歯医者のいない島を支える巡回診療
歯が痛くなれば近くの歯科医院へ行く。多くの地域では当たり前のことですが、鹿児島県三島村の竹島や硫黄島には、常設の歯科医院がありません。『ドキュメント72時間(鹿児島 歯医者のいない島で)(2026年7月24日)』では、診療設備を積んだバスで島を巡る歯科医療チームに密着しました。そこから見えてきたのは、虫歯を治すだけではない、島の暮らしを守る巡回診療の役割です。
この記事でわかること
- 三島村で歯科治療を受ける方法
- 巡回歯科診療車でできる治療
- 子どもが島外受診を勧められる理由
- 離島で虫歯予防が重要になる背景
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三島村では巡回歯科診療車で虫歯を治療している
鹿児島県の三島村には、竹島、硫黄島、黒島の3つの有人島があります。
それぞれの島には医科のへき地診療所がありますが、日常的に通える常設の歯科医院はありません。そのため、県の事業として歯科医師や歯科衛生士などが島を訪れ、住民の健診や治療を行っています。
巡回先には、三島村の竹島、硫黄島、黒島のほか、十島村の各島や屋久島町の口永良部島なども含まれます。歯科医院がない地域を診療車で訪れることで、住む場所による医療の差を小さくする取り組みです。
番組で訪れた竹島では、診療設備を積んだバスの車内で治療が行われました。予約が重なった場合には、公民館も診察場所として使用されています。
島に住む人にとっては、歯科医師が来る日が数少ない受診の機会です。歯に違和感がなくても診てもらう人がいる一方で、仕事の都合をつけ、痛みを抱えながら訪れる人もいます。
普段なら「少し痛いから来週予約しよう」と考えられますが、島では同じようにはいきません。次にいつ診てもらえるのかを考えながら受診する必要がある点は、初めて知ると少し驚きます。
巡回歯科診療車ではどこまで治療できる?
巡回歯科診療は、口の中を見るだけの簡単な健診ではありません。
番組に登場した診療車には、歯科医院で見かけるような診療台やうがい台、治療器具などが備えられていました。設備の範囲内であれば、虫歯を削って詰める処置など、一般的な歯科治療を行えます。
主に想定されるのは、次のような診療です。
- 虫歯や歯茎の状態を確認する健診
- 虫歯を削って詰める処置
- 歯石除去や口腔ケア
- 入れ歯の確認や簡単な調整
- 子どもの学校歯科健診
- 日常の歯磨きや予防に関する指導
2024年度の事業報告では、巡回診療車による離島・へき地での歯科診療は37日間行われ、対象地域全体で延べ347人が受診しています。学校歯科健診も別に実施され、三島村では62人の児童生徒が受診しました。
一方、診療車ですべての治療が完結するわけではありません。
詳しい検査や専門的な設備が必要な治療、全身管理を伴う処置などは、島外の医療機関を紹介されることがあります。患者の年齢や虫歯の深さ、治療中に動いてしまう可能性などによっても判断は変わります。
「診療車が来れば何でも治せる」と考えるのではなく、島内で対応できる治療と、島外でなければ難しい治療があると理解しておくことが大切です。
年2回の巡回だから早めの受診が欠かせない
番組で紹介された巡回歯科診療は、県の事業として年2回実施されています。
半年に1度程度の機会と考えると、歯科医院が身近にある地域との違いがよくわかります。町の歯科医院なら、治療後に「来週また診せてください」といわれても通えますが、離島の巡回診療では、同じ歯科医師が翌週も島にいるとは限りません。
虫歯の状態によっては、1回では治療が終わらないこともあります。神経まで達した虫歯や歯の根の治療では、何度か通院しなければならない場合があります。
そのため巡回診療では、限られた滞在期間の中で、治療の緊急性や必要な回数を考えながら進めることになります。
個人的には、この継続して通えない難しさが、離島の歯科医療を考えるうえで最も大事な点だと感じます。設備を島へ運ぶだけでなく、その後の経過をどう見るのかまで考えなければならないからです。
歯が痛くなってから受診するよりも、巡回日に合わせて健診を受け、問題が小さいうちに見つけてもらうことが重要になります。
子どもの虫歯は島内で治せないこともある
竹島では、小学3年生の女の子が巡回診療を受けました。
前年の学校歯科健診では虫歯がなかったものの、今回の診察で虫歯が見つかり、島外の大きな病院で治療するよう勧められています。
「診療車に設備があるのに、なぜ島外へ行く必要があるのだろう」と気になるところです。
子どもの虫歯治療では、虫歯の深さだけでなく、治療への恐怖心、長時間口を開けていられるか、途中で動いてしまわないかなども考える必要があります。安全に治療するため、より設備や人員が整った医療機関が選ばれる場合があります。
硫黄島では、学校健診で虫歯が見つかった子どもが、巡回診療で人生初の治療を受けました。緊張しながらも、約45分かけて治療を終えています。
同じ子どもの虫歯でも、すべて同じ対応になるわけではありません。
| 確認すること | 判断に関係する内容 |
|---|---|
| 虫歯の進み方 | 浅い虫歯か、神経に近い虫歯か |
| 治療に必要な回数 | 1回で終わるか、継続通院が必要か |
| 子どもの状態 | 落ち着いて治療を受けられるか |
