記事内には、広告が含まれています。

高水温に耐えるサクラマス養殖の仕組み 20℃前後に対応するSmoltの6世代選抜|みどりをつなぐヒト

水産・養殖

高水温に耐えるサクラマスが、温暖化で変わる日本の養殖を支える

2026年9月15日放送のテレビ東京「みどりをつなぐヒト〜輝く未来へ〜」では、高い水温にも耐えられるサクラマスの養殖が取り上げられます。番組公式の事前情報では、現時点で取り組む企業名や人物名までは明記されていません。

一方、国内で公開されている一次情報を確認すると、宮崎大学発ベンチャーの株式会社Smolt(スモルト)が、6世代にわたる選抜育種によって、20℃前後の高水温でも安定して育つサクラマスを開発しています。国の気候変動適応情報プラットフォームでも取り組みが紹介されており、温暖化時代の養殖を考えるうえで注目したい技術です。

この記事でわかること

  • 高水温に耐えるサクラマスがどのように作られたのか
  • 一般的なサーモンと比べて何℃程度まで対応するのか
  • 宮崎大学発のSmoltがサクラマス養殖を始めた背景
  • 高温耐性サクラマスが全国の養殖業に広がっている理由

Smoltの高温耐性サクラマスは20℃前後でも安定して成長

出典:株式会社Smolt「SMOLT SEED」公式ページ

サクラマスを含むサーモン類は、もともと冷たい水を好む魚です。従来のサーモン養殖では18℃以下の水温がひとつの目安とされ、高水温になると成長や生存に影響が出ることが課題でした。

Smoltが開発した高温耐性サクラマスの大きな特徴は、20℃前後という従来より高い水温でも安定して育成できることです。

そのために行われてきたのが「選抜育種」です。

Smoltは、宮崎の温暖な環境でもよく育つ個体や成長性に優れた個体を親として選び、次の世代へ特徴を受け継がせてきました。これを6世代以上繰り返すことで、高温への適応力を持ったサクラマスの家系を作り上げています。

遺伝子を人工的に組み換えて魚を作るのではなく、養殖した魚の中から優れた特徴を持つ親を選び、世代を重ねる方法です。

さらにSmoltでは、22℃以上の「超高水温」環境でも育つサーモンを目指した品種開発も進めています。

川から海へ、再び川へ戻す「循環型養殖」が育種を支える

Smoltの特徴は、高温に強い魚を選ぶだけではありません。

サクラマス本来の生態を利用し、

  • 淡水でふ化・育成する
  • 銀色の体へ変化する「スモルト化」を経る
  • 海水で育てる
  • 再び淡水へ戻して親魚を育てる
  • その親から採卵して次世代を作る

というサイクルを繰り返します。

Smoltではこれを「SMOLT CYCLE」と位置づけています。天然のサクラマスが川と海を行き来する生活史を養殖の中で再現し、実際の養殖環境を経験して優れた性質を示した個体を次世代につなげていきます。

宮崎大学とSmoltは、この循環型養殖による「サクラマス循環養殖による温暖化対応種の開発とイクラの持続的生産」で、2021年度の「STI for SDGsアワード 科学技術振興機構理事長賞」を受賞しています。

サクラマス研究から生まれた宮崎大学発ベンチャーSmolt

株式会社Smoltの代表を務めるのは上野賢さんです。

上野さんは岩手県立釜石高校から宮崎大学農学部へ進学。大学3年から研究室に入り、そこで故郷の岩手でもなじみのあったサクラマスと再び出会いました。

卒業研究でサクラマスの回遊や環境への適応を研究する中、生産者との交流を通じて水産業そのものに関心を深めます。そして2017年、宮崎大学のビジネスプランコンテストにサクラマス養殖の事業構想を出し、学長賞を受賞しました。

研究だけで終わらせず事業として社会に広げようと、2019年4月に株式会社Smoltを設立。現在は宮崎県宮崎市の宮崎大学内に本社を置き、水産養殖、種苗生産、技術開発などを手掛けています。

