イカ泳ぎを知っておきたい理由
海や川で流されたとき、「泳げるから岸まで戻ればいい」と考えてしまいがちです。しかし、水難時は服や波、流れの影響を受け、普段のプールと同じようには泳げません。そこで知っておきたいのが、仰向けに近い姿勢で呼吸を確保しながら移動するイカ泳ぎです。『林修の今知りたいでしょ! 2時間SP(2026年8月13日)』でも、水難事故から命を守る泳ぎ方として紹介される予定です。大切なのは、泳法だけでなく、ライフジャケットや離岸流への対応までセットで理解することです。
この記事でわかること
- イカ泳ぎの基本的な考え方
- 背浮きとの違いと使い分け
- 離岸流に流されたときの考え方
- 子どもと水辺へ行く前の安全対策
イカ泳ぎは水難時の移動と浮力確保を考えた泳ぎ方
イカ泳ぎは、水難時に仰向けに近い姿勢をとり、顔を水面に出しながら手足を動かして移動する方法です。
海外で「エレメンタリー・バックストローク」「ライフセービング・バックストローク」などと呼ばれる泳法をもとに、日本水難救済会が覚えやすい名称として「イカ泳ぎ」と呼んで普及を進めています。
ポイントは、クロールのように速く泳ぐことではありません。
水難時には、
- 呼吸できる姿勢を保つ
- 必要以上に体力を使わない
- 周囲を確認する
- 安全な場所へ移動できそうなら移動する
という考え方が重要になります。
手足を広げたり縮めたりする動きがイカの泳ぐ姿に似ていることから、この名前が付けられています。
たしかに「命を守る泳ぎ」と聞くと、岸まで必死に泳ぐ方法を想像します。しかし実際には、速さよりも呼吸と体力を保つことを優先するという点が大きく違います。
特に海では、波や流れがあるため、顔を水面ギリギリまで寝かせるよりも、状況に応じて顔を少し起こし、周囲や波を確認しながら動けることも重要になります。
ただし、イカ泳ぎを覚えていれば水難事故を防げる、という意味ではありません。
日本水難救済会も、イカ泳ぎには限界があり、天候や波、遊泳場所の確認、連絡手段、ライフジャケットなどの事前の備えが重要だとしています。
個人的には、ここを取り違えないことがいちばん大事だと感じます。イカ泳ぎは「危険な場所でも泳げる技術」ではなく、万一のときの選択肢を1つ増やす技能として考えるのが自然です。
イカ泳ぎには平泳ぎ型とバタ足型がある
日本水難救済会では、イカ泳ぎについて平泳ぎ型とバタ足型の手本を公開しています。
どちらも基本は仰向けに近い姿勢です。
平泳ぎ型は、腕で水をかきながら、脚も平泳ぎに近い動きを使います。体を縮めてから伸びる動きを繰り返すため、イカが進む様子を連想しやすい泳ぎ方です。
一方のバタ足型は、腕の動きとともに脚をバタ足のように動かして進みます。
大切なのは、「どちらが絶対に正しいか」ではなく、本人の泳力や服装、波、水温、流れなどによって動きやすさが変わることです。
水難時には普段とは条件が違います。
たとえばズボンを履いていると、平泳ぎのような大きな脚の動きがしにくくなる場合があります。反対に、バタ足を強く続ければ体力を消耗します。
そのため、練習する際も速さを競うより、
仰向けで呼吸を続けながら、力まず体を移動させられるか
を確認したほうが実用的です。
初めて知ると「泳法なのだから正しいフォームを覚えればいい」と思いがちですが、水難対策ではフォームの美しさより、落ち着いて呼吸できる状態を維持することのほうが重要です。
背浮きとイカ泳ぎでは目的が少し違う
水難事故対策としてよく知られてきたのが背浮きです。
背浮きは、仰向けになって体を水面に浮かせ、できるだけ体力を消耗せず救助を待つ考え方です。
一方、イカ泳ぎは浮いた状態を基本にしながら、必要に応じて自分で移動できるところに特徴があります。
簡単に整理すると次のようになります。
| 方法 | 主な考え方 |
|---|---|
| 背浮き | 浮力を確保して救助を待つ |
| イカ泳ぎ | 浮力を確保しながら必要に応じて移動する |
| 通常の水泳 | 主に目的地まで泳ぐ |
ただし、「背浮きは古いからイカ泳ぎだけ覚えればよい」と考えるのも適切ではありません。
水面が穏やかで救助が期待できる状況なら、むやみに動かず浮いて待つことが有効な場合があります。
逆に、近くに安全に上がれそうな場所が見えるなど、移動する余裕がある状況ではイカ泳ぎという選択肢があります。
日本水難救済会も、単にその場に浮き続けるだけではなく、余裕があれば周囲を確認し、安全に上がれる場所がある場合には移動する考え方を示しています。
つまり重要なのは、背浮きかイカ泳ぎかを機械的に選ぶことではなく、自分の体力と周囲の状況を判断することです。
実際の事故では、波、水温、流れ、岸までの距離などが毎回違います。
「これだけ覚えれば大丈夫」というものがないところが、水難対策の難しい部分でもあります。
服を着た状態やライフジャケット着用時の考え方
イカ泳ぎが注目されている理由の1つが、服を着た状態でも使える可能性があることです。
水難事故は必ず水着で起きるわけではありません。
釣り、川遊び、キャンプ、堤防、磯遊びなどでは、ズボンやシャツ、靴を着用した状態で水に落ちる可能性があります。
服が水を含むと動きにくくなるため、プールで泳いでいるときの感覚はあまり当てになりません。
クロールでは肩を大きく回します。平泳ぎでは脚を大きく曲げ伸ばしします。
服が体にまとわりつくと、こうした動きが普段より難しくなることがあります。
日本水難救済会が紹介した実演でも、ジーンズやシャツを着用した状態でイカ泳ぎが行われています。
