富士製額の「東京額縁」は作品を引き立てる黒子の伝統工芸
2026年10月4日放送のTBS『むしめがね ~真の価値をのぞく~』では、東京都荒川区の富士製額が作る「東京額縁」が取り上げられます。
一見すると、アンティークの木彫額縁のように見える装飾。しかし実際には、木型と胡粉を使って文様を成形し、箔押しや塗装、さらに新品へ年月を感じさせる「古美仕上げ」を施して作られています。
1947年創業の富士製額は、100年以上前から伝わる額縁技術を現在へつなぐ工房の1つ。絵画そのものではなく、その周囲にある「額縁」に焦点を当てると、日本に西洋美術が入ってきた明治期から続く、知られざる東京のものづくりが見えてきます。
この記事でわかること
- 東京額縁とはどんな伝統工芸なのか
- 富士製額が1947年から受け継いできた技術
- 木型・胡粉・箔・古美仕上げによる製作工程
- 若手職人・栗原大地さんが進める新しい額縁づくり
東京額縁は東京都指定の伝統工芸品

出典:富士製額公式「東京額縁」
「東京額縁」は、東京都の伝統工芸品として受け継がれている額縁です。
額縁というと、完成した絵画を入れる既製品を思い浮かべますが、東京額縁は作品や展示空間に合わせ、職人が木工から装飾、塗装、箔押しまで手掛けて作ります。
日本で額縁が本格的に作られるようになったのは、明治時代に欧米文化とともに油絵が広まってからです。
当初は、
- 指物師が木枠を作る
- 仏師が彫刻する
- 塗師が漆などで仕上げる
というように、それぞれの専門職が技術を持ち寄っていました。
富士製額公式サイトでは、専門の額縁師としては1892年、塗師だった長尾健吉が洋画家・山本芳翠の勧めを受け、東京・芝愛宕町に工場を構えたのが最初とされています。
西洋から来た額縁を単純に模倣したのではなく、東京にあった木工、塗り、箔といった技術が組み合わさり、日本独自の額縁づくりへ発展していきました。
最大の特徴は「木彫に見える装飾」を木型で作ること
10月4日の『むしめがね』でも注目されるのが、東京額縁独特の装飾方法です。
豪華な洋額縁を見ると、木を細かく彫って花や葉の模様を作っているように見えます。
しかし東京額縁では、木彫だけで装飾するとは限りません。
富士製額では、和菓子の落雁などにも使われるものに近い木型を使い、胡粉を主体とした材料で装飾を成形します。
木型から抜いた装飾を木製の額縁へ取り付けることで、細かな模様を繰り返し作ることができます。
この方法が広まった背景には、近代日本で洋画が普及したことがありました。
本格的な木彫は時間も費用もかかります。
そこで東京の額縁職人たちは、装飾を効率よく作りながらも美しさを保つ方法として、木型を使った技術を発展させてきました。
大量生産品とは違い、木型の組み合わせ方や装飾の配置、色、箔の使い方によって、同じような形でも全く違う表情になります。
木材を削るところから額縁作りが始まる
富士製額では、完成済みの木枠へ飾りを付けるだけではありません。
天然木を板材から加工し、額縁の基本となる「棹」を作るところから始まります。
製作工程は大きく、
- 木材を額縁の形状へ削る
- 両端を45度に切る
- 四隅を接着して枠を組む
- 木型で装飾を成形する
- 胡粉の下地を塗る
- 塗装や箔押しをする
- 古美仕上げを施す
- 作品を額装する
という流れです。
木材の形状を作る段階でも、複数の刃物を使い分けます。
その後、4本の木材を45度で合わせ、四隅から均等に圧力をかけながら枠へ。
わずかなズレでも角に隙間ができるため、装飾以前の木工作業から精度が求められます。
胡粉を重ねて木と装飾を一体化させる
木型から抜いた装飾を額縁へ付けただけでは、まだ完成品らしい姿にはなりません。
そこで行うのが下地作りです。
富士製額では胡粉を使った下地を塗り、木材と装飾の境目をなじませます。
仕上げによって異なりますが、基本的には素材を変えながら4回ほど塗り重ねるとしています。
胡粉は、日本画や仏像などにも使われてきた白色顔料です。
表面を均一に整えることで、その後の塗装や箔が美しく乗る下地になります。
一方、天然木の木目そのものを生かす額縁では、あえて胡粉を使わない場合もあります。
作品に合わせて工程まで変えるのが、オーダーメイド額縁の特徴です。
金箔だけではない、銀・錫・プラチナ箔も使う
下地が完成すると、色を塗り、箔を押します。
