「貼る注射」を開発したコスメディ製薬
2026年9月20日放送の日本テレビ系『博士は今日も嫉妬する 人生が楽しくなる最新テクノロジー』では、「痛みを感じにくい貼る注射」が登場します。この技術を開発しているのが、京都薬科大学発のベンチャー企業・コスメディ製薬です。番組で取り上げられるのは、髪の毛ほどの世界にある微細な針を皮膚へ貼り、針そのものを体内の水分で溶かす「溶解型マイクロニードル」です。
コスメディ製薬は2008年、この溶解型マイクロニードルの工業的製法を世界で初めて確立し、化粧品として実用化しました。現在は美容分野だけでなく、薬剤投与やワクチンなど医療・医薬分野への展開も進めています。
この記事でわかること
- コスメディ製薬「貼る注射」の仕組み
- 数百~数千本もの微細な針を並べる理由
- ヒアルロン酸の針が皮膚の中で溶ける仕組み
- 「貼る注射」と研究中の「貼るワクチン」の違い
2008年に世界初実用化した溶解型マイクロニードル

コスメディ製薬の「貼る注射」を理解するうえで重要なのが、「溶解型マイクロニードル」という言葉です。
マイクロニードルとは、その名の通り極めて小さな針。コスメディ製薬では、長さ数百μm(マイクロメートル)の針を使い、皮膚から有効成分や薬剤を届ける経皮吸収技術を研究しています。
医療用では目的に応じて長さ300~800μm、美容用では150μm、200μm、300μmなどに設計されています。普通の注射針のような長い1本の針を深く刺すのではなく、ごく短い針を皮膚表面に多数並べるのが大きな違いです。
コスメディ製薬が画期的だったのは、針を単に小さくするだけでなく、針そのものが溶ける構造にしたことでした。
同社は2008年11月、溶解型マイクロニードルの工業的製法を確立し、世界初のマイクロニードル化粧品を上市しています。
研究室で作れるだけではなく、品質を保ちながら大量生産できる技術まで完成させたことが、実用化につながりました。
数百〜数千本の微細な針を並べる仕組み
「貼る注射」を拡大して見ると、シートの表面には小さな針が剣山のように並んでいます。
コスメディ製薬が2026年に紹介した技術では、長さ数百μmのマイクロニードルを数百本~数千本、シート上に林立させる構造が採用されています。
1本の大きな針で薬剤を入れるのではなく、極めて小さな針を数多く並べ、それぞれから成分を届けるという考え方です。
針の本数や長さは、目的によって変えられます。
コスメディ製薬は2020年には、1枚に4,200本の針を配置した「超高密度マイクロニードル」も開発しました。これは当時の同社現行品の約2.8倍の針数でした。
もう1つの特徴が、独自の「富士山ニードル」です。
皮膚表層へ入りやすく、その場にとどまりやすい形を追求した結果、富士山のような形状に行き着きました。単に針を小さくするだけでなく、形状や密度まで細かく設計されているのです。
ヒアルロン酸などを針にする発想
溶解型マイクロニードルが生まれる以前にも、微細な針を使って薬剤を皮膚から届けようという研究は行われていました。
ただし、当時研究されていたマイクロニードルには、金属やシリコンなどが使われていました。
そこでコスメディ製薬が考えたのが、**「皮膚になじみのある成分そのものを針にしてしまう」**という方法です。
代表的な素材がヒアルロン酸です。
水溶性のヒアルロン酸などを非常に小さな針の形に成形し、必要な成分を針の中に含ませます。シートを肌へ押し当てると、針が皮膚へ入り、その後は水分によって溶けていきます。
この技術はさらに進化しています。
コスメディ製薬では、
- ヒアルロン酸マイクロニードル
- 三重らせんコラーゲンを利用したマイクロニードル
- タウリンを結晶化したマイクロニードル
なども開発しています。
2023年には三重らせんコラーゲンとヒアルロン酸を共存させたニードルの作製にも成功。さらにタウリンを微細な針状の結晶にし、その内部へ別の成分を含ませる技術も生まれています。
「注射針は金属でできている」という常識そのものを変えた発想が、この技術の原点です。
皮膚の中で針そのものが溶ける技術
では、貼った後の針はどうなるのでしょうか。
ここが「溶解型」という名前の最大のポイントです。
