ホタテ養殖の「網」が納豆アレルギーにつながる手掛かりになった
2026年9月15日放送の『ザ!世界仰天ニュース』では、北海道のホタテ養殖に携わる人たちの間で見つかった、意外な納豆アレルギーが紹介されました。
ホタテを食べたから納豆が食べられなくなった、という単純な話ではありません。研究で浮かび上がったのは、長期間海中で使われたホタテ養殖網の修繕作業と、納豆のネバネバ成分にも含まれるポリγグルタミン酸(PGA)との関係でした。
この記事でわかること
- ホタテ養殖従事者と納豆アレルギーの間で確認された関係
- 納豆のPGAとクラゲ・イソギンチャクなど刺胞動物とのつながり
- 黒鳥偉作医師が養殖網の修繕作業に注目した理由
- 納豆を食べて数時間後に症状が出る「遅発性」の特徴
ホタテ養殖従事者211人を調べると納豆アレルギーは23人
出典:ザ!世界仰天ニュース公式
番組で紹介された研究を行ったのが、医師の黒鳥偉作さんらの研究グループです。黒鳥さんは北海道大学大学院医学研究院などで研究に携わり、この成果は日本アレルギー学会の英文誌『Allergology International』に掲載されています。
調査の舞台は北海道北部の「北るもい地域」。北海道立羽幌病院では、2009年4月から2020年8月までに、納豆を食べたあと遅れてアナフィラキシーを起こした入院患者6人が確認されました。
注目されたのは、6人全員がホタテ養殖に関係する仕事を経験していたことです。症状が出た時間も、納豆を食べてから3~16時間後と一般的な即時型の食物アレルギーとは異なる特徴がありました。
そこで研究グループは漁業従事者にアンケートを実施。
- ホタテ養殖グループ:211人
- その他の漁業グループ:106人
- 納豆アレルギーを申告した人:全体で27人
- ホタテ養殖グループで納豆アレルギー:23人、10.9%
- その他の漁業グループ:4人、3.8%
年齢や性別、クラゲ刺傷歴など複数の要因を調整した解析でも、ホタテ養殖グループと納豆アレルギーには統計的に有意な関連が示され、調整後のオッズ比は5.73でした。
ただし、この研究は観察研究です。
「ホタテ養殖をすれば必ず納豆アレルギーになる」「養殖網が原因だ」と因果関係まで証明したものではありません。研究論文自体も、ホタテ養殖との関連を示した結果として報告しています。
手掛かりになったのはホタテではなく「網の修繕」
さらに興味深い結果があります。
ホタテ養殖に携わる人のうち、納豆アレルギーがある23人と、ない181人を比較したところ、特に関係が強かったのが養殖網を修繕した経験とホタテ養殖に携わった期間の長さでした。
納豆アレルギーがある23人のうち22人は、ホタテ養殖の仕事を始める前には同様の症状を経験していなかったと回答しています。
北るもいのホタテ養殖では、稚貝を網に入れて海中につるし、成長するとより大きな網へ移していきます。
通常の作業ではゴム手袋を使っていても、細かな網目を修繕するときには作業しにくいため、素手になることがあったと論文には記されています。
長期間海中に沈めた網には、さまざまな海洋生物が付着します。その網を何度も素手で触ることが、研究者が注目したポイントでした。
つまり問題になったのは、ホタテそのものではありません。
実際、この調査ではホタテによる食物過敏反応を回答した人はいませんでした。
納豆のネバネバに含まれるPGAが重要な物質だった
納豆アレルギーで重要と考えられている物質が、ポリγグルタミン酸(PGA)です。
PGAは納豆菌による発酵によって作られ、納豆独特の粘りや糸を引く性質に関係する成分です。食品研究でも、PGAが納豆の主要な構成成分のひとつであることが確認されています。
そして意外なことに、PGAは海にも存在します。
過去の研究では、クラゲやイソギンチャクなど刺胞動物の刺胞にもPGAが存在するとされています。クラゲに刺される機会が多いサーファーなどでは、皮膚を通じてPGAに感作され、その後に納豆を食べてアレルギー症状を起こす可能性が研究されてきました。
ところが北るもいのホタテ養殖従事者では、単純に「クラゲに何度も刺された人」が多いわけではありませんでした。
そこで浮上した別の経路が、海中に長く沈められていた養殖網への反復接触です。
養殖網に付着した刺胞動物から皮膚感作した可能性
海中の養殖施設にはさまざまな生物が付着します。
実際、ホタテ養殖施設にはヒドロ虫類やイソギンチャクなどが付着することが、水産研究機関からも報告されています。
番組でも、網に付着するクラゲやイソギンチャクなどの刺胞動物とPGAの存在が紹介されました。
