子ども7人でも個室は4室、9人家族が暮らす「峻嶺の家」の設計
『見取り図の間取り図ミステリー!(大家族&激安移住スペシャル)(2026年8月27日)』で気になるのが、群馬県で子ども7人と両親が暮らす9人家族の住宅です。家を設計した父親は一級建築士。前橋市には、まさに夫婦と子ども7人が暮らす井野優一さんの自邸「峻嶺の家」があります。個室を人数分つくるのではなく、家族それぞれの「居場所」を家全体に散りばめた住まいです。
この記事でわかること
- 9人家族が暮らす「峻嶺の家」と井野優一さん
- 約175坪の敷地に平屋を選んだ住まいの特徴
- 子ども7人に対して子ども部屋が4室の間取り
- 中庭・テレビスペース・断熱・耐震まで考えた設計
群馬の9人家族宅「峻嶺の家」は井野優一さんの自邸
峻嶺の家(しゅんれいのいえ)は、群馬県前橋市に建つ平屋住宅です。
設計を手がけた井野優一さんは、前橋市の工務店「株式会社群栄美装」の代表取締役で、一級建築士、一級建築施工管理技士、管理建築士の資格を持つ住宅設計のプロです。
自身の妻と子ども7人、合わせて9人で実際に暮らす自邸として2025年2月に完成しました。住宅であると同時に、群栄建築舎の家づくりを体感できるモデルハウスにもなっています。
(出典:群栄建築舎「峻嶺の家」掲載ページ)
家の規模もかなり大きく、敷地面積は578.69平方メートル、約175坪。延床面積は217.50平方メートル、約65.8坪です。
建物は2階建てではなく平屋。
9人家族なら部屋数を増やすために2階建てを選びそうですが、家族の生活を1つの階にまとめています。中央に中庭を置き、その周囲を建物が囲むコートハウス形式になっているのが大きな特徴です。
井野優一さんは住宅事業をゼロから立ち上げた一級建築士
井野さんは1986年、群馬県前橋市生まれ。
前橋商業高校を卒業後、足利工業大学工学部建築学科で建築を学び、卒業後はゼネコンで現場監督として公共施設などの施工管理に携わりました。
その後、27歳のときに父親が経営していた群栄美装へ入社します。
当時の会社はゼネコンの下請工事が中心でしたが、井野さんには自分で設計や施工に関われる住宅をつくりたいという思いがありました。
資格取得後に設計事務所登録を行い、会社の住宅事業を立ち上げています。
つまり「峻嶺の家」は、建築士がモデル住宅として考えた家というだけではありません。
7人の子どもを育てている父親自身が、自分たち9人の生活を材料に設計した住宅というところが面白さです。
家事の回数も、家族が同時に動く人数も、一般的な4人家族とは大きく違います。だからこそ、部屋数を増やすだけではない設計になっています。
子ども7人なのに子ども部屋は4室
特に目を引くのが、子ども7人に対して子ども部屋が4室しかないことです。
家族が多いと「人数分の個室が必要」と考えがちですが、この家が重視しているのは個室の数そのものではありません。
日本エコハウス大賞では、この住宅について、多人数の家族が思い思いに過ごせるよう、家の内外に数多くの居場所を散りばめている点が紹介されています。
つまり、子どもが過ごす場所を「自分の部屋」だけに限定していないのです。
リビング、ダイニング、広めの通路、中庭、小下がりなど、家の中に「ここでも過ごせる」という場所を複数つくる。
7人全員がそれぞれ個室に閉じこもらなくても、誰かと一緒にいたいときと、少し離れたいときを選べる構成になっています。
大家族の住まいでは、これはかなり重要な考え方です。
9人が1つのリビングに集まるか、9人がそれぞれ個室へ行くかという2択ではなく、その中間となる居場所を増やす設計だからです。
中庭を中心にしたコの字型の平屋
家の中心にあるのが中庭です。
「峻嶺の家」は、中庭を囲うように建物を配置したコの字型のコートハウス。外に向かって大きく開くだけではなく、家の内側に向かって開く構造になっています。
