ロボットアームが「道具」ではなく自分の身体になる未来
2026年9月9日放送の『ザ・バックヤード 知の迷宮の裏側探訪』では、東京大学先端科学技術研究センターをトラウデン直美さんが探訪します。なかでも目を引くのが、身体にロボットアームを装着し、まるで自分の腕のように扱う研究です。東京大学で進められてきた「自在化身体」の代表例が、着脱式ロボットアームシステム「自在肢(JIZAI ARMS)」。単なる便利なロボットではなく、「人間の身体そのものを増やしたら、私たちの感覚や行動はどう変わるのか」というところまで踏み込んだ研究です。
この記事でわかること
- 自在肢JIZAI ARMSがどんなロボットなのか
- 稲見昌彦教授が研究する「自在化身体」の考え方
- ロボットアームを自分の身体のように感じる仕組み
- JIZAI ARMSが将来どんな場面で使われる可能性があるのか
自在肢JIZAI ARMSは身体に「追加の腕」をつけるシステム
自在肢は、背中側に装着するベースユニットと、そこへ着脱できるロボットアームから構成されるウェアラブルシステムです。
公式サイトによると、ベースユニットには6つのターミナルが用意され、必要に応じてロボットアームを装着できます。研究を統括しているのが、東京大学先端科学技術研究センター身体情報学分野の稲見昌彦教授です。東京大学生産技術研究所の山中俊治研究室なども開発に関わりました。
ここで面白いのは、「荷物を持つための機械」という発想だけではないことです。
自在肢では、装着している腕を別の人と交換するような使い方まで想定されています。つまり研究対象になっているのはロボットそのものだけではなく、「身体の一部を着脱したり、人と交換したりできる社会になったとき、人はそれをどう受け止めるのか」というところまで含まれています。
2023年には自在肢についての最初の学術論文が国際会議CHI 2023で発表されました。タイトルにも「Social Digital Cyborgs」とあり、人間とロボットが融合した未来の社会的な関係まで研究テーマになっています。
自在肢の前には「足で2本のロボットアームを動かす」MetaLimbsがあった
自在肢につながる重要な研究が「MetaLimbs」です。
MetaLimbsでは、人間がもともと持っている2本の腕に加え、第3、第4の腕となるロボットアームを身体に装着します。しかも操作に使うのは足です。
足の動きに合わせてロボットアームを動かし、足の指を開閉することでロボットハンドを開いたり閉じたりします。ロボットの手が物に触れたときには、その情報を足へ返す仕組みも研究されました。
一見すると、とても複雑そうです。
ところが実際の体験レポートでは、初めてでも思った以上に物をつかんだり動かしたりできたと報告されています。人間の脳は、「腕は2本しか動かせない」と完全に固定されているわけではなく、新しい身体の使い方に適応できる可能性が見えてきます。
自在肢は、こうした「身体を増やしても使いこなせるのか」という研究を、さらに発展させたものと見ると分かりやすいです。
ロボットアームを「自分の腕」と感じられるかも研究している
稲見研究室が重視しているのが「身体化」です。
便利なロボットが隣にあるだけなら、それは道具です。しかし操作を続けるうちに、「自分が動かしている」「これは自分の身体の一部だ」という感覚が生まれれば、人と機械の関係は大きく変わります。
2022年には、VR空間で第3、第4の腕となる余剰肢を操作する研究が発表されました。そこでは「身体所有感」「行為主体感」「自己位置感覚」といった、人間が自分の身体を自分だと感じる感覚が調べられています。
先端研の稲見・門内研究室では、視線や表情、心拍、運動予測や意図を計測し、ロボット制御や筋電気刺激と組み合わせて人間の能力を拡張しています。研究室自身がこれを「身体情報学」と位置付けています。
つまり目的は「すごいロボットを作る」だけではありません。
ロボットを身体へ足すことで、逆に「人間の身体とは何なのか」「脳はどこまで新しい身体に適応できるのか」を探っているわけです。
稲見昌彦教授が目指す「自在化身体」
稲見教授が掲げる重要な言葉が「自在化」です。
機械が人間の代わりに仕事をする「自動化」とは少し方向が違います。自在化では、機械によって人間自身のできることを増やしていきます。
たとえば腕が4本になれば、これまで両手がふさがってできなかった作業も可能になります。離れた人の身体を通じて作業したり、熟練者の動きを別の人へ伝えたりする研究にもつながっています。
背景には、加齢や障害などによって身体能力が変化しても、技術によって「できること」を再び増やしていこうという考え方があります。
稲見教授は「人間拡張と自在化に関する研究」により、2024年度の科学技術分野の文部科学大臣表彰・科学技術賞を受賞しています。
世界からも注目されるJIZAI ARMS
JIZAI ARMSは研究室の中だけに置かれている装置ではありません。
2025年2月、東京大学を訪れたOpenAIのサム・アルトマン氏らに対しても、稲見・門内研究室がJIZAI ARMSを実演しています。東京大学が世界へ紹介する先端研究のひとつになっていることが分かります。
SF作品では「人間が機械の身体を手に入れる」設定は珍しくありません。
ところが自在肢が興味深いのは、それを未来の空想だけで終わらせず、実際に装着できるシステムとして作り、人間の感覚や社会との関係まで調べているところです。
『ザ・バックヤード』でトラウデン直美さんがロボットアームを体験する場面では、「ちゃんと動くか」だけでなく、使っている本人がどれほど自然に感じているのかにも注目すると、この研究の面白さがより伝わってきそうです。
利用・購入・見学の現状
JIZAI ARMSは一般向けの市販ロボットではなく、現在は研究用システムです。
公式サイトには販売価格や一般購入ページはありません。一方、共同研究・共同開発、寄付、協賛などについては問い合わせを受け付けています。
東京大学先端科学技術研究センターでは一般向けイベントやキャンパス公開などで研究成果が紹介されることがあります。実物を見たい場合は、先端研や稲見・門内研究室のイベント情報を確認するのが現実的です。
まとめ
自在肢JIZAI ARMSは、「腕を増やすロボット」という見た目のインパクトだけでも十分に面白い研究です。
しかし、本当のテーマはその先にあります。
人間は新しい腕を自分の身体として受け入れられるのか。身体を増やしたら、脳や行動はどう変わるのか。そして高齢化や身体能力の制約を、技術によってどこまで乗り越えられるのか。
2026年9月9日の『ザ・バックヤード 知の迷宮の裏側探訪』は、そんな「人間そのものを拡張する研究」を実際の体験から見せてくれる回になりそうです。
参考リンク
ザ・バックヤード 東京大学先端科学技術研究センター 番組情報
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