能扇製作|2026年に国の選定保存技術となった京都の職人技と、323年続く扇の老舗
能の舞台で役者が手にする美しい扇。その1本には、竹を削る職人、和紙を加工する職人、金箔や絵を施す職人など、さまざまな伝統技術が集まっています。
2026年10月13日(火)放送のNHK京都『京いちにち』では、今年新たに国の選定保存技術となった「能扇製作」と、その技を守り継ぐ職人たちの仕事が取り上げられます。
技術の保存を担う「能扇製作技術保存会」の会長は、京都の老舗「十松屋福井扇舗(とまつやふくいせんぽ)」の12代目、福井芳宏さんです。
十松屋福井扇舗は1703年創業。能楽の各流派に合わせた扇を323年にわたって作り続けてきました。
能扇は、単に風を送るための扇子ではありません。演じる役柄や流派によって形や絵柄まで細かく決められた、能楽に欠かせない舞台道具です。
この記事でわかること
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能扇製作が2026年に国の選定保存技術となった理由
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福井芳宏さんと創業323年の十松屋福井扇舗の歴史
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竹の扇骨から和紙、金箔、仕上げまでの製作工程
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能扇の購入方法・稽古用扇の価格・京都の店舗情報
能扇製作が2026年に国の選定保存技術となった
2026年7月17日、文化審議会は「能扇製作」を新たに選定保存技術とすることを答申しました。
あわせて、京都市に事務所を置く「能扇製作技術保存会」が保存団体として認定されることになりました。
選定保存技術とは、文化財を保存し、次の世代へ伝えるために欠かせない伝統的な技術を国が保護する制度です。
能扇製作が選ばれた理由は、能楽の上演に欠かせない技術である一方、製作できる職人が極めて少なくなっているためです。
文化庁は、技術の保存を急ぐ必要があるとしています。
能扇製作技術保存会では、職人の育成や原材料の確保、技術の記録作成などに取り組んでいます。
単に古い技術を残すのではなく、実際の能舞台で使い続けられる扇を、これからも作れるようにすることが目的です。
能扇は普通の扇子とは違い、役柄や流派によって決まりがある
一般的な扇子は、暑いときにあおいだり、好みの絵柄を楽しんだりするものです。
一方、能楽に使われる「能扇(のうおうぎ)」には、長い歴史のなかで定められてきた独自の決まりがあります。
能には観世流、宝生流、金春流、金剛流、喜多流という5つのシテ方の流派があります。
それぞれに扇の大きさや形、絵柄などの決まりがあり、基本的に別の流派の扇を自由に使うことはできません。
さらに、同じ流派でも、主役として登場するときと、地謡として舞台に座るときでは、使用する扇が異なります。
能扇には大きく分けて2つの形があります。
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中啓(ちゅうけい):閉じたときに先端が銀杏の葉のように広がる扇
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鎮メ扇(しずめおおぎ):閉じると先端がすぼまる形の扇
中啓は主役や脇役などが用い、絵柄によって役柄の性格を表します。
鎮メ扇は、地謡方などが用いる扇です。
そのため、能扇の製作者には、扇子を作る技術だけでなく、能楽の流派や演目、役柄に関する深い知識も求められます。
能扇製作は竹の扇骨・和紙の地紙・仕上げの3工程に分かれる
能扇製作の大きな特徴は、複数の職人による分業です。
文化庁は製作工程を「扇骨工程」「地紙工程」「仕上げ工程」の3つに大別しています。
1. 扇骨工程
扇の骨組みとなる竹を加工する工程です。
扇骨は、要と呼ばれる根元の部分から先端に向けて、わずかに薄くなるように削られます。
この微妙な厚みの違いが、扇の開閉や手に持ったときの感触に影響します。
十松屋福井扇舗では国産の真竹を厳選し、素材の段階から品質を確かめています。
2. 地紙工程
扇の表面となる和紙を加工する工程です。
和紙を貼り重ねて地紙を作り、金箔などを施す箔押しや、絵柄を描く上絵の作業を行います。
その後、扇らしい折り目を付ける加工へと進みます。
地紙は厚すぎると滑らかに開閉できません。美しい絵柄を表現しながら、適切な薄さに仕上げる必要があります。
3. 仕上げ工程
完成した扇骨と地紙を組み合わせる工程です。
求められるのは、滑らかに開閉でき、使っているうちに緩みにくい扇に仕上げること。
見た目の美しさだけではなく、舞台で繰り返し使用できる性能が重要です。
それぞれの工程には専門の職人が関わり、完成品として全体を監修する人物が必要になります。
福井芳宏は1703年創業の十松屋福井扇舗12代目
能扇製作技術保存会の会長を務める福井芳宏さんは、京都市中京区の「十松屋福井扇舗」の12代目社長です。
店の創業は1703年、江戸時代の元禄16年にさかのぼります。
当初から観世流の舞扇を調える仕事を担い、長い年月をかけて能楽各流派の扇を扱う専門店となりました。
現在は観世流をはじめ、宝生流、金春流、金剛流、喜多流などの宗家に扇を納めています。
また、狂言や日本舞踊に使う扇も手がけています。
十松屋福井扇舗の特徴は、店主自身が材料選びから仕様、意匠までを監修していることです。
単に完成した扇を仕入れて販売するのではなく、竹などの原材料の選定から、完成品の品質に至るまで深く関わっています。
福井さんが継承しているのは、製作技術だけではありません。
能の流派ごとの決まりや、伝統的な図柄の意味を理解し、それぞれの舞台にふさわしい扇を調える仕事も受け継いでいます。
翁扇・勝修羅扇・鬘扇に描かれた絵柄の意味
能扇のおもしろさは、絵柄を見るだけで、その扇を持つ人物の役柄が伝わることです。
十松屋福井扇舗が紹介している代表的な能扇には、次のようなものがあります。
翁扇(おきなおおぎ)
能の「翁」などで使う扇です。
鶴や亀、松竹橘などを描いた蓬莱山図が用いられ、不老長寿や吉祥の意味が込められています。
勝修羅扇(かちしゅらおうぎ)
源氏方の武将などを演じる際に使われる扇です。
旭日と老松を描いた図柄には、勝ち戦を象徴する意味があります。
「屋島」「田村」「箙」などの演目で用いられます。
鬘扇(かづらおうぎ)
若い女性や女神などを演じる際に使われる、華やかな扇です。
「井筒」「熊野」「杜若」などの演目で使用されます。
また、扇の色にも意味があります。
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紅入:若く華やかな役柄に用いる
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無紅:年老いた役柄や落ち着いた人物に用いる