大きな窓を設けながら、外からの視線を遮りやすいのもメリットです。
9人家族にとって中庭は景色を見るためだけの場所ではありません。
室内にいる人、庭にいる人、廊下にいる人が完全に分断されず、家族の気配を感じながら別々のことをできます。
しかも平屋なので、上下階を行き来する必要がありません。
家族の人数が多いほど「誰がどこにいるのか」が分かりにくくなりますが、中庭を中心に各空間をつなぐことで、家全体に緩やかな一体感が生まれます。
テレビはリビングの主役ではなく「小下がり」に置く
一般的な住宅では、リビングの中心にテレビを置き、ソファをその方向へ向ける間取りが多く見られます。
峻嶺の家には、小下がりのテレビスペースがあります。
小下がりとは、周囲の床より一段低くした空間のことです。
さらに赤城山を望むダイニングや庭先の屋根付き空間、ゆとりを持たせた通路など、家の中に異なる性格を持つ場所が設けられています。
テレビを見る場所まで独立した「居場所」として扱っているわけです。
これならテレビを見たい子と、静かに過ごしたい子が同じ時間にいても、お互いの行動がぶつかりにくくなります。
子どもが7人いる家庭だからこそ、巨大なリビング1室ですべてを解決するのではなく、過ごし方の違いを受け止める小さな空間を複数つくる発想が生きています。
赤城山を見るため北側にも大きな窓を設けた
もう1つ面白いのが窓です。
住宅では冬の日射を取り込むため、南側の窓が重視されます。
ところが峻嶺の家では、北側にも大きな開口部を設けています。
理由は、群馬を象徴する赤城山を暮らしの景色として取り込むためです。
井野さんは住宅の性能だけでなく、「窓から何が見えるのか」まで住み心地の一部として設計しています。
数字だけなら不利になる部分があっても、毎日眺める景色には別の価値があります。
その一方で、北側の大開口によって断熱面が弱くならないよう、断熱や空調を組み合わせて補っています。
9人暮らしでも断熱等級6・耐震等級3
デザイン性の高い住宅ですが、性能面もかなり本格的です。
断熱性能を示すUA値は0.31W/㎡Kで断熱等級6。気密性能を示すC値は約0.3㎠/㎡です。
さらに構造は、許容応力度計算による耐震等級3となっています。太陽光発電と蓄電池も備えています。
屋根には300mm、壁には120mmの木質繊維系断熱材を使い、さらに外側にも断熱材を加える構成です。
窓にもトリプルガラスを使用した高断熱木製サッシなどを採用しています。
延床約66坪という大きな平屋を9人で使うとなれば、冷暖房も気になります。
この家では暖冷房負荷や空調の風量まで計算し、住宅全体の温熱環境を設計しています。
「広い家だからエアコンをたくさん付ける」のではなく、建物そのものの断熱・気密性能を高めたうえで空調を考える住宅です。
「峻嶺の家」は日本エコハウス大賞の最優秀賞を受賞
峻嶺の家は、日本エコハウス大賞2026のモデルハウス・自邸部門で最優秀賞を受賞しています。
評価されたのは、省エネルギー性能だけではありません。
紀州材や自然由来の塗り壁といった素材、中庭を中心とした空間構成、赤城山を取り込む窓、そして多人数の家族がそれぞれ過ごせる居場所をつくった点まで含めて、建築としての完成度が評価されています。
子ども7人の家というと、収納量や部屋数ばかりに目が向きます。
しかし、この住宅を見ると本当に重要なのは、単純な「何LDK」という数字ではないことが分かります。
9人が同時に暮らしても、集まる・離れる・遊ぶ・休むを選べること。
そのために中庭、小下がり、広い通路、ダイニング、子ども部屋などを組み合わせています。
「子ども7人なのに4室しかない」のではなく、4室だけに頼らなくても暮らせる家をつくっているところに、一級建築士の父親ならではの答えがあります。
参考リンク
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