国民負担率45.7%でも「給料の45.7%が天引き」ではない
「税金や社会保険料で給料の半分近くを持っていかれる」という話を見かけますが、その根拠として使われやすいのが国民負担率です。『クローズアップ現代(中流クライシス 〜“ふつうの暮らし”はどこへ〜)(2026年9月2日)』にもつながる2026年度の国民負担率は45.7%。ただし、これは個人の給与から45.7%が差し引かれるという意味ではありません。数字の正しい見方と、負担が長期的にどう変わったのかを整理します。
この記事でわかること
- 国民負担率45.7%の本当の意味
- 給料から45.7%引かれるわけではない理由
- 税金より大きく増えてきた社会保障負担
- 潜在的国民負担率48.4%との違い
国民負担率45.7%は個人の「手取り率」を表す数字ではない
(出典:財務省「負担率に関する資料」)
2026年度の国民負担率は45.7%になる見通しです。
内訳は、
- 租税負担率:28.0%
- 社会保障負担率:17.6%
- 合計:45.7%
となっています。四捨五入の関係で内訳の合計と表示値に差が生じる場合があります。
ここで最も大切なのは、
年収500万円なら228万5000円が税金と社会保険料として引かれる
という意味ではないことです。
国民負担率は、国民全体が負担している税金と社会保障負担を、国民所得全体に対する割合として計算した国全体のマクロ経済指標です。
給与明細の「控除率」とは別物です。
年収500万円に45.7%を掛けても手取り額は計算できない
これはかなり重要です。
たとえば年収500万円の会社員について、
500万円 × 45.7% = 228万5000円
だから、
「手取りは271万5000円」
と計算することはできません。
実際の手取り額は、
所得税
住民税
健康保険料
厚生年金保険料
雇用保険料
などを個別に計算して求めます。
所得税には所得控除があり、税率も所得によって異なります。社会保険料にも標準報酬月額など別の計算方法があります。
さらに国民負担率に含まれる税金には、個人が給与から直接支払うものだけでなく、消費税や法人税なども含まれます。
そのため、国民負担率をそのまま給与に掛けることはできません。
45.7%なのに実際の給与明細ではそこまで引かれない理由
給与明細を見て、
「税金と社会保険料を足しても45.7%にはならない」
と感じるのは当然です。
国民負担率の分母は「会社員の給与総額」ではなく国民所得です。
さらに負担側にも、給与から直接差し引かれる税・保険料だけではないものが含まれます。
たとえば消費税は買い物をしたときに負担します。
固定資産税を支払う人もいます。
企業が負担する法人税なども国民全体の租税負担を構成します。
社会保障についても、会社員の健康保険や厚生年金は、原則として会社側も保険料を負担しています。
「給与明細でいくら引かれているか」と「社会全体で税・社会保障をどれくらい負担しているか」は、見ている範囲が違うのです。
1970年度の国民負担率は24.3%だった
それでも、「負担が重くなっている」という感覚そのものには、長期的な数字の裏付けがあります。
1970年度の国民負担率は**24.3%**でした。
内訳は、
- 租税負担率:18.9%
- 社会保障負担率:5.4%
です。
2026年度の45.7%と比べると、国民負担率は約56年間で21.4ポイント上昇したことになります。
単純な金額比較ではありませんが、日本社会全体で税と社会保障に振り向ける割合が大きくなったことは分かります。
特に大きく増えたのは社会保障負担
1970年度から2026年度を比べると、興味深い違いがあります。
租税負担率は、
18.9% → 28.0%
社会保障負担率は、
5.4% → 17.6%
です。
社会保障負担率は12.2ポイント上昇しています。
ここでいう社会保障負担には、年金や医療などに関係する保険料が含まれます。
日本では高齢化が進み、年金・医療・介護などの社会保障制度を支える必要性が大きくなっています。
そのため「税金だけが増えている」と見るより、社会保険料を含めた負担が長期的に拡大していると考えたほうが実態をつかみやすくなります。
