街の自動販売機が豪雨時の「浸水観測拠点」になる
2026年10月7日放送の『ホンマでっか!?TV』では、豪雨から命を守る新しい仕組みとして、自動販売機を活用して浸水状況を把握する技術が取り上げられます。番組公式でも「浸水状況が自販機で分かる」と紹介されている注目の豪雨対策です。
実際に社会実装が進んでいるのが「自動販売機搭載型浸水センサ」です。中央大学研究開発機構、河川情報センター、大塚ウエルネスベンディングが共同開発し、国土交通省の「ワンコイン浸水センサ実証実験」の中で活用されています。2026年にはDAISO店舗にも導入され、身近な自動販売機を地域の防災インフラへ変える取り組みが広がっています。
この記事でわかること
- 自販機型浸水センサが冠水を検知する仕組み
- なぜ自動販売機を観測拠点にするのか
- DAISO46店舗へ導入された経緯
- 実際の豪雨で避難行動に役立った事例
自動販売機搭載型浸水センサは冠水をリアルタイムで検知する
自動販売機搭載型浸水センサは、道路や店舗周辺などの水位上昇を検知し、その情報をリアルタイムで送信するシステムです。
特徴的なのは、自動販売機そのものを単なる飲料販売機ではなく、センサの通信・電源拠点として利用していることです。
現在のモデルでは、自動販売機を「親機」とし、浸水を把握したい場所へ小型の「子機」を設置します。子機が冠水を検知すると情報が自販機側へ送られ、そこから浸水情報を集約するシステムへ送信されます。
例えば道路の低い部分や水が集まりやすい場所へ子機を置き、自販機本体は少し安全な場所へ設置することができます。
自動販売機そのものを水に浸けなくても、周辺の冠水状況を監視できる仕組みになっているのです。
国土交通省「ワンコイン浸水センサ実証実験」から生まれた
背景にあるのが、国土交通省が2022年から進める「ワンコイン浸水センサ実証実験」です。
豪雨時には、河川の水位だけではなく、住宅街や道路、地下道周辺などで「どこまで水が来ているのか」を素早く把握する必要があります。
しかし、街中のあらゆる場所へ大型の観測設備を設置するのは現実的ではありません。
そこで、小型で低コストの浸水センサを数多く配置し、冠水状況を面的に把握しようという考え方が進められています。
大塚ウエルネスベンディングもこの実証実験へ参加しており、国土交通省の「流域治水オフィシャルサポーター」に登録されています。
単に雨量を計測するのではありません。
実際に水が来た場所を直接検知することで、
- 道路の交通規制
- 避難情報の発信
- 冠水地域の把握
- 災害対応を行う職員の安全確保
などにつなげることが期待されています。
自動販売機を使う最大の理由は「すでに街中にある」こと
この仕組みのおもしろさは、自動販売機という既存インフラを利用する点です。
新しい観測設備をゼロから全国へ整備する場合、設置場所だけでなく、電源、通信回線、維持管理する人員、点検費用まで必要になります。
一方、自動販売機には最初から電源や通信設備があります。
さらに飲料を補充するため、定期的に担当者が訪れます。その際にセンサも確認できるため、専用の観測設備だけを設置する場合と比べ、維持管理しやすい利点があります。
自販機の売り上げを通信費などの運用費へ充てる仕組みも考えられています。
全国各地に存在する自動販売機を、防災情報を集める小さな観測基地として利用する発想です。
愛知県岡崎市では実際の線状降水帯で浸水を検知
このシステムは、机上だけのアイデアではありません。
初期モデルは2022年、愛知県岡崎市と兵庫県加古川市へ合計4台設置されました。
そして2023年6月2日、岡崎市を線状降水帯による豪雨が襲います。
設置されていた浸水センサは水位上昇を実際に検知。その情報が職員の避難行動に役立てられました。
一方、この豪雨では問題も判明しました。
初期モデルは自動販売機本体に浸水センサを取り付けていたため、水位が上昇すると自販機そのものまで浸水してしまったのです。
自動販売機の下部には飲料を冷却・加温する機器があるため、浸水すると交換が必要になります。
この経験が、現在の仕組みへ進化するきっかけになりました。