ヒアルロン酸などの水溶性成分で作られた微細な針を皮膚へ貼ると、皮膚内部の水分によって針そのものが徐々に溶解します。
つまり、金属製の針を刺して、最後に引き抜くという一般的な注射とは仕組みが異なります。
流れを簡単に整理すると、
- 微細な針が並んだシートを皮膚へ貼る
- マイクロニードルが皮膚表面へ入る
- 皮膚内の水分によって針が溶ける
- 針に含まれていた成分が放出される
という仕組みです。
コスメディ製薬では、この技術を皮膚から薬剤を体内へ届けるTTS(Transdermal Therapeutic System=経皮吸収治療)の次世代技術と位置付けています。
注射に対する恐怖や負担を小さくしながら、必要な成分を届けられる技術として開発が続いています。
ただし、ここで注意したいのは、マイクロニードル技術が存在することと、あらゆる注射薬を現在すぐ「貼る注射」に置き換えられることは別だという点です。
美容用マイクロニードルはすでに商品化されていますが、医薬品やワクチンへの応用は、それぞれの薬剤に合わせた開発や評価が必要になります。
美容分野から医療分野へ広がるマイクロニードル
コスメディ製薬はもともと、皮膚から薬剤を届けるTTSの研究成果を社会に実装するため、2001年に京都薬科大学内で設立された企業です。
溶解型マイクロニードルも、最初から単なる美容アイテムとして生まれたわけではありません。
医薬品は実用化まで長い開発期間が必要になるため、同社はまず化粧品へ応用。2008年にマイクロニードル化粧品を製品化し、技術を市場へ送り出しました。
その後、研究対象は再び医療へ広がっています。
現在、公式に示されているマイクロニードルの医療分野での開発例には、
- ワクチン
- 片頭痛治療薬
- 発毛剤
- 徐放性製剤
- 肥満症にも使われる糖尿病治療薬の経皮投与
などがあります。
さらに2026年3月には、コスメディ製薬の「溶解型マイクロニードル製造工程開発チーム」が、第10回ものづくり日本大賞の優秀賞を受賞しました。
研究段階だった小さな針を、安定して大量生産できる製造技術へ育てたことも、現在の「貼る注射」につながる重要な転機です。
「貼るワクチン」研究との違い
「貼る注射」と一緒に知っておきたいのが「貼るワクチン」です。
言葉は似ていますが、完全に同じ意味ではありません。
「貼る注射」はマイクロニードルを使って成分や薬剤を皮膚から届ける技術の考え方で、「貼るワクチン」はその技術をワクチン接種へ応用する研究テーマの1つです。
つまり、
「貼る注射」という技術
↓
その応用先の1つが「貼るワクチン」
という関係です。
コスメディ製薬は現在、感染症パンデミックに対応するワクチン製剤投与ツールとして「貼るワクチン」を開発しており、公式の研究開発テーマにはエムポックス(旧称サル痘)が挙げられています。
自己投与型ワクチンの実現も目標の1つです。
一般的な注射は医療従事者による投与が基本ですが、貼るタイプが実用化されれば、将来的には投与方法や医療現場の負担を変える可能性があります。
一方で、コスメディ製薬が2008年に実用化したマイクロニードル化粧品と、研究開発中の「貼るワクチン」は分けて考える必要があります。
2008年に世界初で実用化されたのは溶解型マイクロニードルを応用した化粧品であり、ワクチン接種への応用は現在も医療・医薬分野で開発が進められている段階です。
まとめ
コスメディ製薬の「貼る注射」は、数百μmという非常に短い針を数百~数千本並べ、皮膚から成分を届ける溶解型マイクロニードル技術です。
最大の特徴は、金属ではなくヒアルロン酸などの水溶性成分を針そのものに使ったこと。皮膚へ貼るとニードルが入り、その後、皮膚内部の水分で針が溶けていきます。
コスメディ製薬は2008年に世界で初めて工業的製法を確立し、マイクロニードル化粧品として実用化。その技術は現在、ワクチンや薬剤の経皮投与など医療分野へと広がっています。
2026年9月20日の『博士は今日も嫉妬する』で紹介される「貼る注射」は、小さなシートの上に、「針を刺して薬を入れる」というこれまでの注射とは異なる発想を詰め込んだ技術です。
参考リンク
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