熟年貧血は「鉄不足」だけを考えないことが大切
『あしたが変わるトリセツショー(知らないと怖い!「熟年貧血」)(2026年8月20日)』で取り上げられたのは、年齢を重ねてから増えてくる貧血です。若い世代に多い鉄不足とは原因が異なることがあり、胃や腸からの出血、慢性的な炎症、骨髄の異常などが隠れている場合があります。健康診断のヘモグロビン値の見方から、見逃しやすい症状、鉄を効率よくとる食事まで整理します。
この記事でわかること
- 熟年貧血で最初に確認したいヘモグロビン値
- 鉄をとっても改善しない貧血で考えられる原因
- めまいだけでは判断できない見逃しやすいサイン
- 非ヘム鉄とビタミンCを組み合わせる鉄活の方法
熟年貧血で大事なのは鉄を増やす前に原因を調べること
中高年以降の貧血で最も気をつけたいのは、「貧血だから鉄をとればいい」と自己判断しないことです。
若い女性では月経による鉄不足が貧血の大きな原因になりますが、男性では加齢とともに貧血が増え、女性も閉経後になると別の原因による貧血が増えてきます。
特に考える必要があるのが次のような原因です。
- 胃や腸から少量の出血が続いている
- 体内で慢性的な炎症が起きている
- 骨髄で血液を作る機能に異常が起きている
- 栄養素の不足などで赤血球を十分に作れない
高齢者の貧血では、栄養障害だけでなく、ほかの病気に伴う二次性貧血や骨髄異形成症候群なども鑑別の対象になります。つまり「年を取ったからヘモグロビンが低くても仕方がない」と考えるのではなく、なぜ低くなっているのかを確認することが重要です。
健康診断でヘモグロビン値が基準値を下回った場合は、結果をそのままにせず、一般内科やかかりつけ医などに相談するのが基本になります。
胃潰瘍や大腸ポリープなどの「隠れ出血」が原因になる
熟年期の貧血で特に注意したいのが、本人には見えにくい消化管からの慢性的な出血です。
紹介された68歳の渡辺進さんも、再検査をすすめられていたものの、その後体調が急変しました。貧血が非常に強くなり、輸血が必要な状態にまで進行していました。
原因として見つかったのが胃潰瘍です。
胃や腸から一度に大量の血が出れば異変に気づきやすいですが、少量ずつ長期間失われる場合は本人が出血を自覚できないことがあります。
こうした状態が続けば、
胃や腸から出血する
↓
少しずつ鉄や血液を失う
↓
ヘモグロビンが低下する
↓
貧血が進む
という流れが起こります。
背景となる病気には、胃潰瘍だけでなく胃がん、大腸がん、大腸ポリープなどが含まれる場合もあります。
そのため、食事で鉄を増やしたとしても、出血そのものが続いていれば根本的な解決にはなりません。
「鉄分が足りない」という結果だけを見るのではなく、鉄がなぜ減っているのかを調べることが中高年ではより大切になります。
貧血が進むと心臓が頑張り続けることになる
赤血球に含まれるヘモグロビンには、肺から取り込んだ酸素を全身へ運ぶ大切な役割があります。
貧血になるとヘモグロビンが減り、同じ量の血液を送っても運べる酸素が少なくなります。
すると体は酸素不足を補おうとして、心臓をより働かせます。
低酸素状態を利用した実験でも、参加者本人には大きな変化の自覚がなくても、心拍数が上がる変化がみられました。
この「本人はそれほど苦しくないのに、心臓は頑張っている」という状態が、熟年貧血の怖いところです。
渡辺さんの場合には強い貧血に伴って狭心症を発症していました。
赤血球が不足すると全身への酸素供給が低下し、息切れ、動悸、だるさなどが起こることがあります。重い貧血では単なる「疲れやすさ」の問題として扱わず、医療機関での評価が必要です。
ゆっくり進むため「年齢のせい」と思いやすい
貧血というと、
「急にフラッとする」
「めまいがする」
「立ちくらみがする」
というイメージを持つ人も多いでしょう。
しかし、中高年の貧血を見つけるときはめまいだけを目安にしないことが大切です。
貧血はゆっくり進行すると、体が少しずつその状態に順応してしまいます。
そのため、
- 以前より歩くのがつらい
- 階段ですぐ息が切れる
- 疲れが抜けにくい
- 動悸を感じる
- 家事や外出がおっくうになった
といった変化があっても、「年齢のせい」「運動不足」「夏バテ」などと考えてしまうことがあります。
反対に、めまいや立ちくらみは血圧や耳の病気など別の原因でも起こります。
つまり、症状だけで貧血かどうかを判断するのは難しいということです。
下まぶたの裏側が白っぽくないかを見る方法もありますが、あくまで気づくきっかけの1つです。最終的には血液検査でヘモグロビン値を確認する必要があります。
健康診断ではヘモグロビンの数字を見逃さない
健康診断の結果表でチェックしたい項目がHb(ヘモグロビン)です。
ヘモグロビンは赤血球の中にあるたんぱく質で、酸素を全身へ運びます。
WHOが2024年に示した基準では、15~65歳では非妊娠女性で12.0g/dL未満、男性で13.0g/dL未満が貧血の基準とされています。ただし、年齢や持病などによって医療上の評価は異なるため、健診結果に記載された基準値と医師の判断を優先する必要があります。