自販機本体と浸水場所を離した「親機・子機方式」へ進化
現在の自販機型浸水センサでは、自動販売機の近くだけを測定する必要はありません。
自販機を親機として、離れた場所へ子機を配置できます。
国土交通省の資料では、子機を最大3つ増設でき、自動販売機から離れた場所の観測にも対応する仕組みが示されています。浸水や停電が発生した場合には、予備バッテリーで稼働できる構成も採られています。
例えば店舗の駐車場に自動販売機があっても、一番先に水がたまりやすい道路脇や敷地の低い場所へセンサだけを設置できます。
浸水する場所と通信設備を切り離すことで、自販機本体を守りながら早い段階で水を検知できるようになりました。
実際の水害で見つかった弱点をもとに改良された点も、この技術の重要なところです。
DAISOでは自販機型浸水センサを46店舗へ導入
この技術は2026年、新しい段階へ入りました。
大創産業は国土交通省の実証実験へ参加し、DAISO店舗の敷地に「自販機型浸水センサ」を導入しています。
2025年12月にDAISO大牟田北店やDAISOメリーランド武雄店など5店舗で導入を開始。その後、浸水リスクの高い店舗を中心に2026年3月末までに全国46店舗への導入を予定しました。民間企業の店舗網へ導入された事例としては初めてです。
店舗敷地の低い場所には、縦約17cm、横約5cmのスティック型センサを設置します。
水を感知するとデータが自動販売機へ送られ、さらに国土交通省の浸水センサ表示システムへ連携される仕組みです。
買い物客から見れば普通の自動販売機でも、豪雨時には地域の水害状況を知らせる防災インフラとして働くことになります。
約222万台の飲料自販機を活用できる可能性
研究チームが注目しているのは、日本に存在する自動販売機の多さです。
2025年発表の河川技術論文では、国内に約393万台の自動販売機があり、このうち飲料用が約222万台とされています。
研究では、こうした飲料自販機が浸水センサの機能を持てば、全国の浸水状況を細かく把握できる可能性が示されています。
もちろん、すべての自動販売機にセンサが付いているわけではありません。
それでも、新たな巨大インフラを各地へ造るのではなく、すでに存在する設備を活用して観測網を細かくしていく発想には大きな特徴があります。
豪雨が起きた時、川の水位だけを見ていても、住宅街のどの道路まで水が来ているかまでは分からないことがあります。
身近な自販機から集まる情報によって、その空白を埋めようとしているのです。
災害時には飲料を提供する「ライフラインベンダー」の役割も
大塚ウエルネスベンディングでは、災害時に飲料や食料などを無償提供できる「ライフラインベンダー」も展開しています。
そこへ浸水センサという機能が加わることで、自動販売機は災害時に2つの役割を担えるようになります。
1つは、地域の浸水状況を知らせる「情報収集」。
もう1つは、被災した人へ飲料などを届ける「物資供給」です。
大塚ウエルネスベンディングは、自販機搭載型浸水センサを三重県津市にも設置するなど、自治体と連携して取り組みを進めています。
普段は飲み物を買う場所。
災害時には街の変化をいち早く検知し、人を守る設備へ変わる。自動販売機という身近な存在の使われ方が大きく広がっています。
まとめ
自動販売機搭載型浸水センサは、中央大学研究開発機構、河川情報センター、大塚ウエルネスベンディングが共同開発した豪雨対策技術です。
街中の自販機を親機として利用し、周囲に設置した小型センサが冠水を検知すると、リアルタイムで浸水情報を送信します。
2023年の愛知県岡崎市では線状降水帯による実際の水害を検知し、職員の避難にも活用されました。その経験をもとに仕組みを改良し、2026年にはDAISOの全国46店舗への導入も進みました。
道路や住宅街の「今どこまで水が来ているのか」を素早く知ることができれば、避難や交通規制を早められます。
普段何気なく目にしている自動販売機が、豪雨時には街を見守る防災センサになる時代が始まっています。
参考リンク
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