- 世界をだました贋作師ベルトラッキと「90億円」の正体
- 被害総額90億円の贋作師はヴォルフガング・ベルトラッキ
- 本物をコピーせず「存在しない名画」を新しく描いていた
- 絵だけでなく「誰が所有してきたか」という歴史まで偽造した
- 専門家を欺いた贋作を見破ったのは「チタニウムホワイト」だった
- 日本でも6720万円で購入された「自転車乗り」が贋作と確定
- 高知県立美術館の1800万円「少女と白鳥」も贋作だった
- 科学分析で日本の贋作からも時代に合わない絵具が見つかった
- 贋作と分かった作品を高知県立美術館はあえて展示した
- 藤田嗣治の贋作も2枚描いたと本人が語っている
- 父は教会画家で15歳ごろには高度な絵画技術を身につけていた
- 刑期後は自分の名前を付けた作品を制作している
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世界をだました贋作師ベルトラッキと「90億円」の正体
『金曜ミステリークラブ(逃亡犯・福田和子最大の謎SP!!時効成立目前で逮捕…なぜ!?)(2026年8月28日)』では、被害総額90億円ともいわれる贋作事件の中心人物にも迫ります。名前はヴォルフガング・ベルトラッキ。有名作品をそのままコピーするのではなく、「その画家が描いたはずの未発見作品」を作り出した手口、日本の美術館まで巻き込んだ贋作、そして正体が露見した意外な失敗を見ていきます。
この記事でわかること
- 被害総額90億円とされる贋作師ベルトラッキの正体
- 一流の専門家や美術市場まで欺いた独特の手口
- わずかな「白い絵具」が贋作発覚につながった経緯
- 徳島・高知の美術館で発覚した日本との深い関係
被害総額90億円の贋作師はヴォルフガング・ベルトラッキ
(出典:TBS NEWS DIG「“稀代の贋作師”ベルトラッキ・前編」)
「世界を騙した贋作画家」として紹介される人物は、ドイツ出身の画家ヴォルフガング・ベルトラッキです。
ベルトラッキは約35年にわたり、マックス・エルンスト、ハインリヒ・カンペンドンク、フェルナン・レジェなど著名画家の作風を研究し、その画家が描いたものとして売れる絵を制作していました。
TBSの本人取材では、世界全体の被害額が90億円ともいわれる贋作事件として紹介されています。本人側のプロジェクトサイトでも、妻ヘレーネとともに作品を国際的な美術市場へ流通させ、1作品で数百万規模の金額を得るケースがあったと説明されています。
2011年にはドイツで有罪判決を受け、ヴォルフガングには懲役6年、妻ヘレーネには懲役4年が言い渡されました。
ただ、この事件が普通の「名画のコピー事件」と大きく違うのは、その作り方でした。
本物をコピーせず「存在しない名画」を新しく描いていた
ベルトラッキの贋作で特に巧妙だったのは、すでに知られている作品をそっくり複製する方法を中心にしていなかったことです。
たとえば「有名画家が1910年代に描いた作品」という設定を作り、その画家の筆遣い、色、題材、構図を研究したうえで、実際には存在しなかった新しい絵を描きました。
そのため、既存作品と比較して「ここが違う」と簡単には判断できません。
徳島県立近代美術館も、ベルトラッキによる《自転車乗り》について、本物を写したレプリカではなく、ジャン・メッツァンジェの同時期の作品をまねながらベルトラッキ自身が空想して作った作品だと説明しています。
これは贋作事件を理解するうえで非常に重要です。
コピーではなく「失われた作品を発見したように見せる」ことで、本物との直接比較そのものを難しくしていたのです。
絵だけでなく「誰が所有してきたか」という歴史まで偽造した
作品だけ上手に描いても、それだけで何億円もの価値が生まれるわけではありません。
美術品では来歴(プロヴェナンス)が重要になります。
これは「誰が所有し、どの画商やコレクションを経て現在まで伝わったのか」という作品の履歴です。
ベルトラッキ側は、妻ヘレーネの祖父ヴェルナー・イェーガースが戦前から大量の美術品を所有していたという設定などを作り、実在しない「コレクション」を贋作の出所として利用しました。
つまり偽物だったのは絵だけではありません。
絵の人生そのものを作っていたわけです。
有名画商の名前や古いコレクションという物語が付けば、「これまで世に出ていなかった作品が発見された」という説明にも説得力が生まれます。
絵画技術だけではなく、美術史や市場の仕組みまで理解していたから成立した手口でした。
専門家を欺いた贋作を見破ったのは「チタニウムホワイト」だった
長期間続いた贋作制作の転機になったのが、ハインリヒ・カンペンドンク作として売却された《赤い絵と馬》です。
2006年、この作品は約280万ユーロという高額で売却されました。
しかし後に科学分析が行われ、絵具からチタニウムホワイトが検出されます。
問題は作品に設定された制作年でした。
1914年に描かれたはずの作品なのに、その年代の作品には不自然な顔料が含まれていたのです。
ベルトラッキは古い時代の材料まで研究し、普段は絵具にも細心の注意を払っていました。
ところが、この作品では市販の絵具を使ったことで、想定していなかったチタニウムホワイトがわずかに含まれていました。科学分析によって、その小さな食い違いが見つかります。
何十年も専門家を欺いてきた手口が、最終的には絵具の化学成分から崩れていったのです。
