食べても太らない脂を研究する金子賢太朗准教授と脂質の新常識
2026年10月12日放送の『カズレーザー&石井亮次も知らない神研究!シャーベル賞』に、明治大学農学部の金子賢太朗(かねこ・けんたろう)准教授が登場します。
番組で取り上げられるテーマは「食べても太らない脂」。金子准教授は、脂質の分子構造によって、食欲や体重を調節するホルモンの働きが変わることを研究しています。
2025年に発表した研究では、ラードと牛脂を比較し、ラードを摂取したマウスで体重増加が抑えられ、食欲を調節するホルモン「レプチン」の働きが維持されることを明らかにしました。
ただし、これは人間がラードを食べても太らないという意味ではありません。重要なのは、これまで一括りにされてきた脂質に、分子構造によって異なる働きがあるという発見です。
この記事でわかること
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金子賢太朗准教授が発見した脂質と抗肥満作用の関係
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ラードと牛脂で体重増加やホルモン作用が変わる仕組み
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母乳に含まれる脂質から始まった研究の背景
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研究成果を日常の食生活に取り入れる際の注意点
金子賢太朗准教授が発見したラードと牛脂の違い
出典:明治大学「あぶらの構造」が抗肥満作用ホルモンの作用を変えることを発見
金子賢太朗准教授の研究成果の中でも注目したいのが、2025年7月21日に国際学術誌『PLOS One』に掲載された、ラードと牛脂の比較研究です。
ラードは豚の脂肪から作られる油脂、牛脂は牛の脂肪から作られる油脂です。どちらも動物性脂肪ですが、両者には分子構造の違いがあります。
研究グループは、この違いが体重や代謝にどのような影響を与えるか、マウスを使って検証しました。
実験では、摂取カロリーの30〜45%を脂質が占めるように調整した飼料を使用。その結果、脂質のカロリー比率が45%の条件で、ラードを摂取したマウスは牛脂を摂取したマウスより体重増加が抑えられ、体脂肪量も少なくなりました。
さらに、血糖値やインスリンの働きにも違いが見られています。
注目すべき点は、ラードと牛脂の脂肪酸組成が似ていても、体への作用が同じではなかったことです。
これまでの脂質の評価では、飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸の割合などが重視されてきました。
金子准教授の研究は、脂肪酸の種類だけではなく、分子のどの位置に結合しているかという構造にも重要な意味があることを示しています。
脂質の働きを変える「2-モノパルミチン酸」
ラードと牛脂の違いを理解するうえで重要なのが、「2-モノパルミチン酸」という脂質成分です。
脂質を構成する分子には、脂肪酸が結合する位置の違いがあります。
同じ脂肪酸でも、結合する場所が変わると、体内での働きが変化することがあります。
金子准教授の研究グループは、パルミチン酸が特定の位置に結合した2-モノパルミチン酸に着目しました。
この物質は「βパルミテート」とも呼ばれ、母乳の脂質構造に関する研究でも重要な存在です。
研究グループが先行して行ったマウス実験では、2-モノパルミチン酸を脳室内に投与すると、食欲を抑えるホルモンの作用が高まり、抗肥満効果が確認されました。
そして、ラードは牛脂と比較して、この特徴的な脂質構造を多く含むことが知られています。
そこで研究グループは、実際にラードと牛脂を食べた場合にも、ホルモンの働きに違いが現れるのかを検証しました。
その結果、脂質の構造と食欲調節、エネルギー代謝との関係を示す成果につながったのです。
食欲を抑えるホルモン「レプチン」の働きが鍵
脂質研究のもう1つの重要なポイントが、レプチンというホルモンです。
レプチンは脂肪細胞から分泌され、脳の視床下部に働きかけて、食欲や体重の調節に関わっています。
ところが、脂肪の多い食事を続けるなどして過栄養状態になると、レプチンが十分に働かなくなることがあります。
この状態を「レプチン抵抗性」と呼びます。
金子准教授の研究では、ラードを摂取したマウスは牛脂を摂取したマウスと比較して、レプチンの作用が維持されていました。
具体的には、レプチンによる摂食抑制作用や体重減少作用が認められています。
また、視床下部にある食欲を促進する遺伝子「AgRP」の発現が低下していたことも確認されました。
つまり、脂質の種類や構造の違いが、脳による食欲調節に関わっていることが示されたのです。
さらに、レプチンを作れない特殊なマウスでは、通常のマウスで見られたラードによる体重増加の抑制効果が失われました。
この結果も、ラード摂取による代謝への作用にレプチンが関係していることを裏付けています。
母乳の脂質に着目したことが研究の出発点
金子賢太朗准教授の研究を理解するうえで欠かせないのが、母乳に含まれる脂質への関心です。
母乳は脂質を多く含み、赤ちゃんの成長や発達を支えています。
一方、成人では脂質の多い食生活が肥満や生活習慣病に関わることが知られています。
金子准教授が率いる栄養生化学研究室では、この違いに注目し、母乳に特徴的な脂質構造が体内でどのように働くのかを研究してきました。
特に着目しているのは、栄養成分が脳やホルモンとどのように情報をやり取りしているかという仕組みです。
食べたものは、エネルギーや体をつくる材料になるだけではありません。
栄養成分の中には、脳や内分泌系に働きかけ、食欲、代謝、睡眠などの生体機能に影響を与えるものがあります。
研究室では、こうした働きを「食・栄養シグナル」という視点から解明しようとしています。