使用されるのは金箔だけではありません。
富士製額では、
- 金箔
- 銀箔
- 錫箔
- プラチナ箔
などを、求める表情に合わせて使い分けています。
同じ金色でも、全面を均一に輝かせれば額そのものが強く主張してしまいます。
額縁の役割は作品を邪魔することではなく、作品の魅力を引き出すこと。
色や光沢を抑えたり、わざとムラを作ったりしながら、絵と額縁が一つの作品として見えるよう調整していきます。
新品なのに古く見える「古美仕上げ」
東京額縁の中でも特に印象的なのが「古美仕上げ」です。
箔押しや塗装を終えた額縁へ、顔料や油絵具などを使い、長い年月を経たような色や質感を加えます。
富士製額では、この美しさを「経年美化」と表現しています。
新品を単純に汚すわけではありません。
凸部分は長年触れられて色が薄くなったように見せ、凹部分には時間とともに色が沈んだような深みを作る。
その加減によって、昨日完成した額縁でも、昔から作品と一緒に存在していたような雰囲気が生まれます。
10月4日の『むしめがね』で紹介される「アンティークの木彫のような東京額縁」の大きな秘密が、この工程です。
富士製額は1947年、文京区根津で創業
富士製額は1947年6月28日、東京都文京区根津で創業しました。
現在は荒川区町屋に工房を構えています。
始まりは、指物工房の跡を継いだ創業者が、漆の技術を生かして海外向け写真額縁を作ったことでした。
その後、日本で美術の楽しみ方が広がるのに合わせ、
- 油彩用額縁
- 水彩用額縁
- 日本画用額縁
などへ製作分野を広げてきました。
現在の代表取締役は吉田一司さん。
額縁の新規製作だけでなく、古い額縁や絵画の修復、作品の額装まで自社で行っています。
画廊や美術館、内装向けの仕事に加え、個人からのオーダーにも対応しています。
若手職人・栗原大地が技術を次代へつなぐ
富士製額で現在、東京額縁の技術を担っている職人の1人が栗原大地さんです。
荒川区の公式紹介では、栗原さんは2011年1月から2017年3月まで富士製額で修業し、額縁の仕上げ技術を習得。
現在は主に、
- 下地塗り
- 箔押し
- 額縁の仕上げ
などを担当しています。
美術作品を引き立てる額縁だけでなく、伝統技術を暮らしの中へ持ち込む商品開発にも取り組んでいます。
東京都中小企業振興公社の「東京手仕事」では、富士製額と栗原さんが手掛ける「Tokyo Frame Vase」が2024年度の商品開発支援対象にも選ばれました。
昔の形をそのまま作り続けるだけではなく、額縁作りで培った木工、装飾、箔、仕上げを別の商品へ応用する動きも始まっています。
オーダー額縁は作品に合わせて1点ずつ製作
富士製額の額縁は、基本的に作品や希望に合わせたオーダーメイドです。
公式サイトでは決まった一律価格を掲載していません。
作品の大きさ、木材、装飾、箔、仕上げなどによって内容が異なるため、相談して仕様と見積もりを決める形になります。
工房情報は次の通りです。
- 会社名:株式会社 富士製額
- 代表取締役:吉田一司
- 創業:1947年6月28日
- 所在地:東京都荒川区町屋6-31-15
- 業務:額縁製作、額縁修復、絵画修復、額装など
- 個人からの製作依頼:対応
- オーダー:作品や希望内容を確認したうえで見積もり
「絵を入れる箱」を購入するというより、その作品をどう見せるかまで職人と一緒に作る仕事と考えると分かりやすいでしょう。
まとめ
東京額縁は、明治時代に洋画が日本へ広まったことで発展した、東京独自の額縁製作技術です。
大きな特徴は、木彫のように見える装飾を木型と胡粉で作ること。
さらに木工、下地塗り、金・銀などの箔押し、そして年月を経た雰囲気を新品へ与える古美仕上げまで、数多くの手仕事が重なって1つの額縁が完成します。
富士製額は1947年創業。
荒川区町屋の工房で、作品ごとのオーダー額縁や修復を続けながら、若手職人の栗原大地さんらが100年以上前から続く技術を次の時代へつないでいます。
2026年10月4日の『むしめがね』で見る額縁は、絵画の周囲にある単なる飾りではありません。
作品より前へ出ず、それでも作品の印象を大きく変える。
職人が「黒子」と表現する東京額縁の仕事は、普段は見過ごしてしまう美術のもう1つの主役です。
参考リンク
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