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白骨:神体や男性、現世の役柄などに用いる
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黒骨:女性や幽玄の役柄、武将などに用いる
扇の絵柄や骨の色は、単なる装飾ではありません。
舞台で演じる人物を表現するための、大切な演出要素なのです。
能扇製作技術保存会が職人の育成と材料の確保に取り組む
能扇製作が国の選定保存技術となった背景には、伝統的なものづくりを続ける難しさがあります。
能扇を作るには、竹を扱う職人、和紙を加工する職人、絵を描く職人、仕上げを担当する職人が必要です。
一つの工程でも技術が途絶えてしまえば、従来どおりの能扇を作ることが難しくなります。
保存会は、この分業による製作技術を将来につなぐために組織されています。
主な活動内容
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製作技術を継承する職人の養成
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技術者向けの研修
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能扇に適した原材料の確保
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材料や製作技術に関する調査研究
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製作資料の収集と記録の作成
ここで大切なのが、単に扇の作り方を文章や映像に残すだけでは不十分だということです。
扇骨のわずかな厚みや、和紙の貼り合わせ方、扇を開くときの感触などは、実際に手を動かす仕事のなかで身につけられる技術です。
能楽がこれからも上演され続けるためには、その舞台を支える道具を作れる職人が必要なのです。
十松屋福井扇舗の稽古用扇は6,820円から購入できる
十松屋福井扇舗では、舞台用の能扇だけでなく、各流派の稽古用扇も販売しています。
公式サイトに掲載されている主な商品と税込価格は次のとおりです。
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観世流お稽古扇「丁子三段色地金水巻」:7,700円
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宝生流お稽古扇「白地色降五雲」:6,820円
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金春流お稽古扇「白地色降五星」:7,920円
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喜多流お稽古扇「白地色降三雲」:7,040円
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金剛流お稽古扇「白地色降金剛雲」:8,800円
送料は別途必要です。
扇の大きさも流派によって異なり、観世流では1尺1寸(33cm)、宝生流では1尺5分(31.5cm)の稽古扇が紹介されています。
金春流などでは、指導を受けている先生に適切な寸法を確認する必要があります。
注文は電話、FAX、メールで受け付けています。
金春流や金剛流の一部商品は注文製作となり、納品まで約2週間と案内されています。
購入する場合は、先に指導者へ流派や必要な扇の仕様を確認することが大切です。
十松屋福井扇舗の場所・営業時間・注文方法
十松屋福井扇舗は、京都市営地下鉄の丸太町駅から徒歩約3分の場所にあります。
2022年に移転し、現在は京都市中京区の北小路町で営業しています。
店舗情報
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店名:十松屋福井扇舗
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住所:京都府京都市中京区両替町通二条上る北小路町110
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電話番号:075-221-2540
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平日営業時間:9:00~17:30
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土曜日営業時間:10:00~16:00
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定休日:日曜・祝日・年末年始・お盆
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アクセス:地下鉄丸太町駅6番出口から徒歩約3分
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駐車場:なし
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クレジットカード:利用不可
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注文:電話・FAX・メールで受付
訪問前の注意点
十松屋福井扇舗は、能楽用の扇を調える専門店です。
一般的な観光施設や工房見学施設ではなく、公式サイトでは見学を受け付けていないことが明示されています。
商品購入や相談で訪れる場合も、少人数で営業しているため、事前に電話で連絡すると安心です。
また、能扇の修繕にも対応していますが、扇の状態によって受けられない場合があります。
修繕の目安として、要の打ち替えは税込11,000円以上、扇骨の総取り替えは33,000円程度から案内されています。
いずれも扇の状態や材料によって費用と納期が変わります。
まとめ
「能扇製作」は、2026年に新たに国の選定保存技術となった、能楽の舞台に欠かせない伝統技術です。
竹を削る扇骨工程、和紙を加工する地紙工程、扇を完成させる仕上げ工程に分かれ、複数の職人が力を合わせて1本の扇を作ります。
その技術の保存を担う能扇製作技術保存会の会長が、創業323年の老舗「十松屋福井扇舗」の12代目、福井芳宏さんです。
能扇には、役柄や流派によって細かな決まりがあります。美しい絵柄も、扇骨の形も、舞台で演じる人物を表現するための重要な要素です。
国による技術の保護と職人の育成が進むことで、能楽を支えてきた京都の手仕事が、これからの舞台にも受け継がれていきます。
参考リンク
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