母乳の脂質構造から始まった研究が、ラードと牛脂の比較、さらには肥満や糖尿病の予防につながる新しい栄養研究へと発展しています。
金子賢太朗准教授の経歴と明治大学での研究
金子賢太朗准教授は、明治大学農学部農芸化学科に所属する研究者です。
専門分野は栄養生化学、栄養生理学、食シグナル学です。
主な経歴は次のとおりです。
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出身地:京都府宇治市
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2013年3月:京都大学大学院農学研究科博士課程修了
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学位:博士(農学)
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2013年4月から:約4年間、米国ベイラー医科大学で研究
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その後:京都大学、神戸医療産業都市推進機構、生活用品メーカーなどで研究
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2022年4月:明治大学に着任
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現在:明治大学農学部准教授、栄養生化学研究室を主宰
研究室では、食欲やエネルギー代謝に加えて、情動、認知、学習、運動、睡眠なども研究対象としています。
2025年のラードと牛脂の研究には、大学院生の池田睦さん、椎野珠江さん、成毛開さんらも参加しました。
研究室が掲げる目標の1つが「Food as Medicine」の実現です。
これは、食と栄養の働きを科学的に理解し、健康維持や病気の予防に役立てようとする考え方です。
脂質を単に制限する対象として見るのではなく、分子構造によって異なる働きをする栄養成分として理解しようとしています。
ラードを食べれば太らないという意味ではない
ここで重要なのが、研究結果の受け止め方です。
金子准教授の研究で確認されたのは、特定の飼料条件で飼育したマウスにおいて、ラードが牛脂より体重増加を抑制したという結果です。
ラードそのものに、食べても絶対に太らない性質があると証明されたわけではありません。
また、研究結果をそのまま人間の食生活に当てはめることもできません。
脂質にはエネルギーがあり、摂取量が増えれば総摂取カロリーも増加します。
脂質の種類だけでなく、食事全体のバランスや摂取量、運動習慣なども体重管理に関係します。
今回の研究を受けて、普段使っている調理油をすべてラードに置き換えたり、ラードを積極的に大量摂取したりすることが推奨されるわけではありません。
研究から得られる重要な知見は、同じ動物性脂肪でも、分子構造によって体内での働きが異なるという点にあります。
脂質研究が広げる新しい食生活の考え方
金子准教授の研究グループは、脂質の違いが体重や血糖値だけでなく、脳の働きにも影響を与えることに注目しています。
研究対象には、食欲の調節に加え、睡眠や感情、認知機能なども含まれています。
同じ脂質でも、人の成長段階や生活環境によって、求められる働きは異なります。
乳児の発育、成人の肥満予防、高齢者の健康維持では、栄養に期待される役割も同じではありません。
金子准教授が目指しているのは、そうした違いを踏まえて、脂質の種類だけでなく構造まで考えた新しい栄養の選択です。
そのためには、マウス実験で見つかった働きをさらに検証し、人間の体でも同様の作用が確認できるかを明らかにしていく必要があります。
脂質の構造に注目する研究は、従来の栄養学に新しい評価の視点を加えるものです。
研究成果を食生活で考える際のポイント
現段階で、日常生活に取り入れる際に押さえたいのは次の点です。
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ラードや牛脂にも異なる生理作用がある
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研究で確認された抗肥満作用は主にマウス実験の結果
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脂質は種類だけでなく分子構造によって作用が変わる
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特定の油脂だけを大量に食べることは推奨されない
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日常の食事では脂質の総量や栄養バランスも重要
ラードと牛脂の研究は、単純に一方が健康に良く、もう一方が悪いという結論を示したものではありません。
それぞれの脂質が持つ特徴を理解することが、今後の栄養研究の発展につながります。
まとめ
10月12日放送の『シャーベル賞』に出演する金子賢太朗准教授は、脂質の分子構造と食欲・体重調節の関係を研究する明治大学の研究者です。
2025年に発表した研究では、ラードを摂取したマウスが牛脂を摂取したマウスより体重増加を抑えられ、食欲を調節するレプチンの働きも維持されることが確認されました。
その背景には、母乳の脂質構造に着目する研究から積み重ねられてきた成果があります。
脂質の量だけでなく構造によって体への作用が変わるという発見は、肥満や生活習慣病の予防を考えるうえでも重要です。
食べても太らない食品が証明されたという話ではなく、食と脳の関係を新しい角度から明らかにした研究として注目したい成果です。
参考リンク
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