ただし、ここでも誤解したくないのが、着衣泳ができればライフジャケットはいらないわけではないという点です。
むしろ水辺では、先にライフジャケットを着用することが基本です。
国土交通省は川遊びについて、大人も子どももライフジャケットを着用するよう呼びかけています。
特に子ども用では、
- 体のサイズに合っている
- 体にしっかりフィットしている
- 股下ベルトがある
- 正しく固定できている
といった点を確認することが大切です。
子どもの膝下ほどの水深でも、流れが強かったり急に深くなったりすることがあります。
「浅いから大丈夫」という感覚は、川では特に危険です。
また、浮き輪は遊具としては便利ですが、ライフジャケットとは役割が違います。
川には複雑な流れがあり、体が浮き輪から外れてしまう可能性もあります。水辺の安全装備として考えるなら、体に固定できるライフジャケットを優先する必要があります。
実際に家族で遊びに行くなら、泳ぎ方を覚えること以上に、この装備確認を先にやっておきたいところです。
離岸流に巻き込まれたときに優先する行動
海水浴で特に知っておきたいのが離岸流です。
離岸流とは、海岸付近から沖方向へ流れる強い流れのことです。
知らないまま巻き込まれると、「岸がどんどん遠ざかっている」と感じ、パニックになって岸へ向かって全力で泳ぎたくなります。
しかし、強い流れに逆らって泳ぎ続ければ体力を急速に失う可能性があります。
日本ライフセービング協会では、離岸流に流された際の考え方として、
慌てない → 落ち着く → 考える → 行動する
という流れを示しています。
離岸流は沖まで永遠に流れ続けるものではなく、沖側で流れが拡散して弱くなる特徴があります。
そのため、まず呼吸を確保し、周囲を確認することが重要です。
海岸と平行方向へ移動して流れから抜ける方法が紹介されることもありますが、海の状態や本人の泳力によって対応は変わります。
疲れているのに無理に泳ぐのは危険です。
イカ泳ぎも、このような場面で呼吸を確保しながら周囲を見るための選択肢になりますが、離岸流から必ず脱出できる泳法という意味ではありません。
ここはかなり重要です。
水難時の情報は「この方法をすれば助かる」と単純化すると、かえって危険な理解につながります。
ライフジャケットを着けている場合は浮力を生かし、落ち着いて状況を確認することが優先されます。
周囲にライフセーバーがいる海水浴場なら、大声や手を振るなどして救助を求めることも重要です。
子どもがイカ泳ぎを練習するときの注意点
子どもにイカ泳ぎを覚えてもらうなら、いきなり海や川で練習するのではなく、管理されたプールなど安全な環境で専門家の指導を受けながら練習するほうが安心です。
まず必要なのは、仰向けの姿勢に慣れることです。
顔に水がかかるだけで慌ててしまう子もいます。
その状態で腕や脚の動きを同時に覚えようとしても難しいため、
- 水に慣れる
- 仰向けで浮く
- 呼吸を続ける
- 腕の動きを覚える
- 脚を組み合わせる
というように段階的に練習するほうが現実的です。
また、親が子どもに教える場合も「できるようになるまで頑張らせる」必要はありません。
怖がっている状態で無理に続けると、水そのものへの恐怖につながる可能性があります。
個人的には、子どもの水難対策では「泳げる子にする」ことだけを目標にしないほうがいいと思います。
それより、
危ない場所へ近づかない、ライフジャケットを着ける、大人から離れない、危険を感じたら助けを求める
という行動をセットで教えるほうが重要です。
日本ライフセービング協会なども、子ども向けの水辺の安全教育を進めています。
泳力が高いことと、自然の水辺で安全に行動できることは同じではありません。
プールで25mや50m泳げる子でも、海や川では波、流れ、水温、足場、視界など条件が大きく変わります。
「うちの子は泳げるから大丈夫」と思わないことが、水辺では大切です。
実際の水辺では泳ぐ前の備えが最も重要
イカ泳ぎを覚える意味はあります。
しかし、水難事故対策で優先順位をつけるなら、水に入った後の技術より、水に入る前の準備のほうが先です。
日本ライフセービング協会では、水辺へ行く際に天気や波、風などの情報を確認し、家族へ行き先を伝え、ライフジャケットなどの装備を準備することを呼びかけています。
海に到着してからも、すぐに水へ入らず、
- 遊泳可能な区域か
- 波が高くないか
- 風が強くないか
- 離岸流らしい場所がないか
- ライフセーバーがいるか
- 津波時の避難場所はどこか
などを確認しておきたいところです。
川の場合には、さらに上流の天候にも注意が必要です。
遊んでいる場所が晴れていても、上流で強い雨が降れば急に増水することがあります。
また、単独で川へ行かず、複数人で行動することも重要です。
こうして見ると、イカ泳ぎは水難対策の主役というより、何重にも備える安全対策の1つだと分かります。
ライフジャケットを着る。
危険な場所へ入らない。
天候を確認する。
子どもから目を離さない。
救助が必要になったときに備えて連絡手段を確保する。
そのうえで、万が一水に落ちたり流されたりしたときに使える技能としてイカ泳ぎを知っておく。
この順番で考えるのが大切です。
名前のインパクトから「イカ泳ぎ」だけが注目されがちですが、実際に家族で海や川へ行くなら、泳ぎ方を覚えたことで安心するのではなく、そもそも危険な状況を作らないことを最優先にしたいところです。
出典ソース
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