つまり、高温耐性サクラマスは最初から「暑さに強い魚を作ろう」と突然生まれたものではありません。

サクラマスの生態を研究し、宮崎という温暖な地域で何世代も育て続けた結果として、高水温への適応という強みが磨かれてきたのです。

高温耐性サクラマスは宮崎だけでなく全国へ広がっている

この技術は研究施設だけのものではなく、すでに実際の養殖現場へ広がっています。

Smoltによると、2024年度には高温耐性サクラマス種苗の導入先が10社を突破しました。海面養殖だけでなく、閉鎖循環型陸上養殖でも使われています。

具体的には、大分県の髙瀬水産がSmoltの種苗を使い、「さいき桜サーモン」を生産。長崎県の昌陽水産や香川県の服部水産などでも導入されています。

熊本県天草市でも2025年12月から、ふく成とSmoltによる約2,000尾の試験養殖が始まりました。

こうした地域では、既存魚種を出荷した後に空く生け簀をサクラマスに使う方法も試されています。冬から春にサクラマスを育てることで、1つの養殖設備を複数魚種で効率よく利用できるわけです。

高温への強さだけでなく、既存の養殖業と組み合わせやすいことも普及のポイントになっています。

4kgまで育つ巨大サクラマスも誕生

Smoltの高温耐性技術は、さらに別の成果にもつながっています。

2026年2月、同社は高温耐性サクラマスと「全メス三倍体技術」を組み合わせ、体重4kg、全長66cmの養殖サクラマスを育てることに成功したと発表しました。

通常の養殖サクラマスは1.5〜2kg程度で出荷されます。

全メス三倍体によって性成熟を抑えることで、生殖に使われるエネルギーを成長へ振り向け、さらに高水温に耐えられるため長期間飼育できるようになりました。

育成期間は3年間。

「暑さに耐える」という性質が単に魚を生き残らせるだけでなく、養殖期間を伸ばして大型魚を生産する技術へ発展している点も興味深いところです。

サクラマス養殖が温暖化対策になる理由

日本近海では水温上昇が続き、冷たい海を好む魚にとって養殖できる場所や期間が変化しています。

特にサーモン類では水温が重要です。これまで養殖できていた海域でも、水温が高くなる期間が長くなれば、成長速度の低下や養殖期間の短縮につながります。

そこで発想を変え、「海を以前の温度に戻す」だけではなく、変化した環境でも育つ魚を作るというのが高温耐性育種です。

国立環境研究所の気候変動適応情報プラットフォームでも、Smoltの高温耐性サクラマスは気候変動への「適応ビジネス」の事例として紹介されています。Smoltでは現在、22℃以上でも生育可能な系統の開発にも取り組んでいます。

海水温の上昇そのものを止める技術ではありません。

それでも、環境の変化に合わせて養殖技術や魚そのものを変えていくことは、日本で魚を生産し続けるための現実的な選択肢のひとつになっています。

Smoltのサクラマスを実際に食べる方法

Smoltは養殖技術や種苗の販売だけでなく、「FISH FARM SAKURA」ブランドでサクラマスを使った食品も展開しています。

代表的なのが、養殖した本桜鱒から採れる黄金色の「つきみいくら」です。

一般的ないくらのような赤色ではなく、赤い色素を配合していない餌で育てるため、卵本来の黄色に近い黄金色になります。

公式オンラインストアでは「つきみいくら醤油漬」や「本桜鱒のスモークサーモン」などが扱われています。

FISH FARM SAKURA公式オンラインストア

まとめ

9月15日の「みどりをつなぐヒト」で扱われるのは、高い水温にも耐えられるサクラマス養殖です。

放送前の番組公式情報では取り組む企業・人物までは明記されていませんが、国内では宮崎大学発ベンチャーのSmoltが、6世代以上の選抜育種によって20℃前後でも安定して育つ高温耐性サクラマスを実用化しています。

研究の出発点はサクラマス本来の生命力でした。川と海を行き来する生態を養殖で再現し、その環境で強く育った親を次世代へつなぐ。その積み重ねが、温暖な九州でも育つサクラマスにつながっています。

さらに技術は全国へ広がり、4kgまで育つ大型サクラマスも誕生しました。

海の環境そのものが変わっていく中で、「その土地で育つ魚をつくる」という新しい養殖の形は、日本の魚食文化を未来へつなぐ重要な取り組みになりそうです。

参考リンク

おすすめ関連商品


気になる生活ナビをもっと見る

購読すると最新の投稿がメールで送信されます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました