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入舟寮が支える18歳の自立 アタッチメントとライフストーリーワークの実践|ETV特集 18歳の船出

暮らし

18歳で施設を巣立つとき、入舟寮が大切にしている「自立」

2026年9月19日放送の「ETV特集 18歳の船出 大阪 入舟寮からの“自立”」では、大阪市の児童養護施設「入舟寮」で暮らしてきた晴人と輝が、18歳を迎え、それぞれ新しい生活へ向かう姿が描かれます。

入舟寮が長年取り組んできたのが、単に生活技術を身につけさせるだけではない自立支援です。人を頼れる関係をつくる「アタッチメント」、自分自身の生い立ちと向き合う「ライフストーリーワーク」、そして施設を離れた後まで見据えた支援。この3つが今回の番組を理解する大きなポイントになります。

この記事でわかること

  • 入舟寮がどんな児童養護施設なのか
  • 晴人と輝が迎える18歳の「自立」
  • アタッチメントとライフストーリーワークの内容
  • 18歳になると必ず児童養護施設を出なければならないのか

入舟寮の自立支援は「18歳で一人にする」ことではない

公式画像:海の子学園「ETV特集 18歳の船出」告知画像

入舟寮が考える自立で印象的なのは、「何でも自分一人でできるようになること」だけを目標にしていない点です。

施設公式では、今回のETV特集について、養育の柱としているものを次の3つに挙げています。

  • アタッチメント
  • ライフストーリーワーク
  • 自立支援

子どもが施設を離れる日だけに焦点を当てるのではなく、そこへ至るまでに「困ったときに人を頼れる関係」を築き、自分の人生を自分なりに受け止めながら次の場所へ進めるよう支えているのです。

入舟寮を運営する社会福祉法人海の子学園は、大阪市港区池島にあります。入舟寮では2歳から18歳までの子どもたちが暮らし、本園のほか地域小規模児童養護施設も運営しています。

本園では年齢や性別などに応じたグループに分かれて生活し、保育士や児童指導員だけでなく、心理士、家庭支援専門相談員、自立支援担当職員など多職種が子どもたちに関わっています。

晴人は2026年3月に入舟寮を卒園した都晴人さん

今回の番組で「晴人」として登場する青年については、入舟寮公式サイトで都晴人さんと実名が紹介されています。

都さんは2026年3月に入舟寮を卒園。同年8月には施設長の城村威男さんとともにトークイベントへ出演し、「児童養護施設からの自立」をテーマに、自身の立場から話しています。

今回のETV特集だけで突然取材が始まったわけでもありません。

2026年6月にはNHK「Dearにっぽん」で、入舟寮を巣立った都さんの自立への歩みが紹介されました。入舟寮によると、在園中からライフストーリーワークを続け、担当職員との関係を重ねながら卒園を迎えています。

ETV特集では、さらにその先へ進みます。

晴人は離れて暮らす母親と会い、胸の中に抱えてきた思いを伝えようとします。

「施設を出る」という生活上の変化だけではなく、自分のこれまでの人生や家族との関係をどう受け止めていくのか。それ自体が自立への大きな過程として描かれることになります。

大学進学を決めた輝にも「自立」の難しさが訪れる

もう一人の主人公が輝です。

輝は大学進学を決め、新しい生活へ進もうとします。しかし番組では、入舟寮の職員とぶつかり、心を閉ざしてしまう場面も描かれます。

大学への合格や就職先の決定が、そのまま自立の完成を意味するわけではありません。

住む場所、お金の管理、人間関係、進学、仕事。そして、つらくなったとき誰に相談するのか。

18歳になると、それまで周囲の大人と一緒に考えてきたことについて、自分で判断しなければならない場面が一気に増えていきます。

だからこそ入舟寮では、生活スキルだけでなく、その土台になる人との信頼関係そのものを重視してきました。

アタッチメントは「困ったとき戻れる安心感」を育てる

入舟寮では2016年度から、アタッチメントを重視したケアとしてCOS-P(サークル・オブ・セキュリティ・ペアレンティング/安心感の輪子育てプログラム)を導入しています。

アタッチメントは単純に「仲良くする」という話ではありません。

子どもが外の世界を探索するときには背中を押し、不安や怖さを感じたときには安心して戻ることのできる大人がいる。そのような「安心できる関係」を育てていく考え方です。

入舟寮ではこれを個々の職員だけの技術にせず、施設全体の共通言語として学んできました。

日本福祉大学によると、入舟寮では約10年前に施設運営が厳しい状態になったことをきっかけにアタッチメントの考え方を取り入れ、日本福祉大学の久保樹里准教授とも連携。職員が子どものパニックや「試し行動」の背景にある不安を理解する取り組みを続けています。

