- 日本の古着が海外へ「逆流」する時代に起きていること
- 日本の古着をアメリカ人が買い戻す「逆流現象」が起きている
- パトリック・マタモロスはハリウッドセレブ御用達の伝説的古着バイヤー
- クエイヴォのため日本でヴィンテージTシャツを買い付け
- 岩谷幸舗は世界のヴィンテージTシャツ市場を追う日本人バイヤー
- ニルヴァーナのTシャツが112万円になった理由
- 日本のアニメやアートTシャツも世界的なコレクター商品になっている
- 高額化とともに増えるヴィンテージTシャツの偽物
- タイの古着王サリーム・ガンチは世界中からヴィンテージを集めている
- 売れる古着と廃棄される古着という2つの現実
- 混合繊維を数分で分ける大阪大学のリサイクル技術
- 古着を家具へ変えるPANECOという日本発のリサイクル素材
- 古着バイヤーを仕事にする人も増えている
- 日本の古着が世界を巡る理由は「服以上の価値」が生まれるから
- 気になる生活ナビをもっと見る
日本の古着が海外へ「逆流」する時代に起きていること
『所さん! 事件ですよ(夏休みSP ハリウッドセレブが爆買い!世界を駆け巡る日本の古着)(2026年8月18日)』では、日本に眠る古着を求めて世界中のバイヤーが動く現場が取り上げられました。ハリウッドセレブ御用達のパトリック・マタモロス、日本のトップバイヤー岩谷幸舗さん、タイの“古着王”サリーム・ガンチさんまで登場。なぜ日本の古着が100万円を超えるほど高騰するのか、その背景には古着ならではの価値と世界規模の流通があります。
この記事でわかること
- 日本の古着をアメリカ人バイヤーが買い戻す理由
- パトリック・マタモロスと岩谷幸舗さんの仕事
- 100万円を超えるヴィンテージTシャツが生まれる仕組み
- 古着ブームの裏側にある廃棄問題と日本のリサイクル技術
日本の古着をアメリカ人が買い戻す「逆流現象」が起きている
いま古着の世界では、少し不思議な現象が起きています。
アメリカで作られた古着を、アメリカ人バイヤーが日本まで来て買い戻しているのです。
背景にあるのが、1980年代後半から1990年代を中心に日本へ大量に入ってきたアメリカ製の衣料です。日本ではアメカジや古着文化が広がり、アメリカのTシャツ、デニム、ミリタリーウェアなどが数多く輸入されました。
ところが年月がたつにつれ、本国アメリカでは当時の衣料が少なくなりました。
一方、日本ではコレクターや古着店によって大切に保管されてきたものが多く、状態の良いヴィンテージが見つかります。
円安も海外バイヤーには追い風です。
かつて日本人がアメリカへ渡って古着を探していた流れが逆転し、今度はアメリカやアジアのバイヤーが東京や大阪へ向かっています。
単なる中古衣料ではなく、日本そのものが世界有数のヴィンテージ古着の在庫場所になっていることが大きなポイントです。
パトリック・マタモロスはハリウッドセレブ御用達の伝説的古着バイヤー
その象徴的な人物が、アメリカのヴィンテージTシャツディーラー、Patrick Matamoros(パトリック・マタモロス)です。
若いころからヴィンテージTシャツに魅了され、ニューヨークの路上やフリーマーケットなどで販売を始めました。
彼が扱うのは、単に古いTシャツではありません。
音楽、映画、アート、サブカルチャーなどの背景を持った1枚を見極め、着る人のスタイルまで考えて選ぶのが特徴です。
その審美眼が評価され、カニエ・ウェストをはじめ著名なミュージシャンやファッション関係者へヴィンテージTシャツを提供してきました。自身の活動では「Saint Luis」の名でも知られています。
ヴィンテージTシャツの価値を決めるのは、「何年前のものか」だけではありません。
アーティスト、ツアー、プリント、ボディ、製造年代、流通枚数、状態など、複数の条件が重なることで価値が大きく変わります。
パトリックが伝説的な存在とされる理由は、高額商品を売ること以上に、世界中に散らばるヴィンテージの中から次に価値を持つ1枚を見抜く目にあります。
クエイヴォのため日本でヴィンテージTシャツを買い付け
パトリック・マタモロスが日本を訪れた目的の1つが、アメリカの人気ラッパーQuavo(クエイヴォ)のための衣装探しでした。
パリ・コレクションへ行く際に着る古着のセレクトを任され、東京・下北沢や原宿、大阪まで移動しながら買い付けています。
ここからもヴィンテージバイヤーという仕事の特殊性が分かります。
ネットショップで条件を入力して商品を注文するわけではありません。
店や倉庫を歩き、何百、何千枚という服の中から、
「誰が着るのか」
「どんな場所で着るのか」
「どのような文化的背景を持つ服なのか」
まで考えながら探します。
希少品を見つける知識だけでなく、ファッションスタイリストに近い感覚まで要求される仕事なのです。
岩谷幸舗は世界のヴィンテージTシャツ市場を追う日本人バイヤー
パトリックが日本で一目置いている人物として登場したのが、ヴィンテージTシャツバイヤーの岩谷幸舗(いわたに こうすけ)さんです。
大阪のヴィンテージショップ「greatLAnd」に関わり、世界各地を回りながら希少なTシャツを探してきました。
岩谷さんは服飾の専門学校へ進んだ後、古着の世界へ入り、長年にわたりヴィンテージTシャツを扱ってきた人物です。海外での買い付けにも足を運び、高額化するヴィンテージTシャツ市場を追い続けています。
日本国内だけを見ていては仕入れが成立しないのが、この世界のおもしろいところです。
日本からアメリカへ。
アメリカから日本へ。
さらに日本からタイへ渡り、そこで再び日本人バイヤーが買い付ける。
1着の服が国境を何度も越えながら価値を高めていきます。
ニルヴァーナのTシャツが112万円になった理由
大阪でパトリックが選んだのが、NIRVANA(ニルヴァーナ)のオーストラリア公演に関連するヴィンテージTシャツでした。
交渉の結果、価格は112万円。
Tシャツ1枚として考えると驚くような金額ですが、ヴィンテージ市場では服としての実用品とは違う基準で値段が決まります。
特に重要になるのが、
- 当時のオリジナルであること
- 製造枚数や現存数が少ないこと
- 人気の高いミュージシャンや作品に関連していること
- プリントやボディに特徴があること
- 保存状態が良いこと
などです。
さらにニルヴァーナのように世界中にファンがいるバンドの場合、音楽ファンだけでなくファッションコレクターも購入希望者になります。
需要は世界規模なのに供給される本物は増えません。
そのため希少なヴィンテージは、時計やアート作品に近いコレクターズアイテムになっています。
日本のアニメやアートTシャツも世界的なコレクター商品になっている
高額化しているのは欧米のロックTシャツだけではありません。
タイ・バンコクで岩谷さんが探していたのは、日本のポップカルチャーに関連するヴィンテージTシャツでした。
「NARUTO-ナルト-」「遊☆戯☆王」など、日本で生まれた作品のTシャツが海外で取引されています。
さらに高い評価を受けていたのが、世界的に知られる日本人アーティスト空山基さんに関連するTシャツです。
空山さんはメタリックな女性型ロボットなどで知られ、初代aiboのデザインにも携わったアーティストです。
岩谷さんがタイで購入を決めたTシャツの提示価格は110万円でした。
ここで重要なのは、作品そのものの人気だけではありません。
昔は普通の商品だったTシャツが、時間の経過とともに残存数を減らし、「当時存在した文化を残すもの」へ変化しています。
日本のアニメやゲーム、アートの海外人気が高まれば、かつて国内で販売されたTシャツが海外コレクターから狙われるケースはさらに増えていきそうです。
高額化とともに増えるヴィンテージTシャツの偽物
1枚100万円を超える市場になれば、当然問題になるのがフェイク品です。
人気Tシャツをスキャンしてプリントを再現するなど、偽物も精巧になっています。
分かりやすいケースでは、本物から画像を読み取る過程でプリントの細部が失われ、線や文字がぼやけることがあります。
ただし、それだけで判断できるとは限りません。
タグ、縫製、ボディ、プリント方法、インク、年代による仕様などを総合的に見なければならず、経験豊富なバイヤーでも判定が難しいものがあります。
高額なヴィンテージTシャツを購入する場合は、画像だけで価格の安さに飛びつくのではなく、販売者の実績や商品の来歴まで含めて確認することが重要です。
タイの古着王サリーム・ガンチは世界中からヴィンテージを集めている
世界規模の古着流通を語るうえで欠かせない人物が、タイを拠点にするSaleem Ghanchi(サリーム・ガンチ)さんです。
パキスタンで古着に囲まれて育ち、若いころから衣類の山の中から価値のあるヴィンテージを見つける経験を積んできました。
その後バンコクへ拠点を移し、世界中から古着を集める巨大なビジネスへ発展させています。
日本との関係も深く、以前から日本人バイヤーがサリームさんの倉庫を訪れてきました。2018年には約30億円規模と紹介されていたコレクションは、その後も世界的なヴィンテージ市場の拡大とともに注目され続けています。
特に力を入れている分野の1つがヴィンテージデニムです。
大量の古着を扱う卸売業者であると同時に、自ら希少品を選び抜いて保存するコレクターでもあります。
古着が「安い中古衣料」から「資産価値を持つコレクション」へ変化してきた象徴的な人物といえます。
売れる古着と廃棄される古着という2つの現実
一方で、すべての古着が高値になるわけではありません。
世界規模で大量の衣料が移動することで、再利用できない衣類まで輸出先へ流れる問題も起きています。
ケニアには巨大な中古衣料市場があり、多くの人が古着の輸入、仕分け、販売などを仕事にしています。