| 必要な設備 | 診療車の設備で対応できるか |
| 全身への配慮 | 持病やアレルギーなどがないか |
島内で治せなかったからといって、巡回診療が役に立たなかったわけではありません。
むしろ、島外での治療が必要な虫歯を早い段階で見つけ、適切な医療機関につなぐことも、巡回診療の重要な役割です。
島外の歯科医院へ行くには船の運航確認が必要
竹島や硫黄島から鹿児島市方面へ移動する場合、船の運航状況が大きく影響します。
離島航路は、海の状況や悪天候によって欠航することがあります。診療予約を取っていても、船が出なければ予定どおり受診できません。
島外での治療が必要になった場合は、少なくとも次の点を確認する必要があります。
- 船の運航日と出港時刻
- 当日の天候と運航状況
- 歯科医院や病院の予約時間
- 日帰りできるかどうか
- 宿泊が必要になった場合の場所
- 治療後に船へ乗って問題ないか
- 次回の通院が必要になるか
本土では歯科医院までの所要時間だけを考えればよいことが多いですが、離島では、交通、天候、宿泊、仕事や学校の予定まで含めた準備が必要です。
実際に島外で受診するなら、予約を取る前に、船の時刻と治療後の移動が可能かを確認したいところです。治療内容によっては、麻酔後の体調や出血などを考え、日帰りを避けた方がよい場合もあります。
また、硫黄島には診療所があるものの、常勤医師はおらず、本土の大きな病院へ搬送するまでに時間がかかることが案内されています。これは歯科に限らず、島の医療全体が交通条件の影響を受けることを示しています。
歯が痛くなったら巡回日まで待ってよい?
巡回診療を待てるかどうかは、症状によって異なります。
軽い違和感であっても、時間とともに痛みが強くなることがあります。特に、顔が腫れている、発熱している、口が開きにくい、飲み込みにくいといった症状がある場合は、単なる虫歯ではなく炎症が広がっている可能性があります。
次のような症状があるときは、次回の巡回日まで自己判断で待たず、島の診療所や村の担当窓口などに相談することが大切です。
- 顔や歯茎が大きく腫れている
- 強い痛みで眠れない
- 発熱や強いだるさがある
- 膿が出ている
- 口が開けにくい
- 飲み込みにくい、息苦しい
- 転倒などで歯が抜けたり折れたりした
三島村には竹島、硫黄島、黒島の各地区にへき地診療所があります。ただし、医科の診療所があることと、歯科治療をいつでも受けられることは同じではありません。
まず診療所や関係機関へ連絡し、島内で状態を確認してもらうのか、島外受診を急ぐのか、指示を受ける必要があります。
歯医者がいない島では予防の意味が大きくなる
虫歯は、初期の段階では痛みを感じないことがあります。
痛くないから大丈夫だと思っていても、気づかないうちに進行し、急に強く痛み始めることもあります。いつでも歯科医院へ行けない島では、痛みが出る前に問題を見つけることが特に重要です。
日常生活では、次のような対策が基本になります。
- 朝と夜に丁寧に歯を磨く
- 歯と歯の間をフロスなどで清掃する
- 甘い物や甘い飲み物を長時間取り続けない
- 学校や巡回診療の健診を受ける
- 小さな欠けや違和感を放置しない
- 入れ歯の痛みや緩みも早めに相談する
島内で治療を終えられるかどうかは、虫歯の進み方にも左右されます。早く見つかれば、比較的短時間の処置で終わる可能性がありますが、深く進行すれば、専門的な設備や複数回の通院が必要になることがあります。
「痛くないうちから歯医者に行く」という考え方は、どの地域でも大切です。しかし、次の受診機会が限られる島では、その意味がさらに大きくなります。
巡回歯科診療は島で暮らし続けるための生活基盤
今回の巡回歯科診療では、竹島と硫黄島で合わせて74人が健診や治療を受けました。
受診したのは、島で生まれ育った人だけではありません。都会から移住した人、仕事をきっかけに暮らし始めた人、離島留学でやって来た子どもなど、それぞれ異なる事情を持つ人たちです。
硫黄島では、移住者が島の人口の多くを占め、アフリカの伝統打楽器であるジャンベが島の文化として根づいています。竹島でも、人口減少に危機感を持ちながら島のPRや地域活動に取り組む人が暮らしています。
こうした場所で人が安心して生活を続けるには、住居や仕事、学校だけでなく、医療を受けられる仕組みが欠かせません。
歯の問題は命に直結しないと思われがちですが、痛みで食べられない、眠れない、仕事に集中できないといった形で、日常生活に大きな影響を与えます。高齢者にとっては、自分の歯や入れ歯で食事を楽しめることが、体力や生活の満足感にもつながります。
島を巡る歯科診療車は、単に虫歯を削るための車ではありません。
島に住み続けたい人が、必要な医療から取り残されないための生活基盤です。限られた日数と設備の中で診察し、必要な人を島外の医療機関へつなぐ。その積み重ねが、島の暮らしそのものを支えています。
たしかに年2回の訪問だけですべての問題を解決することはできません。それでも、歯科医師が島へ来ることを待っている人がいて、診療を終えた一行を歌と踊りで送り出す人がいる。その光景からも、巡回診療が島の人たちにとってどれほど大きな存在なのかが伝わってきます。
参考リンク
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