り、現代の金属加工技術によって金色を与える。
古い仏像をそのままコピーするのではなく、古典的な造形を現代の技術で新しく作るところが特徴です。
YAMAKINはなぜ仏像を作れる会社なのか
純金製仏像を手掛けたYAMAKINは、高知県香南市に本社を置く企業です。
1957年創業で、貴金属地金や貴金属加工のほか、歯科医療材料も手掛けています。
一見すると、仏像とは遠い会社に感じます。
しかし歯科の世界では、小さな歯の形を精密に再現する技術が求められます。
YAMAKINでは、歯科修復物の研究で培ってきた細かな加工技術を、貴金属製の記念品や造形物にも応用しています。
例えば、これまでにも純金を使用した七福神や記念品などを製作してきました。
「金を扱う会社」と「精密な造形を作る会社」という2つの側面があるからこそ、仏師が彫った複雑な原型との組み合わせが成立したわけです。
2025年の金属フィギュアから2026年の仏像へ進化した
今回のプロジェクトは突然始まったものではありません。
YAMAKINは2025年、積層造形技術と電気鋳造技術を組み合わせた中空貴金属構造体のフィギュアを東京インターナショナル・ギフト・ショーで初展示しています。
この技術では、
3Dなどで原型を作る
↓
電気鋳造で複雑な形状を金属として再現する
↓
内部を中空にして貴金属使用量を抑える
という考え方が使われています。
そして2026年、その技術が仏師による本格的な木彫原型と結び付きました。
単なるキャラクターや記念フィギュアから、伝統的な宗教彫刻へ。
ここは今回の純金製仏像を見るうえで、とても興味深い変化です。
2026年9月に東京ビッグサイトで初披露された
純金製仏像は、2026年9月2日から4日まで東京ビッグサイトで開催された第102回東京インターナショナル・ギフト・ショー秋2026で初披露されました。
今回の展示会全体のテーマも「伝統と革新」。
吉田さんの木彫とYAMAKINの電気鋳造を組み合わせた純金製仏像は、まさにこの言葉に重なります。
なお、この展示は一般向け販売イベントではなく、主に流通関係者を対象とした商談見本市です。
仏像そのものだけでなく、技術や製品を新しい市場へ紹介する意味を持った展示だったことが分かります。
仁王像修理とは正反対に見えて実は同じ仕事につながっている
吉田さんの代表的な仕事として知られるのが、高知県のまきでら長谷寺で行った仁王像修理です。
約300年前の修理記録が残る古い像を、できる限り歴史を残しながら未来へ渡す仕事でした。
一方、純金製仏像は新しい仏像を生み出す仕事です。
古仏修理では、昔の職人が作った形を守る。
純金製仏像では、昔の様式を学んだ現在の仏師が新しい原型を作る。
方向は正反対に見えますが、どちらにも古典的な仏像の形と技術を次代へ残すという共通点があります。
吉田さんが文化財修理だけを行う職人ではなく、「造仏」を続ける仏師であることがよく分かる仕事です。
世界的名鑑への掲載が企業との新しい仕事にもつながった
吉田さんは2024年、世界各地の優れた職人を紹介するHomo Faber Guideに掲載されました。
YAMAKINも純金製仏像の紹介で、吉田さんを同プラットフォームに日本の仏師として初めて登録された人物として紹介しています。
高知の山奥に工房を構えながら、海外からも知られる職人となり、今度は同じ高知県に拠点を持つ企業の最新技術と協業する。
吉田さんの活動は、
寺院の古仏修理
→新しい仏像制作
→文化財レスキュー
→海外の職人プラットフォーム
→企業との新しい仏像制作
へと広がっています。
「山奥で仏像を彫る職人」というだけでは見えてこない現在の姿です。
純金製仏像は伝統工芸と先端技術の新しい組み合わせ
仏像制作というと、木に向かって彫刻刀を入れる昔ながらの作業を想像します。
今回も最も重要な出発点は、吉田さんが手で彫る木彫原型です。
しかし、その先には電気鋳造という現代の金属加工があります。
伝統技術を守ることと、新しい技術を取り入れることは必ずしも反対ではありません。
仏師が持つ造形力を別の素材や製法へ広げることで、これまでとは違った仏像が生まれます。
約300年ぶりの仁王像大修理で「過去を未来へ渡す仕事」をした吉田さんが、2026年には未来へ残る新しい仏像を作る側にも立っている。
既存の記事とは切り口が完全に異なり、吉田安成さんの「現在」を知るうえで外せない仕事です。
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