怒りを抑える前に「その奥の気持ち」を見つける
2026年10月7日放送のNHK Eテレ「3か月でマスターする心理学」第1回は、「なぜ怒るのか?」がテーマです。
怒っているとき、私たちは自分の感情をひと言で「腹が立つ」「イライラする」と表現しがちです。しかし、その奥を丁寧に見ていくと、「悲しい」「寂しい」「不安」「焦る」といった別の感情が重なっている場合があります。
講師を務めるのは、発達心理学を専門とする法政大学教授・渡辺弥生さん。怒りをただ抑え込むのではなく、自分が本当は何を感じているのかを理解し、言葉にする「感情リテラシー」が、人間関係を整える大切な力になります。
この記事でわかること
- 怒りの奥に隠れている感情
- 渡辺弥生さんが重視する「感情リテラシー」
- 気持ちカードやSEL教育で何を学ぶのか
- 家庭や職場で怒りと向き合うときの考え方
「怒っている」だけでは本当の気持ちが見えない
怒りが湧いたとき、最初に「怒らないようにしよう」と考える人は少なくありません。
しかし渡辺弥生さんが注目しているのは、怒りを消すことではなく、そこに至るまでの感情です。
例えば、誰かに約束を破られて腹が立った場面でも、その内側には、
「大切にされていない気がして悲しかった」
「期待していたのでがっかりした」
「これからどうなるのか不安になった」
といった気持ちが存在することがあります。
NHK学園も今回の内容について、日常で「怒り」とまとめている感情の奥に、「悲しい」「寂しい」「不安」といった別の感情があることを紹介しています。感情を表現する言葉が少ないと、自分の気持ちをうまく伝えられず、相手の気持ちも読み違えてしまうことがあります。
つまり、「なぜこんなに腹が立つのか」を考えるときは、怒りそのものだけを見るのでは足りません。
怒りが出てくる前に、自分の中で何が起きていたのかを言葉にできることが重要になります。
感情を細かく言葉にする「感情リテラシー」
そこで重要になるのが「感情リテラシー」です。
渡辺弥生さんは、感情リテラシーを、自分の感情に気づくだけでなく、相手の気持ちを想像し、自分の気持ちを言葉で伝え、必要に応じて調整していく力として研究してきました。
例えば「ムカつく」で終わらせず、
「悔しい」
「傷ついた」
「恥ずかしかった」
「がっかりした」
「置いていかれたようで寂しかった」
など、自分の状態に近い言葉を探していきます。
同じ「怒っている人」に見えても、心の内側まで同じとは限りません。
「腹が立っている」と決めつけるより、「何か嫌なことがあったのかな」「悲しいことがあったのかな」と少し幅を持って受け止めることで、相手への対応も変わってきます。
感情を細かく理解して表現できるようになることが、対立を避けるだけでなく、関係を修復する力にもつながっていきます。
気持ちカードは感情の「語彙」を増やすために使われる
今回登場する「気持ちカードゲーム」も、この感情を言葉にする力と深く関係しています。
2025年の日本心理学会大会では、渡辺弥生さんらによるSELの実践として、「感情カード」や「ムードメーター」などを使った取り組みが紹介されました。
カードを使うメリットは、「うれしい」「悲しい」「怒っている」といった数種類だけではなく、さまざまな感情を目に見える形で扱えることです。
自分の感情をうまく説明できないときでも、カードの中から「今の気持ちに近いもの」を探すことで、気持ちを整理するきっかけになります。
特に子どもはもちろん、大人でも「なぜイライラしているのか自分でも分からない」ということがあります。
そんなとき、「怒っているかどうか」ではなく、「怒りの周りにはどんな気持ちがあるか」を探す方法として活用できます。
SEL教育は社会性と感情を学ぶ取り組み
もう1つの重要なキーワードが「SEL」です。
SELは「Social and Emotional Learning」の略で、日本では「社会性と感情の学習」などと呼ばれます。
社会の中で人とうまく関わる力と、自分自身の感情を理解・調整する力を育てていく教育の枠組みです。
渡辺弥生さんは、社会性や感情の発達、いじめなど対人関係の問題の予防、心理教育プログラム、ソーシャルスキルトレーニングなどを研究しています。
SELでは、単に「怒ってはいけません」と教えるわけではありません。
自分が今どんな気持ちなのかに気づき、それを適切な方法で表現し、相手にも感情があることを理解しながら行動を選んでいくことを学びます。
2025年の日本心理学会大会でも、SELについて「社会性と感情のスキルを育成するための枠組み」と説明され、感情カードなどを用いた教育現場での実践が紹介されています。
家庭や職場で使える「怒り」の整理方法
番組の考え方は、学校だけでなく家庭や職場でも応用できます。
イライラした瞬間に相手を責める言葉を探すのではなく、一度、自分の感情を細かくしてみます。
例えば、
「腹が立つ」
↓
「無視されたようで寂しかった」
「ムカつく」
↓
「努力を認めてもらえなくて悔しかった」
「許せない」
↓
「信頼していたので傷ついた」
というように、怒りの少し手前にあった気持ちを探します。
ここで大切なのは、「怒ってはいけない」と自分を責めないことです。
感情そのものと、その後に取る行動は分けて考えられます。怒りを感じたとしても、それを相手への攻撃に変えるのか、「私はこう感じた」と言葉で伝えるのかでは、人間関係への影響は大きく変わります。
渡辺さんが研究してきた感情リテラシーは、自分の感情を押し殺すためではなく、自分と相手の気持ちを理解しながら、次の行動を選ぶための土台といえます。
渡辺弥生さんは発達心理学と感情の研究者
渡辺弥生さんは法政大学文学部心理学科教授で、専門は発達心理学・発達臨床心理学です。
社会性や道徳性の発達、対人関係の問題に心理学から取り組み、感情の理解やソーシャルスキル、心理教育プログラムなどを研究しています。
2026年には『怒っている子どもはほんとうは悲しい 「感情リテラシー」をはぐくむ』を刊行。
これまでにも『感情の正体―発達心理学で気持ちをマネジメントする』など、感情と人間関係をテーマにした著書を発表しています。
今回の「3か月でマスターする心理学」10月号では、第1回「なぜ怒るのか?」を担当しています。NHK出版のテキストも2026年9月25日に発売されています。
まとめ
「怒り」という感情だけを見ていると、「我慢する」「抑える」「発散する」という対応になりがちです。
しかし、その奥にある悲しさ、寂しさ、不安、悔しさなどまで言葉にできれば、自分が本当に何を求めていたのかが見えやすくなります。
そして相手についても、「怒っている人」と決めつけるのではなく、その背景にある感情へ目を向けることができます。
感情を理解し、言葉にし、適切な行動へつなげる「感情リテラシー」。
気持ちカードやSEL教育は、子どものためだけのものではなく、大人の家庭や職場での人間関係にも通じる考え方です。
「怒らない人になる」のではなく、「自分はなぜ怒ったのかを分かる人になる」。今回のテーマを日常で生かすなら、そこが大きなポイントになりそうです。
参考リンク
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