自立に置き換えると、ここが非常に重要です。

施設を離れた瞬間から「もう自分で何とかしなさい」と関係を切るのではなく、困ったときに誰かへ助けを求められることも自立の力の一つとして考えているのです。

ライフストーリーワークで自分の過去と現在をつなぐ

入舟寮がもう一つ大切にしているのが、ライフストーリーワーク(LSW)です。

子ども自身が、自分がどのように生まれ、どんな出来事を経験し、なぜ現在の場所で暮らしているのかを、支援者とともに整理していく取り組みです。

児童養護施設で暮らす子どもの中には、自分の生い立ちについて知らない部分や、簡単には受け止められない経験を抱えている場合があります。

過去を無理に美化するのでも、忘れさせるのでもありません。

自分の経験を自分自身の物語として少しずつ整理し、「これまで」と「これから」をつなげていく。それがライフストーリーワークの大きな役割です。

入舟寮ではアタッチメントとLSWに10年以上取り組み、職員が他施設向けの研修で講師を務めるなど、実践を施設外にも広げています。

晴人が母親に自分の思いを伝えようとする今回の場面も、単なる親子の再会として見るだけではなく、「自分の人生をどう引き受けて次へ進むのか」という流れの中で見ると、番組のテーマがより見えてきます。

18歳になったら必ず児童養護施設を退所するわけではない

今回の番組タイトルだけを見ると、「児童養護施設は18歳になった瞬間に必ず退所しなければならない」と受け取るかもしれません。

現在はそう単純ではありません。

2024年度以降の制度改正では、社会的養護を経験した若者への自立支援が拡充されました。児童自立生活援助については、従来の20歳や22歳といった年齢だけで一律に支援を区切る仕組みが見直され、本人の状況に応じて支援を継続できる制度になっています。

実施場所についても、自立援助ホームだけでなく、児童養護施設や里親・ファミリーホームなどへ広げられています。

大阪市でも、施設退所者について関係機関が連携し、退所前から退所後まで継続的に支える仕組みを設けています。

つまり今回の晴人と輝が18歳で新しい生活へ向かうのは、それぞれの進路や状況に沿った「船出」です。

「18歳になったから支援がすべて終わる」という意味ではありません。

入舟寮は過去のNHK番組から今回のETV特集へつながっている

今回のETV特集には、実はこれまでの取材の積み重ねがあります。

入舟寮ではアタッチメントやライフストーリーワークを軸とした養育が以前からNHKで取り上げられてきました。

主な流れは、

  • 2024年「NHKスペシャル 君の声が聴きたい」
  • 2024年「ハートネットTV 安心感の輪の中で」
  • 2026年「Dearにっぽん 18歳 僕の“自立”」
  • 2026年「ETV特集 18歳の船出」

と続いています。

施設公式が今回の告知画像に「これまでの物語、その先に」と記しているのも、このためです。

施設の支援そのものを追った段階から、そこで成長した若者が実際に社会へ踏み出していく段階へ。

今回のETV特集は、その集大成に近い内容になっています。

入舟寮の施設情報

入舟寮は、社会福祉法人海の子学園が運営する児童養護施設です。

  • 施設名:入舟寮
  • 運営:社会福祉法人 海の子学園
  • 施設長:城村威男さん
  • 所在地:大阪府大阪市港区池島3-7-18
  • 定員:80名
  • 対象:2歳から18歳
  • 主な支援:アタッチメント、COS-P、ライフストーリーワーク、GTワーク、自立支援
  • 本園のほか地域小規模児童養護施設を運営

入舟寮には、自立支援担当職員のほか、心理士、家庭支援専門相談員、児童指導員、保育士などが配置されています。

まとめ

「ETV特集 18歳の船出」で描かれるのは、児童養護施設を出る若者の単なる卒業物語ではありません。

晴人と輝は18歳になり、それぞれ新しい人生へ進みます。しかし、自立とは突然一人で生きられるようになることではありません。

入舟寮が長年積み重ねてきたのは、人を信頼すること、自分の過去を知ること、困ったときに助けを求められることまで含めた自立支援です。

晴人が母親へ伝えようとする思い、大学へ進む輝と職員との衝突も、その長い過程の一部です。

施設を出ることがゴールではなく、そこから続く人生をどう支えるのか。

「18歳の船出」というタイトルには、2人が離れていく姿だけではなく、戻ったり頼ったりできる場所や人とのつながりを持ちながら進んでいく、入舟寮ならではの「自立」の考え方が込められています。

参考リンク

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