日本4都市を巨大な「手」でつないだSAYPEのBeyond Walls
能登・珠洲で巨大地上絵を制作するSAYPE(サイープ)は、実は2023年にも日本を横断しています。『24時間テレビ49(わたしの家族の話〜あなたは誰を想う?〜)(2026年8月30日)』で新作を知り、過去の日本作品が気になった人も多いはず。沖縄、長崎、富士、東京に残した4作品には、それぞれの土地の歴史に合わせた意味が込められていました。
この記事でわかること
- 2023年に巨大地上絵が描かれた日本4カ所
- 沖縄の作品に「6時23分」が描かれた理由
- 長崎・富士・東京で場所を変えて描いた意味
- 珠洲の巨大地上絵へつながるBeyond Wallsの考え方
SAYPEの生分解性塗料は何でできている?木炭・チョーク・カゼインで巨大地上絵が消える仕組み【24時間テレビで話題】
日本4作品は沖縄・長崎・富士・東京に描かれた

(出典:SAYPE公式サイト「Beyond Walls Japan 2023」)
SAYPEが2023年に日本で展開したのが、Beyond Walls Step 17「Japan Tour」です。
制作地と作品の大きさは次の通りです。
- 沖縄:約3250㎡
- 長崎:約1875㎡
- 富士:約3000㎡
- 東京:約800㎡
約1か月かけて沖縄から長崎、静岡県富士市、東京へ移動し、芝生の上に巨大な「つながる手」を描いていきました。
4作品を合計すると約8925㎡。
ただし、これは4枚の独立した絵を並べただけではありません。
Beyond Wallsは、世界各地に描かれた手と手を想像の中でつなぎ、世界最大級の人間の鎖をつくるという長期プロジェクトです。
日本でも、戦争の記憶が強く残る沖縄・長崎から、富士山、そして巨大都市・東京へと「手」がつながっていきました。
沖縄では平和祈念公園に3250㎡の巨大地上絵を制作
日本ツアーの最初の場所となったのが、沖縄県糸満市摩文仁の平和祈念公園です。
2023年4月21日から制作が始まり、4月25日に完成しました。
草地に描かれたのは、強くつながった複数の腕。
特に見逃せないのが、腕に描かれたデジタル時計です。
時計が示していたのは「6時23分」。
これは沖縄県で慰霊の日となっている6月23日を表しています。
平和祈念公園には、国籍や軍人・民間人の区別なく沖縄戦などで亡くなった人々の名前を刻む「平和の礎」があります。
そうした場所に、「離れないように手を握る」巨大作品が置かれました。
絵に使用されたのは、木炭やチョークを主原料とする環境に配慮した塗料。
完成した巨大作品も永久に保存されるわけではなく、時間とともに自然の中へ消えていきました。
「平和」を巨大な記念碑として残すのではなく、消えてしまう作品として描くところにもSAYPEらしさがあります。
長崎では「継承」をテーマに未来へ記憶をつないだ
次の舞台となったのが長崎です。
公式作品ページでは、長崎作品の大きさは1875㎡。
描かれた場所は、長崎県庁に隣接する芝生広場「おのうえの丘」でした。
この作品で重要な言葉が「継承」です。
長崎は原爆による甚大な被害を経験した街です。
SAYPEはここで、悲劇そのものだけではなく、その記憶を次の世代へ受け渡すことを作品の中心に置きました。
巨大な腕が互いにつながる姿は、人から人へ記憶を渡していくようにも見えます。
沖縄では「平和の危うさ」、長崎では「記憶の継承」。
同じ手を描いていても、土地が変わることで作品の意味も変化しています。
そして、ここがBeyond Wallsを見るうえで面白いところです。
作品だけを切り取れば、どれも「手」の絵です。
しかし、その土地が歩んできた歴史を知ると、同じモチーフが別のメッセージへ変わるのです。
富士では富士山と3000㎡の「消える絵」を対比させた

(出典:SAYPE公式サイト「Beyond Walls Japan 2023」)
日本ツアー3番目の作品は、静岡県富士市の中央公園・富士見の広場です。
制作期間は2023年5月4日から10日。
約120m×25m、面積にして約3000㎡の作品が芝生の上に描かれました。
そして、富士作品ならではの主役がもう1つあります。
背景にそびえる富士山です。
何百年、何千年という人間の時間を越えて存在し続けているように感じられる富士山。
その手前に、約2週間で薄れていく巨大地上絵を置きました。
SAYPEはこの作品で、永続性を象徴する富士山と、一時的にしか存在しない作品を対比させています。
人間の人生や活動は地球の長い時間から見れば短い。
