空気が資源に変わる未来
使い終えたプラスチックを再利用するのではなく、空気中の二酸化炭素から新しいプラスチックの原料を作る。初めて聞くと、まるで未来の話のように感じます。
『ブレイクスルー(空気からプラスチックをつくる!?)(2026年8月8日放送)』では、空気を資源として活用する研究開発が取り上げられます。
ただし、空気をそのまま固めるわけではありません。薄いCO2を回収し、化学反応で別の物質へ変える複数の工程が必要です。何が画期的で、実用化には何が足りないのかを順番に見ていきます。
この記事でわかること
・空気からプラスチックを作る基本的な仕組み
・相分離DACと従来のCO2回収方法の違い
・商品化までに解決しなければならない課題
・リチウム空気電池との違いと将来の用途
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空気からプラスチックを作る技術とは何がすごいのか
結論からいうと、最も大きな特徴は、これまで環境中へ放出されてきた二酸化炭素を炭素資源として使える可能性があることです。
現在、多くのプラスチックは石油や天然ガスなどを出発原料として作られています。地下から新しい炭素資源を取り出し、加工して製品にする仕組みです。
これに対して、空気中のCO2を回収して原料に変えられれば、すでに地上に存在している炭素を循環させる選択肢が生まれます。
大きく分けると、必要になる技術は次の2つです。
・空気中からCO2を選んで回収する技術
・回収したCO2をプラスチック原料へ変換する技術
このうち、空気中のCO2を直接回収する方法がDACです。DACは「Direct Air Capture」の略で、日本語では「直接空気回収」や「大気直接回収」と呼ばれます。
ただし、DACでCO2を集めただけでは、プラスチックにはなりません。回収したCO2を一酸化炭素やメタノールなどの化学原料へ変え、さらに樹脂の材料となる分子へ組み替える工程が必要です。
たしかに「空気からプラスチック」と聞くと、空気を吸い込む装置から完成品が出てくるように想像してしまいます。しかし実際には、回収、分離、濃縮、変換、重合、成形という複数の技術をつないだ仕組みです。
難しい工程が多いからこそ、それらを低いエネルギーで動かせるようになれば、資源の使い方を大きく変える可能性があります。
原料になるのは空気中の二酸化炭素
空気から利用する主な物質は、空気の大部分を占める窒素や酸素ではなく、わずかに含まれている二酸化炭素です。
CO2には炭素が含まれています。プラスチックも、炭素を中心とした分子が長くつながった物質です。そのため、CO2の炭素を取り出して使いやすい化合物へ変換できれば、プラスチック原料として利用できる可能性があります。
問題は、空気中のCO2が非常に薄いことです。
工場や発電所の排ガスには、空気よりも高い濃度のCO2が含まれる場合があります。一方、通常の大気中に含まれるCO2は約0.04%程度です。
つまり、空気1万個分の分子があったとしても、CO2はおよそ4個程度しかありません。
この薄いCO2を、窒素や酸素、水分などが混ざった空気の中から選び出さなければなりません。しかも、大量の空気を動かしながら回収する必要があります。
初めて知ると少し驚きますが、空気中からCO2を集める工程は、濃い排ガスから回収するよりも難しくなります。吸収材や吸着材の性能だけでなく、送風機を動かす電力や、回収したCO2を放出させる熱も必要になるためです。
このため、空気からプラスチックを作る研究では、化学反応の成功だけでなく、薄いCO2をどれだけ少ないエネルギーで回収できるかが重要になります。
CO2を回収してプラスチック原料へ変えるまでの流れ
空気中のCO2がプラスチックになるまでの基本的な流れは、次のように整理できます。
- 大量の空気を回収装置へ取り込む
- 吸収液や吸着材にCO2を取り込ませる
- 熱や圧力の変化によってCO2を分離する
- 回収したCO2を濃縮する
- 水素などと反応させ、化学原料へ変換する
- 原料分子をつなぎ合わせて樹脂を作る
- 製品の形へ加工する
特に難しいのが、5番目のCO2を別の化学物質へ変える工程です。
CO2は、炭素と酸素が強く結び付いた比較的安定した物質です。そのままでは反応しにくいため、触媒、熱、電気などを利用して反応を進めなければなりません。
例えば、CO2と水素を反応させてメタノールを作り、そこから樹脂の材料となる物質を合成する方法があります。電気化学反応によって一酸化炭素などへ変換し、別の材料合成につなげる研究も進められています。
ここで注意したいのが、水素の作り方です。
CO2を変換するときに使う水素を化石燃料から作り、その過程で大量のCO2を排出してしまえば、全体としての環境効果が小さくなる可能性があります。
太陽光や風力などの電気で水を分解して作った水素や、製造時の排出量が少ない電力を使えるかどうかが重要です。
個人的には、「空気から作った」という完成品の印象だけでなく、途中で使った電気や熱がどこから来たのかを見ることがいちばん大事だと感じます。
相分離DACは従来の回収方法と何が違うのか
空気中のCO2を回収する方法には、液体へ溶かし込む方法や、固体の表面へ吸着させる方法などがあります。
どの方法でも、吸収・吸着したCO2を取り出し、材料を繰り返し使える状態へ戻す必要があります。この再生工程に高い温度が必要になると、エネルギー消費と費用が大きくなります。
そこで研究されているのが相分離DACです。
相分離とは、最初は均一だった液体が、反応によって性質の異なる2つの液体部分に分かれる現象です。
東京都立大学の研究で開発された方式では、吸収液が空気中のCO2を取り込むと、CO2を多く含む部分と、あまり含まない部分に分かれます。
イメージとしては、広い液体全体を加熱するのではなく、CO2が集まった部分を中心に処理できる仕組みです。
この方式では、イソホロンジアミンという物質を含む水溶液が使われています。研究では、実際の空気中からCO2を回収できることに加え、約60℃に加熱することで取り込んだCO2を放出させ、吸収液を再利用できることが示されています。
主な特徴は次のとおりです。
・水を主な溶媒として利用できる
・空気中の低濃度CO2を回収できる
・CO2を吸収すると液体が2つの相に分かれる
・比較的低い温度でCO2を取り出せる
・吸収液を繰り返し使用できる
従来方式にもさまざまな種類があるため、すべてのDACより必ず優れていると一括りにはできません。ただ、CO2を回収した後の再生温度を下げられれば、使用する熱と運転費用を抑えられる可能性があります。
実際に比較するときは、回収速度だけでなく、次の点を見る必要があります。
・CO2を1トン回収するために必要な電力と熱
・吸収材を何回再利用できるか
・長時間運転したときも性能が保たれるか
・水分や気温の変化に対応できるか
・装置を大型化しても同じ性能が出るか
・回収したCO2の純度は十分か
実験室で短時間動くことと、屋外で何年も安定して稼働することには大きな違いがあります。実際に導入される段階では、最高記録の数字よりも、安定運転と維持費を確認したいところです。
すでに商品化されているのか、実用化までの課題は何か
現時点では、空気中のCO2だけを主な炭素源として作った一般向けプラスチック製品が、通常の商品と同じ価格で広く販売されている段階ではありません。
CO2を原料として化学品や燃料を作る実証は国内外で進んでいますが、空気からの回収から樹脂製造までを大規模につなぎ、安定した価格で供給するには、まだ多くの課題があります。
主な課題は、次の5つです。
CO2の回収に費用がかかる
空気中のCO2は薄いため、大量の空気を装置へ通す必要があります。設備費だけでなく、送風、加熱、分離などの運転費がかかります。
変換工程でもエネルギーが必要になる
集めたCO2は、そのままプラスチック原料として使えるわけではありません。別の化合物へ変えるための電力、熱、水素、触媒が必要です。
装置の大型化が必要になる
研究室で高い性能を示した吸収液でも、大型装置にすると空気の流れや熱の伝わり方が変わります。大量処理に適した設備設計が欠かせません。
材料を長く使えるか確認する必要がある
吸収液や触媒が劣化すると、交換費用や廃棄物が増えます。数百回、数千回と繰り返しても性能を維持できるかが重要です。
既存製品と同じ品質を保つ必要がある
プラスチックは、容器、繊維、家電、自動車部品など、用途によって必要な強度や耐熱性が異なります。環境面だけでなく、品質と安全性も満たさなければなりません。
消費者が実際に商品を選ぶ段階になったら、「CO2由来」という表示だけで判断せず、製品全体のCO2排出量、原料に占めるCO2由来成分の割合、耐久性、回収・リサイクル方法も確認する必要があります。
見た目が従来品と同じなら違いが分かりにくいからこそ、根拠のある表示や第三者による評価が重要になるでしょう。
本当に環境負荷を減らせるのか
空気中のCO2を使えば、必ず環境負荷が小さくなるとは限りません。
環境への効果を判断するには、原料の回収から製造、輸送、使用、廃棄までを含めて考える必要があります。これをライフサイクル全体での評価といいます。
確認したいのは、主に次の点です。
・DAC装置を動かす電力の発電方法
・CO2を放出させる熱の作り方
・変換に使う水素の製造方法
・触媒や吸収材を作る際の排出量
・工場まで原料を運ぶ距離
・完成品を燃やしたときのCO2
・使用後に回収、再利用できるか
例えば、空気から回収したCO2をプラスチックにしても、最後に焼却すれば、その炭素は再び大気中へ戻ります。
それでも、石油から新しい炭素を取り出す量を減らし、回収と再利用を繰り返せるなら、炭素循環の改善につながる可能性があります。
一方、作ったプラスチックを長期間使用する建材などへ利用すれば、CO2由来の炭素を比較的長く製品の中に保持できます。
ただし、「CO2を利用すること」と「大気中のCO2を永久に減らすこと」は同じではありません。
CO2を製品に利用する技術は、主に炭素資源の循環を目指すものです。回収したCO2を地下などへ長期間貯留する方法とは目的が異なります。
たしかにこれは少し複雑ですが、商品を見る側としては「空気から作ったか」だけでなく、その炭素をどのくらいの期間閉じ込められるのかまで考えると理解しやすくなります。
空気を使う究極の蓄電池との違い
番組で紹介される「空気からプラスチックを作る技術」と「空気を使った究極の蓄電池」は、空気を利用する点では共通していますが、仕組みも目的も異なります。
究極の蓄電池と呼ばれているのは、一般にリチウム空気電池です。
両者の違いを簡単に整理すると、次のようになります。
| 比較する点 | 空気からプラスチック | リチウム空気電池 |
|---|---|---|
| 空気から使うもの | 二酸化炭素 | 酸素 |
| 主な目的 | 化学品や樹脂の原料を作る | 電気を蓄えて取り出す |
| 中心となる技術 | DACとCO2変換 | 電極と充放電反応 |
| 完成するもの | 材料・製品 | 蓄電池 |
| 主な課題 | 回収コスト、変換エネルギー、大型化 | 寿命、出力、安全性、大型化 |
リチウム空気電池は、負極にリチウム金属、正極側の反応に空気中の酸素を使います。
一般的な電池では、反応に必要な材料を電池の内部へ入れておく必要があります。リチウム空気電池は正極側で空気中の酸素を利用するため、電池内に保持する材料を減らし、重量当たりに蓄えられる電気を増やせる可能性があります。
このため、理論上は現在のリチウムイオン電池を大きく上回る重量エネルギー密度が期待され、「究極の蓄電池」と呼ばれています。
ただし、理論値が高いことと、実際の製品として長期間使えることは別です。
研究段階では、高出力化、充放電できる回数の増加、電解液の安定性、リチウム金属負極の劣化対策などが課題になっています。
個人的には、「究極」という言葉だけを見るとすぐに電気自動車へ搭載されそうに感じます。しかし、電池は容量だけでなく、何回安全に充電できるか、必要な出力を出せるかが欠かせません。
今後どの製品に使われる可能性があるのか
空気中のCO2から安定して化学原料を作れるようになれば、さまざまな製品へ利用できる可能性があります。
候補として考えられるのは、次のような分野です。
・包装材や容器
・衣類に使われる合成繊維
・自動車の内装部品
・家電製品の外装
・日用品
・接着剤や塗料
・建築材料
・工業用の化学原料
ただし、どの用途から普及するかは、価格だけでなく、必要な品質とCO2を保持できる期間によって変わります。
短期間で捨てられる包装材は市場規模が大きい一方、回収やリサイクルの仕組みがなければ、すぐに焼却される可能性があります。
一方、自動車部品や建材のように長く使われる製品は、炭素を製品内に保持できる期間が長くなります。ただし、耐熱性、耐久性、強度など、より厳しい品質が求められます。
初期段階では、すべてをCO2由来原料へ置き換えるのではなく、従来の原料へ一部混ぜる方法や、環境価値を重視する限定製品から導入される可能性があります。
実際に商品を選ぶ場面では、次の表示を確認すると判断しやすくなります。
・CO2由来原料を使用した割合
・回収したCO2の由来
・製造時に使ったエネルギー
・従来品と比べた排出削減量
・リサイクルの可否
・製品の耐用期間
・第三者認証の有無
空気からプラスチックを作る技術は、すぐに石油由来製品をすべて置き換えるものではありません。
それでも、CO2を単なる排出物ではなく、再び使える炭素資源として捉える発想には大きな意味があります。
実用化を判断するうえでは、印象的な名称だけに注目せず、回収から廃棄までに使うエネルギー、製造量、価格、耐久性を確認することが大切です。
空気から作られた製品が本当に身近になるかどうかは、研究室で作れるかだけでなく、低い環境負荷で大量に作り、長く使い、再び回収できる仕組みを整えられるかにかかっています。
参考リンク
・テレビ東京「ブレイクスルー 空気からプラスチックをつくる!?」
・物質・材料研究機構「1Wh級の積層型リチウム空気電池を開発」
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