さらに大切なのは、1回の数字だけでなく過去の健診結果との変化です。
例えば以前は正常だった人のヘモグロビン値が少しずつ低下しているなら、その変化にも意味があります。
健診結果を毎年保存しておくと、
「去年より下がっている」
「数年間ずっと低い」
といった変化にも気づきやすくなります。
85.3%が無治療という数字が示す見逃しやすさ
貧血は決して珍しい異常ではありません。
日本の成人55万人以上の健診・診療データを分析した研究では、貧血に該当した人の85.3%が治療を受けていなかったと報告されています。
さらに55.3%は診断されていない状態でした。
ただし、この数字は「熟年層だけの85.3%」という意味ではなく、成人全体を対象にした研究です。それでも、血液検査で異常があっても、その後の診断や治療につながっていない人が多いことを示しています。
特に貧血がゆっくり進むと、「困っていないから大丈夫」と考えやすくなります。
症状の強さよりも、健診で示された数字を放置しないことが大切です。
鉄だけでは治らない「炎症による貧血」もある
熟年期では、出血以外の原因もあります。
その1つが慢性的な炎症に伴う貧血です。
例えば関節リウマチなど、体内で炎症が長く続く病気では、鉄そのものが体内にあっても、赤血球を作るためにうまく利用できなくなることがあります。
このタイプでは単純な鉄不足とは仕組みが違います。
そのため、
「鉄の多い食品をたくさん食べる」
「鉄のサプリメントを飲む」
だけで解決しようとするのは適切ではありません。
血液検査ではヘモグロビンだけでなく、必要に応じて鉄の状態や炎症、腎機能、赤血球の大きさなどを組み合わせて原因を探していきます。
骨髄の異常も熟年期では見逃せない
血液は骨の中にある骨髄で作られています。
年齢を重ねると、この造血の仕組みに異常が起こる病気も増えてきます。
代表例の1つが骨髄異形成症候群です。
正常な血液細胞を十分に作れなくなる病気で、貧血をきっかけに見つかることがあります。
「鉄をとっているのにヘモグロビンが上がらない」という場合には、そもそも鉄不足ではない可能性があります。
この点からも、中高年の貧血では原因を確かめないまま鉄だけを補うのではなく、必要な検査を受けることが重要になります。
鉄活カードQは非ヘム鉄とビタミンCの組み合わせがポイント
原因となる病気への対応とは別に、日々の食事から十分な鉄をとることも大切です。
鉄には大きく分けてヘム鉄と非ヘム鉄があります。
ヘム鉄は肉や魚など動物性食品に多く、非ヘム鉄は豆類や野菜など植物性食品にも含まれています。
そこで活用されたのが、以前紹介された「鉄活カードQ」のアップデート版です。
ポイントは、非ヘム鉄をビタミンCと組み合わせること。
例えば、
| 鉄を含む食品 | 組み合わせやすい食品 |
|---|---|
| ほうれんそう | パプリカ、果物 |
| 大豆・豆類 | ブロッコリー、果物 |
| カシューナッツ | ビタミンCを含む野菜 |
| 貝類 | 野菜や果物 |
| 肉・魚 | 野菜を添える |
といった組み合わせが考えられます。
和洋女子大学の学生が考案した「鉄活ごはん」でも、マグロとカシューナッツの中華炒めやほうれんそうのマフィンなど、毎日の食事に取り入れやすいメニューが作られていました。
難しい栄養計算を続けるより、「鉄を含む食品+ビタミンCを含む食品」という形で覚えておくと実践しやすくなります。
食事による鉄活と病気による貧血は分けて考える
ここは特に混同しないようにしたいところです。
鉄活は、食生活から必要な鉄をとるための方法です。
一方、
- 胃潰瘍から出血している
- 大腸の病気で出血している
- 慢性炎症がある
- 骨髄に異常がある
といった場合は、原因となっている病気への対応が必要です。
鉄の多い食品を食べたからといって、胃潰瘍や大腸がん、骨髄の病気が治るわけではありません。
特に中高年では「貧血対策」と「貧血の原因を調べること」を別々に考えることが大切です。
健康診断で異常を指摘されたときは、食生活を見直すだけで終わらせず、まず原因を確認する。そのうえで必要に応じて日々の鉄活も取り入れる、という順番が安心です。
受診につなげたいのは「健診で低かったのにそのまま」の人
自覚症状の有無だけで判断するより、最も分かりやすい入口は健康診断の結果です。
特に、
- ヘモグロビンが基準値より低い
- 再検査や受診をすすめられている
- 数年前よりヘモグロビンが低下している
- 疲れや息切れ、動悸が以前より増えた
- 鉄を意識しているのに貧血が続いている
という場合は、一度医療機関で相談しておくと安心です。
胸の痛みや強い息苦しさ、意識を失う、急激な体調悪化などがある場合は、通常の健診フォローとは別に速やかな医療対応が必要です。
熟年貧血で最も避けたいのは、体が慣れてしまったことで異変を見逃し、「年齢だから仕方ない」と長期間そのままにすることです。
健康診断の小さな数字の変化が、体の中で起きている問題を見つける入口になることがあります。
気になる生活ナビをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。


コメント