それでも、その短い時間で何を選び、何を次へ残すのか。
3000㎡もの巨大作品なのに、「人間の小ささ」を考えさせる構成になっています。
さらに作品に描かれた腕には、現代の若者を表すタトゥーも取り入れられました。
富士市はこの作品について「伝統と現代の対比と融合」という意味も紹介しています。
東京では新宿御苑の芝生に800㎡の作品を描いた
日本ツアーの最後を飾ったのは東京です。
場所は新宿御苑・温室前の芝生。
約800㎡の巨大地上絵が制作されました。
沖縄の3250㎡や富士の3000㎡に比べると小さく感じますが、それでも一般的な住宅の敷地とは比べものにならないサイズです。
東京作品にも腕時計のようなバンドが描かれ、その表示は6時5分。
6月5日の「環境の日」を表すものでした。
素材には木炭、マーブルパウダー、カゼイン、消石灰などが使われています。
巨大な自然公園をキャンバスにしながら、その場所を恒久的に塗りつぶすのではなく、作品そのものが時間とともに消えていく仕組みです。
さらに新宿御苑という場所も象徴的です。
周囲には超高層ビルが立ち並びながら、園内には広大な緑が残っています。
SAYPEは東京について、伝統と現代が交わる巨大都市として捉えています。
自然と巨大都市、過去と現代。
相反するものが同じ場所に存在する東京だからこそ、Beyond Wallsの「壁を越えてつながる」という考え方とも重なります。
4都市を回った理由はG7広島サミットを前に平和を伝えるため
2023年のJapan Tourは、単なる日本巡回展ではありませんでした。
沖縄から東京まで作品が制作された時期は、2023年5月に開催されたG7広島サミットの直前です。
世界で分断や紛争が続く中、対話や連帯を訴える活動として日本ツアーが行われました。
だからこそ、最初に選ばれたのが沖縄と長崎でした。
戦争の記憶を持つ土地から始まり、日本を象徴する富士山、そして世界有数の大都市・東京へ。
この順番を知ると、4作品が1本の物語のようにつながって見えてきます。
1枚の巨大作品だけを見るのではなく、
沖縄 → 長崎 → 富士 → 東京
と手が渡っていくこと自体が作品だったのです。
Beyond Wallsは2019年のパリから世界へ広がった
Beyond Wallsが始まったのは2019年。
最初の舞台はフランス・パリのシャン・ド・マルスでした。
エッフェル塔の近くに約15000㎡もの巨大な手を描き、そこから世界各地へ人間の鎖を伸ばしていきました。
その後はベルリン、イスタンブール、ケープタウン、ベネチア、ベルファスト、リオデジャネイロ、日本、モントリオール、カイロなどへ拡大。
2026年6月には米国ミネアポリスでStep 22となる約2200㎡の作品も制作されています。
国も文化も歴史も違う場所に、同じ「手」を描いていく。
1カ所では完結しないことがBeyond Walls最大の特徴です。
珠洲の作品は2023年日本ツアーの考え方ともつながっている
そして2026年、SAYPEが再び日本で向き合う場所が石川県珠洲市です。
能登半島地震で大きな被害を受けた一方、珠洲は奥能登国際芸術祭などを通じ、アートと地域を結びつけてきた街でもあります。
今回のプロジェクトには、もう一度アートの街・珠洲へ人を呼びたいという思いがあります。
SAYPEだけで作品を完成させるのではなく、岩田剛典さん、イモトアヤコさん、能登の人々とともに巨大地上絵を制作します。
ここで思い出したいのが2023年の4作品です。
沖縄では戦争の記憶と平和。
長崎では記憶の継承。
富士では永遠と人間の短い時間。
東京では自然と巨大都市。
SAYPEは毎回、ただ広い芝生を探しているのではなく、土地が持つ物語と作品を結びつけてきました。
その流れを知ってから珠洲の作品を見ると、「巨大で珍しい地上絵」だけでは終わりません。
なぜ珠洲なのか。
なぜ地域の人たちと一緒に作るのか。
その意味まで見えてきます。
そして、作品そのものはいずれ消えていきます。
2023年の富士作品も約2週間で自然に薄れていきました。
それでも写真が残り、参加した人の記憶が残り、3年後には別の土地で新しい作品へつながっています。
絵を永久に残すのではなく、人と人の間に残す。
沖縄、長崎、富士、東京から珠洲へ続く作品を見ていくと、Beyond Wallsが本当に描こうとしている「つながり」がよく分かります。
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