国民負担率は2024年度をピークに少し下がっている
「毎年ずっと上がり続けている」というわけでもありません。
直近では、
- 2024年度:46.7%
- 2025年度:46.1%
- 2026年度:45.7%
となっています。
2026年度は2024年度より1ポイント低い見通しです。
つまり、
「2026年度に過去最高の45.7%になった」
という説明も正しくありません。
長期的には大きく上昇してきましたが、直近では低下する見通しになっています。
数字を見るときには、「昔より高い」と「今年また上がった」を分ける必要があります。
潜在的国民負担率48.4%はさらに別の数字
国民負担率と一緒によく出てくるのが潜在的国民負担率です。
2026年度の見通しは48.4%。
国民負担率45.7%に、財政赤字の国民所得に対する割合2.7%を加えた数字です。
考え方は、
国民負担率
+
将来世代の潜在的な負担となる財政赤字
です。
こちらも、
「給料の48.4%を政府に払っている」
という意味ではありません。
現在の税・社会保障負担に加え、財政赤字まで含めて社会全体の負担を見るための指標です。
「五公五民」という表現とも意味が違う
国民負担率が50%前後になると、「五公五民」という言葉が使われることがあります。
江戸時代の年貢になぞらえ、
「稼いだお金の半分を国に取られている」
という意味で使われる表現です。
しかし国民負担率は、1人の所得に対して何%課税されるかを示した数字ではありません。
個人の税負担を考えるなら、年収だけでなく、
扶養家族
配偶者の収入
社会保険
住宅ローン控除
各種所得控除
などによっても結果は変わります。
45.7%という数字だけから「日本人は収入の半分近くを国に取られる」と考えるのは、数字の意味を広げすぎています。
税や社会保険料だけでなく物価まで見ると「苦しい」が見えてくる
一方で、国民負担率の解釈を訂正したからといって、中流層が感じる生活の苦しさまで否定されるわけではありません。
2026年6月の毎月勤労統計では、現金給与総額は前年同月比4.0%増。
物価変動を考慮した実質賃金も2.2%増となりました。
給与が物価を上回って伸びれば購買力は改善します。
しかし家計では、給与から税・社会保険料を支払い、その残りから、
食費
家賃
住宅ローン
電気・ガス
教育費
車
通信費
などを支払います。
1つ1つの負担は数百円、数千円の変化でも、複数が同時に増えると「給料は上がったのに余裕がない」という感覚につながります。
「国民負担率が高い国=暮らしにくい国」とも限らない
国民負担率だけを使って、国の暮らしやすさを順位付けすることにも注意が必要です。
税や社会保障の負担が大きい国でも、その分、
医療
教育
年金
子育て
介護
などの公的サービスが充実している場合があります。
財務省の国際比較でも、日本の国民負担率は諸外国と比べて特別に最も高い水準ではありません。
重要なのは、
いくら負担しているか
だけではなく、
その負担によって、どのような給付やサービスを受けられるのか
まで合わせて見ることです。
45.7%より自分の「可処分所得」を見るほうが家計には役立つ
生活が苦しいかどうかを考えるなら、国民負担率より身近な数字があります。
可処分所得です。
大まかには、収入から税金や社会保険料などを差し引いて、実際に生活や貯蓄に回せるお金を指します。
たとえば同じ年収500万円でも、
独身なのか
子どもがいるのか
住んでいる地域はどこか
住宅ローンがあるのか
車が必要なのか
によって暮らしの余裕は変わります。
国民負担率45.7%は、日本社会全体の税・社会保障負担を見るためには重要な数字です。
しかし、「自分はどれくらい苦しくなっているのか」を知るなら、
額面年収 → 手取り → 固定費 → 最後に残る金額
まで見るほうがずっと実生活に近くなります。
中流クライシスの本質も、「45.7%も取られる」という1つの数字ではなく、働いて得たお金から必要な支出をすべて払ったあと、将来のためのお金がどれだけ残るのかにあります。
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