古着は安価な衣料を提供すると同時に、多数の雇用を生み出す産業でもあります。
しかし再販売できない服が大量に残れば、処理するのは輸入した国です。
特にポリエステルなどの化学繊維は自然には簡単に分解されません。
つまり古着には、
「服を長く使うことで廃棄を減らせる」
という側面と、
「売れない衣類を別の国へ移動させているだけになってしまう」
という側面があります。
近年の欧州でも、中古衣料として輸出されたものが輸出先で廃棄物になる問題が政策課題として議論されています。
混合繊維を数分で分ける大阪大学のリサイクル技術
衣料リサイクルを難しくしている大きな原因が混紡繊維です。
例えば綿100%なら比較的素材を扱いやすい一方、「綿50%・ポリエステル50%」のように異なる繊維を組み合わせた服は分離が難しくなります。
そこで大阪大学大学院工学研究科の宇山浩教授らが開発したのが、電子レンジにも使われるマイクロ波を利用する技術です。
綿とポリエステルの混紡繊維を触媒とエチレングリコールに入れ、マイクロ波で数分間加熱します。
すると綿を残しながらポリエステル部分を分解でき、ポリエステルについてもPETの原料につながる物質として回収できます。
2025年にはポリウレタンを含むストレッチ素材にも研究が広がりました。
古着を「着られる人へ渡す」だけでは解決できなかった衣料廃棄問題に対して、素材そのものへ戻して再利用する道が開かれようとしています。
古着を家具へ変えるPANECOという日本発のリサイクル素材
もう1つ違った方法で古着を再利用しているのが、WORKSTUDIOが展開するPANECOです。
不要になった衣類などの繊維廃棄物を原料としてボード状の素材へ加工し、家具や店舗什器、内装などへ利用します。
2026年2月にドイツ・デュッセルドルフで開催された世界最大級の小売業見本市「EuroShop 2026」にも出展し、繊維リサイクルボードや時計などを紹介しました。
ポイントは、服をもう1度服に戻すことだけがリサイクルではないということです。
着られなくなった衣料でも、粉砕して素材として利用できれば、家具や建築材料として寿命を延ばせます。
100万円を超えるTシャツとは正反対ですが、これも古着に「次の価値」を与える方法です。
古着バイヤーを仕事にする人も増えている
古着人気は、「買う人」「集める人」だけでなく、新しい働き方にもつながっています。
愛知県で行われた古着バイヤーの講習には、副業や独立を目指す人たちが参加していました。
運営するVintage Buyer Collegeでは、仕入れだけでなく販売戦略や利益管理など、古着をビジネスとして扱う方法を学ぶ仕組みを展開しています。
ただし、古着販売は「安く買って高く売れば簡単に稼げる」という仕事ではありません。
仕入れた商品が必ず売れるわけではなく、在庫を抱えるリスクがあります。
実店舗を持つなら家賃や改装費、人件費なども必要です。
ネット販売でも、
商品を選ぶ
→状態を確認する
→洗浄・メンテナンスする
→採寸する
→撮影する
→説明を書く
→出品する
→梱包して発送する
という作業があります。
特にネット販売では写真が購入判断を大きく左右します。
副業として始めやすい面がある一方、仕入れ資金と在庫管理を伴う小売ビジネスであることは忘れない方がよいでしょう。
日本の古着が世界を巡る理由は「服以上の価値」が生まれるから
日本からアメリカへ渡った服が、何十年後かに日本へ戻り、再びアメリカ人によって買われる。
日本で使われなくなった服がタイへ渡り、そこで日本人バイヤーが買い戻す。
さらに一部は100万円を超えるコレクター商品になる一方、価値を見いだされなかった衣類はアフリカなどへ流れ、廃棄物になることもあります。
同じ「古着」という言葉でも、その行き先はまったく違います。
現在の古着市場を動かしているのは、単なる中古品としての安さだけではありません。
誰が作ったのか、いつ作られたのか、どんな音楽や映画、アートと結びついているのか。
こうした物語まで含めて価値が決まります。
一方で大量の服を世界中で作り続ける以上、売れなくなった服をどう循環させるかという課題も残ります。
パトリック・マタモロスや岩谷幸舗さんが1枚の希少なTシャツを探し続ける世界と、混合繊維を素材へ戻そうとするリサイクル研究は、一見まったく違うように見えます。
しかし共通しているのは、**「服を使い捨てで終わらせず、次の価値へつなげる」**という点です。
参考リンク
- Patrick Matamoros インタビュー|JUICE STORE
- 綿とポリエステルをマイクロ波で分別する新技術|大阪大学
- PANECO Textile Recycling Board|PANECO
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