与那国島で始まった「検診を受けたくなる」大腸がん対策
大腸がん検診は大切だと分かっていても、「面倒そう」「まだ大丈夫」と後回しにしてしまう人は少なくありません。『あしたが変わるトリセツショー(緊急対策!「大腸がん」切り札プレゼント)(2026年9月3日)』では、検診受診率20%という沖縄・与那国島で、行動科学を使って住民の行動そのものを変える「トリセツ祭り」が行われます。検診を呼びかけるだけではない仕掛けがポイントです。
この記事でわかること
- 与那国島で行われた「トリセツ祭り」の内容
- 大腸がん検診を後回しにしやすい理由
- 行動科学の「ナッジ」を使った仕掛け
- 与那国島の取り組みが全国へ広がった理由
与那国島では大腸がん検診受診率20%に「トリセツ祭り」で挑んだ
(出典:沖縄観光情報WEBサイト「おきなわ物語」)
舞台になったのは、日本最西端の島として知られる沖縄県与那国島です。
与那国島では、大腸がん検診の受診率が20%と低いことから、町と連携した大腸がん撲滅プロジェクトが実施されました。
そこで開かれたのが、普通の健康講座とはかなり雰囲気の違う**「トリセツ祭り」**です。
会場には模型や実験などが用意され、参加した住民が大腸がんや便潜血検査について体験しながら知る仕組みになっています。
単に「大腸がん検診を受けましょう」と呼びかけるだけではなく、
知る → 興味を持つ → 自分にも関係があると感じる → 実際に検診を受ける
というところまでを狙った取り組みです。
与那国町の人口は2026年6月末時点で1,654人。祖納、久部良、比川の3つの集落がある小さな島です。こうした地域で町全体を巻き込みながら検診への意識を変えていく点も、このプロジェクトの特徴といえます。
「検診してください」では動かない人を動かすのが行動科学
トリセツ祭りの土台になっているのが行動科学です。
人は健康に良いと理解しただけで、必ずその通りに行動するわけではありません。
「今は症状がないから大丈夫」
「検査はちょっと怖い」
「申し込み方を調べるのが面倒」
「そのうち受けよう」
こうした小さな理由が積み重なると、重要な検診でも何年も後回しになってしまいます。
そこで使われる考え方の1つがナッジです。
ナッジとは、命令したり強制したりするのではなく、本人がより良い行動を選びやすくなるようにそっと後押しする方法を指します。
厚生労働省も、がん検診や特定健診の受診率向上策としてナッジを紹介しています。
つまり、トリセツ祭りの面白いところは「大腸がんの知識を教えるイベント」というより、検診を受けるまでの心理的な面倒さを小さくするイベントになっている点です。
模型や実験を使うのにも「つい行動したくなる」理由がある
ナッジでは、人が行動しやすくなる条件として「簡単」「魅力的」「周囲の人との関係」「適切なタイミング」などが重視されます。
厚生労働省が紹介している代表的な考え方が、次の4つです。
- Easy:簡単で負担が少ない
- Attractive:興味を引き、魅力を感じる
- Social:周囲の人の行動や声かけを生かす
- Timely:行動しやすいタイミングで働きかける
大腸がんについて文章だけの通知を送るより、模型を見たり実験を体験したりしたほうが、「自分もやってみよう」と感じるきっかけは作りやすくなります。
さらに、地域の人が同じ場所に集まる祭りという形式なら、「ほかの人も検診について考えている」という感覚も生まれます。
健康情報を怖さだけで伝えるのではなく、参加しやすい体験に変えること自体が仕掛けなのです。
祭りだけで終わらず自宅に検診案内とキットを届けた
この取り組みでもう1つ重要なのが、イベントで興味を持って終わりにしていないことです。
与那国島では、住民の関心が高まったところで、検診案内と検査キットを自宅へ届ける取り組みにつなげています。
「検診を受けようかな」と思った瞬間に、申し込み先を探したり検査キットを取りに行ったりする作業が増えると、その間に気持ちが薄れてしまうことがあります。
そこで、行動したくなったタイミングと実際に検査できる環境を近づけるわけです。
これはナッジの「Easy」と「Timely」にもつながる考え方です。
便潜血検査は、40歳以上を対象に国が推奨している大腸がん検診で、一般的には自宅で便を採取して提出します。
内視鏡検査を最初から全員が受ける検診ではないため、検査方法を正しく知れば「思っていたより受けやすい」と感じる人もいるでしょう。
なぜ与那国島が大腸がん対策の舞台になったのか
大腸がん検診の受診率は、日本全体でも十分高いとはいえません。
厚生労働省の2022年国民生活基礎調査では、40~69歳の大腸がん検診受診率は全国で**45.9%**でした。
沖縄県は**38.4%**で、全国平均を下回っています。
その中で与那国島では20%という数字が示されました。
つまり、与那国島だけに特殊な問題があるというより、全国にもある「検診の大切さは知られているのに、実際には受けない」という課題が、よりはっきり表れている地域として取り組みが行われたと考えると分かりやすいでしょう。
ここで試された方法は、都市部でも地方でも応用できる考え方です。
与那国島の試みは全国47都道府県260万人以上へ広がる
与那国島で行われた取り組みは、島だけで完結する企画ではありません。
NHK、全国の自治体、がん検診受診率向上に取り組む希望の虹プロジェクトが連携し、2026年は「大腸がん検診と大腸がん精密検査」をテーマにしたキャンペーンを実施しています。
その規模は47都道府県、260万人以上。
自治体から検診の対象者へ個別に案内を送り、「知っているけれど受けていない人」を実際の受診へつなげることを目指しています。
厚生労働省も2026年度から、がん検診受診率60%、精密検査受診率90%を目標とする受診率向上推進事業を進めています。
その研修でも「ナッジで住民の行動を変える」という行動科学的なアプローチが扱われており、与那国島で行われた方法は、全国的ながん対策の流れとも重なっています。
大事なのは「怖さを伝える」より検診までの距離を短くすること
大腸がんについて「死亡者が多い」「怖い病気」と伝えるだけなら、それほど難しくありません。
難しいのは、その情報を受け取った人が実際に検診を受けるところまで動くことです。
与那国島のトリセツ祭りは、そこに真正面から取り組んでいます。
模型や実験で興味を引き、地域の人と一緒に体験し、その後に検診案内やキットまで届ける。
「健康のために行動してください」と本人任せにするのではなく、行動しやすい環境そのものを作ることが最大のポイントです。
大腸がん検診を何年も受けていない人にとっても、「検診を受ける意思が弱いから」と考えるより、申し込み方法や検査への不安など、自分が止まっている理由を1つずつ減らしていくほうが実際の受診につながりやすくなります。
なお、血便や腹痛、便通の変化など症状がある場合は、健康な人を対象とする検診を待つのではなく、医療機関を受診することが大切です。
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