黒鳥医師らの2023年の論文では、長期間海中に置かれた養殖網にはクラゲなどを含む海洋付着物が付き、その網へ素手で繰り返し触れることでPGAへの経皮感作が積み重なる可能性が仮説として示されています。
この仮説なら、
「クラゲに刺された記憶はない」
にもかかわらず、
「ホタテ養殖を長く続けている人に納豆アレルギーがみられる」
という一見不思議な状況を説明できます。
論文では、網の修繕時にも手袋を使って皮膚との接触を減らすことが、感作を防ぐ可能性についても触れられています。
ただし、養殖網に付着した特定の生物が直接すべての症例を起こしたところまで証明されたわけではありません。ここは番組で示されたストーリーと、研究論文で確認されている範囲を分けて考える必要があります。
なぜ納豆を食べてすぐではなく数時間後に症状が出るのか
納豆アレルギーには、もうひとつ厄介な特徴があります。
症状が食後かなり時間がたってから現れることがある点です。
黒鳥医師らが調べた入院患者6人では、納豆を食べてから症状が出るまで3~16時間かかっていました。
研究では、PGAは消化管からの吸収が遅い性質を持つため、これが遅発性のアレルギー反応につながる可能性が考えられています。
そのため、夜になってじんましんや呼吸症状が出ても、朝や昼に食べた納豆と結びつきにくいケースがあります。
番組で最初に紹介された男性も、納豆を食べたあと時間が経過してから全身のかゆみや胃の不快感、呼吸苦などを起こしていました。
地域の「ホタテ漁師は納豆で体調を崩す」という話を黒鳥偉作医師が追った
今回の話で印象的なのは、最初から原因が分かっていた研究ではなかったことです。
北海道立羽幌病院で勤務していた黒鳥偉作医師は、納豆を食べたあと重いアレルギー症状を起こす患者と出会います。
さらに地域には、ホタテ養殖に携わる人が納豆で体調を崩すという話がありました。
黒鳥医師は一度この地域を離れたあと再び羽幌病院へ戻り、症例や漁師たちの仕事内容を調べていきます。
そこで「ホタテを扱っている」という共通点からもう一段深く入り、網を繰り返し修繕する仕事へたどり着きました。
その後、北るもい地域の漁業従事者を対象とする調査を行い、研究成果は2023年に『Allergology International』へ掲載されました。北海道大学では、この研究をまとめた黒鳥医師の博士論文「北るもい地域におけるホタテガイ養殖従事者の納豆アレルギーに関する調査研究」も公開されています。
地域で語られてきた経験則を、患者の診療、漁業現場の観察、アンケート調査へとつなげた研究だったわけです。
納豆アレルギーで注意したいこと
この研究結果を見て「ホタテを扱ったことがあるから納豆を食べてはいけない」と自己判断する必要はありません。
今回示されたのは特定地域のホタテ養殖従事者を対象とした研究であり、一般の人すべてに同じリスクが当てはまるわけではありません。
一方、納豆を食べた数時間後に、全身のじんましん、呼吸困難、血圧低下など重い症状が出た場合には注意が必要です。
日本アレルギー学会は、アナフィラキシーを急速に進行することがある重篤なアレルギー反応としており、迅速な対応が必要だとしています。
過去に納豆を食べたあと同じような症状を経験している場合は、再び自分で食べて確かめるのではなく、医療機関で相談することが大切です。
まとめ
『ザ!世界仰天ニュース』で紹介されたホタテ漁師と納豆アレルギーの意外な関係。その手掛かりになったのは、ホタテそのものではなく海中で使用した養殖網を修繕する作業でした。
黒鳥偉作医師らの研究では、ホタテ養殖従事者と納豆アレルギーとの関連に加え、網の修繕経験や長い従事期間との関連も確認されています。
納豆のネバネバ成分に含まれるPGAは、クラゲやイソギンチャクなど刺胞動物にも存在します。長期間海中に置かれた網を繰り返し素手で扱うことでPGAへ皮膚から感作される可能性が、現在考えられている仕組みのひとつです。
「ホタテ漁師がなぜ納豆で体調を崩すのか」という地域の不思議な話が、漁業現場まで調べた医学研究につながった興味深いケースです。
参考リンク
- ザ!世界仰天ニュース公式サイト
- 北海道大学学術成果コレクション「北るもい地域におけるホタテガイ養殖従事者の納豆アレルギーに関する調査研究」
- J-STAGE「Scallop aquaculture has a potential risk of natto-induced hypersensitivity reactions in a local area of northern Japan」
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