日本でも6720万円で購入された「自転車乗り」が贋作と確定
ベルトラッキ事件は、遠いヨーロッパだけの話ではありません。
日本でも大きな問題になりました。
徳島県立近代美術館が1998年度に購入した《自転車乗り》です。
作品はフランスの画家ジャン・メッツァンジェによる作品として扱われ、購入価格は6720万円でした。
ところが調査が進み、徳島県立近代美術館は2025年3月25日、ベルトラッキによる贋作だと正式に判断しました。
根拠の1つになったのが作品の来歴です。
最初の所有者として記録されていた人物が、ベルトラッキの贋作事件で共犯者として有罪判決を受けた人物でした。
さらに鑑定に関わった人物の証言や、作品目録を作る専門家の判断、ベルトラッキ本人の証言などが重なりました。
その後、徳島県は購入先との契約解除で合意。
6720万円は全額返還され、作品も購入元へ返却されています。
購入から20年以上経過してから事実関係が大きく覆ったことになります。
高知県立美術館の1800万円「少女と白鳥」も贋作だった
日本で判明したのは徳島だけではありません。
高知県立美術館が所蔵していた《少女と白鳥》も、ハインリヒ・カンペンドンクが1919年に制作した作品として1996年に1800万円で購入されていました。
2024年にベルトラッキ作品ではないかという疑いが浮上します。
その後、京都大学などと協力して科学分析を実施し、2025年には贋作との判断に至りました。
科学分析で日本の贋作からも時代に合わない絵具が見つかった
(出典:高知県立美術館「再考《少女と白鳥》」)
《少女と白鳥》でも重要な役割を果たしたのが、やはり絵具の科学分析でした。
作品からは、
- チタニウムホワイト
- フタロシアニンブルー
- フタロシアニングリーン
などが使われている可能性が高いことが分かりました。
これらは作品が描かれたとされる1910年代との整合性に問題があり、ベルリン州警察から寄せられた情報なども合わせて贋作と判断されました。
興味深いのは、ドイツで事件発覚につながった「絵具」と、日本での真贋調査でも科学的な材料分析が重要になったことです。
見た目がどれほど本物らしくても、絵具には制作された時代が残ることがあります。
贋作と分かった作品を高知県立美術館はあえて展示した
《少女と白鳥》にはさらに興味深い続きがあります。
高知県立美術館は贋作と判断した作品を単純に収蔵庫へしまうのではなく、2025年に「再考《少女と白鳥》 贋作を持つ美術館で贋作について考える」という特別展示を開催しました。
購入した経緯、科学分析、来歴調査などを公開し、「なぜ本物だと考えられたのか」「美術館は作品の真贋とどう向き合うのか」を考える材料として活用したのです。
本物のカンペンドンクではなかったからといって、作品が持つすべての意味がなくなるわけではありません。
「美術館が贋作を見抜けなかった歴史」自体が展示対象になったところに、この事件ならではの面白さがあります。
藤田嗣治の贋作も2枚描いたと本人が語っている
日本との関係では、もう1つ気になる発言があります。
ベルトラッキ本人は日本人画家藤田嗣治(レオナール・フジタ)についても作品を研究し、藤田の作品として2枚描いたという趣旨の発言をTBSのインタビューでしています。
ただし、この2作品については、本人の発言と、個別作品が正式に贋作と認定された事実とは分けて考える必要があります。
ベルトラッキは単に絵の特徴をコピーするのではなく、対象となる画家の人生や考え方まで研究することが重要だという考えを語っています。
だからこそ、作風が大きく異なる複数の画家になりきることができたのでしょう。
父は教会画家で15歳ごろには高度な絵画技術を身につけていた
これほど多くの画家の技法を使い分けられた背景には、幼いころからの絵画経験があります。
ベルトラッキの父ヴィルヘルム・フィッシャーは教会画家でした。
本人側の経歴によると、父から古典絵画の技法を学び、15歳ごろには高い絵画技術を身につけていたとされています。
17歳になるとアーヘンの美術学校で彫刻、イラスト、写真などを学び、ヨーロッパや北アフリカを旅行しながら各時代のヨーロッパ絵画に関する知識を深めました。
贋作を成立させたのは、単なる絵のうまさではありません。
画材、美術史、画家の人生、作品の年代、古びたキャンバスの見せ方、さらに作品が市場へ出てくるまでの物語。
これらを組み合わせる知識があったことが、長期間発覚しなかった大きな理由です。
刑期後は自分の名前を付けた作品を制作している
贋作事件で有罪判決を受けた後も、ベルトラッキは絵を描くこと自体をやめていません。
現在はWolfgang Beltracchi自身の名前を付けた作品を制作しています。
自身の公式サイトでは絵画作品に加え、過去の巨匠のスタイルを使ったデジタルアートプロジェクトなども紹介されています。
かつては別の画家の名前を利用して価値を生み出していた人物が、現在は「ベルトラッキ」という自分自身の名前で作品を発表しているわけです。
そして日本では、彼の作品だと知らずに購入された絵が20年以上を経て贋作と判明しました。
「本物とは何か」「作品の価値は絵そのものなのか、それとも作者名なのか」という美術市場の難しい問題まで浮かび上がらせる事件です。
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